幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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次で5話は最後です。


42・再生、差異性

~本日のお見舞い~

 

想夢「そうそう毎日誰かしら来るわけではありません」

 

・・・・・・・・・

 

6日目。

予定より1日早いが無事、退院となった。

だが、その前にやるべきことがある。

「入っていい?」

想夢は百々千代の部屋の前にいた。

「・・・うん、入って」

想夢の呼びかけから少し間が空いて、百々千代の声が部屋の中から聞こえた。

戸を開けて部屋の中に入る。

百々千代は、いつものように車椅子に座っていはいなかった。

布団から上半身だけを起こしたパジャマ姿の百々千代が想夢の方を見ていた。

「やあ、まずは退院おめでとう」

「ああ、ありがとう」

「フフ、一昨日とは逆だね。

一昨日は君の方が布団でボクの顔をことを見上げていたというのにね」

「車椅子のせいで顔なんてみえなかったけどね」

そう言って2人で笑い合う。

そして、百々千代は想夢に尋ねる。

「想夢君、退院したばっかりで悪いんだけど、能力はちゃんと使える?」

「・・・ああ、問題なく使える」

「そっか、じゃあ、先生を呼んできてくれるかな?

もしもの時のためにいてもらわなくちゃ」

「ああ、分かった」

想夢は頷いて、永琳を呼びに部屋から出て行く。

想夢も百々千代も、お互いに覚悟を決めたような顔をしていた。

しかし、想夢の覚悟と百々千代の覚悟が違う方向を向いていることを

この時の想夢は知らなかった。

 

・・・・・・・・・

 

「それじゃあ、準備はいい?」

百々千代の部屋に永琳の声が響く。

永琳と想夢の手を借りて車椅子に座った百々千代。

その百々千代の前には能力を使うために巫女服姿となった想夢。

部屋の戸の側にはそんな2人を見守る永琳がいる。

「じゃあ、始めて」

「うん」

百々千代の言葉に想夢は頷き、彼女の前に左手をかざす。

想夢の手がほんの一瞬青く光ったと思うと、光はすぐに消えてしまった。

「あれ?」

「どうかした?何か問題でも起きた?」

戸惑う想夢に永琳が問いかける。

「い、いえ、成功です。問題なく能力は断ち切れました」

想夢は戸惑いながらも答える。

想夢は確かに感じたのだ。百々千代と彼女の能力の繋がりが切れるのを。

しかし、だからこそ戸惑いを、疑問を隠せない。

なぜこんなにもあっさりと成功してしまったのか。

永琳でさえできなかったようなことをなぜ自分がこんな簡単に・・・。

だが、そんな想夢の考えは次の瞬間に停止する。

 

「そうか、私の不死性は消えたのか・・・これで・・・」

 

百々千代がそう呟いた次の瞬間。

彼女のパジャマが真っ赤に染まる。

彼女の口から赤い液体がこぼれる。

彼女の頭ががくんと下がり、車椅子から落ちそうになる。

想夢はそれをとっさに支えて、彼女の赤いソレが血であることを実感してしまった。

「え、永琳さんッ!!!」

想夢は永琳の方を向いて叫ぶ。

「分かってる!すぐに手術に移るわ!百々千代を運んで私についてきて!!」

百々千代を車椅子に乗せ、想夢は車椅子を押して走る。

百々千代を手術室に運んだあとは、あとはもう想夢にできることは残っていない。

ただ、部屋の外の廊下で待っているしかない。

 

・・・・・・・・・

 

1時間程経って、永琳は部屋から出てきた。

「永琳さん、どうですか?」

想夢は恐る恐る問いかける。

結果を聞くのも恐ろしいが、聞かない訳にもいかない。

「手術は成功、傷は全部塞いだわ。後は百々千代が起きてくれるのを待つだけね」

永琳の言葉に不安が和らぐ。

とはいえ、まだ百々千代が目を覚ますまでは安心できないが。

「とりあえず百々千代を部屋に戻すわ。貴方も手伝って頂戴」

「分かりました」

百々千代を担架に乗せて彼女の部屋まで運ぶ。

布団に百々千代を寝かせる。

すうすうと寝息を立てているのを聞くと、さっきのことが嘘なんじゃないかと思えてくる。

「永琳さん、百々千代に何が起きたんですか?」

「そうね、そのことについて話しておきましょう」

永琳は手招きで想夢に「ついてきなさい」と促す。

 

