人外少女たちの愛情表現が難解すぎる 作:龍川芥/タツガワアクタ
■被害者その1、行商人の男
―――ああ、信じてくれ。
今からする話は誓って嘘じゃない。
私は襲われたんだ。
……あれは
荷馬車を引いて森の中の道を進んでいた私は……ふと、道の真ん中に石像が立っているのに気付いたんだ。
そう、石像だ。シカの石像。
一目でシカと分かるほどリアルで、しかも実寸大の石像が、森の中にぽつんと立ってたんだよ。
そりゃあ驚いたさ。いくらシャンゼが『芸術の都』って言ったって、こんな街から離れた森の中にまで彫像を立てるわけがない。それに例の石像には台座なんてなくて、たった今ここに放棄されましたって具合で。
でも……その石像、本当に精巧でね。
灰色の石で出来てるのに妙に生々しくて、今にも動き出しそうで……つい馬車を止めてじっくり見ているうちに気味が悪くなるほどだった。
そんなときだ。
近くにあった五メートルくらいの崖の上から、ガサガサっと何かが近付いてくる音がしたんだ。
……いや、確認できたのは音だけだ。崖の上ということもあり、木々の奥に何が居るのかは見えなかった……幸運なことに、ね。
ともかく……音を聞いて身構える私の前に、それは落下して来た。
ああ、二つ目の石像だよ。
ごとん、って鈍い音を立てて墜落して来たそれは、今度はクマの形をしていて。
落下の衝撃で捥げたのか、生首が足元まで転がってきたんだ。
その石像は、助けてくれって言わんばかりに目を見開いた、恐怖に凍り付いた表情でね……それで気付いたんだ。これは石像なんかじゃない、『石化』させられた動物だ、ってことにね!
それでパニックだ。
崖の上に得体の知れない気配も感じていたしね。とにかくここに居るのはヤバいってことで、私は慌てて馬車を走らせようとした。道を塞ぐように立っているシカの石像も蹴散らせばいいと。
でも馬車は、何か巨大なモノに後ろから掴まれてるように動かなかった。いいや、もしかしたら
これが事件の顛末だよ。
馬に必死で鞭打ったお陰か、私は石にされることなくこの街まで辿り着けた。
でも、荷台に乗せていた商品は全て失ったし……あんな怪物が居ると思うと、行商なんてとても続けられない!
この街の憲兵は盗賊の相手で忙しいって聞くし……頼むよ役人さん、
■被害者その2 街はずれの夫婦
……ええ、あれは夜中のことでした。
急にドンドンと玄関の扉を叩かれて……ほら、私どもの家は何の変哲もない民家ですから。こんな遅くに誰だろう、と思いながらも扉を開けたんです。
そうしたら……そこには、恐怖の形相をした石像が立っていたんです!
……ええ。人間の、石像、でした。
若い男性で、手は扉を叩くため振り上げられた姿勢で固まっていて……今にも動き出しそうなのに、色褪せた体は二度と動くことがないのだろうと感じられて……。
そこで、私の悲鳴を聞きつけた主人が駆け付けてくれました。
主人も石像を見るなり血相を変えて……ええ、『噂』のことは私たちも存じていましたから、二人で裏口から出て憲兵の駐在所に駆け込みました。そうやって家から離れる途中、背後からなにか、恐ろしい鳴き声のようなものを聞いた気がします。
それで、憲兵の方々に事情を伝えて……彼等と共に家に戻るまで30分ほどかかったでしょうか。実際はもっとかかっていたかもしれません。
ともかく、そうして戻ってきた頃には……可哀想に、連れ去られたのか玄関の石像は消えていて。代わりに、家の中がすっかり荒らされていました。
巨大なモノが押し入ったように歪んだ玄関。壁に追いやられ砕けた家具たち。
特に台所は被害がひどく、食料は食い散らかされたのか、床に転がっているもの意外はほとんど残っていませんでした。
そして……家中の至るところに残されていた、たくさんの白い羽毛!
