幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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2つの話を同時進行で進めると、
時々キャラクターの名前を間違えそうになります。
あと、聖白蓮はきっとこんなキャラじゃない。


56・人妖異変

静かな廊下にギシ・・・ギシ・・・と床板の軋む音だけが響く。

想夢は前を歩く(ひじり)白蓮(びゃくれん)に案内されて、命蓮寺の中を歩いていた。

「あの・・・」

「何でしょうか?」

「なぜ、聖さん・・・というか、命蓮寺の皆さんは佐藤君に協力を?」

それは、純粋な疑問だった。

なんとなく疑問に思ったことを聞いてみた。

他意はないというのが伝わったからだろうか、白蓮もすんなりと答えてくれた。

「そうですね・・・まず何よりも、命蓮寺の皆、彼を家族のように思っているからでしょうか。

一緒に暮らしていれば家族のような愛情が生まれるのも当然のこと。

だとすれば、その家族の助けになりたいと思うのは、不思議なことではないでしょう?」

白蓮の答えに想夢は、

「・・・佐藤君、ここに住んでたんだ」

「あら?もしかして知りませんでした?」

「はい、ずっと人里に住んでるもんだとばっかり思ってました」

思えば、想夢は壱人のことについて何も知らない。

彼が能力を持っているということすら、つい最近知ったばかりだ。

「命蓮寺としては、こんなところでしょうか。

ここからは、私個人の理由になるのですが、想夢さんは命蓮寺が何を目的として存在するか、

分かりますか?」

「命蓮寺の目的、ですか?・・・えっと、すいません、分かりません・・・」

「簡単に言えば、命蓮寺は人と妖怪の共存を目的としています」

「人と妖怪の共存・・・」

「はい、そしてそれは、私個人としての目的でもあるのです。

想夢さんはここ1週間の異変が起きた幻想郷をどう思いますか?」

「どうって・・・佐藤君が何かしてくるとは思ってましたけど、

既に異変が起きてるなんて感じませんでした。今のところ平和でしたし」

想夢がそう言うと、前を歩く白蓮は振り返って嬉しそうな顔をした。

「そう、今の幻想郷は平和なんです!

今の幻想郷には、私が見たかった世界がつまってるんです!!

人も妖怪も一緒に、同じように生きる世界!!!素敵でしょう!?」

嬉しそうに、本当に嬉しそうに、腕まで広げて、白蓮はそう語るのだった。

「あ、すいません。興奮しすぎましたね・・・おっと、着きました」

すっと立ち止まり、白蓮は指を指す。

そこには他よりも大きめの戸があり、戸の上には「訓練場」と書かれた板が張り付けてあった。

「妙蓮寺の思想は『共存』ですが、時として戦うことも必要となる場合もありましょう。

こちらはそのための部屋となっております。壱人さんはこの中に・・・。

では、ここから先はお1人でお願いします。私は妨害に回らなくてはならないので」

そう言うと、白蓮は来た道を引き返して行ってしまった。

なんとなく、罠がしかけられていないか見回しながら、想夢は恐る恐る戸を開ける。

広い訓練場の中には、誰もいない。

訓練場の奥に座布団を敷いて、その上に胡坐で座っている壱人以外には。

そして壱人の後ろには、大きな鉄の箱のような物体が置いてあった。

想夢が入ってくると壱人は立ち上がり、こっちを見て笑った。

 

「ようこそ、想夢さん。待ってましたよ」

 

そう言う壱人の姿はとても「普通」なんて呼べるものではなかった。

 

・・・・・・・・・

 

