見てみました。
最後に見たのはAGだったような気がします。
あ、あと6話ラストです。
夢を見ていた。
いつものように椅子に座っている想夢に、テーブルを挟んだ向かい側の彼女が話しかける。
「彼女の能力は何故蝶の形をしているんだと思う?」
「何故・・・ですか?」
「蝶は日本では神様や仏様の使いと言われているわ。
ある地域ではお盆の時期の黒い蝶には仏様が乗っているなんて言ったりするわね。
昔は蝶が死んだ人の魂を浄土へ連れて行く役目を持っているって信じられてきたの。
つまり蝶っていうのは『死』の象徴でありながら神聖なものでもあったの。
死ぬっていうのは普通の人からすれば悪いこと、悲しいことでしかないのかもしれない。
だから彼女も自分の能力に悩んでいるのかもしれない。
でもね、死は決して悲しいことばかりではないの。前に進むために必要なことでもあるの。
今はまだ、分からないかもしれないわね。
でも、いつか分かる日が来る。
彼女も、自分の能力には悪い意味だけじゃないっていつか分かってくれるわ。
なんて、少しカッコつけちゃったかしら?」
そう言って目の前の彼女は笑うのだった。
・・・・・・・・・
「・・・ここは?」
目が覚めると、天井が見えた。
なんだか体が温かい。
上半身を起こしてみると、自分が布団に寝かされていることが分かった。
想夢は自分の身に起きたことを思い出す。
自分は確か、幽々子の蝶に触れてそのまま気を失ったハズだ。
「あら、起きたのね」
声の聞こえた方を見ると、部屋の中に幽々子が入ってくるところだった。
「そうだっ!幽々子さん!異変はどうなりましたか!?」
「それを異変の首謀者に聞くっていうのもなんだか変な感じがするわねぇ。
大丈夫、春はもう幻想郷に返したわ。
少し時間はかかるでしょうけど、幻想郷の気候はもとに戻るハズよ。
貴方は今こうして生きていて、賭けに勝ったんだもの。
約束は守らなくちゃね?」
幽々子の言葉を聞いて安心した。
これで「やっぱり春は返しません」なんて言われたらもはや想夢に打つ手はなかった。
「・・・ありがとうね」
安心していたら、突然幽々子に頭を撫でられた。
「幽々子さん?」
「貴方がここにやって来た時、貴方に賭けを提案された時、貴方に蝶を放った時、
なんだか紫に止められてるような気がしたの。『やめて』ってね。
貴方と紫が似ているかって言われれば全然似ていないけど、
私を止めようとする貴方を見ていたらなぜか紫を思い出してしまったの。
だからなのかしらね?
私の放った蝶は貴方を殺しきることはできなかった。
まるで心がブレーキをかけたみたいに能力もほんの少しだけ弱まってしまった。
もしもこれを狙って行っていたならとんでもない策士ね。
でも、きっと違うのでしょうね。
だからこそ、私は貴方に紫を重ねたのでしょうね」
そう言って幽々子は優しく笑っていた。
・・・・・・・・・
「貴方に蝶を放った私が言うのもどうかと思うけど本当にもう動いて大丈夫なの?
泊まっていってもいいのよ?」
白玉楼を出ようとした時、幽々子に呼び止められた。
「いえ、博麗神社に人を待たせてるので帰ります」
「そう、気をつけてね」
幽々子はゆらゆらと手を振った。
想夢は1人、白玉楼から出て冥界の広い階段に降りる。
アリスは想夢がいつ起きるか分からないから、
ましてや今日中に帰るなどとは夢にも思わなかったらしく、先に帰ってしまった。
それは早苗や魔理沙も同じだ。
妖夢は現在春を戻している最中なのだという。
短い付き合いとはいえ、なんとまあ薄情な仲間達だろう。
正直、歩きで博麗神社まで帰るのはしんどいなんてものではないが、仕方がない。
雪はまだ積もっているだろうが、少なくとも雪が降ることはもうない。
その点に関してだけはマシな気候になっているハズだ。
そんなことを考えながらひたすら1人で階段を下りる。
階段を下りていると座っている人影が見えた。
人影はこちらに気づくと立ち上がって片手を上げた。
「想夢さん、異変解決、ご苦労様です」
「・・・佐藤君?」
階段に立つ佐藤壱人はいつも通りの極めて普通な笑みを浮かべて想夢を見ていた。
「なんでここに?」
「いやだなあ、想夢さんを待っていたに決まっているじゃないですか」
想夢の質問に壱人は当然だと言わんばかりに答えた。
そもそもここに壱人がいること自体おかしいというのに。
「待ってたって・・・そもそもどうやって冥界まで来たのさ?」
想夢が聞くと壱人は少し意外そうな顔をした。
「あれ?もしかして・・・気付いてませんでした?」
気付いてって何を?」
「僕、ずっと想夢さんと一緒いましたし、白玉楼まで同行してましたよ?」
「・・・は?」
この男は何を言っているのだ。
「え?ほ、本当に気付いてなかったんですか?
