人外少女たちの愛情表現が難解すぎる   作:龍川芥/タツガワアクタ

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法典部隊、始動②

 

 

 200キロメートル先の目的地(ヴィレ大農場)を目指し、早朝より王都を出発してはや6時間。

 時計の針が正午を指す前に、俺たち『法典部隊』は無事農場最寄りの中規模市街へと到着していた。

 街に寄った目的は、任務の前の小休止……ではなく“事前準備”の一環である。

 

「ふわぁ……やっと出発か。なあジャック、わざわざ寄り道してまで『騎士団の屯所(とんしょ)』とやらに寄る必要はあったのか?」

 

 数時間足らずの脇道を済ませ街を出発するときには、隣の魔女はすっかり退屈を隠さなくなっていた。

 確かに彼女の言う通り、この街にまで足を伸ばすことは農場行きに必須ではない、省略(スキップ)できる工程だ。だが、二時間ほどのタイムロスを考慮しても街に立ち寄ったのには、当然それなりの理由があるわけで。

 

「……ああ。報告の中に、どうしても確かめておきたい部分があったんだ。実際に戦闘を行った騎士(ひと)たちの話も聞いておきたかったしな」

 

 これも成功率を高める準備の一環だ、と説明すれば、聞き込み中屋根で昼寝していたという魔女は欠伸交じりに頷いた。

 

「ふむ。やはり意外とマメよなぁキサマ。用意周到、というか」

「何を言ってるんだ、これくらい普通だぞ。それに収穫もあった……相手の攻撃手段はやはり“魔導銃”。更にその肉体は、一見華奢に見えて、鎧でも着ているかのように硬かったらしい……おい、聞いてるのか? 戦うのは君の役目だぞ?」

「カッ、分かっておる。安心せいジャック、ワラワが負けるとかありえんから」

「……」

 

 本当に大丈夫かコイツ……なんてボヤきたくなるのを必死に堪える。

 

 まあ『法典部隊』の運用理念(コンセプト)上、彼女が敗れるぶんには問題はない。その場合は残った俺が問題を排除するなり応援を呼ぶなりするだけだ。

 どちらかというと、問題は。

 

「……いいかげん怒る気力もない。やっぱり、屯所の食堂を貸してもらうべきだったかな」

 

 問題は、俺自身の空腹である。

 用事を済ませ街を出た頃には、既に正午を回っていた。

 要するにお昼時を過ぎたわけだが……俺はそのランチタイムに、パンの一欠片(ひとかけら)も口にしてはいない。

 当然食料は持って来ていたが、街道で助けた老商人にすっかりあげてしまったのだ。

 なので本当は騎士団の屯所で御馳走になりたかったのだが。

 

「とはいえ、あの怯えられようじゃなぁ……」

 

 屯所で見た地方騎士たちの蒼褪めた顔を思い出す。

 軍警より一段屈強な騎士団においても、『首斬りジャック』の悪名は健在だった。

 要するに物凄いビビられていたので、聞き込みに加え食堂まで利用するのは遠慮したのだが……そのせいで昼食を摂りそびれてしまった、というわけだ。

 うん。あの童謡(うた)を市井に広めたヤツはいつか必ず殺してやる、という俺の決意は、今日も一段と深まったのです。

 

 そんなこんなで、俺たちは逃げるように屯所を後にせざるを得ず。

 ならば街中で買い食いでも、と思ったのだが、こちらもそうはいかなかった。

 

 なにせ俺が引き連れているのは、

 

「しっかしニンゲンも増えたものよなぁ。王都の他にもあのような街がいくつもあるのであろ? 銀竜の奴が生きておれば、『食べ放題だ』とかなんとか言ってさぞ喜んでおったろうに」

 

 これである。

 こんな奴を連れて人込みを歩くとか、不安すぎてちょっと出来なかったのである。

 というわけで、屯所での確認ごとが終わり次第早々に街を発ったのだが……後悔先に立たず。流石に食事くらいは買っておくべきだったかもしれない。

 

「少々神経質になり過ぎたか? いやでも、なあ……」

 

 ちらり、と斜め前を浮遊する魔女の顔を見る。

 そんな俺の視線に気付いたのか、彼女はこちらを振り向いて小首を傾げた。

 