時間は少し巻き戻って霊夢達の前に白蓮が現れた時。

「博麗想夢さん、ですね?佐藤壱人の所までご案内しましょう」

白蓮はそう言って、想夢だけを連れて行ってしまった。

「ちょっと!待ちなさ・・・!」

「残念ながら、待ってもらうのはそちらの方だ」

慌てて白蓮を追おうとした霊夢だったが、遮るように少女達が現れて道を塞ぐ。

金髪に黒の混じった、虎のような髪色の少女。

ネズミのような耳を生やし、折れたように曲がった2本の棒を持つ少女。

セーラー服を着て、大きな碇を持った少女。

煙のような姿の妖怪を連れた、フードを被った少女。

赤と青、左右で全く違う形の翼のような何かを背中に持つ少女。

タヌキを想像させる大きな尻尾を持った、メガネの少女。

「出やがったわね・・・はぁ・・・」

彼女達を見て霊夢は面倒そうにため息を吐く。

「悪いが、博麗想夢以外は佐藤壱人の元へ通すなと聖から言われている。

ここから先に行きたければ、力で押し通ってもらおうか。

もっとも、それだけの力があればの話だが」

虎髪の少女はそう言うと、小さな塔の置物のような物を取り出す。

置物の真ん中には水晶のような物が光っている。

他の少女達もそれぞれが戦いのために構える。

「全く、今回は最初から元凶が分かってるってのに、これじゃいつもと変わらないじゃないの」

悪態をつきながらも、霊夢はお祓い棒を強く握る。

「でも、いつも通りならいつもみたいにやればいいんだろ?簡単なことじゃないか」

魔理沙はニヤリと笑いながら、箒に跨る。

「これ以上注連縄のない神奈子様を見せないためにも、いきます!!」

「いい加減メインヒロインは私だっていうところを見せてあげなくちゃ」

2人に続くように早苗っはお祓い棒を構え、咲夜はナイフを構える。

「え、えーとえーと・・・き、斬れぬモノなどあんまりない!!」

出遅れた感のある妖夢が刀を2本構え、

「途中からギャグになってんじゃないの・・・」

ただ1人ツッコミ役にまわされた妹紅が手から炎をだした。

こうして命蓮寺メンバーを相手にした弾幕ごっこが始まった。

 

・・・・・・・・・

 

霊夢達が戦っているのと同時刻。

場面は想夢と壱人の対面に戻る。

「命蓮寺の皆さんは今回の異変の影響を受けていません。

おそらく、妖夢さんや早苗さん辺りは弱体化してるハズですし、厳しいんじゃないですか?」

何がたしいのかは分からないが、壱人は実に楽しそうに、饒舌に語る。

「・・・中にいたにしては、よくこっちのメンバーについて知ってるね?」

それに対して想夢は慎重に、探るように壱人と話していた。

「ああ、ナズーリンさんのネズミからメモをもらっていますので」

「な、ナズーリン?」

知らない名前が出てきた。命蓮寺メンバーの1人なのだろうが。

「おや、知りませんでしたか?まあ知らないなら知らないで構いません。

そんなに重要なことでもないですから。

重要なのは異変の方です。想夢さんは僕が今回どういう異変を起こしたか、分かりますか?」

「妖怪や神様、人間以外の弱体化・・・じゃないの?」

「半分正解ってところでしょうか。

確かに妖怪は弱体化していますが、それは異変の効果の1部でしかありません」

壱人はコホンとわざとらしく咳をした。

これから言うことが1番大事だと言うように。

 

「正解は『人と妖怪の差をほぼゼロにした』です。人妖異変(じんよういへん)とでも名付けましょうか」

 

壱人は嬉しそうにそう言った。

「人以外が弱くなるだけじゃありません。人が強くなるんです。

そうすることで人と妖怪はほとんど同じ存在となる。

これが今の(・・)僕の能力、幻想郷風に言えば『曖昧にする程度の能力』ですかね。

文字通り、この世のあらゆる事柄を曖昧にする能力です。

つまり今、この幻想郷中で人と妖怪に明確な差はない状態になっているんです。

霊夢さんや咲夜さん、魔理沙さんは特に影響を受けはしないでしょう。

あの3人は能力も戦闘能力もあくまで人間として得たものですし。

妹紅さんも特に問題はないでしょう。

あの人の不死性は月の技術によるものですが、不死じゃないだけで戦いの技能や術は

全て自力で得たモノです。

逆に危ういのは早苗さんと妖夢さんでしょうか。

2人共能力は失ってはいませんが、神や霊としての高い身体能力は失ってるハズですから。

結構分析できでしょう?」

そう言って壱人は微笑む。

異変解決に来たメンバーのことはもうバレているらしい。

あんなに堂々と突撃したのだから当然の結果とも思えるが。

ただ、他の皆のことを考えている場合ではないだろうと、想夢は首を振る。

今、この部屋には想夢と壱人の2人しかいないのだから。

「さあ!話は終いです!想夢さん!!戦いましょう!!!」

壱人は叫ぶ。嬉しそうに叫ぶ。待ち切れなさを含んだ声で叫ぶ。

「僕は貴方のために、聖さんのために、そしてなにより僕のために!ここまでしたんです!!

僕の持つ全てを使って!僕の出せる全ての力を使って!!今!ここに立っている!!!

想夢さん、今度は貴方が見せてください!貴方の全身全霊の全力ってヤツを!!!」

 

叫んだかと思うと、突然、壱人の姿が消えた。

そして次の瞬間、想夢は後ろから嫌な気配を感じ前に向かって転がった。

転がりから起き上がりながら後ろを向けば、

そこには右手に持ったナイフを前に向かって突き出している壱人の姿があった。

「僕自身の存在する位置を曖昧にしました。一種のワープのようなものとでも思ってください」

「・・・随分と物騒なモノを持ってるんだね」

「ナイフのことですか?これくらい許してください。想夢さんだって刀使うでしょう?

