人外少女たちの愛情表現が難解すぎる   作:龍川芥/タツガワアクタ

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法典部隊、始動①

 

 

『執行騎士改め「法典部隊」隊長、ジャン=ジャクザール・マギロティオン。白夜のレフィーリアと共に、ヴィレ農場のゴーレムを接収せよ!』

 

 そんなこんなで。

 首斬りジャックこと俺、ジャン=ジャクザール・マギロティオンは……王都より東に200キロ、平原地帯にある『ヴィレ大農場』へと向かっていた。

 当然、魔女・白夜のレフィーリアを引き連れて。

 

 

 カポカポと。

 蹄が立てる音を感じながら、土が踏み固められてできた道を行く。

 

 問題の現場は、王都にも沢山の収穫物を卸す大農場だ。

 必然、王都(スタート)から農場(ゴール)までを繋ぐ道路もよく整備されていて……馬車や魔導車が通れるように道幅は広く、標識も頻繁に立っている。

 更に獣や盗賊の出現率を下げる為、出来る限り周辺の森林を切り拓くという徹底ぶりだ。

 

 なので送迎の馬車を手配してもらうこともできたのだが……諸々の事情を考慮して、騎馬のみでの道行きとなった。

 理由はふたつ。

 俺の愛馬である黒い一角馬(ユニコーン)は、普通の馬より何倍も体力・走力に優れ、俺もこの騎馬単独のスタイルに慣れているから。

 そして、もうひとつが……。

 

「ふっふふ~ん♪ デート、逢引き、おっ出かけ~♪ 久しぶりの自由、久しぶりの二人っきりは堪らんなぁ、ジャックっ♡」

 

 同行の魔女が、馬車も騎馬も必要ない―――()()()()()というデタラメな存在だからである。

 ふよふよと。

 鳥の魔女の癖に羽搏くことすらせず、馬上の俺と遜色ない高度を保ちながら並走(並浮遊?)する白ずくめの魔女・白夜のレフィーリアへ、俺は白い目を向ける。

 

「……おい魔女。さっきから歌ってばかりだが、少し浮かれ過ぎじゃないか。これは任務、仕事だぞ。一瞬の気の弛みが死に繋がる可能性だってあるんだ」

「分かっておる分かっておる。ふっふふ~ん♪ 共同作業、職場恋愛、吊り橋効果でもっとラブラブ~♪」

 

 よし、君が何も分かっていないことだけは分かった。

 あとなんでこっちを見ながら歌うんだ。空にでも歌え、空にでも。

 

 ……いや、こんなのに構っている場合ではない。

 俺には道中やることがあるのだ。

 

 がさり、鞍に取り付けた鞄の中から次の書類を取り出し、書かれている文字に視線を落とす。

 マギロティオン家の男として、字の読み書きは習得している。俺はある一点を除いて徹頭徹尾凡才の身だが、これはその“一点”の範囲内だったというか、『好きこそ物の上手なれ』というか……まあ、文字が読めないと解剖学の本も読めないからな。

 そんなこんなで文字は読めるが、頭のデキに自信は無いワケで。

 道中にも改めて確認をしようと、わざわざ馬を歩かせていたのだが……。

 

「なあジャック♡」

 

 やはり、この魔女は空気を読んではくれなかった。

 まあ、御覧の通り重力すら無視したバケモノだ。襲いかかってきたわけでもなし、この程度は許容すべきなのだろうな。

 

「……はぁ。なんだ、魔女」

「さっきから何を熱心に読んでいるのだ? 新しい童謡(うた)の歌詞か?」

「なわけあるか、ただの『報告書』だよ。今から行くところがどんな場所なのかとか、騎士団にどういう被害が出たのかとか、そういう情報を改めて頭に入れているんだ。事前準備は大事だからな」

 

 特に俺の場合は、出発前と道中で二度読むのがセオリー。仕事(たたかい)は常に命懸けなのだし、見落とし予防のダブルチェックくらいはやって当然の備えである。

 だが、そんな俺の慎重さに、魔女は不思議そうな顔をした。

 

「ふむ。ニンゲン最大の強みである智慧(ちえ)の共有か。キサマほど強くとも、そういうチマチマした工夫は欠かさぬのだなー」

「チマチマって……何を言ってるんだ、こういうのは強い(デキる)人ほどしっかりするんだよ。俺が君とあれだけ戦えたのも、君の魔術や戦い方がある程度人間側(こちら)に割れていたからだし。仮に全ての技が初見だったら、俺はあの夜に死んでるよ」

