幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

73 / 79
11月19日に投稿したと思っていたら、
11月9日に投稿してました。
・・・ボケが始まってるのかな?


(2)佐藤壱人の変わった生活

【キャッチ・アンド・リリース】

犬を助けたあの日からの現象に、壱人はそう名付けた。

いろいろと試してみることで、壱人はこの「キャッチ・アンド・リリース」のルールについて

大体理解することができた。

この能力は壱人の「現状を変えたい」という願いによって、

その願いを叶えるための能力が与えられるものらしい。

「炎を操る能力が欲しい」というような、能力を指定するような願いでは発動しない。

そして、願いによって目覚めた能力は日付が変わると消えてしまう。

さらに、1日に目覚める能力は1つまで。

能力を増やしたり変えたりといったことはできないようだ。

つまり1日に1回現状を打破する力を得られるが、

その日のうちに別の問題が起きても問題を解決するための能力は得られないということだ。

とは言え、ただの中学生である佐藤壱人に1日に何回も能力を欲するような状況など

訪れるわけもなく。

彼は「キャッチ・アンド・リリース」を得た後も、普通の学生生活を送っていた。

 

・・・・・・・・・

 

結局、「キャッチ・アンド・リリース」の能力は目覚めたものの、

彼の中学生としての生活に何か大きな事件が起きたりするようなことはなかった。

あるとすれば、高校受験で第一志望を諦めて第二志望に切り替えたことくらいだ。

彼が第一志望に選んだ高校は制服がブレザーだったのだ。

中学校といえば大抵の学校の男子の制服は学ランだろう。

少なくとも壱人はそう思っている。

だからこそ、高校生が着るブレザーの制服に憧れのようなものがあった。

しかしながら、中学3年の二者面談にて、担任の先生に、

「今の学力じゃこの高校はねぇ・・・第二志望に変えた方がいいんじゃない?」

と言われてしまった。

その後も頑張ってはみたものの、結局、壱人は高校を第二志望に変えた。

ちなみに、「キャッチ・アンド・リリース」で学力が上がるような能力は目覚めなかった。

能力が目覚める時に聞こえる謎の声、おそらく壱人に能力を与えているであろう存在は、

そこらへんに関しては妙に厳しかった。

 

そうして、壱人は見事に第二志望の高校に合格したが、その高校の制服は学ランである。

「さようなら、僕のブレザー高校生活・・・」

志望校を変えると決めた時にそんなセリフを言ったとか言わなかったとか。

 

・・・・・・・・・

 

高校生になったからといって、壱人の生活が劇的に変わるワケではない。

通学路や授業などの変化ああるだろう。

だが、所詮学生にある生活の変化などその程度のものだ。

能力を持ったからといって何か大きな事が周りで起こるとは限らないのだ。

元々は普通の生活に満足していた壱人だったが、

「キャッチ・アンド・リリース」を手に入れてから、少し物足りなさを感じていた。

何もできないままなら普通に生きることになんの疑問もなく過ごせていただろう。

背景の存在(モブキャラクター)」だけなら嫌なことから逃げるだけの生活でもよかった。

だが、力を手に入れてしまった以上、なにもせずに生きることは壱人の気持ちが許さなかった。

別に誰からも応援されるような、漫画やアニメのようなヒーローになりたいわけではない。

ただ、あの日、1匹の犬を助けた時のように、名前も知らない生徒を助けたように。

誰にも知られてなくてもいい、自己満足しか得られなくてもいい。

誰に気付かれることもなく、ひっそりと誰かを助けることができればそれでいい。

そんな「陰のヒーロー」のような存在になりたい。

何もない高校生活の中で、壱人はそんな風に願った。

 

願ってしまった。

 

彼はもう少し自分の能力について自覚を持つべきだったのだ。

強く願ってしまえばその願いを叶えるための能力が備わってしまうということに。

学力を上げる能力が手に入らないからといって、

ヒーローになれる能力が手に入らない理由など、どこにもないのだ。

 

・・・・・・・・・

 

「いいだろう。お前に今日だけ【物語の餌】の能力を貸してやろう」

能力を与える謎の声。

その日、壱人は謎の声によって目を覚ました。

「今のって・・・」

朝の目覚めと共に能力まで目覚める。

こんなことは今まで1度も無かった。

そして、目覚めた『物語の餌』という能力。

どんな能力なのか、どんな使い道があるのか、壱人にはさっぱり分からなかった。

とりあえずベッドから起きて学ランに着替える。

そして、頭の中で意識してみる。

 

(・・・物語の餌ッ!!!)

