もはやパチュリー関係ないな・・・。
グングニル。
レミリアが技として撃ち出すそれは、北欧神話の主神であるオーディンの持つ槍の名である。
闇の妖精ドヴェルグの鍛冶屋であるイーヴァルディの息子たちによって作られたその槍は、
標的を決して射損なうことなく、的を貫いた後は持ち主の手元へと戻って来るという。
また、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすとも言われている。
しかし、レミリアの撃ち出す「スピア・ザ・グングニル」は
弾を高速で投げつけることで弾を槍のように変化させているという仕組みなので、
「必ず当たる」なんて能力は持っていない。
ただし、その威力は折り紙付きである。
レーヴァテイン。
レミリアのグングニルに対し、フランはレーヴァテインという技を持つ。
それは北欧神話の原典資料において、世界樹ユグドラシルの最も高い枝に座す
雄鶏ヴィゾーヴニルを唯一殺せる武器であるとされている。
狡猾な神ロキが作り、女巨人シンモラが保管しているという程度の情報しかない。
しかし、シンモラの夫が炎の巨人スルトルであること、
日本では北欧神話における終末の日ラグナロクにてスルトルが振るう炎の剣と
同一視される傾向にあることにより、
日本のファンタジーなどではレーヴァテインを炎の剣とすることが多い。
しかし、レーヴァテインには「害なす魔の杖」という意味もある。
それが剣であるのか杖であるのか、真相は定かではない。
・・・・・・・・・
それは、黒い杖のようなものだった。
しかし、その杖は真っ直ぐな形をしておらず、木の枝のように歪に曲がっていた。
上を向いている片方の先端はトランプのスペードのような形をしている。
下を向いているもう片方の先端は3つ並んだかぎ爪のような形をしていた。
そして何より目を引くのが、スペードの先端から伸びる赤い光の線だった。
「れーばってぃーん☆」
軽い掛け声と共に杖が横に振られる。
「避けろッ!!!」
レミリアが叫ぶ。
最初から箒で飛んでいる魔理沙はともかく、早苗も空を飛ぶ。
「うぉうりゃあ!!!」
レミリアは近くにいた想夢の腰を抱えるよううにしてとんだ。
次の瞬間、紅魔館の屋上全体が熱に包まれた。
想夢達が下を向くと、2人のフランが炎に包まれて灰となって消えてしまった。
あとに残ったのは所々に焼け跡が残る屋上だけだ。
「あの光、炎と同じモノなのか?」
「ええ、フランの持つレーヴァテインは言ってしまえば「デカい炎の剣」よ。
一振りで広範囲を焼き尽くす破壊の剣・・・。
・・・あんにゃろう・・・修理がどれだけ大変だと思ってやがる・・・」
ギリギリとレミリアの歯ぎしりが聞こえてくる。
光というよりむしろバーナーの炎のようなモノか。
「でも、今ので分身は全部消えたみたいですよ?これってチャンスなんじゃ・・・」
「いや、むしろ厄介よ」
早苗の言葉をレミリアは否定する。
「そもそもフランにチームプレイなんてできないのよ。
4対4なんて言っても実際には同じ場所で1対1をしていたに過ぎない。
たとえ分身とはいえフランには協力するなんて考えはないわ。
1人になったフランは・・・ましてやレーヴァテインなんて持ち出したあの子は
危険極まりないわ」
レミリアを見ると余裕そうな顔をしているが、冷や汗をかいていた。
それ程に危険な相手と言うことなのだろう。
「ねー、相談終わったー?何をしてくるのか楽しみにしてたけど、
なんかもう待つの飽きちゃった。もうヤっちゃうね?」
先程の一振りでやはり自分が有利と見たのか、フランの苛立ちは消えたように見えた。
「ほうら、もう1度、れっばてぃーん☆」
掛け声とは裏腹に、触れれば全てを焼き尽くされそうな杖を振るう。
それを2度、3度と続けて行う。
燃えるような音はしない。
しかし、炎の線を中心に、熱が広がっていく。
攻撃に直接当たることはなかったが、熱によって確実に体力は奪われていた。
「くっそあっつい!なんだアイツ!?
