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その瞬間、全てが元に戻っていくのを想夢は感じた。
・・・・・・・・・
「日向ぼっこってこんなに気持ち良いモノだったのねえ・・・」
博麗神社の縁側でくつろいでいたレミリアは自分の体の異変にいち早く気づいた。
「あっつううううううぅぅぅぅぅぅ!!!???」
突然の焼けるような痛みに反射的に縁側から部屋の中に入る。
「ちょっとちょっとどうしたの!?あら、体中が焦げてるじゃない!」
「う、うぅ・・・油断した・・・日向にフルボッコにされた・・・」
レミリアの叫び声に駆け付けた幽々子が驚いた表情でレミリアの体を見る。
レミリアの体は所々が黒く焦げていた。
「ちょっと待ってて、今救急箱を持ってくるから」
「いや、大丈夫よ。太陽が効くってことは異変による変化は終わったってことでしょ?
だったらこんな火傷くらいすぐに治る」
慌てて部屋を出ようとする幽々子をレミリアは止めるが、
「何言ってるの!怪我したら治療しなきゃでしょ!強がり言わないの!」
「ひぃっ!?ごめんなさい!お母さん!!」
幽々子の説教ですっかり萎縮してしまった。
仕方なくレミリアは救急箱を持って来た幽々子に治療してもらう。
「それにしても異変が終わったって理解するとなんだかちょっぴりお腹が減ってきたわね。
冷蔵庫に何か入ってるかしら?」
「待って、アンタのはちょっぴりじゃないから。博麗神社の食料なくなっちゃうから。
っつーかアンタの家じゃないから」
「久しぶりに何か料理でも作ってみようかしら?レミリアちゃんは何食べたい?」
「はい!ハンバーグが食べたいです!お母さん!」
幽々子のお母さんキャラは留まる所を知らない。
如何に紅魔館の主、500年生きた吸血鬼といえど、母性の前には子供だった。
永遠亭では鈴仙が部屋で茶を飲んでいた。
「やっぱ麦茶よねぇ」
鈴仙の目の前のテーブルには煎餅も置いてある。
さっきまで永琳の仕事を手伝っており、現在は休憩時間。
まったりのんびり異変が起きたというのに鈴仙は平和な顔で煎餅をとろうとした。
しかし、不意に横から伸びてきた手が彼女がとろうとした煎餅をとってしまう。
「あ!ちょっとてゐ!?アンタ人の煎餅を・・・」
どうせいつものいたずらウサギによる嫌がらせだろうと鈴仙が振り向いた瞬間、
彼女の目に映ったのは、全身包帯ぐるぐる巻きの不審者だった。
「みぃぃぃぃたぁぁぁぁなぁぁぁぁ・・・?」
「・・・き、ぎゃああああぁぁぁぁ!?おばけええええぇぇぇぇ!?」
思わず絶叫。涙目で鈴仙は叫ぶ。
「あはっはははははは!!違うわよ!私よ私!」
鈴仙の反応に満足したように言うと、包帯の不審者は頭を覆っている包帯をほどく。
「ひっひひひ姫様!?」
包帯の中から出てきたのは蓬莱山輝夜その人だった。
「な、ななな何で!?ケガで動けなかったんじゃ!?」
「いやあ、なんか急に傷が治るようになったのよねえ。
異変解決に何か進展があったんじゃないかしら?」
驚く鈴仙に輝夜はあっけらかんと答える。
「それにしても治らないとずっと痛いのが続くのねえ。
しばらく殴り合いのケンカはこりごりだわ。平和なケンカ方法を考えないとね」
そう言って笑う輝夜にケンカ自体は止めないのかと思う鈴仙だった。
八坂神社では、部屋で神奈子が注連縄をつついていた。
「どーしよーかなーコレ・・・」
重すぎて背負えないので部屋においているが、置いたら置いたで結構ジャマなのだ。
「どかしたいけど今の私じゃ持てないしなー・・・」
きっと早苗は今頃異変解決のために頑張って戦っているのだろう。
神の力は失われているというのに。なんと健気なのだろう。
ならば私が弱音を吐くワケにはいくまいと、
親心にも似た気持ちからとりあえず注連縄を移動させることにした神奈子。
注連縄に手をかけて、
「よいしょおおおぉぉぉ!!!」
勢いよく引く。
その瞬間、神奈子は注連縄が予想以上に軽いなと感じた。
そして次の瞬間、思い切り引っ張られた注連縄は勢いよく、神奈子の顔面にぶつかった。
「ぶへっ!?」
そしてそのまま畳の床に倒れ込む。
「神奈子ー、何バタバタしてってうえええぇぇぇ!?また潰されてる!?」