鶏の羽のようなそれらと、石化させられたあの男の人。
もう犯人は言うまでもありません。聞けば、丘の上の画家先生も同様の被害に遭ったとか。いつも華やかだったこの街は、今や恐怖に凍り付いています。
どうか、どうかお願いです。
二十年前のときのように、
■被害者その3 丘の上の有名画家
……ああ、ウチは金庫をやられたよ。
聞くところによると、
ん? 襲撃当日のこと?
別に、憲兵に話した通りだけど。
まず、夜中に急に窓が割れた。飛び込んできたのは石の鳥だった。彫刻は専門外だが、とても精巧だったんでね。こりゃ噂のアレだなとすぐ分かった。
正直、画家として怪物を一目見たい、という欲求はあったけどさ……恐ろしい鳴き声が家の外から聴こえて、玄関をドンドンと叩かれて、「
それも玄関の扉を開いたら、物言わぬ石像と化した男が倒れ込んで来て、床で砕け散るんだぜ? それもたぶん、ヤツが出たぞってさっきまで叫んでた男がだ。
当然、ボクは慌てて地下室の奥に逃げ込んだね。
そしたらメキメキって壁をぶっ壊される音がして、何かが家に入って来て、そしてめちゃくちゃに暴れ回った。
襲撃は20分もなかったかな……まあボクは、音がしなくなってからも1時間は顔を出せなかったけどね、怖くて。
ともかく、やっとの思いで地下から顔を出してみればこの通り。
風通しがよくなっただけじゃない。家に置いてあった絵や製作中の絵も殆どズタズタにされて、何が無くなったのかも正確には分からない始末さ……代わりに、増えたモノといえばこの白い羽毛だけ。全く、こんなの絵の題材にもなりやしない。
何? 玄関で砕けてた男?
いや、ボクが戻ったときにはいなかったけど。石の破片はあったから、ヤツが連れ去ったんじゃないの? それかヤツに食われたとかさ。
へ? いや、そりゃ平気だよ。どうしてボクが知り合いでもない奴の心配をしなきゃならないのさ。
それよりさ。ねえ色男、キミ、あの有名な『首斬り』だろう? 悪魔崇拝のサーカス団を一人で全滅させたって噂の。
何でもいいから例のヤツを殺して、ボクの財産をみごと取り戻してくれたまえよ。
そうしたら、ボクがキミの雄姿を絵に描いてあげるからさ!
■被害者その4 牧場主の老人
死体が見つかったときには、周囲には腐敗臭が漂い、蠅が飛び交っていました。
……はい、ウチで飼っていた牛の死体ですよ。
死体は食い荒らされ、頭と手足しか残っていないような状態でした。
そして、その近くには巨大な足跡。
ちょうと鳥の足跡を何十倍にもしたようなやつで、アレを見たときの得も言われぬ不気味な感覚は、あまり思い出したくはないですが……いえ、憲兵の指示で布を被せておいたので、まだ少しくらいは残っとると思います。調査が必要なら、どうぞ見ていってください。
……ええ、
なにせ二十年前にも同じようなことがありましたから。
それに……実は、いなくなった牛は二頭だったのです。
死体が残っていたほうと違い、もう一頭は一切の痕跡なく消えました……ですがそれも、
……はい? 石像を見たか、ですか?
