幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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本で指を切ったのがおよそ1週間ちょっと前。
包丁で指を切ったのが3日前のこと。
ツイてねえ・・・。


59・秘め事、決め事

命蓮寺の庭に聖白蓮が現れた後の事。

霊夢が白蓮と戦いを始め、咲夜は霊夢が相手をしていた

翼の少女とタヌキ少女の相手をすることになった。

「とはいえ、数の面では不利ね・・・まずは、この状況をひっくり返しましょう」

「なぁーに1人で呟いてんのさ!」

「考え事などしてる暇があるのかのう?」

咲夜が周りを見ると、すでに何人もの翼の少女とタヌキ少女達が咲夜を取り囲んでいる。

「博麗の巫女には勘なんて方法で見破られてしもうたが」

「お前はどれが本物か分かるかなあ!?」

たくさんの翼の少女とタヌキ少女達が笑う。

だが、咲夜は動じなかった。ただゆっくりとした動作でナイフを取り出す。

「本物が分からないと言うのなら、全部消してしまえば一緒よね?」

次の瞬間、無数のナイフが咲夜の周りから外側へと飛んで行く。

ナイフが1本ずつ、正確に少女達を刺し貫いていく。

そして、その度に少女は葉っぱや石ころなどに姿を変えるのだった。

「なんと!?ゴリ押しとは無茶苦茶やりおるわい!」

「だー!どいつもこいつもー!」

驚くタヌキ少女、怒る翼の少女。

だが、咲夜の攻撃はこれで終わらない。

彼女の投げたナイフは偽物の少女達を次々と撃ちぬいていく。

だが、投げたナイフのいくつかは翼の少女やタヌキ少女を無視して全く別の方向へと飛んで行く。

あるナイフは虎とネズミの少女達へ、あるナイフはセーラー服の少女へ、

あるナイフはフードの少女へ、あるナイフは白蓮へと飛んで行く。

それぞれがそれぞれの反応をしてナイフに対処する。

例えば、セーラー服の少女。彼女は飛んできたナイフを碇で叩き落とす。

突然ナイフが飛んできた驚きもあったのだろう。ほぼ反射的に行動していた。

だからこそ、彼女は突っ込んできた妖夢に上手く対応できなかった。

「せえええぇぇぇえええい!!」

気迫のこもった掛け声と共に妖夢は刀を振るう。

セーラー服の少女は碇を捨てて後ろに跳び、刀の直撃はなんとか躱した。

しかし、妖夢の全力の一撃は衝撃を起こす。

目に見えない衝撃がセーラー服の少女を襲い、壁に叩きつけるように彼女を吹っ飛ばす。

「かっは・・・!」

壁にぶつかった衝撃で肺から空気が抜ける。

「少し、寝ててもらいます」

そんな彼女に対して妖夢はさらに近づき、手刀を叩き込んだ。

「・・・!!」

声を出す間もなくセーラー服の少女は気を失う。

「すみません・・・ですが、これは弾幕ごっこではないのです」

妖夢は気を失った少女を地面に座らせると一礼した。

 

あるいは、フードの少女。

「雲山ッ!」

フードの少女が雲の妖怪に命令し、パンチを繰り出そうとしたその瞬間、

少女の目の前をナイフが通り過ぎて行った。

「危なっ!?」

思わず顔を後ろに下げる。それと同時に雲の妖怪が少女をかばうように前に出る。

「マスタァァァスパァァァァク!!!」

瞬間、隙を逃さず魔理沙が容赦なく八卦炉からレーザーを撃ち出す。

撃ち出されたレーザーに対して、雲の妖怪は防御に徹する。

雲で作り出した腕を交差させてレーザーに耐える。

レーザーが終わると、今度は大きな星型の弾が飛んでくる。

雲の妖怪はパンチでその弾を破壊する。

全ては雲の妖怪がフードの少女を守るために勝手にやった行為だ。

雲の妖怪が庇うように前に出たため、その巨体によってフードの少女は前がよく見えない。

前方の様子を確かめようと、フードの少女が目を凝らした瞬間、強い重力を感じた。

「な・・・そんな!?」

それは重力ではなく、上空から飛んできた魔理沙によって地面に引っ張られているのだった。

魔理沙は片腕でフードの少女の腹のあたりをガッチリ捕まえて離さない。

「貴方、どうやって!?」

「私のスピードをナメてもらっちゃあ困るぜ!」

星型の弾を撃ってから雲の妖怪がそれを破壊するまでの間に、

魔理沙はフードの少女の上空まで移動したのだ。

「それじゃあ!しばらく眠っててくれよなァ!!」

空から地面に突っ込んで行く様子はまるで流星のようで。

どぉん・・・と、爆発音にも近いような音がしたかと思うと、

地面にはぐるぐると目を回して倒れているフードの少女が1人いるだけだった。

 