永琳が連れてきたのは想夢が病室として使っていた部屋だった。

百々千代のことは途中で会った鈴仙に見ててもらうよう頼んできた。

座布団を敷いて向かい合うように座る。

「まず、百々千代の体のことだけど、彼女の体には刀で斬られたような傷ができていたわ。

彼女の服に染みた血はそれが原因ね」

「刀・・・ですか?」

「そう。だけど彼女の能力を断ち切ったあの場で刀は使われていない。

これは私の推測でしかないけど、あの傷は、彼女が不老不死になる直前についたものだと思う」

永琳の言ったその言葉に想夢は驚きを隠せなかった。

「直前って、それじゃあ・・・!」

「想夢君の考えている通り、本来、百々千代はあの傷で死ぬはずだった。

それを彼女は自身の『先延ばしにする程度の能力』で文字通り先延ばしにしたのよ。

自分が死ぬって未来をね。

だから想夢君が彼女の能力を断ち切った瞬間、先延ばしにた未来が戻って来てしまい、

あの傷ができてしまった」

想夢の顔が青くなる。

では、自分のしたこととはなんだったのか?

これでは、知らなかったとはいえ百々千代を殺そうとしただけではないか。

「想夢君が責任を感じる必要は無いわ。

これは私が頼んだこと・・・そして百々千代が自分で決めたことなのだから」

想夢の様子を見て永琳は言葉を紡ぐ。

こんな言葉が気休めにもならないと分かっている。

だが、言わないよりはマシなはずだと。

「それに、手術はちゃんと成功したわ。

百々千代もそのうち起きてくる。貴方は彼女の願いをちゃんと叶えたのよ」

「・・・永琳さん」

永琳を呼ぶ想夢の声は暗い。

しかし、顔はしっかりと前を向いている。

表情はまだ、死んでいない。

まだ、絶望はしていない。

それを見て永琳はホッとする。

今はまだそれでいい。

彼は正しいことをしたのだ。

罪の意識を覚える必要はない。

「さて、百々千代の状況についてはこれで大体話したと思うけど、

他に何か聞きたいことはあるかしら?」

「それなら1つだけ。

なんで百々千代の不死性は簡単に消すことができたんでしょう?

永琳さんでもできなかったことが僕なんかにできるとは思えなかったんですけど。

いや、もちろん全力は尽くしましたよ?」

慌てる想夢に永琳は苦笑する。

どうやら心配はいらなさそうだ。

「想夢君のがんばりについては疑ってないわ。

たぶん、想夢君が百々千代の不死性を簡単に消せたのは『やり方』の問題だと思うの」

「やり方・・・?」

「そう。百々千代の不死性は彼女の能力によるものだった。

彼女は自分の死を先延ばしにし続けることによって不老不死となった。

そこにはきっと死ぬことに対する恐怖心があったんだと思う。

彼女が能力を解除しようとしてもできなかったのは無意識に死を恐怖していたから。

そして彼女の隠れた恐怖心がどんどん能力を強力なものにしていった。

彼女自身にも制御できないくらいにね。

あまりにも強力な能力だったから、私にも彼女の能力を封じることはできなかった。

だけど、貴方は違う。

貴方の能力は確かに能力を一時的に使えなくすることができるけど、

決して『封じて』いるわけじゃない。

貴方の能力は『断ち切る』こと。

貴方は文字通り断ち切ったのよ。

百々千代と能力の間にある結びつきを。

百々千代は不老不死になることなんて望まなかった。

だけど彼女の心の奥底にある死にたくないという強い想いに能力は反応した。

意識と無意識、2つの相反する想いによって彼女と彼女の能力は全く逆の方向を向いてしまった。

そうなってしまってはもう本人と能力の間に結びつきは無いと言ってもいい。

だからこそ、貴方の能力で断ち切ることは簡単だった。

断ち切るとは切り離すこと。

貴方の能力は百々千代の不老不死の唯一の弱点だったのよ」

永琳がそこまで言った時だった。

部屋の戸をノックして鈴仙が入ってくる。

 

「百々千代さんが目を覚ましました」

 

・・・・・・・・・

 