吸血鬼のクセにまるで太陽を武器にしているみたいじゃないか!」
魔理沙が避けながら悪態をつく。
「このままじゃジリ貧ですよ!どうにかして短期決戦に持ち込まないと・・・」
早苗はそう言うが、考え無しにレーヴァテインを持ったフランに近づくのは危険だ。
かといって時間をかければ熱によって動くこともできなくなるだろう。
しばらく杖を振っていたフランだったが、ふとその手を止める。
「うーん、なかなか当たらないなぁ・・・じゃあ、こうしてみよっか!」
少し考えた後、フランは杖を横に振った。
想夢達を狙っているのではなく、ただ横に。
そして、杖と炎の線が動いたその跡には、たくさんの弾が生まれていた。
レーヴァテインが発しているのはただの炎ではない。
あの炎の線はフランの妖力そのものでもあるのだ。
そこから同じくフランの妖力で作られる弾幕を生み出すことなど造作もないのだ。
「きゅっとしてー・・・」
杖を持っていない方の手の平に、目玉のようなナニカが生まれる。
「どかーん!!」
手を握って目玉のようなナニカを潰すと、弾の1つが爆発する。
そして、1つが爆発すると近くにある弾も爆発に巻き込まれる形で爆発する。
そしてさらにその近くにある弾が・・・と、爆発の連鎖が起きた。
「ぐ・・・う・・・!」
爆発によって起こった凄まじい風圧が想夢達を襲う。
そのまま風圧に押されるように、紅魔館の庭まで吹っ飛んでしまう。
庭の地面にぶつかった衝撃で大きな土煙が巻き起こる。
フランは何故か追ってこない。
「圧倒的だな・・・まるで近づく隙がないぞ・・・」
「ええ、レーヴァテインの破壊力は勿論、爆発する弾幕の攻撃範囲が広すぎる。
どちらか片方だけでも封じることが出来れば、フランに反撃するチャンスもあるのに・・・」
熱と緊張で2つの意味で汗を流す想夢の隣でレミリアが苦い顔で呟く。
「・・・レミリアさん!」
「あん?」
早苗が何かに気づいたように口を開く。
「あのレーヴァテイン、レミリアさんは『炎の剣』って言ってましたけど、
あの炎はどれくらい本物の炎に似てるんですか?」
「似てるって?」
「性質の話です。レーヴァテインの炎は本物の炎とどこまで同じ性質を持ってるんですか?」
「詳しくは分からないけど、フランの偽物が灰になって消えたのを見る限り、
本物の炎とはほぼ同じだと考えていいと思うわ」
「分かりました。なら私に任せてください、私がレーヴァテインを止めてみせます。
ですので魔理沙さん、想夢さん、レミリアさんの3人で攻撃を頼みます」
そう言うと、早苗はその場で目を閉じて何か呪文のような言葉を呟き始めた。
それと同時に紅魔館の扉が開かれフランが現れた。
レーヴァテインの炎は消えている。
「ああ、そこにいたんだ。もう探しちゃったよー。
あんな大きな土煙起こすんだもん、てっきり屋敷の中に逃げたと思ってさー。
ま、こうして見つかったんだし、いっか」
そう言うとフランはレーヴァテイン突きの形で構える。
「さあ!改めて!れーばってぃーん!!!」
杖を突き出すと同時に杖の先端から炎が噴き出し、想夢達に襲い掛かる。
だが、それに合わせるように早苗が叫ぶ。
「八坂の神風ッ!!!」
早苗は叫びながらお祓い棒を前に向ける。
その瞬間、巨大な竜巻が紅魔館の庭の中心に巻き起こる。
風の奔流が撃ち出されたレーヴァテインの炎の線を下から救い上げる。
その瞬間、風と炎が混ざり合い、赤い熱風となった竜巻が上空へと飛んで行く。
フランが撃ち出した炎は想夢達まで届かない。
「はあっ!?」
フランの表情が驚愕に染まる。
「今です!少し熱いかもしれませんけど行ってください!!」
早苗が叫ぶ。
「よしッ!!」
「ムチャ言いやがるぜッ!!」
想夢が左側、魔理沙が右側からフランに突っ込む。
「ちぃ!!」
忌々し気な顔をしながらフランは杖を捨て両手から弾幕を撃ち出すが、
魔理沙は弾幕の全てを避けきり、想夢は弾幕を刀で弾きながらフランに近づいて行く。
「はあああッ!!!」
「くらえッ!!!」
想夢が刀で斬りかかり、魔理沙が弾幕を撃ちこむ。
だが、どちらもフランに防がれる。
片手で想夢の刀を掴み、片手で魔理沙の弾幕を弾く。
「ぬ・・・おおおおッ!!!」
「まだまだアァァァッ!!!」
想夢はなんとか刀を動かそうとする。
魔理沙は弾幕を撃ち続ける。
しかし、フランには届かない。
「あっは!あはは!あっははは!折角そこの緑の人が作ってくれた隙も無駄になっちゃったね?
