幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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ここから6話の後半戦です。


50・再開する話、再会する話

想夢が体験した紅霧異変も、想夢が見たあの幻想郷も、全ては夢だったのか。

目が覚めればそこは紅魔館の図書館にいた。

まるで全て夢だったかのように。

怪我も汚れも疲れも、あの幻想郷にいた痕跡は何も残っていなかった。

残っているのは確かにあの場所にいたんだという自分の記憶だけ。

なんとなく、世界で自分が1人きりになってしまったように思えた。

 

・・・・・・・・・

 

それは、想夢が紅魔館に行った次の日のことだった。

想夢が人里の中を歩いていると、

離れた所を青と赤と緑の3つの大きな塊がゆっくりと動いていた。

3つとも同じくらいの大きさで、

青い塊と緑の塊には脚が生えており、赤い塊は緑の塊の上に乗っている。

「な、なんだアレ・・・?」

想夢は唖然としてその光景を見ていたが、周りの人達はまるで気にしない。

見慣れているとでもいったカンジだ。

「あ、想夢さーん!」

「ひぇっ!?」

塊の1つが喋った。

しかも名前を呼んだ。

想夢に塊の知り合いなんていない。

3つの塊が想夢の名前を呼びながらこちらに近づいてくる。

一見すると下手なホラー映画のようなワンシーンであるが、

距離が近くなるとその像がハッキリ見えてくる。

塊だと思っていたものは、大きな風呂敷で包まれた荷物だった。

脚が生えているように見えたのは

誰かが抱えているが、荷物が大きすぎて体が見えないからだった。

分かってしまえば「そりゃそうか」で済まされそうな答えである。

想夢の前まで来ると3つの荷物は地面に置かれ、ようやく運んでいた人の正体が分かった。

「どうも、想夢さん」

「妖夢に佐藤君」

緑と赤の荷物を持っていたのは妖夢で、青い荷物を持っていたのは壱人だった。

普通男の人が多くの荷物を持つべきだろうと思わないこともないが、

普通の人間と半人半霊を一緒にしてはいけない。

単純な身体能力ならこの中では妖夢が1番上だ。

つまり、妖夢が壱人よりも多く荷物を持っていることは普通なのだ。

これ以上ないくらいに普通なことなのだ!

「想夢さん、なんか失礼なこと考えてません?」

「いや全然。そんなことよりこの荷物は?」

ジト目で聞いてくる壱人の疑問に適当な返事をし、想夢は話題を大きな荷物に変える。

都合の悪いことからは目を逸らすのも1つの方法だ。

「これですか?これは全部白玉楼の食料ですよ」

「ああ、白玉楼って人里から結構遠いらしいもんね。

1ヶ月分くらい買いだめしておかなくちゃいけないってことか」

想夢の言葉に妖夢は顔を傾げる。

「1ヶ月?何言ってるんですか?1週間ももちませんよ」

「・・・え?それは白玉楼にはそれだけ必要になるくらいたくさんの住人がいるってこと?」

まあ、納得できる話だ。

紅魔館だってそうだ。

館の主であるレミリアとその妹のフラン、レミリアの友人のパチュリー、

メイド長の咲夜、門番の美鈴といった濃いメンツに隠れがちだが、

実際には多くの妖精メイド達が紅魔館で働いている。

数が多ければ食料の消費量も多くなる。

白玉楼も大きな屋敷であったし、働いている住人も多くいるのだろう。

そう思ったのが・・・。

「いやいや、確かに白玉楼で働く幽霊はたくさんいますけど

幽霊なので食べ物なんて食べませんよ。私は半人半霊なので普通に食事はしますけど」

妖夢にあっさりと否定されてしまった。

「この食料のほとんどは幽々子様の胃袋に入ります」

「・・・個人なの?」

持てば上半身がすっぽり隠れてしまう程の大きさの食料が3つ。

このほとんどが幽々子の分、しかも1週間もたないというのだから驚きだ。

「っていうか、幽々子さんってそんなに食べる人だったの?

前に僕が白玉楼に行ったときはそんなに食べてなかったような・・・」

「そんなの、想夢さんが見てないところで食べてるに決まってるじゃないですか!

食欲のない幽々子様なんて幽々子様じゃありませんよ!偽物か影武者です!」

あっはっはと笑いながら妖夢は言う。

仮にも自分の主をそんな風に言っていいのだろうか。

「幽々子さんの大食いっぷりは幻想郷ではかなり有名な話ですからね。

ついでに言えば幽々子さんは亡霊なので本来、食事は必要としません。

つまり幽々子さんにとって食事は娯楽ということです」

壱人が補足説明をする。内容を聞く限り幽々子に対するフォローの類のモノではないようだ。

周りの人達が全く気にしなかった理由はコレか。

「娯楽でこの量なのか・・・」

「亡霊は死んで幽霊になった人間の内、特別未練が強い者がなると言われています。

正直、幽々子さんの未練は食欲なんじゃないかと僕は考えてます」

一般大衆の西行寺幽々子に対するイメージは大食いキャラしかないのだろうか。

想夢の仲の幽々子のイメージが崩れてしまいそうだ。

「と、ところでその荷物、2人で3つじゃ大変じゃない?