いいえ、確かに世間ではそんな話もありますが、わしは見とらんですな。
石になった牛も見てはおりませんし、石になった人も同じです。
これはわしの想像ですが……二十年前のことと合わせて考えても、奴は石になった動物を食わんのではないでしょうか。だから食事場では『石化』の力を使わなかった、とか。
ともかく、後のことはお願いします、お役人さま。
……それと、わしの孫が失礼を働き、本当に申し訳ありませんでした。なにぶん素行が悪い子で、急にお役人さまが来たので驚いたのでしょう……いえ、そんな。謝るなんてやめてくだされ。
いくら恐ろしげな噂がある方とはいえ、初対面の相手を前に悲鳴を上げて逃げ出すほうが無礼でしょう……はい、悪いのはうちの孫のほうで……。
◆
「―――さて。報告にあった被害者の証言はこれで全部かな」
街の南端にある牧場を後にして。
芸術の都・シャンゼの大通りを北上しながら、青年、ジャン=ジャクザール・マギロティオンはそう呟いた。
その服装は旅装ではなく、黒を基調とした処刑人の正装。
そして視線は美しい街並みではなく、手元に束ねられた書類へ。
―――要するに、“観光”ではなく“仕事”である。
「今回の被害は全て外周部および街はずれに集中。実際に
ぶつぶつと呟きながら、報告書の調査結果と証言の内容をすり合わせるジャクザール。
その役職は神罰法廷の判決に従い犯罪者を追跡・抹殺する、神罰代行の“執行騎士”……ではなく。
人外を以て人外を制する人界守護者、“法典部隊”の隊長である。
隊長。
つまり、彼は
「―――ふわあ、やぁーっと終わったか。日が暮れるかと思うたぞ、ワラワ」
歩きながら書類と睨めっこするジャクザールの背後から、可憐ながら尊大極まりない声がした。
三角帽子に魔女の
大魔女、白夜のレフィーリア。
かつては鳥葬の神霊と崇められ、今では“法典部隊”の戦闘員その一となった彼女は、唯一紅い瞳を眠たげに細め、部下の自覚などまるでなく隊長に問いかける。
「しかし、どのニンゲンも同じ調子で『あの魔物』『あの魔物』と叫んでおったが、わざわざ全て聞く価値はあったのか?
しょせんは大した知性もない魔物であろう……正体が分かった時点で、ワラワとジャックの敵ではないと思うのだが」
「……欠伸をするな、魔女。情報収集は大事だと前回も言っただろう」
顔を向けずに注意しながら、被害者の前で欠伸したら殺す、と密かに決心するジャクザール。一見してその顔に甘さはない。
魔女と処刑人。
あの日近付いた両者の心は、今ではすっかり元通りだった……少なくとも表面上は。
それもこれも、あれ以来ジャクザールが
「その点、君は真面目で助かるよ、イヴ。ちゃんと話を聞いていたしね」
それは律儀に一歩後ろをついてくる、新たに部隊に加わった戦闘員
白黒のメイド服に身を包んだ、金髪碧眼のクールビューティー。
話を振られた彼女は、無表情かつ淡々とした口調で言う。
『―――マスター。ひとつよろしいでしょうか』
「……なんだよ。言ってみろ」
その新人らしからぬ圧力に、少し気圧されるジャクザール。
そんなジャクザールを碧眼で真っ直ぐ見据えて、彼女は言った。
『では―――わたしという
「…………はぁ?」
『デキる大人は無駄な荷物を持ち運ばないもの。上位互換であるわたしが居る以上、報告書を持ち歩くなど非効率です。なのにマスターは紙ばかり見て、わたしには何も訊いてはくれない。極めて非合理的ですっ』
表情を大きく変えないまま器用に気炎を上げるイヴ。
その主張はジャクザールからすると意味不明だが―――要するに、自分のほうが書類より役に立てる、ということらしい。
彼は思わず書類とイヴの顔を交互に見比べて……考えるのを諦めた、ともとれる素直さでぽつり。
「……いや、だって
『き、“記憶違い”!? 恐れながら、マスターはわたしをなんだと思っているのですか!?』
「うーん、何と言われても……そそっかしいメイド人形?」
ずがーん、と雷に打たれたようにショックを受けるメイド人形。
そんな彼女に対し、少なくとも書類ではないのは確かだ、なんて追撃かフォローか微妙なことを呟く主人だった。