僕、あの後想夢さんを追いかけて想夢さんの後ろをついて行ってたんですよ?
アリスさんとの戦いも観戦してましたしサンタクロース作戦の時も一緒にいました」
「サンタクロース作戦って・・・どこに?」
サンタクロースとトナカイ以外に人が必要な役なんてあっただろうか?
「プレゼント袋の中でずっと黙ってました。
想夢さんがサンタクロースの衣装に着替えてる最中にアリスさんに入れられて」
「な、なんですと・・・!?」
随分とまた意外な所にいたものだ。
プレゼント袋の中を見ていたら作戦どころではなかったかもしれない。
「まさかそんな所にいるなんて・・・というかずっと近くにいたなんて・・・
もう普通過ぎて気付かないとかそういうレベルじゃない気がするよ・・・」
「僕もまさかこれっぽっちも気づかれないとは思いませんでした。
自分の普通さ加減になんだか涙が出てきますよ・・・」
脱力する想夢にがっくしと項垂れる壱人。
せっかく異変を解決したというのになんとも締まらない。
「それで、佐藤君」
「はい、なんでしょう?」
「どうやって僕の後をついて来たんだい?」
「・・・え?」
そう聞く想夢の顔にはさっきまでの脱力感や驚きなどはもうなかった。
「な、何を言ってるんですか?それは想夢さんが気付かなかっただけ・・・」
「そんな言い訳を本当に信じると思ってたのかい?
だらしなく歩いていた道中やプレゼント袋に隠れた時ならともかく、
全方位に神経を張っていた戦闘中に君の存在を感知できないなんて、
少なくとも人がいることを感知できないなんて、
さっきも言ったけど普通過ぎて気付かないなんてレベルじゃないんだよ。
ただ黙って見ていただけなら僕だって気付けたハズなんだ。
君が本当に普通の人間ならの話だけど。
もう1度聞くよ、君はどうやって僕に気づかれないままここまで来たんだ?」
想夢は壱人を睨む。ただの人間がなんの理由もなく冥界まで行くワケがない。
ましてやここは壱人にとって異世界も同然だ。
異世界の冥界などより一層行く理由がないではないか。
「やっぱりギャグみたいな展開でなあなあになってくれたりはしないか・・・」
その瞬間、場の空気が変わった。
まるで古い者を追い出して新しい者が場を支配したかのように。
「こうなったら仕方ありませんね。全てとはいきませんが話しましょう」
そう言う壱人の姿は「ただの人間」とはかけ離れたモノだった。
見た目が変わったワケじゃない。
動きが変わったワケじゃない。
ただ、雰囲気が全く別のモノとなったのだ。
今の彼はは何か異質なモノを纏っているように見える。
それは人間と呼べるのかさえ怪しい。
「手短に話します。意識してないとこうしていられないので」
壱人は何を考えているのか全く分からない顔で想夢を見る。
「まず、僕が想夢さんの後をついて行った理由は単純に
想夢さんが異変を解決しに行ったからってだけです。
異変解決に動けば必ず誰かと戦うことになる。想夢さんの戦いを見るには良いチャンスです。
異変解決者の情報はきちんと調べておかなくてはなりません。
こうして都合よく僕が近くにいる時に想夢さんが異変を解決するなんてツイてましたよ」
嬉しそうに壱人は笑う。
「どうして異変解決者の情報が欲しかったのさ?」
「そんなの決まってますよ。異変を起こすためです」
何を言っているんだとでも言いたげに、壱人は想夢を見る。
どうやら何か大それたことをしでかすつもりでいるようだが、
それでも想夢には壱人がどこか普通の人間でいるように思えた。
ただ、その普通さをもう普通に普通だと感じることはできなかった。
言ってみればそれは、何かに無理矢理普通だと思わされているかのような、
ある種の洗脳に近い何かのようにも思えた。
「僕は今までの異変の首謀者達とは違ってただの人間ですから。
自分の力の信じるままに異変を起こすなんてことはとても出来ません。
だから僕は敵になるであろう人のことはしっかり調べますし作戦だってきっちり考えます。
人間だからこそ人間らしく、異変を起こしてみせますよ」
「随分と前向きに異変を起こそうとするね・・・。
それじゃあ話を戻して本来聞きたかったこと、というより1番聞きたかったことを聞こうか。
君はどうやって冥界まで来たんだい?理由じゃなくて方法を教えてほしい」
「そうですね、まずは見てもらいましょうか」
壱人がそう言った瞬間、彼の雰囲気が変わった。
「僕のこと、どう思いますか?」
そう言う壱人は、さっきまでの普通の少年のように見えた。
「じゃあ、今度はどうですか?」
そう言うと、またしても壱人の雰囲気が変わる。
「・・・『雰囲気を変える程度の能力』?」
声に出して言ってみると、なんとも無害そうな能力に思えてくる。
「違いますよ、正しくは『モブキャラになれる程度の能力』です」
「・・・う、うん」
正しく言い直されても無害な能力に思える。
むしろ自分で言ってて悲しくならないのかと目の前の少年に問い詰めたくなる。
「この能力、僕が意識して止めとかないと常に発動しっぱなしになってしまうんです。
困ることもありますが、役立つこともそれなりにあるんですよ?