妖夢がセーラー服の少女を、魔理沙がフードの少女を撃破する様子を咲夜は見ていた。

増殖する翼の少女とタヌキ少女にナイフを投げ刺しながら、彼女は2つの決着を確認する。

「なら、私はもういいわね」

咲夜はそう呟くと時間を止める。

その瞬間、全ての動きが止まる。

「咲夜?アンタ何やってるの?」

咲夜以外に唯一動ける霊夢が訝しげに聞いてくる。

「ええ、相手方は2人ダウンしたようだし、私はそろそろ想夢の方へ行こうかなって」

「はあ!?何言って・・・」

「大丈夫よ、これは個人戦じゃなくて団体戦だってことは皆分かってるみたいだし。

それに、なーんとなくだけど、悪い予感がするのよ。乙女の勘ってやつかしらね」

 

そう言いながら、咲夜は命蓮寺の中へ入りながら、時間を戻した。

 

・・・・・・・・・

 

結果として、咲夜が想夢の元へとやって来たのは正しかったのだろう。

彼女が駆けつけたおかげで想夢が負けるという事態は防げた。

そして現在。

 

「僕は、博麗想夢を・・・辞める」

 

その瞬間、咲夜は戸惑いの表情を浮かべていた。

想夢の言っていることの意味が分からなかった。

その瞬間、壱人は喜びの表情を浮かべていた。

待ちに待った瞬間が今、やってきたのだ。

「咲夜・・・」

「想夢?」

突然名前を呼ばれ、咲夜は混乱しながらも返事をする。

「これから僕はとんでもないことをすると思う。

ただ、どんなことがあっても、僕が何をやらかしても、僕のことを信じてほしい」

そう言う想夢の顔には、少し不安の色が浮かんでいた。

「・・・ええ」

それに対して咲夜は微笑みを向ける。

そこまで長い時間はなかったのかもしれない。

想夢は彼女を完全に助けることはできなかったのかもしれない。

それでも、咲夜にとって、想夢は自分を助けてくれた人だった。

彼女が自分の感情の全てをぶつけた人だった。

だからこそ、咲夜は想夢を信用し、信頼し、信じることができる。

戸惑っていても、困惑していても、信じることはいつでもできる。

そんな咲夜の答えを見て、聞いて、想夢は一瞬安心したような顔になる。

そして、壱人に向き直る。

「壱人君・・・いくよ」

「ええ!貴方の全てを見せてください!!」

壱人はナイフを構える。

その瞬間、視界が一瞬歪んだ。

「残念だけど、それはできない相談ね」

後ろから声が聞こえる。

「生憎ですが、咲夜さんに用は・・・!?」

後ろを振り向いた壱人の目に映ったのは、刀を構える想夢の姿だった。

いつの間にか、想夢の服装は私服に変わっている。

「な、なんで・・・!?」

壱人が後ろにいるのが咲夜だと思ったのは、ワープの方法が咲夜に似ていたから、

そして何より、後ろに感じた気配が咲夜とよく似ていたからだ。

壱人は、自分が何故想夢と咲夜を間違えたのか分からなかった。

そして、想夢に驚いたのは壱人だけでなく、咲夜も同じだった。

彼女は見ていた。想夢が時間を止め、時間の止まった空間を動いているのを。

咲夜は唖然とした表情でその光景を見ていた。

見た目が同じになったワケではない。声が同じになったワケでもない。

似ているのは、動き。

仕草、話し方、能力の使い方、そういった想夢の動き全てが咲夜によく似ていた。

まるで自分がもう1人そこにいるかのような感覚。

想夢は壱人の首を狙って刀を横に振るう。

壱人は後ろに跳んで躱すが、それと同時に壱人の視界が一瞬歪んで想夢の姿が消える。

次の瞬間、壱人の上から手が伸びて、彼の顔面をつかんだ。

壱人のほぼ真上に、想夢は逆立ちにような態勢でワープしていた。

今までの想夢にこのような動きはなかった。

人が変わったなんてレベルではなく、咲夜に似ているなんてレベルでもなかった。

想夢はそのまま落下の勢いで壱人の頭を地面に叩きつけようとする。

壱人はワープで想夢の後ろ側に抜け出し、想夢から離れようとする。

その瞬間、壱人に向かってナイフが飛んでくる。

壱人は自分のナイフで飛んできたナイフを叩き落とす。

ナイフを投げたのは想夢ではない。驚きから立ち直った咲夜だ。

咲夜のような動きをする想夢と咲夜。

壱人には、咲夜を2人同時に相手にしている気分だった。

「咲夜さんが・・・2人・・・まさか・・・」

壱人は、愕然とした。

 

「まさか、想夢さん・・・貴方、咲夜さんの真似をしているんですか?」

 

