幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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58・昇華しない正体

「ヒーローの存在が必要ないことを証明するって・・・何を言って・・・?」

「まあ、分かりませんよね」

想夢の反応に、壱人は自虐的に笑った。

「想夢さんは知らないでしょうけど、世界には所謂ヒーローや主人公ってヤツが

確かに存在するんです。大抵の場合、彼らにその自覚はないでしょうけど。

ただ、そんな主人公やヒーローのために描かれる物語ってのは確かに存在するんです。

そして・・・そんな彼らがいて、物語があるからこそ、世界は歪んでいくんです」

壱人はじっと想夢を見る。

まるで想夢もその1人だと言いたげな顔で。

「世界ってのは別に地球全体とか幻想郷全体とかそういう意味だけじゃありません。

もちろんそのような意味も含んでいますが、それとは別に、1人の視点での世界・・・。

人間1人1人が見ている世界も含めたあらゆる意味での世界です」

「主人公や物語が世界を歪める?君は一体・・・何と戦っているのさ?」

壱人が言っている内容はまだ理解できない。

しかし、彼の言う「1人1人が見ている世界」という言葉。

もちろん、壱人にだって、壱人の見る世界というものが存在するのだろう。

そこに気付くと、想夢は壱人に対して分かったことが1つだけある。

 

彼は博麗想夢を見てはいない。

 

彼は、佐藤壱人は、今この瞬間も、もっと大きな何かを見続けている。

 

壱人にとって想夢は倒すべき敵の1人でしかないのだ。

ただ、順番が違っただけの話だったのだ。

想夢は壱人の最初に倒す敵(・・・・・・)として選ばれただけに過ぎない。

「ヒーローや主人公っていうのは、強くて、人に好かれて、人気があって、

自分もこうなりたいっていう憧れを人に抱かせる。

僕にとってのヒーローや主人公ってのはそんなカッコイイ存在なんです。

特撮やアニメに漫画、あらゆるフィクションのヒーローってヤツに。

ダークヒーローもいいなって思ってた頃もありました。

だけど、気づいちゃったんですよ。

ヒーローって、敵を倒すからヒーローなんです。事件を解決するからヒーローなんです。

それも、ただ戦うんじゃなくて、誰かの代わりに戦うからこそヒーローなんです。

困っている人、弱っている人、応援する人、そんな人の代わりに戦うのがヒーローなんです。

ヒーローが戦わないと皆が困るから戦うんです。

ヒーローが戦わないと事態が悪化するから戦うんです。

ヒーローって、結局のところ、代行ボランティアみたいなもんなんです」

想夢には、ヒーローについて語る壱人の目が汚れて、腐って、濁っているように見えた。

まるで、目の中で闇が渦巻いているような、そんな気さえした。

「だから僕は証明するんです。ヒーローの存在は世界にとって不要だってことを。

だからこそ、人間と妖怪の差をなくすんです。

人間や妖怪といった種族の壁を超えて、誰もが問題を解決できる世界を作るんです。

そうやって僕は、ヒーローの必要ない世界を作るんです。平和を作り出すんです」

そんなドロドロとした瞳で、壱人は聖人のように語る。

「・・・佐藤君・・・」

想夢の目に、今の壱人の姿は狂って見えた。

世界平和のために全てを等しくする。そんな方法では解決しない。

そんな方法では争いはなくならない。そんな方法では何1つ上手くいかない。

「・・・そんな方法じゃあ、誰も助からないよ」

想夢は壱人の目を見ながらそう言う。

「別に、助ける必要なんてないですよ。もうヒーローが助ける必要なんてないんですよ。

誰かが困っても、別の誰かか、あるいは自分自身で解決できるようになるんですから」

しかし、想夢の言葉は届かない。

佐藤壱人には届かない。

「まあ、想夢さんに僕の言っていることが理解できないことは分かってます。

貴方は主人公と呼ばれる側の人間ですからね。僕とは立ち位置が違う」

壱人は諦めたようにそう言うと、改めてナイフを握り直す。

「やっぱり貴方は倒さなきゃ。

貴方は僕と真逆の場所に立っているハズなのに妙に親近感を感じてしまう。

なんだか似ていると思ってしまう。それがとてつもなくうざったいッ!!!」

ナイフを握った壱人が想夢に突っ込んでくる。

敵意とは違う、嫌悪感をむき出しにして。殺意とは違う、使命感を込めて。

薄暗くて曖昧な感情をドロドロにグチャグチャに混ぜたような顔をして。

想夢は横に跳んで刀を拾い、壱人のナイフを受け止める。

壱人に対してどんな感情を抱けばいいのか分からないまま。

壱人に対する戸惑いを内側に秘めたまま。

「ところで想夢さん、この前僕が質問したこと覚えてますか?

