異世界帰還TS美少女Vtuber、田中エンフィールド   作:恥谷きゆう

1 / 5
初配信とこれまでのあらすじ

……now loading

──────────────────────

 ▶

【初配信】異世界帰還系TS美少女大魔導士、田中エンフィールドだぜ!【リブライ二期生】

田中エンフィールド/Tanaka Enfield

2147人が視聴中 1分前にライブ配信開始

初めまして!

…もっと見る

 

 

 

 「みんな、初めまして! リブザライブ二期生、希代の魔導士にしてTSボクっ娘こと、田中エンフィールドです。こんふぃーるど~」

 

 

トップチャット
×

 ・こんにちは!

 ・かわいい

 ・きちゃ!

 ・こんふぃーるど……?

 ・田中ァ!

 ・思ったよりロリ声

 ・なんかすごい属性が大渋滞してない???

 ・TSボクっ娘? 属性濃いなあ

チャット…
 

 

 流石は新進気鋭の事務所、リブザライブ。まだ知名度がゼロに等しい初配信にして既に千人単位で人が集まっている。

 けれどここに集まっている人たちはボクのファンではなく、事務所が好きなだけ。

 ここから引き込めるかがボクの腕の見せ所と言ったところだろう。

 

「あ、ごめん。マイクの音量とか大丈夫? ボクの激カワボイスは耳に届いてる?」

 

 ・音量大丈夫です

 ・激カワボイス(自称)

 ・かわいいお声が届いています

チャット…
 

 

 「カーッ、やっぱボクの声はかわいいか。ナーッハッハッハ!

 そうかそうか!」

 

 ・かわいー!

 ・かわいい

 ・笑い方が豪快でかわいい

 ・楽しそう

 

 あー、これこれ! これがやりたかったんだ! 美少女ボイスを出してみんなにチヤホヤしてもらうやつ!

 ボクは高笑いしながら悦に浸っていた。

 

「さて、こんな感じで見た目も声もスーパーキュートなボクだけど、これでも複雑な背景ってのがあるわけ。というわけでさっそく、これ行ってみよう!」

 

 用意していたスライドをバーン! と画面に表示した。

 

これまでのあらすじ

 

 ・なんかはじまた

 ・初配信なのにこれまでのあらすじ???

チャット…
 

 

 そう、初配信にして第一話で始めるのが、これまでのあらすじの話である。

 

 ◆

 

 異世界に召喚されたのは、どうにもたまたまだったらしい。

 勇者召喚術による魔力のねじれ、その巻き添えを食らって、ボクは半ば交通事故のような形で日本から異世界へと放り投げられた。

 ついでに、性別も女になっていた。

 一番の困惑ポイントはそこだった。

 

 おい、ボクを日本に帰せ! あと性別も戻せ! これじゃ甲子園にいけないだろうが!

 その言葉に応えるような神はいなかった。

 

 人を喰う魔物が蔓延り、人同士でも争っている殺伐とした世界。

 そんなところにチートもなしに放り投げられたボクは、奇跡的に賢者に拾われて魔法の基礎を学ぶことができた。

 賢者であるボクの師匠は世捨て人のおじいちゃんだった。彼が病気で亡くなった後も生き残る為必死に魔法を学び、そこらの魔物が相手にならなくなった頃、思考加速魔法を開発した。

 思考加速による研鑽によりボクの魔法は加速度的に上達し、いつの間にか大魔導士と呼ばれる最高位の魔法使いになっていた。

 自由に弟子も取れるし、チヤホヤしてもらえる立場。けれどこの頃には既にボクの目標は日本への帰還に定まっていた。

 世界の間に存在する時空のねじれを完璧に把握し、空間跳躍によって世界を超える。

 大魔導士たるボクであっても至難の業だった。

 異世界に到達して二年、思考加速の中で百年を過ごして、ついに実現させた。

 

 

「はい、田中エンフィールド第一章、帰還編おーしまい。じゃ、ここまでで質問ある人ー?」

 

 一旦話すのをやめて、コメント欄に問いかける。

 

 ・自己紹介壮大すぎない?

