幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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次回で6話は終了です。


52・確かなコト、幽かなコト

「これ以上は止めておきましょう、実験は終了よ」

そう言ってアリスは人形を全てしまってしまった。

「もう、いいのか?」

「ええ、データは十分にとれたわ。

それに、これ以上は私も本気で戦わなきゃいけななくなるもの。

目的は実験であって戦いじゃないし、本気で戦って負けたら言い訳できなくなるしね」

そう言ってアリスは自嘲気味に笑う。

「さ、次は私が約束を守る番ね。さっさと冥界まで行きましょうか」

 

・・・・・・・・・

 

辺り一面真っ白な雪以外に特に何かあるわけでもないその場所に、

幻想郷と冥界を隔てる結界があった。

しかし、その結界には今、穴が開いている。

当然ながらその穴の先に広がっているのは冥界だ。

冥界の奥には西行寺幽々子の住む白玉楼がある。

白玉楼へ行くにはその前にあるやたら長く、やたら横幅のある階段を上る必要がある。

階段の上に白玉楼の門があるのだ。

そしてその階段の上である1つの戦いが繰り広げられていた。

 

「はああぁぁぁ!!」

 

「っせぇい!!」

 

「どおりゃああああ!!」

 

三者三様に声をあげながら攻撃を繰り出す。

「甘い!!」

その内の1人はジグザグに踏み込んでいき相手に向かって刀を振るう。

魂魄妖夢。白玉楼の剣術指南役兼庭師である。

「きゃあっ!?」

攻撃された相手は妖夢の刀をお祓い棒で防ぐが勢いは殺せず、少し後ろに吹っ飛ぶ。

東風谷早苗。この世界における博麗の巫女代理の少女。

階段で後ろに吹っ飛ぶなどとんでもなく危険な状態だが、そこは空を飛べる者の特権だ。

空中に浮いてブレーキをかけて態勢を整える。

「大丈夫か早苗!」

箒の乗った少女が早苗の横に飛んでくる。

霧雨魔理沙。早苗の友人である魔法の森に住む魔法使い。

早苗と魔理沙、2人の異変解決者は白玉楼の1歩手前まで来ていた。

恐らくは西行寺幽々子に辿り着くための最後の関門。

そんな激しい戦いの最中の出来事である。

 

シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンと鈴の音が聞こえてくる。

 

突然の出来事に思わず動きを止める3人。

音は階段の下の方から聞こえてくる。

3人が下を見ると、だんだんと、何者かが近づいて来る。

それが敵なのか味方なのかは誰にも分からない。

身構える3人に近づいた誰かは右手を大きく振りながらこう言った。

 

「みんなー!メリークリスマース!!」

 

「・・・は?」

3人の内の誰だっかは分からないが、誰かが思わず口に出していた。

戦っていた3人に近づいて来たのは、

トナカイのコスプレをした金髪の少女と、サンタクロースの格好をしてソリに乗った男だった。

しかもソリは木製ではなく、子共が遊ぶようなプラスチック製のアレだった。

ソリの後ろ側には大きな袋が置いてある。

「やっほー☆今年はみんな良い子にしてたかなー?

良い子にしてた子にはサンタさんからのプレゼントがあるよー!良かったねー☆」

「ア、アリス・・・?」

魔理沙が若干引いていたが、トナカイの格好をしたアリスは気にしない。

「そ、想夢さん?何、してるんですか・・・?」

早苗も明らかに引いてる顔でサンタクロースの格好をしてる想夢に尋ねる。

「い、いや、違うんだ!これには深い訳があって・・・」

 

・・・・・・・・・

 