「? どうしたジャック、浮かぬ顔をして」

「いや。君、腹が減ったら道行く人に襲い掛かりそうだよな、と思って」

「!!?? なっ、ワラワを何だと思っているのだキサマは!? 侮辱だぞジャック、女子(おなご)相手に食いしん坊とか禁句(タブー)にも程があろう!?」

「いや、人喰いの方を否定して欲しかったんだが……うん、どうやら早めに街を出て正解だったらしいな、残念ながら」

 

 ぎゃあぎゃあと突っかかってくる魔女の様子に、俺は自らの判断が正しかったことを悟る。

 と、そんなこんなで口論していると、気付けば街道の両脇にちらほらと小麦畑が姿を現し始めていた。

 件の農場のものであろう。主に最寄りの街から見て奥側に農地を広げているとの話だが、既に見えている手前(こちら)側だけでもなかなかの規模だ。

 

「……確か、こういうのを『絵に描いた餅』と言うんだったか?」

 

 小麦畑……パンの材料がたっぷりと穂を付けているのを眺めながらそう呟く。

 

 まあ、こちとら元・執行騎士だ。

 三日三晩飲まず食わずで執行対象(エモノ)の隙を伺ったこともある。

 この程度の絶食はそれこそ朝飯前、というか……。

 

「……ああ、そういえば早朝出発のせいで朝飯も摂りそびれていたんだった。文字通り朝飯前とは、気が滅入るジョークもあったもんだな……」

 

 空腹を紛らわせるように自嘲する。

 

 と、そんな俺の呟きを聞き逃さなかったのだろう。

 隣に浮かんでいた魔女が、無邪気に美貌(カオ)を寄せてきた。

 

「なんだジャック、腹が減ったのか?」

「え? いや、」

「それならそう言わんか。仕方ない、少し待っておれ♡」

 

 それだけ言い残し―――ふわり、魔女が高く飛び去って行く。

 

「な、おい……!?」

 

 呼び止める暇もない。

 ばさり、真っ白な魔女服(ローブ)を翼のようにはためかせ、その背中は瞬きの間に彼方の雲間へと消えていった。

 

「待―――!」

 

 待て、と叫ぶのさえ間に合わない。

 魔女が飛び去った方角を見て、俺と騎馬(ウマ)はただ呆然と立ち尽くすのみ。

 

 油断した。

 怪しい動きを見せればすぐに処断すると決めていたのに、虚をつかれ、奴が飛び去るまでろくに反応できなかった。

 

 ―――追うか? 今から?

 そもそも魔女レフィーリアが全力で飛べば、人間は愚か騎馬(ユニコーン)さえ追い付けないというのに?

 ……もう遅い、か。

 

「……はぁ」

 

 全身を固めていた力を抜く。

 結局俺に出来ることは、その場で途方に暮れる……もとい、魔女の良心(かえり)を信じることのみであった。

 まあ、あちらは街がある方向とは逆側だし、悪意も敵意も感じなかったし、逃げるつもりなら今までいくらでも機会(チャンス)はあったことだろうし。

 

「……とはいえ。『少し待っていろ』って、この辺りに行きつけの店でもあるのか……?」

 

 いや、まさかな……うん、我ながらあり得ない発想だった。どうも気が動転しているらしい。

 なにせこのまま本当に逃亡(とんずら)された日には、紛れもない俺の責任問題となり、執行騎士に出戻りどころか法典部隊隊長の職さえ失うこと確実なワケで……。

 

「……あと10分だけ待とう。それを過ぎたら、まあ、斬首刑確定でいいだろう」

 

 腰に差した処刑剣の柄に指を這わせ、俺はこめかみの痙攣を誤魔化すように呟いた。

 

 

 

 結論から言うと。

 俺の心配は杞憂であり、5分と経たず魔女は戻ってきた。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()

 

「ホラ食え。持ってきてやったぞ♡」

 

 鳥のように変形した―――あるいは本来の姿に近付けた―――魔女の両脚、その先にぶら下がる、たっぷりと肥えた牛、だった(モノ)

