幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

57 / 79
「1度戦った相手とパラレルワールドでもう1度戦ったらどうなるか」
がテーマの47話です。


47・2つの2つ目

ひゅん、ひゅんと、風を切る音が鳴る。

想夢が刀とを振るい、咲夜がナイフを投げる。

お互いに攻撃を当てられないまま攻防は続いた。

咲夜はナイフを投げながら、時々顔をしかめたりしていた。

「貴方、何かしたわね?」

距離を取り、咲夜が口を開く。

自分の思い通りに事が進まず、何が起こっているのか分からないイライラが、

彼女の中で大きくなっていく。

「ああ、した。僕の能力で君の能力を封印させてもらった。

少なくとも僕と戦っている間は君に能力は使わせない」

ぴくりと咲夜の頬がほんの一瞬動く。

正直なところ、想夢にとっては実に好都合な状況だった。

この幻想郷での咲夜は想夢の知る咲夜と戦い方が似ていた。

そして同じ「時間を操る程度の能力」を扱う。

だが、目の前にいる咲夜は想夢の能力を知らない。

そしておそらく、彼女の反応を見る限り能力が使えない状況は今回が初めてなのだろう。

自分が一方的に相手のことを知っているという今の状況は想夢にとって有利だ。

しかしながら、気を抜けばすぐにでもやられてしまうだろうこともまた事実だ。

ここはパラレルワールド。

いくら戦い方が似ているからと、全く同じということはないだろう。

もしかしたら想夢の思いもよらぬ、想夢の知る咲夜ならば絶対にしないであろう

作戦をとるかもしれない。

つまるところ、ほんの少し、本当に少しだけ、前回咲夜と戦った時よりも心に余裕が持てる

という、そんな小さな差である。

「能力が使えないと言うなら仕方ないわ。他の作戦を練りましょうか」

そう言うと仕切り直しだとでも言うように咲夜はふぅと息を吐いた。

改めてナイフを構え、相手を見据える。

場の雰囲気が変わったように想夢は感じた。

まず咲夜は想夢に向かってナイフを投げた。

そして、咲夜自身もナイフ片手に想夢へと駆けだした。

その目に大きな殺意を宿して。

ナイフは真っ直ぐ想夢の方へと向かっていく。

想夢は体を傾けてナイフを躱す。

そして、咲夜を迎え撃つために改めて刀を構えたその時だった。

刀を持たない左腕に激痛が走った。

「っ!!」

突然の痛みに体が一瞬硬直する。

そして、痛みの原因を気にする暇もなく既に咲夜が目の前まで迫って来ていた。

横にナイフを振るう咲夜。

想夢は攻撃を受け流すように右手の刀を横に振るう。

だが、咲夜はそれを狙っていたとばかりに、想夢が攻撃を受け流すと同時に、

ナイフを持たないもう片方の手を素早く想夢の左腕へとのばした。

その瞬間、想夢の左腕にさらに鋭い痛みが走る。

想夢が顔を歪ませると同時に咲夜は後ろに跳んで距離をとる。

「能力が使えないなら使えないなりに、こうした方法もあるのよ」

その両手にはナイフが1本ずつ握られていた。

想夢が左腕を見ると巫女服に血が滲んでいた。

「さっきナイフを投げた時か・・・」

咲夜が想夢に向かってナイフを投げた時、同時に上に向かってナイフを放り投げていたのだ。

丁度想夢のいる位置に落ちるように。

そして、それに気付かせないために自らも想夢へと駆けた。

結果、想夢は咲夜の殺意に気を取られ、上から落ちるナイフに気づかなかった。

結果としてナイフは想夢の左腕に刺ささり、

その後咲夜は想夢の腕からナイフを強引に抜き取り、距離をとったのだ。

この少女、ちょっとヤバイかも。

なんてことを想夢は考えていた。

まさかナイフでカーブを描いてくるとは思わなかった。

このような戦い方をする咲夜を想夢は知らない。

何が「戦い方が似ている」だ。何が「実に有利」だ。

さっきまでほんの少しだけあった心の余裕なんて今のですっからかんになってしまった。

本来の咲夜にこれだけの実力があるのか、この世界の咲夜がとりわけ強いのか。

とにかく想夢は気持ちを入れ替える。

次はダメージをくらわないように。

今度は想夢の方から駆け出す。

咲夜は向かってくる想夢へ左手のナイフを飛ばす。

そのナイフを想夢は刀を振って叩き落とした。

咲夜のナイフ投げの正確さは脅威だ。

彼女はこちらがどう動くかを予想してナイフを投げる。

さらに、上へと放ったナイフでさえ、しっかりと当てられる技術を持っている。

躱そうとすれば躱した方向で待ち伏せするかのようにあらかじめナイフを投げておく

くらいのことはきっとするだろう。

だから躱さずに正面からはじく。

二段構えなどさせないように。