部屋に入ると百々千代が起きていた。

永琳は来ていない。

まずは2人で話した方がいいと想夢を先に行かせたのだ。

百々千代は上半身を起こしてどこを見るでもなくぼうっとしていた。

その目はまるで心を失ってしまったかのように暗い色をしているように見えた。

「もう、動いて大丈夫なの?」

「え?あ、ああ・・・君か・・・」

想夢が声をかけて百々千代は初めてこちらに気づいたようだった。

布団の傍まで行って百々千代の隣に座ると、百々千代は想夢の手を握ってきた。

「私は、君に謝らないといけないね」

沈んだ声で彼女は想夢に語り掛ける。

「私は、死ぬつもりだった。

あのまま死んでしまうつもりだったよ。

私はしっていたんだ。不老不死じゃなくなれば傷が開いてしまうことを。

不老不死を消せば自分が死んでしまうことを知っていて、君に頼んだんだ。

ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・」

それは、演技ではない百々千代の本音の言葉だった。

「ごめ・・・なさい・・・ごめん・・」

震える声で、俯きながら百々千代は謝り続ける。

こんな時、今にも泣き出しそうな百々千代に対して

抱きしめたり頭をなでたりして落ち着かせるような行動に出れればいいのだが、

残念ながら想夢には女の子に抱き着く勇気もなければ度胸もない。

あるとすれば、抱きついたら「変態」と言われ嫌われるであろう不安の方である。

だから想夢は代わりに言葉をかける。

「なあ、百々千代」

「・・・うん?」

名前を呼ぶと百々千代はこちらを見た。

相手の言葉が届かない程というわけではないらしい。

 

「百々千代って自分のこと『私』って言うタイプだっけ?」

「・・・うん?」

 

明らかにさっきの「うん」とは声の質が違う。

ついでに表情も違う。

「いや、なんか『私』って言ってるのが気になって」

「言うにしたってタイミングってのがあるだろう?」

引きつった笑みを浮かべてはいるが、百々千代の表情からはハッキリとした怒りが感じられる。

握る手に力が加わって痛い。

「待って、落ち着こう?ふざけてるつもりではないんだ、ね?

ちょっと心を落ち着けるためにだね?」

「ああ、そうだね、おかげでとてもよく落ち着いたよ、ありがとう。

ついでにボクのこの怒りを発散させる手伝いもしてくれると助かるんだけど」

「痛い痛い痛い、力強めないで、どんどん痛くなってるから。

ってゆーかまた『ボク』に戻ってない?」

「なんだ、まだ余裕そうじゃないか。もう少し強くしても大丈夫だね?」

「ごめんなさいごめんなさい、勘弁してください」

 

数分後。

 

脱線した話を元に戻すように、2人とも落ち着きを取り戻した。

「ボクがボクって言い始めたのは最初は自分を騙すためだったんだ」

もう1度、過去を振り返るように百々千代は話し始める。

「心のどこかで死ぬことを恐れている自分を騙して、もう1人のボクを演じて、

そうして死ぬことへの恐怖を忘れて能力を解除しようと思った。

まあ、結果は失敗だったけどさ」

「永琳さんは、無意識に死を恐怖していたから能力が解除できなかったって言ってたけど」

「無意識か・・・そうなのかもね。

きっと私はボクに恐怖しながら、死にたいって思い込もうとしてたのかも」

百々千代は自嘲気味に笑う。

「・・・今は、どうなの?」

そんな百々千代に想夢は恐る恐るといった感じに聞く。

「・・・どうなんだろう?自分の気持ちなのに、よく分かんないや」

そう言うと、百々千代は黙ってしまった。

空気が重苦しくなる。

なんと声をかけるべきか・・・。

2人共黙ったまま時間が過ぎてゆく。

 

「・・・そういえば、起きてからなんだか体に違和感があるんだよね・・・」

突然、思い出したかのように百々千代はそう言った。

「え?まさかどこかに手術の後遺症でも残った?」

「いや、そうじゃなくて・・・」

想夢の質問に首を横に振ると、百々千代は手で床を押し始めた。

よたよたと慣れない動きで体を起こしていく。

しばらくすると、そこには自分の脚で立っている百々千代の姿があった。

「おおっとっと!?」

立ち上がったかと思ったらすぐにバランスを崩し倒れそうになる。

想夢は慌てて立ち上がって、百々千代の体を支えた。

ちょうど、前のめりに倒れそうな百々千代を想夢が抱きとめる形となる。

「そ、想夢君!ボ、ボク、今立ってたよね!?」

「う、うん!立ってた!」

想夢の腕の中で興奮した様子で百々千代が叫ぶ。

想夢はまだ驚いた様子でとにかく答える。

 

「想夢君・・・ボク、久しぶりに、本当に久しぶりに、生きててよかったって思えた!!!」

 

百々千代は満面のを浮かべる。

その笑顔を見て、ようやくこの件は解決したのだと、

百々千代につられて笑みを浮かべながら、想夢は思った。

 

・・・・・・・・・

 

~蛇足~

 

「・・・むむっ!」

 

「咲夜、どうかした?」

 

「お嬢様大変です。なんだか私のヒロインとしての地位がまた危うくなっている気がします」

 

「アンタってヒロインだっけ?」

 

「え?私メインヒロインですよね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

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