幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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冬休みシーズンです。
外で遊ぶよりは、家の中でゲームでもしていたい。
まあ、冬に限った話ではありませんが。


(3)佐藤壱人の終わった生活

不自然に静かな朝の住宅街。

人の気配などまるでない。

そこに1人の男がいた。

「やけに静かだな・・・なんか気味が悪いな・・・」

スーツにカバンにメガネ、七三分けの髪型といういかにもサラリーマンですと

自己主張するスタイルのその男は会社に出勤する途中だったのだろう。

彼は誰もいない住宅街を不思議に思いながらも会社に遅刻しないよう、

立ち止まったりスピードを落とすようなことはせずに歩き続ける。

しばらく歩き続けて十字に分かれた場所に出る。

仕事場に行くには右に曲がらなければならないこの場所で、

男はとても恐ろしい、実体の掴めない何かが近くにいることを感じた。

誰もいない不気味さとは明らかに違う、何かいることに対する原因の分からぬ恐怖感。

すぐ次の角を曲がらなければ目的地に行けないのに、そのすぐ先に何かがいるような気がする。

だが、悲しいことにこの男、日本人もびっくりの仕事人間だった。

仕事中毒、ワーカホリックとも言う。

たとえ先に待ち受けているのが殺人鬼だろうと恐ろしい化け物だろうと、

彼は仕事に行かなくてはならないのだ。

意を決して男は曲がり角を曲がる。

その先には、何もいなかった。

男は安堵した。

男を不安にさせ、怯えさせ、仕事場への道を塞ぐようなモノは何もなかったのだ。

そう、男の前には。

 

男の後ろから、突然唸り声が聞こえてきた。

 

いつの間にそこにいたのだろう。

男が振り向くと、十字の道の真ん中に2本足で立つ狼のような化け物がいた。

もちろんこの化け物は狼などではないのだろう。

だが、何かに例えるならばやはり狼が最も適している見た目をしていた。

まるで映画に出てくるような狼男がそのまま現実に現れたかのような。

「得体のしれない恐怖の正体はこれだったのか」とという納得と、

「このままここにいてはいけない、なんとかして逃げないと」という恐怖、

この狼男を見た瞬間2つの感情が男の心を支配した。

だが、その恐怖は大きすぎた。

知らないことの恐怖と比べ、知ってしまったことの恐怖の方が何倍も大きかったのだ。

逃げようと思っても、どうにかしようと思っても、男の体は動かない。

少しでも動けばすぐさま目の前の化け物が襲い掛かって来て殺されるだろうという恐怖。

恐怖に支配された男の体は石のように動かない。

それでも、ゆっくりと、一歩ずつ、狼男は男へと近づいて来る。

もはや自分はここまでなのか、遺言状でも書いておくべきだったか、

仕事の引き継ぎは誰がやってくれるのだろうとか、男がそんなことを考え始めた時だった。

狼男の動きがピタリと止まる。

そして、何かの気配を感じたのか、首から上だけを動かして横を向いた。

その瞬間、

 

狼男の向いた方向から白く光る線を引いて、鋭い何かが狼男の腹を刺し貫いた。

 

・・・・・・・・・

 

「いいだろう。今日だけお前に【狩人の才能】を貸してやろう」

朝起きてすぐに壱人はこの言葉を聞いた。

狩人の才能。

それは、何も無い空間から弓と矢を作り出す能力を持っていた。

作り出された弓と矢の弓の方は特に何か特徴があるワケでもない、ただの弓だったが、

矢の方は白く輝いており、何やら神聖なものを感じた。

まるで天使が使う矢なのではないかと思ってしまう程に、矢の方は異質だった。

能力はそれだけではなく能力について、弓矢の使い方、標的の狙い方まで、

まるで能力が教えてくれるように頭の中に入って来た。

最初から出来て当たり前、まさに才能という言葉がよく似合う能力だった。

そうして壱人はいつも学校に行くより早い時間に家を出た。

全ては昨日見たあの狼の化け物を探して殺すため。

朝の住宅街は人気がない。

異様な静けさが、壱人に奴がいるという確信をもたらした。

狼を探して住宅街を歩く。

人のいない空間では、存在しているというだけで目立つのか、目当ての狼はすぐに見つかった。

その狼は、数十メートル先の十字になった道路の真ん中にいた。

塀のせいでここからは見えないが、奴の動きを見るに獲物に狙いをつけているのだろう。

なんにせよ、こちらに気づいていないのならチャンスだ。

「・・・1本で決める」

壱人はまず「背景の存在」で自分の存在感を極限まで薄れさせた。

弓を構え、出来る限り力強く引く。

そして、矢を撃った。

矢は光り輝いてまるでレーザー光線のように、まっすぐに飛んで行く。

そして、何かに気付いた狼がこちらを見たその瞬間、

 

