幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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今回は短編なので短めです。
蛇足のような補足の話。


短編、断片・元、不老不死の記憶

私が生まれた時、一体日本がどのようであったか、

正直言うと覚えていない。

フェートン号事件だとかゴローニン事件だとかがあったらしいが、

私にはあんまり関係なかった気がする。

人の脳は莫大な量を記憶することができるらしいが、

200年程生きた私には自分がどんな子供だったのかすら思い出せない。

きっと先生やかぐや姫、妹紅ちゃんなら200年前だろうと1000年前だろうと

しっかりはっきりくっきり覚えているのだろう。

彼女らは私と違って正真正銘、本物の不老不死なのだから。

私のような模造品とは違う。

私の不老不死は「先延ばしにする程度の能力」によって成り立っている。

時間が進むことを拒み変化しなくなった私の体は絶対的な防御力を持つものの、

身体能力や体の機能は普通の人間と変わらないのだ。

つまり、脳の機能も普通の人間と変わらない。

200年分の人生を記憶し、いらないものは捨てているのだろう。

はたして、人間に200年分も記憶するなどそもそも無理だったのか、

それとも単に私が物覚えの悪い人間だっただけなのか。

比較対象がいないため、なんとも言えない。

まあ、昔からよく忘れ物をするタイプだったと思う。

そのせいで、自分の能力は生まれたのではないかとすら思う。

宿題や約束を忘れ、当日になって思い出し、慌てて能力を使って

先延ばしにすることもよくあった。

そんな私ではあるが、忘れていない記憶もある。

 

私が不老不死となった日のことだ。

 

あれは、私の兄の誕生日のことだった。

私は兄へのプレゼントにと、貯めたお金でお菓子を買ったのだ。

当時の私にはそれくらいしかあげられるものがなかった。

それでも私はきっと兄は喜んでくれるだろうと信じて疑わなかった。

とにかく早く兄にプレゼントを届けたい。

そう思って、普段は通らない家までの近道を使った。

それがいけなかった。

 

私はその近道で刀を持った悪漢に襲われたのだ。

 

刀で斬られ、持ち物を奪われ、そのまま男は逃走した。

私はその場に倒れた。

出血と痛みで動くことも出来なかった。

体は動かなかったが、頭は驚くほど速く考えを巡らせていた。。

このままでは死んでしまう。

いやだ、まだ死にたくない。

いやだ・・・いやだ!いやだ!!いやだ!!!

ただそれだけが頭の中を占めた。

 

そして次の瞬間、私の体は斬られる前の状態に戻っていたのだ。

私は私の未来を先延ばしたのだ。

最初は死なずにすんだことに安堵した。

そしてすぐに、恐怖感に囚われた。

私の先延ばしは1週間が限界だ。

いずれ能力が切れてまた元に戻ってしまう。

誰にも相談することなど出来ず、私は努めていつも通りの私でいようとした。

ただただ死ぬのが怖かった。自分の余命を知っているのが怖かった。

またあの痛みを味わうのが怖かった。またあの恐怖を感じるのが怖かった。

しかし、恐怖に恐怖した恐怖心を抱えたまま1週間を過ごした私を待っていたのは、

何も変わらないいつも通りの日常だった。

この時、私は自分の能力の異変を感じるよりも生き延びたことへの喜びを感じた。

まだ死なない。

私の能力は進化したのだと思った。

そして私は恐怖心を捨て今度こそ本当の意味でいつも通りの日常に戻った。

そのつもりだった。

 

異変というのは、隠していても、いつかは見つかってしまうのだ。

 

周りが大人になっていく中で私だけ何も変わらないままだった。

その時点までは何の問題もなかった。

だが、周りが老いていく中で私だけが変わらずにいるのは異常だった。

家族も、友人も、化け物でも見るかのような目で私を見た。

その目に耐えられず、私は私を知る人達から逃げた。

そして、これからの未来に恐怖した。

きっとこれからも、何も変わらない私を人は化け物のように見るのだろう。

そのことに恐怖し、能力を解除しようとして、初めて自分の能力の異変に気が付いた。

私の能力は進化したわけではなく、制御できなくなっていただけだったのだ。

能力を解除できない以上、このまま生きていくしかない。

その時から私はなるべく人と長くは関わらないように生きた。

長く関わればきっと私が異常だとバレてしまうだろうから。

そうやって生きて何年経っただろうか。

歳をとっていれば200歳近くにはなるであろうころ、それは突然の出来事だった。

 

