44・図書館にて
永遠亭から帰って来た次の日。
想夢は紅魔館に来ていた。
手には荷物の入った袋を持っている。
紅魔館の入り口の前では門番であり美鈴がぐっすりと眠っていた。
「すう・・・すう・・・」
「・・・さて、どうしよう」
眠る美鈴を前に悩む想夢。
声をかけようと近づいて見ると、
彼女は紅魔館の外壁と自分の頭の間に枕を挟んで眠っているのが分かった。
ここまで本格的に眠っていると起こす気が引けてくる。
しかしながら、紅魔館に用がある以上起こさないわけにもいかない。
仕方ないので美鈴を起こそうとしたその時、
「彼女はそのままでお願いします」
と想夢の後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこにはナイフを手に持ったメイドさんの姿が。
「咲夜」
名前を呼ぶと彼女は口の前で人差し指を立てて「静かに」と合図を送る。
静かになったところで、咲夜はナイフを上に放り投げる。
ナイフはくるくると回りながら想夢の頭上を通り過ぎて行き、
さっくりと美鈴が頭に被っている帽子に突き刺さった。
「ぎにゃあああぁあぁぁぁあッ!?」
悲鳴をあげて美鈴が目を覚ます。
「よし、今日も絶好調ね」
そんな美鈴を見て咲夜は満面の笑みを浮かべるのだった。
「だ、大丈夫なの?アレ・・・」
引きつった顔で叫びながら地面を転がる美鈴。
咲夜はそんな想夢の肩にポンと手を置く。
「想夢、ギャグで人は死なないのよ」
笑顔のままに言う咲夜。
シリアスを終えてからなんだかやたらとはっちゃけてないかこの人?
「それに美鈴は妖怪だし、ナイフは帽子に刺さっただけで頭までは刺さってないはずよ」
「うううぅぅぅおおおぉぉぉ・・・」
「いや、あの呻き声は絶対頭まで刺さってるんじゃ・・・」
妖怪がどうだの帽子がどうだのよりもギャグで人は死なないの方が
理由としてしっくりくるのは何故だろう。
「酷いじゃないですか咲夜さーん」
さっきまで頭を押さえながら地面をゴロゴロしていたと思っていた美鈴が、
ナイフを頭から抜いていつの間にかこちらに来ていた。
頭から血は出ていないようだ。
本当に帽子にだけ刺さって頭までいってないのかギャグなのか判断に困る。
「何言ってるの、貴方が寝てなければいいだけの話でしょう?
枕まで用意してグースカ寝てるんだから、ホントいい度胸してるわ。
クラスに1人はいる授業中に堂々と寝てる生徒みたいなマネはしないで頂戴」
「い、いや咲夜さん?授業中に枕まで使って寝てる人はさすがにいないんじゃ・・・」
「それで想夢、今日はどうしたの?」
美鈴のツッコミを咲夜は無視する。
「ちょっ咲夜さん!?」と美鈴が叫ぶが気にも留めない。
「えっと、パチュリーさんに本を返しに」
流れに乗る形で想夢も答える。
「・・・貴方、本を借りに来たことなんてあったかしら?」
咲夜は不思議そうに首を傾げる。
「想夢さんが紅魔館に来たのはレミリアお嬢様が招待したあの1回きりですし、
その時に本を借りたってこともなかったはずですよね?」
美鈴も首を傾げる。
同じ方向に首を傾げる少女が2人並んでいる。
腕を組むポーズまで同じで、まるでどこぞの教育マンガのようだ。
「まあ、借りたのは魔理沙だから・・・」
自分も読んだとはいえ、他人あ借りたモノを自分が返しに行かなければならないというのは、
なかなかに理不尽に思える。
「あ、そういう・・・」
「ああ・・・なるほど・・・」
魔理沙という単語を聞いて咲夜と美鈴は何かを察したようだった。
一体何をやらかしたんだあの魔法少女は。
「そういうことなら問題はないわ。図書館まで案内するからついてきて」
咲夜が手招きする。
正直、さっきの2人の反応で図書館に行くのが怖くなってきた。
大丈夫だろうか・・・?