―――イヴ・エメスが何かにつけて他の道具に対抗心を燃やす、というのは、ジャクザールが既に散々味わったことである。
彼女は自分こそが最も役に立つと……ジャクザールの持つ中で最高の道具だと常に証明したがっている。
それは
だが、いつまでも“不当な評価”に打ちひしがれている彼女ではない。器物の誇りは不撓不屈、アイアンハートは砕けないのだ。
『……いいでしょう、折角の機会です。わたしがどれだけ有能なのか、そしてどれほど高性能なのかを、この初任務でみごと証明してみせますとも……!』
紙切れなんかには負けません、と謎の対抗心を燃やすイヴ。
無機物と本気で争える想像力の逞しさ―――あるいは種族による価値観の違いに、ジャクザールは困惑しっぱなしである。
―――なので、合いの手は同じ人外から。
「カッ。残念だが、その機会は訪れんぞ、人形」
『……魔女様』
横合いからやる気に水を差してきたレフィーリアに対し、イヴは努めて無表情のまま切り返す。
『あなたの言いそうなことは予想できますが、一応尋ねましょう。それはなぜでしょうか、魔女様』
「決まっておろう。ワラワとジャックが揃って勝てん敵などおらぬからだ。ゆえにキサマの出番はない……分かったら今すぐ身を引くがよいぞ、お邪魔虫め」
ぎゅ、とこれ見よがしにジャクザールと腕を絡める魔女。
明らかな挑発……というよりその性格からして、本気でイヴを邪魔に思い邪険に接しているのだろう。
その蛮行に表情こそ変えないものの、イヴもまた一歩も引かず
『……身を引く? それはこちらのセリフです。証言をろくに聞いてもいない
「むろん、ジャックとデートしておるのだ。だから邪魔者は帰れっ」
『……呆れましたね。心底呆れ果てました。これは国家がわたしたちに与えた任務、人々を救うための戦いですよ。それなのに遊び半分とは……法典部隊、ひいてはマスターの沽券に関わるほどの堕落ぶりです』
つい、と向けられた人形の流し目には、わりかし本気の侮蔑が込められていた。
それが譲れない一線に触れたのか―――ざわり。
魔女の白髪が一瞬燃え上がるように蠢き、真紅の瞳が強烈な圧力を以て大気を圧す。
「―――人形風情が。役にも立たんのに居座って、
そんな灼熱怒濤の怒りを、平然と受け止める
『あなたこそ、わたしのマスターを困らせているように見えますが。傲慢で嫉妬深い魔女の最期は惨めなもの。お姫様を気取りたいなら、せめて慎みくらい覚えては?』
睨み合う赤眼と碧眼。バチバチと不可視の火花を散らす戦闘員その一とその二。
周囲の建物や道路まで圧力に押されてミシミシと軋む。
同じ部隊に所属しながら、彼女らの相性は出会ったときと変わらず、依然として最悪のままであった。
傲岸不遜にして唯我独尊、自分と
そんなふたりの相性が良いハズもない。
そのうえ農場での遺恨も未だ解消できていないのだ。
彼女たちは今のところ、ジャクザールという接点でのみ辛うじて繋がった『味方の味方』、もしくは『敵の敵』に過ぎないのである。
なので、理由さえあれば思い出したように殺し合う。
それは例えば……こんな、売り言葉に買い言葉というだけの切欠でも。
「カッ、よく言ったぞ木偶人形。その蛮勇、冥府の底で誇るがよい―――」
もはや死闘は避けられない……と思われたその瞬間であった。
「―――あいたぁ!?」
ずびし、と。
「そこまでだ魔女。イヴも、これ以上の口論は見過ごせないぞ」
『……はい。申し訳ありませんでした、マスター』
「!? なっ、なぜワラワだけをぶつジャック! なぜあやつは許されたのだ!?」
「……『なぜ』、と来たか。それは君が、どうして自分が罰せられたのか分かっていないから、かな」
魔女の頭にだけチョップを落とした隊長は、なんだか含蓄のあることを言って、それきり彼女を放置した。
むうう、と頬を膨らませ抗議するレフィーリアだが、ジャクザールの対応は撤回されない。
今の口論、原因はイヴの対抗心ではなくレフィーリアの傲慢さにある。ジャクザール的にはそっちのほうが目に余る頭痛の種なのだ。
とはいえ。
―――どういう嫌がらせだコレは。人間関係の調整とか、俺が一番不得手なことだぞ。いや、両方とも人間ではないんだが……。
この状況と相性が悪いのはジャクザールも同じである。