 

なんとか能力を使ってみようと念じてみるものの何かが変化する様子は見られない。

念じ方が悪いのか、

どのような能力なのかある程度予想のつく名前でないと、イメージの仕方も分からない。

「壱人ー!朝ごはんできたから降りてきなさーい!」

そうこうしているうちに下から母親の声が響いてくる。

仕方ないので壱人は、下に降りることにした。

 

登校中、授業中、休み時間、下校中など暇さえあれば能力を試してみたものの、上手くいかない。

結局、『物語の餌』の発動方法は分からないままその日は終わり、能力も消えてしまった。

「・・・何だったんだ?」

疑問は残るものの、消えてしまってはもう確かめようがない。

壱人は、心にもやもやしたものを抱えながら、眠りについた。

 

次の日、テレビの朝のニュース番組で奇妙なニュースが流れていた。

「続いてのニュースです。昨日の午後6時頃、●●市〇〇で、男性の遺体が発見されました。

遺体は頭部や腕など、体の所々が食いちぎられたようになくなっており、

警察では現在遺体の身元確認を進めております・・・」

ニュースが話していたのは壱人の住む町で起こった事件だった。

人の体が食いちぎられる。

物語の餌。

「・・・まさか」

ニュースを見て具体的にはイメージできない、漠然とした不安を壱人は覚えた。

 

その日の高校では予定にない朝礼が開かれた。

「あー、つまりだねぇ?クマが出るかもしれないからぁ?クマじゃないかもだけどぉ?

とぉにかくぅ、何か危ないモノが出るかもしれないかぁ?

生徒のみぃんなさんはぁ?注意するようにぃ?」

言葉の後ろが妙に上がる校長先生の話は、今朝のニュースに関することだった。

犯人が近くをうろついているかもしれない。

だから注意しろ。

簡単にまとめれば長ったらしい朝礼で言ったのはそれだけだった。

 

そしてその日の下校中。

ぐちゃり、ぐちゃり。

1人で家に向かって歩いていた壱人はその腐った果物を踏み潰すような音を聞いて立ち止まった。

角を曲がった先に何かいる?

家に帰るなら真っ直ぐ歩くところ、好奇心から壱人は角の先を覗いてみた。

 

ぐちゃり、ぐちゃり。

それは、2本の足で立つ獣のような姿の「何か」が何かを咀嚼する音だった。

そして、その獣の前には塀に倒れ込むようにして座っている人がいた。

 

ただし、その人に首から上はなく、獣もその人も血に濡れていたが。

 

「!!!???」

 

突然目に映った景色に思わず声をあげそうになるが、それをぐっと飲みこんで、

壱人はすぐに「背景の存在」を発動する。

影を薄くして可能な限り気配を消し、壱人はその場から走って逃げた。

何がどうなっているのか分からない。

ただ、自分の見たものが信じられなかった。

振り払うように、逃げるように壱人は走る。

走って、走って、自分の家に着くと急いで自室に駆け込み、そこでようやく立ち止まった。

大きく深呼吸をしてとにかく気分を落ち着けようとする。

そうすることでようやく、さっきの出来事について考えることが出来そうだった。

そういえば、家に着くまでに誰にも会わないどころか誰かを見かけることすらなかった気がする。

必死すぎて見落としているのか、それとも・・・。

いや、そんなことよりも今はあの獣について考える方が先だと壱人は思考を切り替える。

が、それと同時に思い出してしまった。

頭の無いあの人のことを。

あれが死体というヤツなのだろう。

そして、死体の前にいたあの獣こそ、あの死体を作った犯人なのだろう。

きっと今朝のニュースの事件も、アイツの仕業に違いない。

頭が無く、首から流れる赤い血で自らの身体を濡らし・・・。

考えれば考える程気持ち悪くなってくる。

あの場で逃げ出したのはある意味正解だったのかもしれない。

近づいて気付かれれば壱人の頭もなくなっていただろうし、

逃げきれていたとしても死体の匂いやら獣の恐ろしさなど、

状況を詳しく知ってしまっていたら今頃吐いていたかもしれない。

だけど見てしまった以上、考えるのを止めるわけにはいかない。

何故あんな化け物のようなものがいきなり現れたのか・・・。

・・・いいや。

いきなりなんかではない。

前兆はあったのだ。

 

物語の餌。

 

こうも都合よくあんなフィクションの世界でしか起こらないような出来事が起こった理由。

壱人が思いついたのは昨日の「物語の餌」だった。

何をやっても発動しない、発動方法が分からない、ハズレの能力だと思っていた。

しかし、実際には発動していたのだとしたら?