転生者って知ってるかって聞いたアレです」

斬撃の応酬を重ねながら壱人は尋ねる。

「想夢さんはネットの小説投稿サイトとかって見たことあります?

まあ、ライトノベルや小説、漫画とかでもでもいいですけど、こんな展開見たことありません?

『死んだと思ったら異世界に来ていた』ってヤツを」

「ああ・・・そういうのは知ってるよ」

「だったら話は早いですね。僕は所謂そういった類の『転生者』ってヤツですよ。

幻想郷の外の世界ともまた違う、本当の意味での異世界からやってきた人間です」

「・・・」

転生者だと言う壱人に想夢は何も答えない。

むしろ、何故今そんなことを言うのか疑問だった。

ただ、黙って壱人の次の言葉を待つ。

「僕は元々いた世界でちょっとしたヘマをやらかしまして、今ここにいるんですが、

想夢さんはどうですか?似たような経験、したことはありませんか?

想夢さんだって僕と同じ、転生者なんでしょう?」

「!!」

想夢は目を見開いた。

壱人は確信したような顔をしていた。

「スキあり!!」

驚いて一瞬動きが止まった想夢の右腕にナイフを刺す。

「ッ!!」

想夢は手を離すまいと刀を強く握る。

「図星ってカンジの顔しましたね?やっぱり、貴方は転生者だった。

僕は間違ってはいなかった。僕の考えは、異変は、何も間違っていない!」

壱人はニヤリと笑う。

そして、強引にナイフを想夢から抜き取る。

「僕には不思議でなりませんよ想夢さん。何故ですか?貴方も失敗した人でしょう?

何故貴方はヒーローでいられるんですか?主人公でいられるんですか?」

壱人は質問をする。不思議そうに、想夢のことが理解できないといったように。

ただ、そうしている間も彼は攻撃の手を緩めない。

自分の居場所を変えながら、想夢を傷つけるためにナイフを振るう。

想夢は痛む腕を振るい、刀で壱人の攻撃をひたすら防ぐ。

今の想夢に、壱人の質問の意味や答えを考える余裕などなかった。

そんな想夢を気にすることなく、壱人はナイフを振るい続ける。

そんな心の余裕の差だろう。

壱人の攻撃がどんどん激しくなっていくのに対して、

想夢は防ぐだけで精一杯とすら言えない状況になっていた。

服の所々に小さな傷がついていく。

体まで傷がつかないのは想夢の戦闘服が巫女服の形をとっているからだろう。

「ねえ、想夢さん・・・答えてくださいよ・・・」

壱人はナイフを振るう。

「くっ・・・!」

想夢は刀で防ぎきることができないでいる。

「そこだッ!」

そうして対等でない攻防を続けている内に、ついに壱人のナイフは想夢の左腕を斬った。

今度は服だけでなく、肉まで。

巫女服に血が滲む。

痛みで想夢の動きが一瞬止まる。反応が遅れる。

そのせいで壱人の次の攻撃を防げない。

今度は右の脇腹に傷がつく。更に反応が遅れる。

腹に蹴りをくらう。よろめいて後ろに下がってしまう。

能力によって身体能力が強化された壱人の攻撃はそれほどまでに重い。

いくら強くなったといっても、全てを完全に受け止められる実力は、まだ想夢にはなかった。

そんな想夢の目の前へ、壱人はワープする。

「決着をつけましょうか。大丈夫、殺しはしません。

僕が欲しいのは貴方に勝ったという事実だけですから」

そう言って壱人は想夢の胸に向かってナイフを突き出す。

想夢はそれを防ごうと、あるいは避けようと、体を動かそうとしたが、反応が遅れた。

体が動き始めるころには、想夢の体とナイフの距離はほとんど0に等しかった。

想夢に対処する術はもう残っていなかった。

(勝てる!!)

壱人は勝利を確信した。

まだ想夢から聞けていないことがあるが、それは勝ってからゆっくり聞けばいい。

勝者である自分にはその権利があるハズだ。

そう思った。

だからだろう。

 

想夢の胸にナイフを刺すその瞬間、自分の右腕から激痛を感じ、壱人の思考は止まった。

「は・・・あ・・・?あぐぅ!?」

思考が戻った瞬間、痛みに声をあげながら右腕をひっこめ、後ろに下がる。

痛みがひどくなった気もするが、そんなことはおかまいなしに、

とにかく自分の右腕の痛む部分を左手で押さえた。

痛みを持つ部分が熱を持っている。左手を離してみれば、服の右腕部分が赤く塗れていた。

想夢が何かしたのかと想夢の方を向く。

 