 その傷痕、滴る血の鮮やかさから見て、この魔女がたった今殺してきたのだろう。

 重さ800キロになろうという肉塊を保持したまま平然と飛んでいることに、今更さしたる驚きはない。

 

 だけど。

 それを見た瞬間、別の理由で、俺の喉からは絶叫が迸っていた。

 

「な、何をしてるんだ君はーーーーー!!?」

「む、なぜ怒る。牛は嫌いか? 美味いぞ?」

 

 ずん、と牛の死体を地面に降ろし、魔女が憮然とした顔になる。

 彼女からすれば親切のつもりだったのだろう。

 だが……俺からすれば、それこそ無事帰ってきたことも喜べない、声を荒げざるを得ない大迷惑だった。

 だって。

 

「―――バカ、この“鼻輪”が見えないのか君は!? コレはこの牛が野生じゃない、牧場の家畜だという証だ! つまりこの牛は他人の所有物で、それを殺した君は泥棒だ!」

「ど、『泥棒』ぅ!? このワラワが……!?」

「そうだよ泥棒! ああクソ、ここまで常識がないとは思わなかった……! これだから千年とか生きてる人外は……!」

「じょ、常識がない……!? これだから年増は……!?」

 

 がーん、ずがーん、と雷撃(ショック)に打たれ硬直する魔女。

 わりかし深く傷付いているようにも見えたが、今の俺に彼女を気遣う余裕はない。

 

 本当に、犯罪を取り締まる側の俺たちが罪を犯してどうするんだ……!

 

 そうやって、比喩でなく頭を抱えていると。

 まるで叱られた子供が親の機嫌を窺うように……普段の尊大な態度が嘘のような弱弱しさで、魔女が小さく尋ねてくる。

 

「く、食わんのか……?」

「食えるかっ! いいからその牛を運んでついて来い、すぐ持ち主に謝罪するぞ!」

 

 怒鳴り、すぐに先導を開始する。

 一応善意からの行動だ。少しだけ可哀想な気もしたが……本当に可哀想なのは商品(かちく)を殺された持ち主である、と結論付けて、俺は振り向かず先を急ぐ。

 

 目指す先は、少し前から遠くに見えていた大邸宅。

 どう頭を下げたものかと深刻に頭を悩ませつつ、俺は騎馬(ユニコーン)の手綱を引いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 牛の鼻輪に刻まれていた持ち主―――地主のヴィレの邸宅は、そこから10分ほど馬を走らせた場所にあった。

 

 マギロティオン家にも劣らぬ屋敷の大きさに、明確に勝る使用人の数と調度品の格。

 通された応接間の内装を見ても、成程、並の貴族より稼いでいるのは真実らしい。

 

 そうして現れた大農場の主は、俺より一回り以上年配の、恰幅のいい男性だった。

 不摂生なのか体形は樽のようだが、身に纏う衣服や装飾品の格は屋敷と同じで一流そのもの。

 決して口には出せないが、豚とは本来綺麗好きな生き物で……なんて蘊蓄(うんちく)が頭を掠めた邂逅だった。

 

 やり手の大地主・ヴィレ。

 彼は豚というよりは猪を思わせる表情で、飴色の重厚な机を挟み、じろりとこちらを()めつけていた。

 

「はあ。あんたさん方が、あの人形(ゴーレム)をぶっ壊してくれるっていう『法典部隊』ですか……あんたが隊長さん? にしては随分お若いですな。そいで、そちらが」

「はい。放牧されていた牛を殺し盗んだ、常識のない大魔女です」

「なっ、ジャック、そんな言い方は―――」

「いいから謝れバカ! すいません、何分初めての実戦投入で。()の側からも厳しく言って聞かせますので……」

 

 抵抗するレフィーリアの頭を手で押さえて無理矢理下げさせ、牛の持ち主に謝罪する。

 と、隣から状況を分かっていない呑気な声。

 

「む、『私』? ジャック、キサマ急に喋り方が変わったか? 心なしか、口調が普段より丁寧なような……」

「人間にはTPOってのがあるんだよ! もう、いいから黙って聞いてろ!」

 

 ぽい、と反省の色が無い魔女を部屋の隅に放り出す。

 真面目な話の邪魔にしかならないので、どうか壁でも眺めていて欲しい……もとい、壁の花になっていて欲しい。

 

 そんな、法典部隊とかいう無名部隊の間の抜けたやり取りを見せつけられ、地主の視線はすっかり冷たいものになっていた。

 

「……なんというか。アタシもこんなこと言いたくないんですがね。本当に大丈夫なんでしょうなぁ?