駆け付けた諏訪子は倒れる神奈子とその上に乗っている注連縄に驚愕する。
「いや、なんか急に力が戻ったみたいで・・・よいしょっと」
「うわあああぁぁぁ!普通に持ち上げたああああぁぁぁぁ!?」
八坂神社は力を失っても力が戻ってもこれが平常運転のようだ。
人里の稗田家の屋敷の一室では、阿求と慧音が話していた。
「どうやら、ほとんど同じ状態になっていた人と妖怪の差は元に戻りつつあるようです。
命蓮寺で何があったのかはまだ分かりませんので、皆さんが帰ってこないことには
なんとも言えませんが。
異変は終わっても戦いはまだ終わらないということでしょうかね」
そう言いながら阿求はお茶を飲む。
回転寿司でよく見かけるような湯呑だが、中身は麦茶である。
「まあ、異変が解決するのならそれはそれで良いことなのですが・・・」
阿求の対面に座っている慧音は顎に手をやる。
「・・・今まで流れでシリアス展開に戻りますかね?」
「・・・」
「あの、阿求さん?阿求さーん?何で無言なん・・・って何横向いてるんですか?
ちゃんとこっち向いて話しません?阿求さん?こっち向きましょう?おい、こっち向け」
何もかもが元に戻っていく。
たった1つの出来事で、幻想郷のあらゆる場所を巻き込んだ異変は、終わりを告げた。
・・・・・・・・・
「はぁー・・・はぁー・・・」
壱人は肩で息をする。
部屋の奥に置かれていた箱が突然壊れたかと思えば、
さっきまで膨大で強大に思えた壱人の霊力は普通の人ぐらいの量しか感じなくなっていた。
もう、壱人の「曖昧にする程度の能力」の影響は感じない。
「佐藤君・・・」
「想夢さん・・・文化祭でにとりさんが売ってたモノ、覚えてますか・・・?」
能力を使い続けた反動か、疲れ切った様子で壱人は想夢に話しかける。
「霊力・・・なんちゃら・・・名前は覚えてないけど、
確か霊力を増幅させる指輪みたいなモノだったハズ・・・だよね?」
文化祭の時は早苗の件もあってにとりに関してはよく覚えていない。
それに、あの指輪は確か想夢がはめたら煙を出して壊れたハズだ。
そう、ちょうど壱人の後ろにある箱のように。
「この箱は、その霊力なんちゃらの強化版、霊力増幅機5号です・・・。
この機械を使って僕の霊力を強化して、能力の影響する範囲を広げていたんです・・・。
その性能は今回の異変を通してよく分かってもらえたと思います・・・。
まあ・・・コレを作ってもらうためにこっちもいろいろやりましたけどね。
壊れてしまってはもう意味はないですけど。
まさか、この機械が壊れるまで霊力を増幅させることになるとは思いませんでした。
これじゃあもう、異変は続けられません」
壱人はそう言うが、彼の目には諦めの色は見られなかった。
息を整え、姿勢を正し、改めてナイフを構え、しっかりと想夢を見る。
「ですが、まだ、諦めるワケにはいかないんです。
霊力はなくても、ただのモブキャラに戻ってしまっても、僕はまだ戦えます。
ただの雑魚でしかなくても、僕にはまだ戦う理由があるんです。
機械が壊れたからハイおしまいなんてワケにはいかないんですよ!!!」
そう叫ぶ壱人の目には涙が浮かんでいた。
そんな壱人の姿に、想夢はゆっくりと壱人に近づいた。
「佐藤君・・・」
「想夢さん・・・?」
「お前は何を言ってんだッ!!!」
その瞬間、想夢の拳が壱人の顔面を捉えた。
「ぶっ!?」
「そ、想夢!?」
そのまま壱人は部屋の奥の壁まで吹っ飛んだ。
想夢の突然の行動に咲夜も唖然とする。
「立てよ、佐藤君。君には言ってやり事があるんだ」
「い、言ってやりたい事・・・ですか?」
よろめきながら立ち上がった壱人が見たのは、珍しく怒った表情の想夢だった。
「佐藤君、僕が何に対して怒ってるのか分かる?」
「突然何を・・・ってゆうか咲夜さんの真似は止めたんですか?」
「いいからさっさと答えるんだ」
「わ、分かりません」
有無を言わさぬ強気な想夢の言葉に壱人は思わずたじろぐ。
「君は僕に言ったよね?僕の全身全霊の全力を見せろって。
だけど君は何だ?自分のことをモブキャラだの雑魚だのって卑下してさ。
こんな異変を起こした君のことを誰がモブキャラだって?誰が雑魚だって?