よかったら運ぶの手伝おうか?」

これ以上幽々子のイメージが崩れないうちに話題を変えようとする。

しかし、

「その言葉を待ってました!じゃあ、この赤の風呂敷をお願いします!!」

帰ってきたのは嬉しそうな妖夢の返事。

「・・・あれ?もしかしてハメられた?」

どうやら、最初から手伝わせるために声をかけたようだ。

なんてたくましい子だろうか。

 

・・・・・・・・・

 

「あら、想夢君に壱人君!遊びに来たの?ウフフ、ゆっくりして行ってねぇ」

食料運びを手伝って白玉楼までやって来た想夢達を待っていたのは幽々子の歓迎の言葉だった。

相変わらず想夢にとって幽々子は友達の家のお母さんという印象が強い。

こんな人が大食いなど何かの間違いじゃないのかとすら思う。

「2人とも荷物運びの手伝いご苦労様です。今飲み物用意しますね」

そう言って妖夢は屋敷の奥へと消えて行った。

「そう言えば想夢さん、入院したって聞きましたよ?

大丈夫だったんですか?お見舞いにも行けずにすみません」

「ああ大丈夫大丈夫、先生が良い人だったからね。

今じゃホラ、すっかり完治してるからさ」

想夢と壱人は適当に話をしながら部屋で妖夢を待っていた。

そんな時、想夢は部屋のテーブルの上に1冊の本が置いてあるのを見つけた。

「ん?これは・・・」

なんとなく好奇心で本を手に取ってみる。

 

『もう1つの春雪異変』

 

タイトルを見た瞬間、想夢は本を元の位置に戻す。

本を開けば絶対に良くないことが起こりそうな気がしたからである。

悪い予感というヤツだ。

だが、安心してはいけない。

今、この部屋には想夢以外にもう1人いるのだ。

想夢が読まないからといってもう1人も読まないとは限らないのだから。

そして、悪い予感というのは当たってしまうのが所謂「お約束」というヤツだ。

「あれ?部屋に入った時はそんな本ありましたっけ?」

想夢が戻した本を今度は壱人が手に取る。

「なになに?もう1つの春雪異変?」

「あ、あのー佐藤君?人の家にある物をかってにとるのは

ちょっと僕どうかと思うなー・・・なんて言ってみたりしてー・・・」

壱人が本を読み始める前になんとかしようとしてみるが、

「あはは!ちょっとくらいなら大丈夫ですよー!」

想夢の努力もむなしく、壱人は本を開いてしまう。

「あっやめ・・・!」

 

・・・・・・・・・

 

むかしむかし、

幻想郷の冥界、その中にある白玉楼という屋敷に1人の亡霊が住んでいました。

白玉楼は、毎年春になると庭の桜の木がピンク色の花を咲かせ、

それはそれは美しい光景を作り出します。

しかし、そんな白玉楼に1本だけ花の咲かない桜の木がありました。

毎年、毎年、何年経っても、何年待っても、他の桜の木が咲くなかで、

この1本だけは花も葉もつけず、寂しく枯れているのです。

亡霊は不思議に思いました。

どうしてこの木は花を咲かせないのだろう。

どうやったらこの木は花を咲かせるのだろう。

そして、亡霊は思いつきました。

そうだ、幻想郷中の春をこの木に与えてみよう!と。

そして、亡霊は幻想郷から春を奪ってしまいました。

そのせいで幻想郷は春の季節になっても雪が降り続け、冬が終わらなくなってしまいました。

冬が終わらないせいで農作物も育てられません。

そこで、このままではいけないと、1人の女の子が立ち上がりました。

彼女の名前は―――

 

・・・・・・・・・

 

「ここは・・・ってうひゃあっ!冷たっ!!寒っ!!!」

気がつけばまたしても地面に仰向けで倒れていたワケだが、

突然背中を襲った冷たさに驚いてすぐに起き上がる。

周りを見てみれば、ここは博麗神社の境内のようだが、

地面も神社の屋根もどこもかしこも真っ白な雪に覆われている。

この幻想郷では今は冬なのだろうか。

そんな風に考えていると、

「ふにゃあっ!冷たい!!寒い!!!」

と叫び声が聞こえた。

見れば想夢から少し離れた所で壱人が飛び上がるようにして起き上がっていた。

どうやら彼もこの幻想郷に飛ばされてしまったようだ。

2人も飛ばされるとは、悪い予感よりも悪い結果を引いてしまったようだ。

「佐藤君、大丈夫?」

「あ、想夢さん!これどうなってんですか!?