弾丸のように光る矢は狼の腹に突き刺さる。

 

刺さった衝撃によって狼が数メートル後ろに吹っ飛び、地面に仰向けに倒れた。

だが、これだけでは狼は死なない。

腹に刺さった矢の先端が背中から突き出て、

矢が刺さったまま中途半端に貫通した状態になっているまま、狼はよろよろと起き上がる。

そして、目が合った。

数十メートルの距離を開いて、壱人と狼の目が合った。

「背景の存在」は気配を隠すが、ゼロにすることはできない。

あくまでも、影の薄い人になるだけなのだ。

そもそも壱人自身、どこかに隠れているわけでもなく、堂々と道路に立っているのだ。

攻撃して、隠れなければ、見つからないワケがない。

狼は壱人を見て、すぐに理解したのだろう。

誰が自分に攻撃してきたのかを。

だからこそ、狼は標的を壱人に変えた。

そして、壱人に向かって走り出そうとした。

前にいる男がまた矢を撃ってくれば、かわせる自信が狼にはあった。

それが例え腹に矢が刺さった状態だったとしても。

分かっていればかわせる。不意打ちじゃなければかわせる。

きっと、そんな風に狼は思っていたのだろう。

だからこそ、狼はかわせなかった。

 

突然、狼の腹に刺さった矢が爆発し、衝撃が襲うと共に巨大な炎が狼を包んだ。

 

走り出そうとした瞬間に、腹に刺さった矢が爆発するなんて事態に狼は対処できなかった。

不意打ちには対処できなかった。

激しい炎が狼を包み、その全身を容赦なく燃やす。

狼はぐらぐらと不安定な足取りで2、3歩前へと進み、崩れるようにうつ伏せに倒れた。

そのまま狼が動くことはもうなかった。

「・・・まったく便利で都合の良い能力だよ、本当に・・・」

燃える狼の死体を眺めながら壱人はつまらなそうに呟いた。

 

炎が消えると、そこには何も残っていなかった。

狼の毛も骨も、燃えた後の灰や、燃えた後すら、

狼がそこに存在していた証と呼べるようなものは何も残っていなかった。

辺りを見回すが、最初に狼が狙いをつけただろう人は見当たらない。

おそらくは逃げたのだろう。

壱人は、これで終わったのだと思った。

肩の荷が下りたような気がした。

自分のせいで何人かの命を奪い、何人かの人生を犠牲にしてしまったと考えると、

罪悪感で気分が悪くなってくるが、こんな非常識な事態では償う方法も思いつかない。

壱人は、2度とこんなことが無いようにしようと心に誓い、学校へと向かって行った。

 

・・・・・・・・・

 

翌日の朝、多くの生徒が登校し、大人達が仕事へ向かう時間帯。

突如として空に巨大な鳥のような姿をした怪物が現れた。

それを見た登校中の壱人は、更なる絶望へと叩き落とされた。

 

・・・・・・・・・

 

次の日、新たな能力を使って壱人は鳥の姿の怪物を殺した。

 

1週間後、町に大きな蛇の姿をした怪物を見つけた。

 

次の日、また新たな能力で壱人は蛇の怪物を殺した。

しかし、蛇の怪物は全部で3匹いた。

1匹殺したと思ったら残った2匹が現れて襲い掛かってきた。

1匹は殺したが、1匹には逃げられてしまった。

 

次の日、別の能力を使って最後の1匹を殺した。

 

3日後、学校の近くの山に火を吹く巨大なトカゲのような怪物を見つけた。

あのような姿の怪物をドラゴンと呼ぶのだろう。

 

次の日、ドラゴンを殺した。

 

・・・・・・・・・

 

別の日、能力を持った人間に襲われた。

 

次の日、能力を持った人間を倒した。

 

倒して、話をつけた。

 

殺すことはできなかった。

 

・・・・・・・・・

 

殺して、倒して、解決すれば、次の奴が現れる。

狼を殺しても、鳥を殺しても、蛇を殺しても、竜を殺しても、人を止めても、

「物語の餌」によって起きたであろう現象は終わらなかった。

だからといって逃げるわけにもいかず、逃げる場所もなく、壱人は殺して、倒して、止め続けた。

そうしていくうちに、壱人は自然と戦い方というものを身につけ、

同じように能力を持つ知り合いも増えていった。

能力を持つ知り合いには生まれながらにして能力を持つもの、ずっと前に能力に目覚めた者、

最近になって能力に目覚めた者など、いろいろな種類がいたが、

能力に目覚めたのが「物語の餌」の発動前であろうと後であろうと、

彼らが壱人と出会ったのはきっと「物語の餌」のせいだろうと壱人は考えている。

これだけ続けても壱人のことが世間一般にバレていないのも、

「影のヒーローになりたい」という、「物語の餌」を手に入れるきっかけとなった願いが

関係しているのだろうとも。

そんな日常が続いたある日のこと。

その日は怪物にも会わず、能力者と敵対することもなく、平和な1日だった。

その夜、自室の時計が23時を指すのを見て壱人は、今日はまだ能力に目覚めてないなと考える。

「どうせなら明日何が起こるか分かれば用心もしやすいんだけど・・・」

誰に言うでもなくそう呟いた瞬間、

 