このまま2人とも壊しちゃおっか?」
フランの赤い目が爛々とし、狂気的な笑みを浮かべる。
しかし、
「バカ言ってんじゃないの、少し反省しなさい」
レミリアの一声でフランのその表情はすぐに崩れた。
レミリアの手には赤い弾が握られていた。
「ま、まさか・・・くっ!この!!」
フランは慌ててその場から動こうとするが想夢と魔理沙がそれを許さない。
フランによって2人が動けないように、フランもまた2人によって動けないのだ。
「アンタは少しふざけすぎたようね・・・おしおきよ、少しの間寝てなさい。
起きたらアンタに仲間の大切さってのを私がカリスマ溢れる授業をしてアゲル」
レミリアはニヤリと笑う。
「ブッ飛ばせェ!!!スピア・ザ・グングニルゥゥゥゥッ!!!!!」
レミリアは大きく振りかぶり、弾を投げる。
吸血鬼の力で投げられた弾はレーザーの如く飛んで、フランの腹を貫いた。
「か・・・は・・・!」
グングニルが貫通しても勢いは消えず、
口から少量の血を吐きながらフランは後ろに吹っ飛んだ。
丁度紅魔館の中に入るように。
吹っ飛んで紅魔館の床を転がって倒れたフランは動かない。
「・・・これ、死んでないよね?」
想夢が不安げに尋ねる。
「吸血鬼の再生能力を甘く見ないで。
腹に空いた穴ぐらいなら2、3日もすれば完全に塞がるわよ」
「そ、そっか・・・」
レミリアの言葉を聞いて想夢は少し安心した。
思えば、ここまでえげつない戦いをしたのは初めてかもしれない。
とにかく、異変を続けようとする者はもういない。
これで、紅霧異変は終わったのだ。
・・・・・・・・・
フランを倒してすぐにモップとバケツを持った咲夜がやって来た。
「また随分と派手に壊しましたねえ、掃除が大変ですよコレ?」
床の上に倒れているフランを壁際に移動させ、咲夜は掃除を開始する。
フランの腹の穴やレミリアの片腕の無い状態などにはノーコメントだった。
レミリアは霧を消した後、紅魔館の修理をするから帰れと想夢達に言った。
想夢は「手伝おうか」と申し出たが「いらん」とバッサリ断られてしまった。
早苗と魔理沙は空が飛べるので時間もかからないが、
飛べない想夢は仕方がないので1人で歩くことにした。
簡単な手当ては帰る前にしてもらったが、
体はボロボロなので帰り道で妖怪に出会って戦闘開始なんて展開は勘弁願いたい。
唯一安心できる点といえば、朝早くに異変解決に向かい早くに異変が終わったので
夜になる前には帰れそうであるという点だけだ。
しかし、異変は解決したもののこれからどうしようか。
元の世界に帰る手がかりは見つかるのだろうか。
今日の晩御飯は何だろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、
ふと、自分の体が透けてきていることに気づいた。
「これは・・・?」
光の粒を全身から発しながら想夢の体は透けて行く。
まるで漫画やアニメでよく見るお別れのシーンのようだ。
ただし、想夢の場合は周りにサヨナラすべき人が誰もいない状況であるが。
「こんないきなり?
ってか、異変を解決して消えるってこんな分かりやすい方法で戻れるのか?
いやそもそも僕は元の世界に戻ろうとしてるのか?
誰かの仕掛けた罠ってワケじゃあ・・・」
途中まで言いかけて想夢の姿は完全に消えてしまった。
誰に見られるでもなく。
誰が見送るでもなく。
・・・・・・・・・
「・・・さん?・・むさん、想夢さん!」
「っ!?」
気が付けばそこは紅魔館の図書館だった。
想夢は図書館の机に突っ伏す形で寝ていたらしい。
隣で小悪魔が想夢の肩をゆすっていた。
「大丈夫ですか?座ったと思ったらいきなり気を失うようにして突っ伏すんですもん。
心配しましたよ?」
小悪魔がホッと息をつく。
「座ったらいきなり・・・?確か僕は本を読もうとして・・・」
「本ですか?本なんてどこにもありませんけど?」
「え?」
想夢が目を向けると机の上にあの本は無かった。
「あれ?」
机の周りも見てみるが、本はどこにもない。
まるで最初から全部が夢であったかのように。
何が起こったのか分からない。
不思議な体験に戸惑っていると、
「あら、想夢じゃない。貴方も読書しに来たの?」
後ろから声をかけられた。
振り向くとレミリアと咲夜がそこにいた。
「れ、レミリアさん・・・ですよね?」
「そ、そうだけど、何?その反応は?」
さっきまで一緒にいたレミリアとは見た目も雰囲気も違うので一瞬誰か分からなかった。
「私もたまには静かに本でも読もうと思ってね」
レミリアは近くにあった適当な本棚に手を伸ばす。
そして本に手をかけるが、
「む?なんかとりにくい・・・。
っというか、固い・・・!棚に本がギュウギュウで本が出てこない・・・!」
なんとかして本を出そうと必死になるレミリア。
「ぐ、ぐぐぐ・・・うー!!!」
そして、妙な掛け声を発しながら力任せに本を引き抜く。
努力の結果、本を引き抜くことには成功した。
ただし、勢いよく抜いたせいで他の本も一緒になって出てきてしまったので無事とは言い難いが。
「わはああぁぁ!?」
「お、お嬢様ァ!?」
落ちてくる本に襲われるレミリアに慌てて駆け寄る咲夜。
そんな光景を見て想夢は自分が帰ってきたことを実感した。