・・・・・・・・・
「ここが紅魔館の図書館。入ってまっすぐ進めばパチュリー様はいると思うわ」
紅魔館の地下、巨大な扉が想夢の前にそびえ立っている。
「それじゃ、私は仕事が残っているから行くわね
・・・ム、お嬢様が私を呼んでいる気がする」
そう言って咲夜は消えてしまった。
時間を止めて移動したのだろう。
しかしながら丁度良いタイミングで現れるメイドさんだとは思っていたが、
まさか勘で動いているのだろうか?・・・いや、まさか。
気を取り直して巨大な扉の方を見る。
はたして、こんなにも大きな扉を動かせるだろうか。
「よいしょっと・・・」
とりあえず扉を押してみるが、扉は動かない。
いくら力を入れて扉を押してもビクともしない。
「外開きか?」
今度は引いてみる。
しかし、扉は動かない。
「あれ?どっちでもない?」
これはどういうことだろう?押しても引いても動かない。
しばらく扉の前でいろんな方法を試してみる。
引き戸のように横に引いてみたりシャッターを上げるように上に引いてみたり。
そんな風に悪戦苦闘していると、
「あの、そこで何をしているんですか?」
と、後ろから声をかけられた。
振り向くと、頭から悪魔の羽を生やした赤い髪の少女が不審者を見る目でこちらを見ていた。
「え?いや、本を返しに来たんですけど扉が開かなくて・・・」
「私、貴方が本を借りてる所、見たことないんですが?」
「それはホラ、魔理沙の代わりに返しに来たからであって、ね?」
慌てて理由を述べるが相手は警戒を緩めてくれそうにない。
このままでは紅魔館に侵入した不審者として処理されてしまう。
助けて!咲夜さーん!
「呼ばれた気がしたわ」
「・・・うっそぉ」
願いが通じたのか、一瞬で咲夜が想夢の目の前に現れた。
本当に勘で動いているんじゃないかこの人?
「さ、咲夜さん!?」
急な咲夜の登場に少女もあたふたと慌てる。
立場は咲夜の方が上らしい。
「この人は紅魔館のお客様よ。私が保証するわ」
「は、はいィ!分かりましたァ!!」
咲夜の一声にビシィッ!っと敬礼のポーズをとる少女。
「では私はこれにて失礼」
そう言って咲夜はその場から消えた。
何の説明も無しに問題だけさっさと解決して去って行くその姿は
一般人から見た怪獣に立ち向かうヒーローに近しいモノがある。
本当の本当に勘で動いてるのかあの人?
「それでは、お客様を図書館に案内させていただきます!
私のことは小悪魔とお呼びください!」
「はあ、じゃあ僕のことは想夢と呼んでください」
「想夢さんですね?かしこまりました!」
先程の態度はどこへやら、随分と好意的に接してくれる。
「ではでは改めまして、1名様ごあんなーい」
そう言うと、小悪魔は服のポケットから鍵を取り出して扉に挿した。
鍵を回してから扉を押すと、扉はすんなりと開いた。
「・・・うっそぉ」
本日2度目となるあ言わずにはいられなかった。
だって押しても引いてもガチャガチャなんて音しなかったじゃん。
・・・・・・・・・
その図書館はかなりの広く、迷ったら出られないような印象を受けた。
「折角ですので図書館の中を少し見てみませんか?
あと本はここでお預かりしますね、図書館の本の整理は私の仕事なので」
「じゃあ、よろしくお願いします」
小悪魔に本の入った袋を渡し、図書館の中をぶらつく。
まさかこのまま迷って帰れないなんてことはないだろうと
ちょっとした不安を残しつつ、想夢はどこまでも続く本の列に圧倒されていた。
そうして本、本、本と見ていると、何やら奇妙なモノを見つけた。
「これは・・・本、なのか?」
他の本棚には本が綺麗に並べられているのに、この棚だけ何かがおかしい。
本のカバーではなく、ページのみがむき出しで入っているような気がする。
気になって中のものを1つ手に取ってみると、これは本ではなかった。
ノートから切り離した1ページやコピー用紙などを重ねて穴を開け、ヒモを通してまとめている。
本と言うよりは紙の束だ。
そして、肝心の中身はというと・・・。
↑↗→B 叩きつけキック
↓↘→↗↑A ダッシュアッパー
↓Aタメ エネルギーシュート
「・・・なにこれ」
「どうかしましたか?」
想夢が微妙な顔をしていると、小悪魔が声をかけてきた。
「あの、コレなんですけど」
「借りるんですか?」
「いやいやいや、なんで図書館にコレがあるんですか?」
「ああ、ウチの図書館ってよく本が勝手に増えるんですよ。