それにホラ、僕ってか弱い一般人だから、武器くらいないと怖くて戦えないですよ」

なんとも嫌味ったらしい言葉だと想夢は思う。

活き活きとした壱人の表情を見ていると、

能力のある今の姿こそ壱人の本来の姿なのかと思えてくる。

「さあ!もっと行きますよ!!」

そう言いながら、また壱人は姿を消した。

消えた思えば後ろから、横から、あるいは正面から、壱人は突然現れて想夢に襲い掛かる。

そして、想夢は壱人が現れる度にその気配を感じて避けていた。

避けながら右手に刀を構え、戦闘用の巫女服に姿が変わる。

次に壱人が現れ、ナイフを横に振ったと同時に想夢も振り返って両手で刀を縦に振る。

ガキィィィン!と鋭い音が響き、ナイフと刀、両方の動きが止まる。

「お、重ッ・・・!!」

片手で振るうナイフにしては、異様に重く、力が強い。

両手で刀を握る想夢の斬撃をあっさりと防ぐ程に。

「これも能力の内ですよ。

言ったでしょう?妖怪は弱体化し、人間は強化されたって。

元から妖怪達と戦える想夢さんは強化の恩恵が少ないようですが、

僕の強さじゃ能力を含めたって妖怪なんかとまともに戦うなんてもっての外です。

そのくらい、普段の僕という存在は弱くてどうしようもない。

その分、僕が受ける強化の恩恵ってのはかなりのモノになります。

さあ、耐えられますか?」

壱人のナイフに加わる力が強くなる。

だんだんと、刀がナイフに押されてくる。

「こん・・・にゃろう・・・!!!」

想夢は両腕に全力を込めて刀を横に滑らせナイフを跳ね返す。

「おっと、なかなかやりますねぇ」

壱人はおどけた調子で話す。

1撃をはじくのにも全力で挑まないといけない想夢と違い、まだまだ余裕が見える。

そうして壱人はまた姿を消す。

今度はどこから来るか・・・右か、左か、後ろか、上か・・・。

「どこを見てるんですか?」

不意に壱人の声が聞こえた。

後ろでも横でも上でもなく、下からだった。

見れば片膝をついた態勢の壱人が、想夢の目の前にいた。

「っしゃあ!!」

壱人はそのまま立ち上がるようにしながら想夢の喉を狙ってナイフをすくい上げるように振るう。

超近距離に壱人がいるせいで刀を振るうこともできない。

とっさに想夢は左腕を首の前に出す。

壱人のナイフは想夢の左腕に刺さった。

激痛が走るが、動きを止めるわけにはいかない。

想夢は右手に持った刀を横に向かって放り投げ、自由になった右手で拳を握る。

ここで初めて、壱人が驚いたような表情を見せた。

「ぶっ飛べェ!!!」

痛みを紛らわすように叫びながら、握った拳をアッパーのように振るい、壱人の顔面を殴る。

「ぐッ・・・!?」

想夢の打撃によって壱人は後ろに吹っ飛び倒れるが、すぐに起き上がった。

「腕を犠牲にして喉を守るとこまでは想像できましたが、そのまま反撃に移るとは・・・

流石は何度も戦ってきただけのことはありますね」

殴られた顔の口元から少し滲む血を拭いながら壱人は言う。

「・・・防御面は普通の人間と変わらないのか?」

「はは、そんなハズはないと思うんですけどねぇ・・・。

単純に想夢さんが妖怪相手でも殴り飛ばせるだけの力を持ってるってことなのでは?」

壱人は笑いながら言う。こんな時でも笑っていられるその理由は分からない。

「・・・ところでさ、壱人君、1つ聞いてもいいかな?

さっきは勢いに押されて聞けずに戦いが始まっちゃったからさ」

「何ですか?」

「君はこの異変を起こして何がしたいのさ?

僕と戦うこと以外に・・・僕と戦うことなんかよりも大きな理由があるんじゃない?」

「そんなに自分を過小評価しないでくださいよ。

これでも僕は想夢さんと戦うのを楽しみにしてたんですよ?」

「いいから、そーゆーのいいから」

「ノリが悪いですね・・・分かりました、話しましょう」

壱人は笑っている・・・少なくとも、本人は笑顔を浮かべているつもりなのだろう。

想夢には壱人が怒っているような、悲しんでいるような、そんな顔をしているように見えた。

 

「僕が人妖異変を起こした理由・・・それは証明するためです。

世界にヒーローなんて存在はいらないって。

それを世界に、ヒーローに、なにより僕自身に証明するんです」

 

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