そうして咲夜の前まで駆けると想夢は刀を振るう。

咲夜は残った右手のナイフで想夢の攻撃を受け流すが、咲夜のナイフは1本ではなかった。

さっきナイフを投げた左の手にはいつの間にか新たなナイフが握られており、

そのナイフを想夢の顔に向かって突き出す。

「うおっ!?」

想夢は首を横にひねってナイフを躱す。

咲夜は突き出したナイフをそのまま横に振るう。

それに対して想夢は前かがみになるような形で上半身を曲げて躱す。

しかし、そこに咲夜の膝蹴りが想夢の顔に入った。

蹴りによって想夢の体が強制的にのけ反る。

そこに咲夜が想夢の胸目がけて改めて右手でナイフを突き出す。

想夢はのけ反った状態からそのまま足で地面を蹴り、後ろへと跳んだ。

そのまま床に仰向けに倒れるとすぐさま後転するようにして立ち上がる。

そこに追い打ちのように咲夜が左手のナイフを投げるが、刀を上に振ってナイフをはじいた。

はじかれたナイフはくるくると回りながら上へと飛んでいく。

「随分としぶといのね?貴方」

咲夜が冷ややかに笑う。

「そっちこそ、随分とナイフを隠し持ってるみたいじゃないか。

一体その服の中にどれだけのナイフが入ってるんだ?」

本当は今の状況やら腕の痛みやらで泣きたい気分ではあるが、想夢も努めて笑顔を作る。

しかもさっきの膝蹴りでまた鼻血が出てきたようだ。

涙が出そうなのを必死でこらえる。

「あら、私の服の中に興味があるなんてヘンタイさんね」

そんな想夢の気持ちなど知る訳もなく、

冷ややかな笑顔は変わらずに咲夜はまた新しいナイフを取り出す。

床にナイフが何本も落ちているのを見ると、戦闘中に回収しているというワケでもなさそうだ。

「僕も、戦い方を考えないとな」

そう言った想夢の目の前に、さっきはじいたナイフが落ちた。

想夢はなんとなくナイフを拾い上げる。

「これ、使えるか・・・?」

想夢は右手に刀を、左手にナイフを構え、走り出した。

それに対して咲夜はナイフ2本を構えて待ち受ける。

咲夜の前まで来ると想夢は刀を大きく振りかぶり、

 

その姿勢のままナイフを軽く上に放った。

 

「へ?」

咲夜の表情に戸惑いの色が現れる。

ナイフは2人の間でくるくると回る。

そのナイフに向かって想夢は力任せに刀を振るった。

「ぅおおりゃあああッ!!!」

ガキイィン!!と鋭い音がして咲夜に向かってナイフが飛んで行く。

「な・・・あ・・・!?」

ナイフに対して咲夜は対応が間に合わなかった。

こんな至近距離でいきなりナイフがスピードをつけて襲ってきたというのもあるが、

なにより想夢がどこを狙っているのかが分からなかったというのが原因だ。

想夢はあくまで空中に投げ出されたナイフに攻撃しただけ。

その後ナイフがどこに飛ぶかなど、想夢にも分からない。

躱すことも、防御することもできず、ナイフは咲夜の右腕を斬り、彼女の後ろの床に落ちた。

咲夜の腕に切り傷が生まれ、その痛みが咲夜の思考をほんの一瞬遅らせる。

その隙を逃さず想夢はもう1度、今度は両手で刀を振るう。

「ぐっ!うぅ・・・!!」

咲夜はほとんど反射的に防御の構えをとるが、

想夢の攻撃の威力を抑えることはできず、片方のナイフが手から弾き飛ばされてしまった。

後ろに跳んで距離をとろうとする。

「逃がすか!」

しかし、想夢も咲夜に合わせて前に踏み込み2人の距離は変わらない。

(さっきよりも動きが素早くなっている・・・?)

考えながら咲夜はもう1度後ろへ跳び、

今度は後ろへ跳ぶと同時に持っていたもう片方のナイフを投げた。

想夢は足を止めず、刀でナイフをはじく。

そしてはじいたナイフを掴み、咲夜に向かって投げた。

咲夜もまたナイフを投げる。

ナイフとナイフがぶつかり合い、その場に落ちる。

「・・・拾ったね?」

想夢は見逃さなかった。

咲夜のナイフの補充。

毎度毎度服のどこに隠しているのか。どこから取り出しているのか。

それが分からなかった。

だが、さっきのナイフだけは違う。

さっき想夢が投げたナイフを迎撃するのに咲夜が足元に落ちていたナイフを拾ったのを

想夢は見逃さなかった。

咲夜のナイフのストックが切れたのだ。

咲夜の周りに落ちていたナイフはさっきの1本だけだ。

つまり、今の咲夜にナイフのストックはもうない。

想夢は刀を横に振るう。

咲夜は姿勢を低くして攻撃を躱す。

そのまま飛び上がるように想夢の右手を左足で横から蹴った。

手に蹴りを入れられ、想夢は思わず刀を落としてしまう。

次の瞬間、立ち上がった咲夜の右手にはナイフが握られていた。

「誰もナイフのストックが切れたなんて言ってないわよ?