 

 それは偽らざる真実だ。

 鳥の使い魔はちゃんと殺さないといつまでも追尾してくるとか、巨大な爪の一撃は鎧を貫く威力があるとか、大砲顔負けの魔力砲を使えるとか……そういう事前情報がなければ、彼女との死闘を生き残るのは難しかっただろう。

 だが、それを卑怯だとは思わない。

 鳥に翼があるように、猛獣に爪牙があるように。

 この『分かり合う力』こそ、人間が持つ最大の武器なのだから。

 

 そう何気なく溢すと……途端に魔女は目を輝かせ、こちらに顔を寄せてきた。

 

「ふむ! そう聞くとなんだか興味が湧いてきたというか……ワラワもしてみたくなったぞ、情報共有(ソレ)! どんなモノがあるのだ? 教えてくれ!」

 

 ……まあ、最初から情報共有はするつもりだったから、乗り気になってくれて助かるっちゃ助かるんだけど。

 改めて、これが今の俺の仕事か、なんて溜息を吐く。

 

 今までは、標的を殺すのは俺の役目だったから、情報は俺自身が知っていれば済んだ。

 だが『法典部隊』において、戦うのは主に人外―――今回の場合はレフィーリアの役目だ。隊長の俺はその()()

 正直、お株を奪われている自覚はある。

 文官の真似事なんて俺に務まるはずもない。

 ただ……俺は確かに頭が良いわけではないが、幸か不幸か、与えられた職務を投げだせるほど不真面目でも無いわけで。

 

「……分かったよ。その代わり、つまらなくてもちゃんと最後まで聞いてくれ」

 

 結局、この魔女をキラッキラに喜ばせてしまうのだった。

 

「―――じゃあ、今から行く場所の説明をしよう。

 『ヴィレ大農場』。その名の通り、ヴィレという豪農が運営する農場だ。主な収穫物は小麦と王国芋で、牛の牧畜なども行っている。農地面積は約50万ヘクタールで、これは個人が所有する農地としては国内2位の面積だ。

 当然そんな大農地は個人の力では持て余すから、三桁単位の小作人を雇って土地を貸し与え、採れた農作物を土地代として徴収することで利益を得ている。典型的な富農……所謂ブルジョワ農民だな。

 地主のヴィレは商売上手で、先代から受け継いだ農場を自分の代で何倍にも拡大、今やその暮らしぶりは貴族にも劣らぬほど豪勢だそうだ」

「……」

「おい、ちゃんと聞いてるのか魔女」

 

 さっきの満面の笑みはどうした。

 凄く退屈そうな顔してるぞ、君。

 

「……いや、ちゃんと聞いておるぞ、うむ。要するに、ニンゲンがよく言う『偉い奴』の農場、というわけだな」

「『偉い奴』って、あからさまに興味がなさそうだな……まあ、その理解でいい。

 そして、そんなヴィレに雇われた小作人の一人が、今回の標的、“危険なゴーレム”の持ち主と見られる男だ」

 

 ぱらり、書類を捲る。

 自分からねだってきた癖して、魔女はすっかり興味を失った風だったが、いちおう耳は傾けているようなので続けて下手人の説明に移る。

 

「ロベール・エメス。年齢22歳、親の代からヴィレ農場の小作人で、アンヌという同じく小作人の妻が居るが……小作人だからな。大した情報はない。

 ただこの件を最初に通報した地主ヴィレは、『ゴーレムはロベールの言うことにのみ従った』、と報告している。あとは、自分や農場の護衛も酷い暴力を受けた、と」

「ふむ。つまり要約すると……今から行く場所で、特段強いわけでもない『偉い奴』が、(ゴーレム)を手に入れたそのニンゲンに反逆された、ということか。ただの自然の摂理ではないか。その程度で王都まで届く騒ぎになるとは、ニンゲンの世界は分からんなー」

 

 あくまで呑気に、他人事全開でそう呟くレフィーリア。

 どうやら自由奔放な魔女サマには、人間社会の秩序は難しいらしい。

 

「……騒動がここまで大きくなったのは地元の騎士団が撃退されたからだよ。そもそもの話、地方で解決できない程の問題だから、王都の俺たちにまで騒ぎが届いたんだ」

 