現に、想夢さんは僕がついて来てたことに全く気付かなかったでしょう?」
「む・・・それもそうか」
誰にも気づかれない能力。
そう考えると確かに恐ろしいものなのかもしれない。名前はともかく。
「これは僕が持つ能力の中で最も地味ですが最も強力な能力です。
強力であるが故に制御が難しい。っというかほとんど制御できてない状態ですけどね」
「それって・・・!」
想夢は「それってどういうことだ」と言おうとしたが、
突如として壱人が驚いたような顔をしたので言葉を途中で止めてしまった。
そして、想夢も壱人の姿を見て驚いた。
壱人の体が透けてきている。
思わず自分の体を見てみれば、自分の体も壱人と同じように透けてきていた。
壱人はこれを見て驚いた顔をしたのだろう。
異変を解決したことによって想夢達の体が元の世界へ帰ろうとしているのだ。
「もう、時間もなくなってきてしまいましたね。最後に1つ聞いてもいいですか?」
「うん?」
「想夢さんは『転生者』って知ってますか?」
転生者。言葉の通りに受け取るならば生まれ変わった者という意味だろうか。
なんにせよ、どういう意図で壱人がそのような質問をしてきたのか分からない。
「転生って言葉の意味は知ってるけど・・・君の質問についてはよく分からないな」
想夢がそう言うと、壱人は少し残念そうな顔をした。
「そうですか・・・。
僕も本当のことを話したので想夢さんもそろそろ話してくれると思いましたけど・・・
まだ隠すんですね・・・」
「何を言ってるんだ・・・?」
「いえ、この話は後にしましょう。どのみち話すことになるんです」
壱人がそう言うと、話をそこで区切るように、辺りが強い光に包まれた。
・・・・・・・・・
「・・・う、うん?」
気が付けば、そこは部屋の中だった。
想夢は部屋のテーブルに突っ伏す形になっていた。
恐らくは本を開いた場所、元の世界の白玉楼に戻って来たのだろう。
夢から覚めたと思ったらさらに夢から覚めたような変な気分だ。
辺りを見回しても壱人の姿はない。先に目を覚まして帰ったのだろうか。
そして、テーブルの上にあった本は消えてしまっていた。
紅魔館の時と大体同じだ。
頭の中で状況を整理していると、部屋の戸がガラリと開いた。
「お待たせしました!麦茶でいいですか?」
元気な声で妖夢が入ってくる。
そういえば異世界に飛ばされたのは妖夢が飲み物お取りに行った後だった。
こちらの時間はほとんど進んでいないらしい。
「ところで想夢さん、その恰好どうしたんですか?」
妖夢が不思議そうに想夢を見つめる。
何事かと自分の体を見てみれば、赤い服に赤いズボン、
誰が見ても立派なサンタクロースがそこにいた。
「う、うっわぁ・・・」
脱力して、もう1度テーブルに突っ伏す。
なんとも締まらないオチだ。
・・・・・・・・・
その日の夜、佐藤壱人は自宅で1人考えていた。
「想夢さんが幽々子さんの能力に触れても死ななかった理由・・・。
幽々子さんが能力にブレーキをかけたから?いいや、それだけじゃないはずだ。
幽々子さんの能力を受けて想夢さんが気絶してから目覚めるまでに1日もかかっていない。
1日どころか数時間で想夢さんは復活してる。
ちょっと能力が弱まったからってそんなに早い時間でどうにかなるものじゃない。
想夢さんは何かを隠している・・・。
それも幽々子さんの能力に対抗できる程の何かとんでもないものを・・・。
一体何を?・・・分からない・・・でも」
壱人の手には1通の手紙が握られていた。
「準備は終わったんだ。僕は僕の異変を絶対に成功させてみせる・・・!」