そう、前回までの部下はレフィーリア
だが、今回からは違う。彼は隊長として我の強い
今の対応は間違いではないか、後々の遺恨にはならないか、と思い悩む新米
そんな彼へ、背後から控えめな声がかけられた。
『……ところで、マスター。その、ひとつ質問が』
「うん? なんだイヴ」
『……恥ずかしながら、そもそも“魔物”とはどういった存在なのでしょうか。何度も話に出て来た単語ですが、あいにく私の
意気込んだ手前、主の手を煩わせるのが恥ずかしかったのだろう。無知でごめんなさい、とばかりにおずおずと尋ねてくるイヴ。
その問いにジャクザールが答える前に、レフィーリアが鬼の首を取ったように割り込んできた。
「―――カッ、そんなことも知らんのかキサマ。これだから異界の流れ者は。
ジャック、やっぱりこやつは役立たずだからここに置いて……痛ぁっ!? だからなぜワラワだけをぶつ!?」
「いちいち話の腰を折るからだっ。しばらく黙ってろっ。
……こほん。それで、魔物について、だったな」
ぽい、と割り込んできた魔女を雑に会話から追い出して、ジャクザールは新人メイドに向き直る。
そうして、彼は自分の知る世界の常識をできる限り簡潔に語り始めた。
曰く。
まず前提として、この世界―――
ゆえにこの世界には通常認識困難な“歪み”や、異界からの漂流を許す“隙間”があるというのが定説だ。
『魔物』とはこのうちの前者。
単純な生物とは存在の成り立ちから違う、正真正銘の怪物である。
彼ら『魔物』は、通常の生物とは何もかもが違う。
鳥の卵から蛇の魔物が孵ったり、野犬が異常成長を起こし巨大な狼の魔物になったり、場合によっては魔力が淀んでいるだけの場所に自然発生することさえある。
いわば限定的な界律否定者。世界の歪みの体現。
もっと詳しい情報は専門家に訊いてみないと分からないが、どうも魔力とか人の認識とか、旧世界の伝承とかが魔物には関係しているらしい。
そもそもこの世界に満ちる魔力とは、二つの
話題がキリのない方向に脱線しかけたのを自覚し、彼はそこで講釈を打ち切った。
「―――まあ、だいだいそんなところだ」
『
「別にいいよ礼なんて。自他の命がかかった仕事である以上、情報共有程度は当たり前の準備だろう。話を聞いてなかったから後で要点だけ教えてくれ、みたいなのでない限り、認識のすり合わせは歓迎すべきだ」
そう言って微笑むジャクザール。顔こそイヴのほうを向いていたものの、それは明らかに
となると面白くないのはその
「むううう! ジャックが、ワラワにだけ、厳しい!」
地団太を踏むレフィーリアだが、ジャクザールは「当然の対応をしたまでだ」として態度を改めることはなかった。
隊長としての彼が打ち立てた指針は“規律”。
悲しいかな、規律と恋が最も相性の悪い組み合わせであることは、大魔女の力を以てしても歪められない事実なのだ。
かつかつと、纏まりのない一人と二体は通りを往く。
それ以上の会話はなかったものの、目的地は牧場主に聞いた“とある広場”で一致しているため、彼等の足取りに迷いはない。
きっと直接は言わずとも。そこにあるらしき『敵』の姿を認めることが、此度の戦いの出発点になると、全員が何となく理解していたのだろう。
何度か角を曲がり、幾多の人々とすれ違い。
ようやく目的の広場に足を踏み入れて。
「ともかく、今回の敵は
『……少なくとも、被害者の全員が同じ名前を出しました。つまり―――』
そうして、ジャクザールたちは
―――広場の中心で、彼等は永遠の死闘を演じていた。
かたや立派な鎧に身を包み、両手剣を構えた若き英雄。
かたや雄鶏にも似た巨躯を持ち、尾から生えた蛇の頭と共に英雄へ襲いかかる巨大な怪物。
街の中心にあらざる両雄の戦いは、風雨によって青黒く錆び欠け、ただ風景として煉瓦の都市に埋没している。
それは銅像。
英雄を讃える過去の碑文にして、今再び現れた怪物の恐ろしさを知らしめるモノ。
怪物の
即ち。
「―――石化の魔眼を持つ毒の王。名を、『コカトリス』」
今より約二十年前に討伐されたハズの怪物。
それが、此度における法典部隊の
青銅で出来た魔物の姿は、王に挑む愚か者を見下すように、無機質にジャクザールたちを睥睨していた。