 王国を人体、日々発生する事件を病に例えれば、地方の軍警や騎士団は国家の免疫機能と言えるだろう。病原はふつう付近の免疫機能が排除するが……広い王国では、稀に“その程度の戦力”ではどうしようもない問題が発生する。

 治らぬ病を放置すれば、いずれ宿主(くに)ごと倒れるは必定。

 そんな難病を強引に切除する(メス)こそが、平時は王都に駐屯する複数種の特殊部隊なのである。

 

 

 王国最精鋭にして最強の騎兵軍団、華々しき『竜騎兵(ドラグーン)』。

 ときに天候さえ操る魔導の探究者、深き叡智の『宮廷魔導師』。

 判決に従い罪人を追う法の殺し屋、俺の前職『執行騎士』。

 そして最後に我々……対人外存在専門の、二人っきりの『法典部隊』。

 

 

「最後だけ格落ちもいいところだけどな……まあ人外存在の中には、(いにしえ)(ドラゴン)に匹敵するような被害を出す者が居るし。君とか。何にせよ放置はできないさ」

「ふむ? 妙な話だな。竜なぞ、少し前までその辺に沢山居たではないか」

「何百年前の話だよそれ……今は平和な時代なの。町中に竜なんて出てみろ、それこそ国を挙げての大騒ぎだよ……ま、竜なんてとっくに掃討済みだから、殆ど有り得ない仮定だけどね」

 

 そう。

 (ドラゴン)含めた強大な他種族たちが人間と生存競争を繰り広げたのは昔の話。

 現代は人間の時代。

 個の『力』ではなく、『法』が平和の要となる、強大な外敵の居ない時代だ。

 

 そんな法治国家の中では、“強大な力”というのは存在自体がリスクになる。

 それこそ火を噴く(ドラゴン)がその辺を歩いている光景を想像して欲しい。

 少なくともこの王国では、そんな『野良の怪物』は許容されない。

 本人の思想がどうあれ……首輪をしていない危険生物は、社会の一員にはなれないのだ。

 

「ほう。ワラワを部隊に引き入れたことを含め、それが最新(いま)のニンゲンのルールなのか。それも『偉い奴』とやらが決めたのか?」

「法律を制定したのが誰か、と言われればそうだけど。王国は三分議会制―――立憲君主制であり代表貴族制だから、君の言う『偉い人』は民衆の代表者だよ。まあ、少なくとも法律上は、ね」

 

 だから……かの人外(ゴーレム)に残された末路(みち)は二つ。

 恭順か、死か。

 そんな『社会の意志』を実現するため、俺と魔女レフィーリアは法治国家の代表として、農場への道を進んでいるのであった。

 

「そして、そんなゴーレムの情報だが……君にはこっちの方が重要かもな。騎士団の戦闘記録では、対象は“魔導銃”を使うらしい。それも竜騎兵関係者でさえ見たことがないような謎の銃で、とにかく貫通力と速射性に優れていたそうだ。

 魔女、君、魔導銃使いとの戦闘を経験したことは?」

 

 戦闘に関しての話題なら、さしもの魔女も真剣になるだろう。

 そう漠然と思っていたものの……予想に反し、返事は無かった。

 

「……おい、魔女?」

 

 とうとう会話すら出来なくなったか、と思わず胡乱気な目を向けて……ぱちり。

 至近、こちらを覗き込む赤い瞳と目が合って、俺の体は仰け反った。

 

「―――なあジャック」

 

 真面目な眼光、真剣な声。

 そのせいで顔を寄せて来たことも怒れず、渋々話題の転換を受け入れる。

 

「……今度はなんだよ」

「先の『偉い奴』の話で思い出したというか、ちょっと不思議に思ったのだがな?