 コッチは腕も折られて、雇った腕っこきの傭兵もやられて、仕舞いには泣き付いた騎士団まで敗走させられてんだ。売り上げも評判も大打撃なんだよ。そのうえこれ以上損する、なんてことがあれば、腹いせに何するか自分でもわかりませんぜ。王都には()()()()が沢山居ますからねぇ」

 

 加害者(ゴーレム)への怒りゆえだろう、包帯を巻き首から吊った左腕を見せつけながら、そう低い声を出す大地主。

 中々にあくどいことを言われている気もするが、逆の立場なら俺も同じ反応をすること請け合いなので、ここは素直に頭を下げる。

 

「要らぬ不信を抱かせてしまい申し訳ありません。我が部隊の威信にかけて、任務は必ず達成します。つきましては此度の()()()()()()()についてですが……」

 

 ごとん。

 じゃらり。

 机に置いた巾着袋がずっしり重い音を鳴らし、たちまち地主の目の色が変わる。

 

「失礼は重々承知の上でのご相談です。今回の件、この金額で『当該商品』を購入した、という形で()()して頂けませんでしょうか」

「……ほぉ! これは失礼、中々話が分かる隊長さんのようで」

 

 王国中で広く食されている牛だが、一頭丸ごと買うとなるとそれなりの値段になる。

 今机に置いたのは、その相場の五倍といったところだ。

 アレが乳牛だったとしても損失を補って余りある、“些細な行き違い”の慰謝料としては充分な金額に、目に見えて地主の態度は軟化した。現金な反応だが、金で解決できるならそれに越したことはない。

 袋の中身を検め、ヴィレさん(ムッシュ・ヴィレ)はすっかりホクホク線に。

 

「ええ、確かに。()()()()()()()()()()()()、ウチの商品をご購入頂きありがとうございます。()()()も多く払って頂いて、()()()()()()()()()()()()()()……」

「はい、()()の方は私から。事情が事情ですし、責が魔女(こちら)にある以上、間違いなく()()()()として承認されるでしょう。私は『公正』を信条とした法の使徒……悪人を裁きはせども、悪を幇助することはあり得ません」

 

 一瞬だけ鋭い目を覗かせた意外と抜け目のない男へ、信頼関係を構築するため笑いながら説明する。

 

 こちらの財布が国庫である以上、無駄な支出は避けるべきだが、それより避けるべきは不必要なトラブルだ。

 真に公共の利益を求めるなら、任務を短期で成功させることこそ肝要。

 そもそも発端はこちらの落ち度だし、この程度なら贈賄には当たらないだろう。

 

「そうですか、そうですか。いやあ、やはり話の分かる方だ。最初は失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでしたなあ……隊長さん、お名前は何と? アタシの知り合いにも()()したいくらいでさぁ」

「ああいえ、お気になさらず。それよりも私としましては、より確実な任務遂行のためお力を借りたいのですが……よろしいでしょうか、ムッシュ」

 

 ええもちろん、と出費の甲斐あって二つ返事の大地主。

 そんなこんなで、()()をうまく運ばせていたところだったのだが……退屈に耐え切れなくなった子供みたいな奴が一羽(ひとり)

 

「ジャックー、ワラワはいったいいつまで黙っておればいいのだー?」

 

 答えは『いつまでも』だ、バカ魔女。

 

「まあまあ。そちらのお連れさんにも悪気があったわけじゃないようですし、そう邪険にせずとも……ん? ジャック?」

 

 ぎくり。

 余計なことを言いやがって、と叱る間もなく、対面の地主がこちらをじろじろと観察し始める。

 

「そういえば、その顔どっかで……見た、いや聞いた? 氷の目をしたゾっとするほどの色男で、聖字架があしらわれた黒いコートに、そいつは確かマギロティオン家の紋章、てこたぁ……」