そこには、肩で息をする想夢を支えるメイド服の少女がいた。

 

「十六夜・・・咲夜・・・!」

「こっちに来て正解だったようね」

そう言う咲夜の足元には、血の付いたナイフが落ちていた。

恐らく、あのナイフで壱人の右腕を刺したのだろう。

「なんで・・・他の命蓮寺の人達は・・・」

「あら、私なりの決着はつけて来たわよ?」

そう言って咲夜はクスリと笑う。

 

「メインヒロインは口だけじゃないの」

 

・・・・・・・・・

 

思えば、壱人がまともに助けられた人なんて、誰もいないんじゃないか。

突然現れた咲夜を見ながら、想夢はそう思っていた。

咲夜の破壊衝動は消えておらず、また顔を見せる可能性がある。

妖夢に納得できる答えは出せず、幽々子がいなければどうにもならなかった。

早苗を本当の意味で助けたのは、想夢の知らない誰かの存在だった。

百千代も完全に良くなった訳ではなく、リハビリに励んでいるとはいえ、

今も車椅子で生活している。

博麗霊夢のいない別の幻想郷については、異変解決後どうなったのか知ることもできない。

それらが想夢のせいという訳ではない。

だが、それでももっと良い解決方法があったのではないかと思うのだった。

やることなすこと中途半端。

解決したわけではなく、解決に近い形をとっているだけ。

そんなんで何が博麗の巫女だ。

「想夢?大丈夫?」

ネガティブに考える想夢の様子を察してか、咲夜が心配そうに声をかける。

「ん?ああ・・・」

返事はするものの、想夢の声はどこか弱弱しく感じる。

「そうむ・・・!」

さらに声をかけようとした咲夜の前に壱人がワープで現れ、ナイフを振るう。

咲夜は反射的に、壱人に向かって無数のナイフを飛ばす。

しかし、そんなことは予想できているとばかりに壱人はワープで自分の位置を変える。

咲夜の放ったナイフは、そのまま飛んで壁や天井に刺さった。

「さっきは不意打ちだったから食らいましたが、貴方の能力に関しては理解しています」

「あら、理解できているからといって簡単に攻略できるモノじゃあないわよ?」

そのまま咲夜と壱人による攻防が始まる。

お互いにワープし、位置を変えながら、ナイフを振るい、相手の隙を狙う。

咲夜のワープは時を止めてその間に位置を移動するというものだ。

壱人のワープは自身の位置を曖昧にすることで自分の位置を変えているのだ。

咲夜のワープは止まった時間の中、壱人のワープは動いている時間の中で起こしている。

そして、お互いに相手のワープを感知することはできない。

相手がワープするタイミング、ワープ後の行き先を予想するしか手はないのだ。

条件はほぼ同じ、強いて言えば、咲夜の方がナイフの所持数が多いことぐらいか。

しかし、大きな違いが1つだけあった。

咲夜が大量のナイフを前と横に投げると同時に、壱人は咲夜の目の前へワープする。

「え!?」

「もしかして、自身の後ろ側に誘い込むつもりでしたか?

貴方のナイフ弾幕には通れる隙間がありませんからね。普通なら後ろに行くでしょう。

ですが、僕のワープは別に位置を移動しているのではなく、位置を変えているんです。

間に何があろうと、問題はありません」

そう言って壱人はナイフを振るう。

咲夜は壱人のナイフをなんとか躱すが、続けて繰り出してきた蹴りを食らって後ろに吹っ飛ぶ。

そんな咲夜を壱人が受け止め、支える。

「想夢?大丈夫なの?」

「おや、もう動けるんですか?」

咲夜と壱人の言葉は決して肉体的な意味ではない。

「うん、少し考える時間がとれたから、万全とはいかいけれど、大丈夫」

想夢はそう言いながら、じっと壱人を見つめる。

「佐藤君、僕は自分がヒーローだとか主人公だと思ったことは1度もないし、

人に言われたってそんな風には思えないよ。

本当のヒーローや主人公なら、1度や2度の失敗なんかじゃ諦めたりはしないと思う。

それがどんなきっかけかはそれぞれだろうけど、必ずまた立ち上がる。

漫画やアニメに出てくる主人公ってそういうモノじゃないかな?

だからこそ、僕はヒーローや主人公にはなれないよ」

暗い目をしている。

想夢を見ながら壱人はそう思った。

決して前向きには見えないが、それでも前を向きながら、想夢は言う。

 

「佐藤君、僕は・・・今だけは博麗の巫女を・・・博麗想夢を辞めようと思う」

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