それはあまりにも単純で、当たり前で、見ればわかるだろうなんて言葉すら出てきそうで、

壱人の望んだ「想夢の本当の姿」とはかけ離れた答えだった。

壱人は想夢の隠している本当の姿を見ようとしていた。

想夢が「博麗想夢を辞める」と言った時、本当の想夢が見れると喜んだりした。

だが、これは何だ。

十六夜咲夜が見たかったワケではない。これのどこが想夢の本当の姿だ。

結局、咲夜を盾にして自分の姿を隠すというのか。

「貴方という人はああああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!!」

それは、想夢が初めて見た壱人の激しい怒りだった。

「どこまで隠せばいいんですか!!あまり失望させないでくださいよ!!!」

壱人は想夢に突っ込み、ナイフを振るう。

「だったら、勝手に失望してなさい。貴方の考え方にこちらが合わせる義理なんてないの」

咲夜の口調で話す想夢は刀で壱人のナイフを受け流す。

能力によって強化された身体能力を活かし、ナイフを振るう壱人に、

冷静に刀でナイフを受け流していく想夢。

その様子は想夢が紅魔館で咲夜と戦った時に似ていた。

咲夜は覚えてないだろうが、想夢の受け流し方は紅魔館で想夢が咲夜と戦った時に

想夢が見た咲夜の攻撃の受け流し方そのものだった。

しばらく続いた攻防の後、壱人がナイフを振るうのに合わせ、想夢の姿が消える。

それと同時に咲夜の姿も消える。

想夢は咲夜と同じ方法でワープをしている。

ならば、片方が時を止めた空間をもう片方が動けるのは当たり前のことだ。

「「さあ、どこにいるか分かるかしら?」」

2人の声が響く。

1人は想夢の声、1人は咲夜の声。

「どこって・・・部屋の中にいることは分かっているんです・・・」

壱人は部屋全体をぐるりと見回す。

しかし、想夢の姿も咲夜の姿も見つからない。

恐らく、想夢か咲夜のどちらかが何度もワープを繰り返している。

視界が歪まないのはワープによって壱人の死角をとり続けているからだろう。

自身の視界の中に変化がなければ視界が歪むこともない。

時を止めるワープにもある程度考える余地はあるのだ。

壱人の調べにとると、咲夜の能力による時間の停止は万能ではない。

時間の止まった空間で行動できても、できないことはあるのだ。

時間の止まった中で、全ての「モノ」は停止する。

生き物も、そうでない物も関係なく、時間が止まっているが故に停止する。

咲夜は自らの所有物であるナイフを空間に固定することはできる。

実際そうやって、彼女はナイフによる弾幕を作っている。

だが、彼女の所有物でない物や自分以外の生物に彼女は干渉できない。

例えば、時間の止まった空間で彼女は閉まっている扉を開けることはできない。

例えば、時間の止まった空間で彼女は人のポーズを変えることはできない。

彼女にできることは限られているのだ。

壱人は考える。

ならば想夢と咲夜はどこから仕掛けてくるか。

ここまで露骨に視界に映らず後ろをとってくるのだ。

(そのまま後ろから来るのか?それとも不意をついて視界に入ってくるのか?

・・・いや、それよりも・・・)

次の瞬間、視界が歪んで壱人の目の前に咲夜が現れ、壱人に向かってナイフを突き出す。

壱人はナイフを突き出してきた咲夜の手首を掴む。

咲夜が現れたと同時に、想夢が壱人の後ろから刀で斬りかかる。

壱人は咲夜の手首を掴みながら後ろに振り返りナイフで刀を防ぐ。

「2人いるんですから、視界の内と外の2方向から来るのがそりゃあ1番ですよねえ?

予想した通りですよ」

壱人はニヤリと笑う。

だが、笑みを浮かべているのは想夢も同じだった。

「2方向?いいえ、3方向よ」

その言葉を言ったのは想夢だったのか、それとも咲夜だったのか。

そんな疑問は突如壱人の肩に刺さったナイフによって遮られた。

「な・・・がああああっ!?」

咲夜か想夢のどちらかが上にナイフを放り投げたのだろう。

丁度壱人の肩に刺さるように。

どうして忘れていたのだろう。

咲夜のナイフは1本じゃない。

少なくとも弾幕を撃てるくらいには、彼女はナイフを持っているというのに。

そのまま想夢の蹴りを受けて、壱人は後ろに吹っ飛ぶ。

「ま・・・まだだっ!!!」

壱人は吠える。

もっと強く、もっと速く、もっと正確に、もっと、もっと、もっともっともっと。

勝つために思いつく限りあらゆることをさらに強化しなければ。

「絶対に勝つんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォオオオオオオオオッ!!!」

そう、壱人が叫んだその時だった。

 

ずっと部屋の奥に置いてあった鉄の箱のような物体が、ボンッと小さな爆発音と共に煙を吹いた。

 




本文中で咲夜の能力について書きましたが、
実際のところ、時間を止めている間に人や物に干渉できるのかは分かりません。
この小説の中ではこういう設定でやっていくんだな程度に考えておいてもらえれば幸いです。
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