 

 瞬間、その目が()()()と見開かれ、その体が目一杯仰け反って。

 

「―――くくく『首斬りジャック』ぅ!!? あんたさんが!? あの!?」

「……あの、が何をさすのかは分かりませんが、恐らくは。王都広しと言えど、その名で呼ばれるのは私くらいのものでしょうしね……」

「な……そ、そんじゃああんたさんみたいな優男が、『食人盗賊一家44人総処刑』、『御前竜斬首』、『王都連続首狩り事件』等々、数々の逸話で謳われる王国の死神、ジャン=ジャクザール・マギロティオン!?」

「……ええ。そのジャン=ジャクザール・マギロティオンなら、私です」

 

 がたん。

 その一言でついに地主の仰け反りは限界を迎え、樽みたいな体形が椅子から転げ落ちて床に転がった。

 

「おおー。名を明かすだけで畏怖されるとは。流石ワラワのジャックよな♡」

 

 やめろ魔女。それだと俺が、君と同じ極悪人みたいじゃないか。

 

 あとムッシュ・ヴィレも、最後のは『王都連続首狩り事件()()』まで言って欲しい。事件、で止めると俺が犯人みたいになるから。俺は犯人の凶行を止めた側だから。あの時は会う人みんなに疑われて若干トラウマなんだから……。

 

 そうやって遠い目をしているうちに、顔面蒼白のムッシュ・ヴィレが立ち直る。

 

「い、いや、そんなバカな。だって『首斬り』は執行騎士のハズじゃあ……!?」

「……残念ながら、それは先月までの話です。今はこの通り、お騒がせ魔女の監督役と相成りました。

 ……それと言うまでもないでしょうが、例の童謡(うた)は全くの嘘っぱちですので。目に付いた者を手当たり次第に殺す、なんて、そんな殺人鬼に堕ちた覚えはありません」

 

 そうやって、転んだ地主に手を差し伸べる……と、意外にも彼の太い腕は、俺の手をがしりと掴んでくれた。

 

「こ、こりゃあ驚いた。ああ、ブルっちまうほど最高の人選だ。ええ、ええ! あんたさんなら間違いなく、あの生意気な小作人の木偶人形をブチ壊せますぜ……!」

 

 どうも、風評への怯えより儲けへの嗅覚が勝ったらしい。

 流石ヴィレ大農場を一代で超成長させた経営の天才、その胆力は称賛に値するし、自分が評価されたことも嬉しいが……彼は一点だけ読み違えている。

 

「……努力はしますが。恐らく、戦うのはこちらの魔女だけですよ」

「ほう! もしかして、そちらさんも単なる牛泥棒じゃなく、何か大層なビックネームだったりするんで……?」

「む? なんだ、ワラワの名を聴きたいのか?」

 

 急に注目され、蚊帳の外で暇そうだった魔女が、一転して尊大に胸を張る。

 

「ジャックに続きワラワの名まで知りたいとは強欲なことだが……うむ、仕方ない。我が名乗りを拝聴する栄誉を賜すゆえ、も一度景気よく畏れ慄いてみせるがよいぞ、ニンゲン。

 そう、ワラワこそがレフィーリア……大魔女、白夜のレフィーリアである!」

 

 でーん、と効果音が聞こえてくるほどの自信満々の自己紹介。なんだかよく分からないが、人間に畏怖さ(ビビら)れたい、という魔女の願望(プライド)がひしひしと伝わってくる気がする。

 さて、そんな名乗りを直に聴いたムッシュ・ヴィレの反応は……。

 

「……はて。レフィーリア? ううむ、どっかで聞いた事あるような気も……」

 

 すてーん、と。

 予想外の反応の悪さに、見事なまでにズッコケる白夜のレフィーリアさん。

 むきー! と逆上して地主に飛び掛かろうとする無名魔女を、羽交い締めにして何とか抑える。

 

 我ながら狭量この上ないが、今のはわりと溜飲が下がった、というか。

 まあ、その、なんだ。

 いくら神話に出てくるといっても、だいぶマイナーだもんな、君(笑)。

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