壱人が発動しないと思っていたのは、既に発動していたからだとしたら?

最初から発動している状態で能力を手に入れたからだとしたら?

考えれば考える程、壱人の予想は悪い方へと転がっていった。

「物語の餌」は壱人の「陰のヒーローになりたい」という願いから生まれたものだとしたら?

「物語の餌」の能力が「ヒーローとなるための舞台を作り出す」ことだとしたら?

獣と死体意外、誰もいなかったのは「陰の」ヒーローのためだとしたら?

だとしたら、全ては壱人の願いによって起きた出来事だということになる。

ならば、今朝のニュースも、壱人が見た死体も、彼が望んだから殺されたということか?

それなら、

 

「彼らを殺したのは、僕なのか?僕が全ての黒幕だとでもいうのか?」

 

もしかしたら、壱人の考えは全部間違っていたのかもしれない。

獣も死体も、偶然起こった出来事だったのかもしれない。

人が1人もいないのも、偶然だったかもしれない。

「物語の餌」の能力も、全く別のものだったかもしれない。

少なくとも、この時点ではまだ、全てに関して壱人の予想でしかないと言うことはできた。

だが、

「そうか、全ての原因は僕にあるのか・・・ヒーローなんて望んだばっかりに」

壱人は、自分の考えが正しく、絶対のものであると信じてしまった。

そして、彼は自分の考えに絶望した。

あんな恐ろしいモノを、おぞましいモノを生み出してしまったということ。

ヒーローになるという明るいハズの夢が、こんな暗い現実になってしまったということ。

そしてなにより、すでに2人の人間が自分のせいで死んでいるということ。

あらゆる事柄が、壱人の絶望をより深く、強固なものにした。

「なら、僕は償わなくちゃ・・・」

事態がこれ以上悪い方へと向かっていかないためにも、自分が解決しなければならない。

壱人はそう決意した。

心に広がった絶望が彼の内面を強化してしまったのか、彼に逃げるという選択肢はなかった。

普通の人なら逃げていたかもしれない。

見て見ぬフリをしていたかもしれない。

だが、なによりも、能力が使えるという認識が、壱人に自信のようなモノをつけさせた。

 

「やってやる・・・やってやるさ・・・

僕がこの手で全部やってやるんだ・・・ヒーローになってやるんだ!」

 

・・・・・・・・・

 

獣を倒してヒーローになる。

誰に見られるでもなく、誰に認識されることもなくとも、陰のヒーローになってみせる。

そうと決めた後の壱人の行動は早かった。

まず、壱人は家を出て獣のいた場所まで戻って来た。

念の為に「背景の存在」で気配を隠しながら、曲がり角から獣がいた場所を覗く。

しかし、そこに獣の姿はなく、体の部品が足りない死体があるだけだった。

死体を隠すようなことをしないのは、知能が足りないからか、バレない自身があるからか。

壱人は死体の前に立ち、手を合わせて目を閉じる。

「・・・巻き込んでしまってごめんなさい。必ず、あの獣は僕がなんとかしますから」

そう言って壱人はその場を去る。

偶然か必然か、死体に手を合わせる彼の姿を見た者は1人もいなかった。

 

「ただいま」

「あら、お帰り。どこ行ってたの?」

「ちょっとコンビニまで」

家に帰った壱人は、母親の問いに流れるように自然な嘘で答えた。

「そのわりには何も買ってこなかったのね?」

「サイフ家に忘れちゃって」

よくもまあ迷いもせずに次から次へと嘘が口から出るモノだと、壱人は思う。

人間、本気で嘘をつく時はこうもスラスラ喋れるものなのか。

「そう、貴方もうっかりさんねぇ。

さて、晩御飯にしましょ?今日は肉じゃがよ!」

母親はウキウキ笑顔でテーブルへと向かう。

息子がとんでもない事になっているなどとは知らない彼女の姿に、壱人は少し罪悪感を感じた。

 

・・・・・・・・・

 

晩御飯を終えて、風呂に入り、夜ももう遅い時間。

壱人はベッドに入り考える。

あの獣を探すための能力をもらうことはできない。

探すために能力を使えば、戦うための能力が手に入らないからだ。

つまり、あの獣を倒すための能力を手に入れ、探すのは自力でやるしかないということだ。

「まあ、あんなにあっさりと会うことができたんだ。大丈夫だろう」

絶対に獣を倒す。そう心に誓いながら、壱人は眠りについた。

 

そして、次の日。

 

「いいだろう。お前に今日だけ【狩人の才能】を貸してやろう」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。