時間は少しだけ遡る。

アリスの実験の後、想夢は魔法の森にあるアリスの家に連れて来られていた。

ちなみにここまで想夢を運んできたのはアリスの人形達だ。

歩くよりもそっちの方が断然速いからという理由らしい。

アリスの家でアリスが想夢に見せたのは1つのどこにでもありそうなソリだった。

「これを私の魔力で浮かせて冥界まで飛んで行くわ」

空を飛ぶのと同じ感覚で物を浮かせれば人を乗せて飛ぶのはわりと簡単なことらしい。

箒で空を飛ぶ魔理沙が良い例だろう。

元の世界の魔理沙から聞いたことがあるが、

魔理沙は別に箒を使わなくても普通に飛ぶことができるらしい。

箒に乗って飛ぶのは「そっちの方が魔法使いっぽいから」なんだとか。

実にあっさりと冥界へ行く方法は解決してしまった。

あとは実際に冥界に行くだけ。想夢はそう思っていたが、

「でも、このまま行ったんじゃあ怪しまれてしまうわね・・・

どうにかしてすんなりと白玉楼まで入れる方法を考えなきゃ・・・」

「え?いや、なにもそこまで・・・」

想夢としては白玉楼まで行ければそれでいいのだが。

異変解決に行くのだから戦いになるのは目に見えているのだから。

しかし・・・

「ダメよ!少しでも怪しまれない方が物事はすんなりいくってモノよ!?」

アリスはもやる気に満ち溢れていた。

なんで実際に異変解決に行く想夢よりも善意の協力者の方がノリノリなのだ。

「さて、そうと決まれば早速貴方にはコレを着てもらうわ!」

そう言ってアリスは想夢に真っ赤な服を渡す。

「ナニコレ?」

「何って決まってるじゃない、サンタクロースの服よ。

雪にソリときたらもうサンタクロースしかないでしょ?」

違う、そこじゃない。

「どっから持ってきたの・・・ってか、何であるの?」

「いつか使うかなーって作ってたのよ」

どんな予想だ。しかも男物。

「そして、サンタクロースと言えばトナカイにプレゼントも必要よね!」

そう言ってアリスはトナカイのコスプレ衣装と大きめのサイズの袋を出す。

 

「さあ!始めるわよ!『ハッピークリスマスプレゼントで白玉楼侵入大作戦☆』を!」

「無駄に長いうえにネーミングセンスがない!?」

 

・・・・・・・・・

 

「・・・と、いうワケで・・・」

「は、はあ・・・」

想夢の説明を聞いた早苗はものすごく微妙な顔をしていた。

そりゃそうだろう。成功するハズがない。この世界今5月だぞ。

こんな怪しい奴らを入れてくれる程妖夢の頭は・・・

 

「さ、サンタクロースですか!?初めて見ました!とっても感激です!」

 

妖夢の頭は弱かった。

キラキラと目を輝かせてアリスと想夢を見ていた。

「もういい歳だろうに未だにサンタクロースの存在を信じているのか・・・」

「え!?サンタクロースっていないんですか!?嘘ですよね!?」

「ここにもか・・・」

早苗の驚いたような反応にため息を吐く。

このサンタクロースが想夢のコスプレだということには気付いたものの、

サンタクロースの存在自体は信じていたようだ。

「よーし☆妖夢ちゃんが寝たら枕元にこっそりプレゼントを置いておくからねー。

それじゃあ私達は幽々子様に挨拶してくるねー」

「はい、どうぞお通りください!」

なんということでしょう。

あれほど敵意むき出しで早苗と魔理沙に襲い掛かっていた妖夢ちゃんは、

何処からともなくやって来た悪いトナカイとサンタクロースに道を譲ってしまいました。

「い、いや、アリス?え?アリス・・・だよな?ですよね?」

混乱気味に魔理沙がアリスに話しかける。

あんまりな展開に理解が追いついていないらしい。

「んー?アリスって誰のことかなー?

私はサンタクロースさんのソリを引くとっても善良なトナカイさんだよー?」

アリスは徹底的なまでにトナカイを演じている。

いやいや、違う、アレはトナカイではない。

どちらかというとヒーローショーの司会進行のお姉さんのノリだ。

「ま、まあとにかく、西行寺幽々子に幽々子は僕がなんとかするから。

早苗ちゃん達はこのまま魂魄妖夢の相手をお願いするよ」

「え、ええ分かりました」

想夢は早苗にだけ聞こえるようにこっそりと話すと、ソリに座り直す。

「それじゃあ白玉楼に入ろうじゃあないかぁ!」

「ええ!いざ、白玉楼へ突入ー☆」

なるべくサンタクロースっぽく見えるように話してみるがやはり恥ずかしいものがある。

何故目の前のトナカイ少女はあんなにもはっちゃけられるのだろう。

 

想夢とアリスが妖夢の横を通り過ぎ白玉楼に入っていった後、

「さあ!続きといきましょうか!!」

まだサンタクロースに会えた興奮が消えない妖夢と、

「ええ、参ります!」

さっさと頭を切り替える早苗と、

「え、えー・・・」

どこか納得いかない様子の魔理沙がそこにいた。

 

・・・・・・・・・

 