 あの裁判所―――神罰法廷とか云ったか。あそこの『偉い奴』らは、どれもキサマより弱かった。ゴーレムを手に入れたニンゲンが反逆したというなら、どうしてキサマは反逆せん? なぜ弱い者に従い続ける? それもあの、弱い癖になぜか偉そうな連中に……ムカついた、一人二人殺してしまおう、とか考えたことはないのか?」

 

 む、と思わず閉口する。

 問いは幼稚であり、侮辱であり、同時に核心でもあった。

 人ならざる者からの率直な質問。

 「おまえの自制は何の為か」。

 人間社会では既に忘れられた、厳しい自然の価値観が直接尋ねてきたようなその問いに……数秒、返答に悩む。

 なんというか。

 たまたま魔女に質問されただけの人間なりに、「人類の代表として答えなければならない」という、妙な気分になったのだ。

 

 だが……結局のところ、質問に対して俺が出せたのは、ジャン=ジャクザール・マギロティオンという俺個人としての返答だけだった。

 

「……あのな。俺は“処刑人”だ、“殺人鬼”じゃない。無実の人間を殺すつもりはないよ……君たち人外存在と違ってな」

「ふむ? 無実とは言うが、彼奴(きゃつ)ら相当恨みを買っていそうだったぞ? アレはキツネのように狡猾な気配だ……あの伏魔殿が『裁判所』と云うならば、判決を告げる羊皮紙に、欲望という泥が付着せんと考える方が不自然だろう」

「―――不敬だぞ、魔女」

「カッ。魔女がなぜニンゲンの権力を気にせねばならん。ワラワがここに居るのは、ひとえにキサマと一緒に居るためだぞ、ジャック♡」

「バカ、腕を絡めてくるな。乗馬中だぞ」

 

 お陰で剣を抜きそびれたじゃないか。

 

「ちえー。けちんぼめ」

 

 軽く振り払うと、文句を言いながらも意外と素直に離れていくレフィーリア。

 どうやら落馬の危険を理解しての遠慮(こと)らしい。

 

 ……まあ、気を逸したこともあるし、欲望(ドロ)云々は今回は聞かなかったことにしよう。

 そもそもの話、魔女に人間の良識を期待する方が愚かなんだろうしな。

 

「……」

 

 とまあ。

 そんなやりとりをしながらも、俺は先の質問について未だ考え続けていた。

 

 ああ、さっきの答えは不完全だった。

 「処刑人だから」、だけじゃ不足している。そんな気がする。

 なら何が足りないのか? ……それが分からない。

 

 いや、正確には、『俺個人の話』としては完結しているのだ。

 俺の剣は(おおやけ)に捧げたもの。多少肩書が変わろうがそこはブレない。

 だから「ムカついた」とか「気に入らない」とか、そんな身勝手極まる理由で俺が剣を振るうことはない。

 個人的な感情としても、(だれか)の役に立つ人間で居たい、という願望は色濃いし。

 このように、()()暴力を自制する理由は完璧に説明できる。

 

 だから……足りないのはもっと一般的な、『人間の代表』としての答え。

 全くの異種である魔女を納得させるだけの“霊長の理屈”。

 それを何とか捻り出そうと、頭を捻ってみるのだが……。

 

「…………」

 

 ……駄目だ。殺人以外取り柄のない俺の頭では、上手く言葉を纏められない。

 

 ―――ここまでだな。

 

 これ以上考えても埒が明かないと判断し、スッパリと絡まった思考を打ち切る。

 この議題は棚上げしておこう。

 今は駄目でも、何かの拍子でいい答えが降って来るかもしれないし。

 

 それより、今はもっと大事な議題(こと)がある。

 要するに……仕事の話だ。

 

「……君が脱線させた話を戻すが。

 魔女、君は“魔導銃”との戦闘経験はあるか?」

 

 “魔導銃”。

 近年飛躍的な発展を見せる魔導工学の結晶で、戦闘用の魔導器のひとつ。

 そんなハイテクをこの魔女が把握しているのかと疑いつつ、俺は実際に銃口と向き合った経験を活かして、その武器の脅威を何とか伝えてみる。

 

「アレは厄介だぞ。放たれる弾丸は矢よりも速く、時に“魔弾”として炎や雷撃の形で襲ってくる。()()()()()()()()()()、剣の間合いにしか活路は無いが、初見で全ての弾を見切ってそこまで辿り着くのは至難の業で……」

 

 実際にゴーレムと戦うのが彼女である以上、魔導銃への知識と対抗策がなくては困る。

 そんな意図での懇切丁寧な説明だったのだが……。

 

「―――む。あのなジャック、ワラワを誰だと思っておるのだ?」

「?」

 