貴方は刀を落としたらそれまででしょうけど」

想夢に向かってナイフを突き出す咲夜。

しかし、

 

「生憎、君がナイフを持っていてもいなくても、やることは変わらないんだ」

 

想夢は咲夜の突きを左手で横に受け流すと、そのまま左手で裏拳のように咲夜を殴った。

「ぶっ!!!」

想夢の拳は咲夜の頬に突き刺さり、咲夜は後ろへと吹っ飛ぶ。

そして、空中で半回転してうつ伏せに倒れたのだった。

 

・・・・・・・・・

 

「はあ、分かったわ。降参、私の負けでいいわ」

倒れた後、起き上がった咲夜はさらりと負けを認めてしまった。

「あー、そんなに簡単に降参しちゃっていいの?」

「別にいいのよ、元々紅魔館はわりと待遇がいいから働いてるだけだし。

ここまで痛い思いしてまで続ける気にはなれないわ」

「あ、そう・・・」

そう言われると腕にナイフ刺さったりそれを無理矢理引き抜かれたり

顔面に膝蹴りくらいながらも頑張った自分がアホみたいじゃないかと言いたくもなるが、

まあこれで通してくれるだろう。

「そう言えば、最後の1撃で貴方、まるで私がどうするか知ってたような

ことを言ってたわね。

あれってどういう意味?」

「・・・深い意味はないよ。君ならああするだろうと思っただけ。

それじゃあ、僕は先に行くから」

「・・・?、まあいいわ、頑張ってね。

あ、そうだ。いざって時にはお嬢様のこと守ってあげてね?」

「え、えぇ・・・?」

「それじゃね」

敵に対して言うセリフではないと思うが、

想夢の返事も聞かずに咲夜はどこかに行ってしまった。

 

咲夜のいなくなった後、改めて紅魔館の中を進む。

「確か、レミリアさんの部屋はここだったかな?」

紅魔館2階の1番奥の部屋。

部屋の配置が変わってなければここがレミリアの部屋のハズだ。

そっと扉を開けて中に入る。

部屋を見回してみるが、レミリアがいるような気配はない。

「ハズレ、か?」

想夢がそう呟いた瞬間だった。

ドッ!!!という爆発音が上から響いてきた。

「まさか、屋上か?」

すぐに部屋を出て屋上へと向かう。

扉を開いて屋敷の屋上に出た想夢の目に入ったのは血まみれで倒れる早苗の姿だった。

「早苗ッ!!」

想夢は倒れている早苗に駆け寄ろうとした。

が、

 

「ああ、もう1人来たの?流石の私もここまでかしら・・・?」

 

前方から声が聞こえた。

前を見ればレミリアが同じく血まみれの状態で立っている。

両者共に酷いダメージを負っているが、早苗とレミリアの違う点を挙げるとするならば、

早苗が五体満足なのに対しレミリアの右腕が無いことだろうか。

よく見ると、早苗の近くにそれらしきモノが落ちている。

おかしな方向に折れ曲がった腕が。

ここでどれほど激しい戦いが繰り広げられていたのか。

ボロボロの屋上を見れば容易に想像がつく。

「貴方が、今回の事件の黒幕ってことでいいんですか?」

想夢はレミリアに問いかける。

敬語で話すのは元の世界でのレミリアともそうやって話していたからか。

「そうね、私がこの異変の首謀者、レミリア・スカーレットよ」

「博麗想夢です。

貴方はもう戦えるような体じゃないし、降参してこの霧を消してくれません?」

「そう、貴方がそこの巫女が言っていた博麗想夢なのね。

ここまで来たってことは咲夜は倒されたのね・・・」

途中で諦めて降参したとは言えない雰囲気だった。

「いいわ。霧は消してあげる。

巫女と戦ってこのザマだし、こんな状態で戦っても結果は見えてそうだし」

「その腕は大丈夫なんですか?それと、早苗は大丈夫なんですか?」

「腕なんてまた生えてくるわ。敵の心配をするなんて変な人ね。

それと、そこの巫女なら気絶してるだけで死んではいないわ」

それならひとまずは安心だ。

これで紅霧異変も終わるだろう。

そう、思った時だった。

 

突然、屋上に箒に跨った少女が飛び込んできた。

 

「魔理沙!?」

想夢は叫ぶ。

「お、おう!想夢だったか!?ちょっと助けて!!」

魔理沙はそう言いながら想夢の横に着地する。

次の瞬間、

 

「ねえ、鬼ごっこはそろそろ飽きちゃったんだけど」

 

さらにもう1つ、影が飛び込んできた。

 

異変はまだ終わらない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。