「貴方、幻想郷に興味はないかしら?」

 

突然空間がぱっくりと開いた。

そうとしか表現できそうにないスキマから、八雲紫は私の前に現れたのだった。

なんとなく外の世界を覗いていたら偶然私を見つけたのだと彼女は言った。

八雲紫は私を幻想郷で暮らさないかと誘った。

そこには私と同じような不老不死が暮らしているからと。

何故私を誘うのかと聞いたら彼女は私が外の世界で行き辛そうにしていたからだと答えた。

何故私が不老不死だと分かったのかと聞いたら妖怪の賢者に分からないことはないのだと

誤魔化された。

事実、この世界で生きることに苦しさを感じていた私は八雲紫の提案に二つ返事でOKした。

こうして私はこの世界を去ったのだ。

 

やって来た幻想郷で私は最初に八雲紫に永遠亭という建物に連れてこられた。

ここには私と同じ不老不死が住んでいるのだと八雲紫は私に言った。

永遠亭で私は最初に蓬莱山輝夜と八意永琳に出会った。

八雲紫が事情を話すと、彼女達は快く私を受け入れてくれた。

それから私は永遠亭で暮らし始めた。

永遠亭での暮らしは外の世界よりも快適だった。

誰も私を変な目で見ないのだから。

普通の人間と同じように私に接してくれるのだから。

 

永遠亭にやって来て1年くらいしたころ。

私は八意永琳の実験に協力した。

実験が成功すれば私の不死性を消せるかもしれない。

しかし、失敗するかもしれないし、今より状況が悪化するかもしれないと彼女は言った。

私に断るという選択肢はなかった。

少しでも希望があるのなら、それに賭けたかった。

結果として、私は脚の自由を失ってしまったが絶望はしていなかった。

いつか私の不死性を消せる日がくるかもしれない。

今までほとんど諦めていたことに可能性が見えただけで、私の中には希望が生まれた。

 

それからおよそ1年が経ち、私は博麗想夢に出会った。

 

彼の噂は聞いていた。「断ち切る程度の能力」のことも噂として知っていた。

それは私と相性がとても良い能力だった。

博麗想夢に会えばこんどこそ私の不死性を消せるかもしれない。

私は心の中で希望を膨らませた。

だが、それと同時に思い出してしまった。

不死性が消えれば私は死ぬであろうことを。

だが、その時の私にとって大事なのは不死性を消すことだった。

死んでしまうことではない。

200年近く死どころか怪我すらせずに生きて感覚がマヒしていたのかもしれない。

 

そして、彼はあっさりと私の不死性を消してくれた。

そこで私は死ぬはずだった。

 

そして、私は今生きている。

頭の中が不死性を消すことや自分の死で埋められていたせいか、

私は八意永琳が医療に関して天才であるということを忘れていたらしい。

傷が開き、意識を失い、目を覚ましたら自室にいた。

なんということなのか。

正直、考えがまとまらなかった。

だけど、博麗想夢と八意永琳には感謝しなければならい。

私はこれでまた普通の人間として生きることができる。

諦めていた夢が叶ったのだ。

 

・・・・・・・・・

 

現在、万十寺百々千代は生きている。

それはとても喜ばしいことだと本人は感じている。

だが、

「ぐ・・・うぅ・・・」

本人は現在永遠亭の廊下でうずくまっていた。

「と、百々千代!?どうかしたの!?」

たまたま通りがかった永琳が慌てて百々千代の側へ駆け寄る。

「ど、どうやら私は不老不死の時間を長く生きすぎたようだ・・・」

「まさか、また能力が・・・?」

汗を流しながら苦しそうに話す百々千代に永琳は嫌な予感がした。

そして百々千代の次の言葉に、永琳の表情は大きく変わった。

 

「いや、ちょっと壁の角に足の小指がぶつかっちゃって・・・」

 

すっと真顔になる永琳。

そして永琳は、

「そい!」

「痛い!?」

百々千代の頭に割と強めのチョップをぶち込んだ。

「はぁ・・・心配して損した」

「ひ、酷いじゃないか・・・。

こ、こちとら不老不死から解放された代わりに痛みと無縁の生活を送り過ぎたせいで

痛みが何倍にも感じるのに・・・お、追い打ちだなんて・・・」

「刀傷に比べたらマシなもんでしょう?」

今にも泣きそうな百々千代に呆れたような顔をする永琳。

 

どうやら、まだまだ平和な生活にはならないようだ。

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