 ・エンフィールドちゃんはロリババアってこと?

 ・あの紙芝居みたいなのは自作?

 ・ひと昔前のweb小説で聞いたような設定じゃん

チャット…
 

 

「今映してた紙芝居みたいなのはねー、魔法の産物。記憶の景色をそのまま映すだけだから一瞬だよ。まあ、その後で書き加えたりしたけどね」

 

 ・あのクオリティのイラスト書けるマジ?

 ・外注か?

 ・好都合な設定だ

 

 「まあ、その辺はいずれお絵描き配信みたいなので見せてみたいねー。他にあんまり聞きたいことなさそうだし、次いこうか。田中エンフィールド第二章、現代日本編。スタート!」

 

 

 

 

 帰還したボクには戸籍も金もなかった。そして姿も変わっているので、両親の元に帰ろうとも思わなかった。

 精神性がすっかり変わってしまった今になって元の男に戻ろうという気分はあまり起きなかった。なにせ思考加速を含めれば百年を過ごしている。

 肉体くらい魔法で作りかえられるが、中身は既に別物だ。多分、元の日常に戻っても違和感に耐えきれなくなるだろう。

 そのことに今更気づいて、結局ボクはどうしてここに帰ってきたかったのか分からなくなった。

 

 戸籍や金の問題は魔法を使って解決した。

 男のボクは失踪者扱い。その戸籍を乗っ取る形で今の自分の戸籍を偽装。役所の職員を認識誘導でちょっとだけ操った。

 その後はバイトで初期資金を得て、ネットで自作のバッグやアクセなどを販売。材料は魔法で全部作ったのでタダ。質量保存の法則さんも涙目だ。

 まとまった資金を得たので、思考加速によって株の猛勉強をして、資金運用を始めた。時々損害を出しつつもチマチマ資金を増やして、普通に働く以上の貯金を得た。

 

 「あー、やることがない……」

 

 一通りの生活インフラを整えて落ち着いた後の第一声がこれであった。

 

 豪邸のリビングでゴロゴロしてボーっとする。こんな生活も三日目くらいだろうか。何もやる気が出ない。今までは日本への帰還だけを目標にしていたから、いざその願いが叶うと目標を失ってしまった。

 こんな平和な世界でどうやって生きてたか思い出せない。

 

「──エンフィールド様。いい加減ぐうたら生活はやめたらどうですか?」

「えー。めんどくない? 家事もクロンがやってくれるし」

 

 

 ◆

 

 

 ・まてまてまて

 ・誰???

 ・急に登場人物を増やすな

 ・孤独に生きてる超越者かと思ったらお世話してくる美少女メイドが出てくるの何? 裏切り?

チャット…
 

 

「おお、コメント欄の加速凄いじゃん。どう? ボクのクロンの声真似似てた?」

 

 実物を知らん、という至極当然のツッコミが返ってくる。

 

「まあ、クロンの説明は今はいいや。はい、続き続き!」

 

 ・俺たちを置いて行くなあああああ

 ・美少女メイドについて詳しく頼む

 

 

 

 

「エンフィールド様。いい加減ぐうたら生活はやめたらどうですか?」

「えー。めんどくない? 家事もクロンがやってくれるし」

 

 異世界から連れてきた唯一の弟子、クロンに答える。彼女は今日も律儀にメイド服を着て掃除をしていた。

 彼女は人工生命特有の整いすぎた顔をこちらに向けて、冷たい視線を寄越している。

 

「この世界の知識に照らし合わせれば、今のエンフィールド様は『ダメ人間』と呼称されるようですよ」

「うーん、異論ナシ!」

 

 適当に言いつつも、重たい体を持ち上げて立ち上がる。

 人間、目標がないと精神から腐ってしまう。それは緩やかな死のようなものだ。

 異世界で長命種の様子がそんな感じだ。無気力なエルフなど、歩く屍みたいだった。

 