「いいだろう。今日だけお前に【未来予知】の能力を貸してやろう」

 

いつもの声が響いて、能力が備わった。

その瞬間、頭の中に映像が流れ込んでくる。

 

朝の住宅街、ランドセルを背負った登校中の子供達の姿が見える。

1人の少女慌てたように全力疾走で道を駆け抜ける。

そこそこ大きな十字路に差し掛かる。

横断歩道、信号は青、曲がってくる車もない。

少女はそのまま走って横断歩道を渡ろうとする。

その瞬間、赤信号を無視して横からトラックが突っ込んできた。

トラックが目の前まで来たその瞬間。

まるでテレビの電源を落としたように映像は途切れた。

 

「これは・・・」

「未来予知」の映像に映ったのは交通事故の映像だった。

怪物に襲われるわけでもなく、能力者に襲われるわけでもない。

何がどうなってトラックが信号無視をするに至ったのかは分からないが、

見えたからには助けなければいけない。

ヒーロー願望でも償いでも、壱人の正義感は変わらなかった。

 

・・・・・・・・・

 

「いいだろう。今日だけお前に【ポイントワープ】の能力を貸してやろう」

距離に制限はあるものの、目印としたモノの場所まで瞬間移動できる能力。

ただし、連続して使用することはできない。

必ず、5秒の間隔を空けること。

 

・・・・・・・・・

 

翌日、能力を手に入れた壱人はいつもよりも早く壱人は家を出る。

目的はもちろん、「未来予知」で見た少女を探すため。

映像の中の風景の記憶を頼りに少女が通るであろう道を探す。

そうして探すこと30分、登校する子供が多くなってくるが少女は見つからない。

壱人は塀に寄りかかって一息つこうとした。

その時だった。

「やっば!今日日直じゃん!急がないと!」

壱人の前を1人の少女が走っていった。

「・・・あの子だ!」

突然の出来事にぼうっとしてしまったが、慌てて壱人は少女を追いかける。

「・・・一応、『背景の存在』は使っておくか」

第三者の視点で今の状況を見れば壱人は逃げる少女を追う変質者のように見られても仕方ない。

少女がこちらを見れば見知らぬ誰かが自分を追っている状況に恐怖して、

さらに必死で走るかもしれない。

少女を見失うわけにはいかない。

壱人は存在感を薄くして走る少女を追う。

が、しかし、

「・・・は、速い・・・!」

陸上でもやっていたのか、少女は壱人の予想以上に足が速かった。

映像の中でも全力疾走していたので速いのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった。

そのせいで壱人は全然彼女に追いつけない。

そうやって追っていると、十字路が見えてきた。

信号が青に変わる。

「このまま走れば間に合うかも!」

少女はさらにスピードを上げて走る。

「くそっ!追いつけない!」

壱人は体力が限界に来ていた。

元々持っている能力が「背景の存在」であるため、壱人の戦いは不意打ちをすることが多く、

戦い方は身についても、体力はあまり身につかなかった。

少女の速いスピードに追い付こうと壱人も全力で走っていたが、

ここにきて走るスピードが目に見えて遅くなる。

そうしているうちにも、少女は横断歩道に入ってしまう。

「この距離で大丈夫か?成功してくれ!ポイントワープ!!!」

少女の方へ手を伸ばしながら壱人は能力を使う。

その瞬間、思いっきり引っ張られるような感覚がして、壱人は少女のすぐ後ろまで来ていた。

そのまま壱人は少女を前に突き飛ばす。

これで少女は横断歩道を渡り切った。

「よし、成功だ!」

壱人はそのまま横断歩道から離れようとした。

が、突然眩暈が起こり、立ち止まってしまう。ワープした影響だろうか。

横からエンジン音が聞こえてくる。

顔を動かせば、トラックが暴走気味にこちらに突っ込んでくるではないか。

目の前に迫ったトラックを見て壱人は「未来予知」の映像を思い出す。

あの映像で目の前に迫るトラックを見ていたのは、少女ではなくて自分だったのだと。

だからこそ、次の瞬間・・・。

 

次の瞬間、壱人の意識はテレビの電源を落としたように消え去った。

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