 だが、魔女は憮然とした表情で俺の説明を断ち切った。

 どことなく不機嫌そうに歪んだ美貌。

 その赤い瞳がキョロキョロと周囲を見回し……100メートルほど先にある林を見咎め、「あれでよいか」と呟き。

 

「よく見ておれ」

 

 無造作に言って―――白光、満ちる。

 それは虚空に姿を現した魔力の発光(ひかり)

 魔女の持つ不可視のエネルギーが、目を焼く熱量として世界に牙を剥く。

 

「そら―――!」

 

 轟、と。

 迸った純白の閃光は、100メートルの距離を容易く喰い破り、青々と聳えた自然の城塞を貫いた。

 衝撃の余波に顔を覆う。

 慌てて着弾地点を見れば……そこにはどこまでも続くような一直線の穴と、そんな大穴に幹を貫かれた木々が、ゆっくりと倒れていく光景が。

 

 魔法使いの“魔力砲”。

 『魔力を熱量変換し』『指向性放出する』だけの、魔弾に次いでシンプルな魔術でありながら、莫大な魔力消費量と高度な魔力操作の技量を同時に要求されるため、現代魔法界においては使い手のめっきり減った原始魔術のひとつ。

 

 そんな魔術を―――宮廷魔導師以上の魔力量をまざまざと見せつけ、魔女がにんまりとこちらを振り向く。

 

「そら。“これ”とその魔導銃とやら、いったいどちらが『土俵の(ヌシ)』だ?」

「―――」

 

 ……我ながら、なんて愚鈍。

 この魔女の底知れぬ強さは、俺が誰よりも味わったハズではなかったか。

 その恐ろしさを―――その後の()()()()()()に惑わされ、今の今まですっかり忘れてしまっていた。いや、意識の外に追いやっていた。

 

 そもそもこの魔女の“鳥葬魔術”は、俺が知るどんな魔導銃よりも強力な遠距離攻撃手段だし。

 そこにこの威力の“魔力砲”まで加われば、まず撃ち合いでは負けないだろう……。

 

「……どうやら今回の任務、君一人で片が付きそうだな」

「であろう? 好きなだけ頼ってよいぞ?」

「だが―――」

「?」

 

 だが、これだけは言わせてもらうけれど。

 

「―――考えなしに魔力砲を撃つやつがあるか、このバカっ! どうして口で言えば済むものを発射した!? 『もし人に当たったら』とか考えないのか君は!?」

 

 褒められ待ちのしたり顔に、渾身の怒声を叩き込む。

 ぽかん、と放心する白い魔女……どうやら魔導銃が効くかはともかく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔はするらしい。

 

 とはいえ、そんな表情も一瞬で。

 レフィーリアはすぐに立ち直り、白磁の顔を真っ赤に染めて言い返して来た。

 逆ギレ、というやつである。

 

「なっ……なぜ怒る!? ワラワはちゃんとキサマが居ない場所を狙ったぞ!?」

「そういう問題じゃない、危険な魔術を軽い気持ちで使うなと言っているんだ! あの木陰に人が居るかもしれないとか、そういう可能性を考慮できないのか!? それに、百歩譲って魔力砲を撃つとして、(いたずら)に森林破壊する必要はないだろう! それこそ空にでも撃てばよかったじゃないか!」

「むっ、それではワラワの魔力砲の威力が伝わらんではないか! 実際に標的を貫いてこそ魔女の威を示せるというもの! ではなんだ、木々ではなくキサマを撃てばよかったのか!?」

「よけい駄目だよバカ魔女(おんな)!」

 

 バカ女……!? とあからさまにショックを受ける魔女、その鼻先に指を突き付け、俺は渾身の力で念押しする。

 

「忘れるなよ。罪のない人間を少しでも傷つけてみろ、今度こそ、その首を胴から斬り離してやる……!」

 

 そしてその首を土産に、執行騎士に返り咲いてやるからな……!

 

 言うべきことは言った。

 俺は魔女から視線を外し、改めて報告書と向き直る。

 

 そんな俺に対し、鳥の魔女はぽつり。

 

「……ううむ。ニンゲンの愛情表現は奇妙よなあ」

「君に! だけは! 言われたくないっ!」

 

 ―――そもそも愛情表現なんかしていない!

 

 

 カポカポと、道行きは未だ長閑(のどか)に。

 空は青く、風はそよぎ。

 人間と魔女の珍道中は、それはそれは平和に進行中なのだった。

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