 魔法以外に何が好きだったか、改めて考えてみる。異世界に行く前……そういえば、配信とか見ていた気がする。

 大手動画配信サイトのマイチューブを開いて、いくつか見てみる。

 料理動画。やってみた。議論。ゲーム実況。音楽。色々見て、その中の一つが、目に留まった。

 

 「Vtuber……これだ」

 

 アニメキャラ調のアバターを用いて配信活動や動画投稿を行う人たちの呼称。この形態が一般に知られるようになったのはつい最近だ。

 ボクもそれをやりたい。

 

「Vtuber、ですか……どうしてこれに?」

 

 クロンの問いかけに、ボクは少し遠くを見ながら答える。

 

「帰ってきたはいいけど、ボクってこの世界に存在しない人間になったわけじゃん? こんな美少女の体で親のところに戻って学校に通うなんて無理だし。肉体的にも、精神的にもね」

 

 精神は思考加速の中で百年を過ごし、既に別物に変わり果てた。元の日常に戻るなど既に不可能だ。帰ることだけ考えて、そんなことにも気づかなったボクは馬鹿だ。

 そんな話をすると、無表情だったクロンがわずかに眉を下げた。

 

「その、私はいつも、エンフィールド様を知り、見ていますから」

「うん、ありがとう。……まあ、人っていうのは沢山の人との関わりがあってこそ生きていけるってボクは思うわけ。でも大魔導士であるボクがありのままで誰かと接することなんてできない」

 

 己がズレているのは自覚している。魔法で大抵のことはできるし、考え方も現代日本では非常識だ。

 

「……でも、Vtuberなら別だと思ったんだ」

 

 動画投稿サイトで見た光景を思い出す。

 個性的な人々が、ありのままの言動で人々を楽しませていた。

 日常とは、この世界とはどこか異なる空間。

 

「これなら、ボクも生きていける。誰かの記憶に残り、誰かを楽しませることができる。そう思ったんだ」

 

 

 こうやって決意を固めたボクは、さっそく事務所を探してオーディションへ応募することにした。

 

 

◆ 

 

 

「で、今日の初配信からこの紙芝居の続き、田中エンフィールド第三章、Vtuber編が始まるんだよね」

 

 

 ・濃い自己紹介だったな……  

 ・新しいタイプの自己紹介だ

 ・こんなに設定を押し出してくるVは初めて見るかも

 ・俺はお前を見ているぞ田中ァ!

チャット…
 

 

「さっき語った通り、ボクはここでみんなと関わって、ボクの存在を確認したい。居場所を作りたいんだ。それは別にボクだけじゃなく、みんなの居場所にもなったらいいなって思ってる。ボクの配信がみんなにとっての居場所の一つにね」

 

 

 ・素敵ですね

 ・居場所かあ

 ・ワイの居場所になってくれへんか?

 

「あー、ガラにもなく真面目に語ったらなんか顔があちー」

 

 パタパタと手で顔を仰ぎながら、話を続ける。

 

「さてさて、こんな感じでボクの配信はちょっとしたえちゅ……エチュードとか、朗読みたいなものもやりたいと思っています。後は、普通にゲーム実況、雑談、歌とかね」

 

 

・えちーど?

・えちゅーど

・えてうど 

・※即興劇のことです

 

「じゃ、この後に同期の子たちの初配信もあるから、そっちも見てねー。じゃ、おつんフィールド!」

 

 

トップチャット
×

 ・なんだその挨拶!?

 ・聞いてません

 ・最初の挨拶とファンネームとSNSアカウントも紹介しろ

 ・ちゃんと告知しろ田中ァ!

 ・この大魔導士、ポンコツの匂いがする

 ・ポンコツンフィールド

 ・お、おつんフィールド!

チャット…
 

 

 #田中エンフィールド ポンコツ

 #田中エンフィールド かわいい

 #田中エンフィールド 二重人格

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。