少なくとも、僕も、異変解決に来た人達も、命蓮寺の人達も、そんなことは思ってないよ。
こっちに全力を求めたんなら、君も全力を出せよ」
「ぜ、全力って・・・」
出せる力は全て出している。そのつもりで壱人は立っている。
ならば想夢の言う全力とは。彼はどこまでを壱人に求めているのだろうか。
「ずっと考えてたんだ。君の言った言葉を。
人も妖怪も誰もが差のない世界を作る。平和を作り出す。
やっぱり、そんな方法じゃあ誰も救われないし、平和なんて作れない。
誰もが同じ世界に待ってるのは平和じゃなく、退屈と停滞だよ」
想夢は壱人をじっと見つめながら言葉を紡ぐ。
「佐藤君、君は言ったよね?
ヒーローは困ってる人、弱ってる人、応援する人の代わりに戦うからヒーローなんだって。
ヒーローの原点ってそういう『誰かのためになりたい』って思いからくるんじゃないかな?
そして君はこうも言った。誰もが自分で問題を解決できる世界を作るって。
それは言い方を変えれば、誰も助けてくれない世界になるってことだ。
そんな世界、悲しいよ」
アイツは自分で解決できるから別に助ける必要はないや。
見方は人それぞれだろうが、壱人の目指す世界とは、そういう世界だ。
「僕はそんな世界認めない。だからこそ、君を倒してちゃんと異変を終わらせる。
能力が弱くなったから、霊力が強化できなくなったから終わりなんてことにはさせない。
何より、君はまだ諦めてないだろう?」
「当たり前ですよ!」
想夢の言葉に壱人が言い返す。
突然殴られていろいろ言われたせいか、ムキになっているようにも感じる。
「僕はまだ諦めたつもりなんてありませんよ!協力してくれてる皆のためにも、僕のためにも!!