「ここが白玉楼・・・」

白玉楼へと着いたアリスは周りをキョロキョロと見回している。

雪に包まれた寒い外と違い、白玉楼には桜の花が咲き誇っており温かさを感じる。

ここは「春」なのだろう。

一面春の白玉楼の庭を進んでいくと桜の木の中に1本だけ、花のない枯れた木があった。

そして、その木の前で1人の女性が気を見上げていた。

女性はこちらに気づくと微笑んで軽く手を振る。

「あら、お客様?いらっしゃい、面白い格好をしているのね」

まるで外で何が起こっているのか何も知らないような。

妖夢が外で戦っているなんて想像すらしていないような。

ただただ普通に相手を迎え入れる姿は、異変の元凶とは遠く離れたものだった。

「西行寺幽々子さん、ですよね?」

「ええ、そうよ。よろしくね?」

想夢の質問に幽々子は素直に返す。

なんというか、無邪気という言葉が本当によく似合う。

「そういう貴方は、どことなく紫に似ている気配を感じるわね。

貴方、もしかして、もしかしなくても紫のお友達かしら?」

「確かに八雲紫さんとは面識がありますが、貴方の知る紫さんとは別人です」

「そう・・・」

少しだけ、幽々子が寂しそうな顔をしているように見えた。

今の想夢の言葉で彼女は全て理解して、期待して、そして落胆したのだろう。

この世界で行方不明になっている八雲紫の手がかりを想夢が持っていないということに。

「・・・この木は?」

想夢は枯れた木を見上げる。

ただ枯れているというだけではない。

他の桜の木と違い、何やら異質なモノを感じる。

「ああ、この木はね、ずっと花をつけないの。

決して木が死んでいるってワケでもないのに、この木が花をつけたところを見たことがないの。

死んでないなら花はつけるハズなのに・・・」

幽々子もまた、木を見上げながら語る。

「何年待っても花が咲かないものだから、花が咲く瞬間ってのを見たくなっちゃって。

昔は紫が『この木を咲かせるのはダメだ』って私を止めてたんだけど、

今はもう、紫もいないから・・・。

もう、私を止めてくれる彼女はいないから」

幽々子はまるでイタズラをする子供のような表情をしていた。

ただ、花が咲くのが見てみたい。

それだけの理由で、想夢の前にいる彼女は幻想郷から春を奪い、冬で覆ったのだ。

だけど、

何故だか想夢には、幽々子がそれだけの理由で動いているように見えなかった。

正直、彼女が何を抱えているのか分からない。

想夢には、自分の知る八雲紫や西行寺幽々子しか分からない。

だから、幽々子を止める方法なんて、想夢には分からなかった。

まともに戦えば、例えアリスが手伝ってくれても勝ち目はないだろう。

「・・・」

「想夢?」

想夢は少しの間考えた。

アリスは少しだけ心配そうに想夢の名を呼ぶ。

「幽々子さん」

「なぁに?」

「僕と、賭けをしてみませんか?」

「賭け?」

「ええ・・・」

そう言う想夢の顔には汗が浮かんでいる。

決して春の気候に対して冬用のサンタクロースの衣装が暑いなんて理由ではない。

冷や汗というヤツだ。

 

「幽々子さんの能力を僕に使って、僕が死ななければ幻想郷に春を返してください」

 

その瞬間、場の空気が変わった気がした。

「その言葉は、私の能力がどういうものなのかを十分理解したうえでのものだと思っても

いいのよね?」

そう言う幽々子の顔からは先程の笑みは消えていた。

無表情とでも言うのだろうか。感情の見えないその顔には恐怖すら感じる。

「はい」

「そう・・・」

幽々子はそっと手を手の平を上にして前に出す。

すると手の平に1匹の蝶が現れる。

生きているようには感じられない。

酷く冷たい印象を受けるその蝶は、幽々子の妖力が形となったものだろう。

薄いピンク色の光を怪しく発するその超は、幽々子の手の平を離れ、

不規則な軌道を描いて飛び始めた。

「貴方がそう言うのなら、私はこれ以上何も聞かないことにしましょう」

幽々子は動かない。だが、プレッシャーはひしひしと伝わってくる。

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」

アリスが緊張した様子で聞いて来る。

賭けや勝ち負け云々より純粋に想夢のことを心配している様子だった。

頬や額には冷や汗が見える。

それ程までに西行寺幽々子というのは強大な存在なのだろう。

だが、想夢には体を張る以外の方法は思いつかない。

言葉だけでなんとかできる程、想夢は器用じゃないのだ。

だから、想夢は体を張る。

「大丈夫、策は用意してある。だから、勝手だけど後のことは任せる」

想夢はじっと近づいてくる蝶を見つめる。

蝶はゆっくりと想夢に近づき、そして頭の上にとまった。

 

その瞬間、想夢は意識を失った。

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