僕達さっきまで白玉楼にいましたよね?それに雪が降るのはもう少し先のハズですよね?」

「あー、どうやら飛ばされちゃったみたいだよ?所謂並行世界の幻想郷に」

「想夢さん、随分冷静ですね」

「あー、まあね」

言葉に詰まる。

正直なところ、並行世界に飛ばされるのはもう慣れてしまった。

初めに今の幻想郷へと飛ばされ、次は早苗と共に別の幻想郷へと飛ばされた。

そして昨日、また別の幻想郷へと想夢は飛ばされた。

並行世界へ飛ばされるのはこれで4度目だ。

しかも今回飛ばされた並行世界は飛ばされ方から考えても恐らく、

昨日飛ばされたのと同じ世界だろう。

もはや、いきなり飛ばされた程度では想夢は驚かないし取り乱さないのだ。

「とりあえず中に入ろうか、ここは寒いしね」

想夢はそう言って神社の中に入ろうとする。

神社の戸に手を近づけたタイミングで戸が勝手に開いた。

否、神社の内側にいた人物が戸を開けたのだ。

 

「え?あ?うぇ?そ、想夢さん!?なんで!?」

 

戸の内側にいたのは早苗だった。

想夢の顔を見た瞬間、驚いたような声をあげる。

「えっとー、ただいま?」

慌てる早苗になんと声をかけるべきか迷ったが、とりあえず挨拶をしてみる。

本当は「ただいま」ではなく「行ってきます」な状況なのだが。

「ただいまって想夢さん!今までどこにいたんですか!?半年以上もいなくなるなんて!」

想夢からしてみれば昨日の今日のことなのだが、どうやらこっちの幻想郷では

かなりの時間が経っているらしい。

「・・・あ、あと、そちらの人はどなたですか?」

さっきまで混乱気味に話していたが、想夢の後ろに壱人がいるのに気づくと、

途端に怪しい人を見る目つきになる。

こちらの早苗は人見知りするタイプなのだろうか。

「ああ、彼は佐藤壱人君。僕の友人だよ」

「あ、佐藤壱人です。よろしくお願いします」

「ああ、どうも、東風谷早苗です」

とりあえずはお互いに自己紹介。

1つ1つ話を進めて行かないとどうにも先へ進めそうにない。

「じゃあ、中に入りましょうか。外は寒いですし」

早苗に案内され、想夢と壱人はようやく寒い外から温かい室内へと入ることができた。

「想夢さん、もしかして前にもこの幻想郷に来たことがあるんですか?」

「ああ、前に似たような本を開いちゃったせいでね」

神社の一室で壱人と想夢はこっそりと会話をする。

「どうかしましたか?」

早苗が首を傾げて2人を見る。

「いや、なんでもなよ。

ところで早苗ちゃん、半年以上もいなくなってたって言ってたけど、今っていつなの?

前回こっちに来た時も性格な日時なんて分からなかったしさ。

まあ、冬ってことは分かるんだけど」

想夢は話をごまかすように早苗に質問をする。

前回も2日程しかいなかったのに日時が重要かと聞かれれば微妙なところだが、

とにかく幻想郷の現状は知っておきたかった。

「今ですか?今は5月ですね。前回想夢さんが来たのは去年の8月です。

その言い方からすると元の世界には帰れたんですね」

早苗は「良かった良かった」と微笑みながら頷いているが、

想夢達にとっては笑いごとではない。

またしてもこの幻想郷に飛ばされてしまったのもそうだが、なによりも・・・

「待って、今5月って言った?ねえ?」

「はい、確かに言いましたよ?」

「5月?」

「5月」

冬だと思っていた幻想郷は春でした。

想夢がやって来た時点でこの幻想郷はすでに異変の真っ最中だったらしい。

「今、幻想郷のあらゆる場所から春が奪われているんです。

そのせいで終わったはずの冬が再来し、5月だというのに外は雪だらけになっています。

藍さんはこの異変を『春雪異変』と名付けました」

「それで、春を奪った犯人は分かったの?」

「はい」

想夢の質問に早苗は頷く。

「私や諏訪子様に神奈子様、藍さんに魔理沙さん、さらに紅魔館の住人達の協力で

奪われた春がどこへ行ったのか、異変の元凶は誰なのかを今日まで調べてきました」

そう言って早苗は一呼吸置く。

 

「異変の元凶は冥界、白玉楼に住む亡霊、西行寺幽々子です」

 

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