だからこうしてまだ立ってるんじゃないですか!!!」
「だったら、手を抜くなよ!本気出せよ!!ちゃんと全力で来いよ!!!」
「全力出してますよ!!!」
「出してないから言ってるんだろう!!!」
言葉を重ねる度に想夢も壱人も熱くなっていく。
その様子をじっと見つめている咲夜には、子供の言い合いのようにも見えた。
ただ、くだらないとは決して思わない。
「出してます!!!」
「出してない!!!」
想夢にとっても、壱人にとっても、きっとこの言い合いは大事なことなのだろう。
自分も、あんな風に感情をむき出しにして、想夢に向かって行ったのだろうか。
なんとなく、紅魔館で想夢と戦った日のことを思いだした。
「ほら、見せてみろよ!佐藤君の本気ってヤツをさあ!!!」
「だから・・・出してるって言ってるだろッ!!!!!!!!!!」
そう、壱人が叫んだ瞬間だった。
壱人は、体の中に力が漲っていくのを感じた。
力が、霊力が、気持ちが、感情が、グチャグチャに混ざっていたものが元に戻るような感覚。
戦う力のない一般人よりも少かった霊力は、溢れんばかりに壱人から湧いて出る。
「うおおおおおおおおおオオオオオオオオオォォォォォォォォォオオオオオオオッ!!!!!」
感情、力と共に声も溢れた。意味はなくとも、とにかく叫びたかった。
考えるよりも先に体が動いた。
溢れ出る力に任せてナイフを振るう。
ナイフは防御の姿勢をとった想夢の刀に当たる。しかし、壱人はそのままナイフを振りきった。
ただナイフを振る。たったそれだけの行為だが、その威力はすさまじく、
想夢を部屋の端まで吹っ飛ばす。
「はは・・・やればできるじゃないか」
態勢を立て直して想夢は軽く笑う。
「は?・・・え?なんで?」
自分で起こしたことに壱人は混乱した。
「霊力が戻ってる・・・?」
・・・・・・・・・
それは、壱人がずっと前に失ったものだった。
絶望したが故に。絶望が重なったが故に。
だからこそ、失ったことに安堵した。
だからこそ、失ったことに喜びすら覚えた。
それは、壱人がずっと前に諦めたものだった。
自分で手に入れることを諦めた故に。もう戻らないものだと思いこんだが故に。
だからこそ、機械という外部の力でなんとか補おうとした。
だからこそ、心のどこかで諦めていた。
それは、壱人がずっと前に後悔したことだった。
変わらない絶望を見てしまったが故に。失ってしまったことを再確認したが故に。
だからこそ、もう1度行動することに決めた。
だからこそ、もう1度同じことを起こそうと決めた。
そして、失ったモノを取り返した時、壱人は・・・。
・・・・・・・・・
怒りに似た感情だった。
自分が目指しているモノへの思い。協力してくれている者達への思い。
そんな思いを想夢にぶつけた結果、生まれたモノだった。
呆然とする壱人に想夢は笑いかける。
「君は言ったよね。ヒーローってのは強くて、人に好かれて、人気があって、憧れる。
君にとってのヒーローってのはそういうカッコイイ存在だって。
子供っぽいけど王道で、ベタだけど好きになる、まさに理想なヒーローだと思うよ。
僕も、そんなヒーローは大好きだ。
それじゃあ佐藤君。そんな王道でベタなヒーローが立ち上がるために必要なのって何だと思う?
僕はさ、守りたい思いなんだと思うよ。
それは単純だけど、王道で、真っ直ぐで、見ていて元気づけられるものだ。
だからさ、佐藤君。今の力を取り戻した君は、誰が見ても立派なヒーローだよ」
「僕が・・・ヒーロー?そんなこと・・・」
それは、壱人の異変の根本的な理由とも言えるモノ。
そんなことは認められない。認めていいハズがない。
ヒーローを否定するために起こしたというのに自分がヒーローだなんてことは認められない。
「佐藤君は僕のことを主人公側の人間だって言ったね?
そして僕は君のことをヒーローだって言った。
お互い自覚なんてないけどさ、憧れてるヒーロー像はどっちも似ている。
だったら、どっちの正義が正しいのか、正々堂々、勝負といこうじゃないか!!!」
「・・・いいでしょう。そっちがその気ならそのバカげた考えに乗ってやります。
そして、僕の方が正しいと証明して、今度こそヒーローを否定してやりますよ!!!」
想夢は笑っていた。壱人も笑っていた。何故だか分からないけど、楽しかった。
子供の頃にヒーローごっこをやっていた時のような楽しさがあった。
「咲夜、君は手を出さないでくれ」
「・・・ええ」
想夢が咲夜にそう言うと、咲夜は呆れたような顔をして壁によりかかった。
「私は黙って見ていることにするわ」
「ありがとう」
お礼を言って、想夢は壱人に向き直る。
「準備はいいかい、佐藤君?」
「ええ、いつでも」
お互いに武器を構える。
そして、同時に走り出した。
「壱人ォ!!!」
「想夢ゥ!!!」
叫びながら武器を振るう。
刀とナイフがぶつかり金属音が部屋に響く。
この異変、最後の戦いが始まった。