その中には誰かがメモ書きしてそのまま存在を忘れちゃった紙なんかもあるんですよね。
この図書館に『書物』として幻想入りするワケです。
まあ図書館が勝手に増やしたモノなんでとりあえず本棚に入れてるんです」
他の紙の束を手に取って見てみると、
買い物メモの集まり、取引先との会話のメモの集まり、ゲームの攻略メモの集まり、
日常生活でのメモ書きばっかりだった。
「あれ?これは・・・」
そんなメモ書きだらけの中で1つ、文章になっている紙の束を見つけた。
どうやら他のメモ書きとは違うようだ。
なんとなく読んでみる。
ブラッドレッドナイトメア
目を覚ますと真っ赤な月が私を祝福するように怪しく光っているのが見えるわ
いつも通りの気分の良い目覚めね
やはり高貴なる吸血鬼はこうでなくてはいけないわね
そう、私は吸血鬼
人の上に立つ者
さあ人間よ
私に貴方の生き血を捧げなさい
逆らおうなんて馬鹿な考えは持たないことね
私は高貴なる吸血鬼
真っ赤な月を背に悪夢のように貴方の側に現れ
その血をすするの
「・・・ナニコレ」
何かと思えばポエムだった。
たぶん書いた本人にとっては黒歴史となるであろうタイプ。
「ああ、ときどきあるんですよね。
昔書いたポエムやら小説やら設定資料やら後々黒歴史となるであろうモノが。
時間が経って存在を忘れちゃって幻想入りしちゃうんですよね」
これならメモ書きの方がまだマシだろうに。
いや、まてよ、現実で誰かに見られるならいっそ幻想入りしてしまった方が良い・・・のか?
そう考えながらポエムの下の方に書いてある名前を見てみる。
こういった中二病的なポエムを書いているのだから名前もそれっぽくしているに違いない。
「・・・」
「・・・」
想夢は何と言うべきか分からなくなってしまった。
それは隣でポエムを覗き込んだ小悪魔も同じようだ。
すると次の瞬間、手に持っていたポエムが一瞬で消えてしまった。
想夢と小悪魔が後ろを振り向くと、そこには今日1日でもう何度目になるだろうか、
咲夜が立っていた。
咲夜の手にはさっきのポエムが握られている。
「あら、2人ともどうかしましたか?」
なにごともなかったかのように咲夜はニコニコ笑顔で接してくる。
取り繕ったような敬語がわざとらしい。
「あの、咲夜さん?」
「はい?」
「その手に持っている紙は・・・」
「何か?」
「いや、だからその手に・・・」
「な に か ?」
「あ、いや、何でもないです」
押し切られてしまった。
漫画などでよく見る笑顔の威圧がこれだけ恐ろしいモノだとは思わなかった。
「そう、では私はこれで」
そう言うと、咲夜はすっと消えてしまった。
下手なコトするとまた咲夜が後ろからやって来るかもしれない。
慎重に動くとしよう。
気を取り直して何か面白そうな本を探しながら歩く。
この図書館、広いだけあって本当に何でも置いてある。
太宰治やドストエフスキーのような有名な小説、ライトノベル、子供向けの絵本、図鑑、漫画、
画集、ゲームの攻略本や設定資料集まで置いてある。
ゲームの攻略本なんて借りる人がいるのだろうか?
いや、早苗あたりは借りそうな気がする。
神社にゲーム機置いてあったし。
そんな風に見ながら歩いていると、またしても奇妙なモノを見てしまった。
その本棚にはほとんど本が入っていなかった。
いや、その言い方は適切ではない。
正確にはほとんどの本が本棚から落ちてしまっているのだ。
落ちた本が積み重なって山になっている。
そしてその本の山の中から、1本の腕が伸びていた。
「あれ、もしかしてちょっとヤバイ感じ?」
想夢は慌てて本をよせて中に埋まっているであろう人を掘り起こす。
中から出てきたのは長い髪の少女だった。
「あれ、確か・・・パ、パ・・・誰でしたっけ?」
「むきゅう・・・」
想夢の言葉を聞いて本の山から引っ張り出された少女はがくっと項垂れるのだった。
・・・・・・・・・
おまけ
レミ「咲夜ー、咲夜ー!」
咲夜「礼美利亜お嬢様、お呼びですか?」
レミ「うお、寒気した!咲夜今私のこと変な呼び方しなかった?」
咲夜「気のせいじゃないでしょうか?」
レミ「そう?ところで咲夜、今日はいつもより瞬間移動しまくってるけど何かあったの?」
咲夜「いえいえ、大したことはありません。
ちょっと私の出番を大幅に増やしただけですよ」
レミ「・・・同じネタを連発するのは白けるだけだと思うわよ?」
咲夜「えっ」