異世界帰還TS美少女Vtuber、田中エンフィールド 作:恥谷きゆう
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【イノリスト集合】音宮祈全肯定オギャらせ配信【音宮祈/田中エンフィールド/リブライ二期生】
田中エンフィールド/Tanaka Enfield
「それじゃ、ありがとうございましたー!」
カオスだった配信を閉じて、改めて祈ちゃんに向き合う。
彼女はまだ頬を赤くしつつもこっちを真っ直ぐに見つめてくれていた。
「まずは祈ちゃん、騙してごめん」
「……はい」
不承不承といった感じで祈ちゃんが頷く。その頬はちょっと膨れていた。
「これから、また配信できそう?」
「うん。……まだ怖い気持ちはあるけど、でも、できそうな気がする。みんなにいっぱい褒められたから。……フィーちゃんにも、褒めてもらったし」
「そっか。良かった」
これでまだダメと言われたらどうすればいいか分からなかった。
そんな風に安心するボクを、祈ちゃんはじっと見つめていた。
「ねえ、どうして、ここまでしてくれたの?」
「どうしてって……仲間だから?」
「本当に? フィーちゃんは明るく見えて他人にはドライな性質でしょ」
……鋭いなあ。ま、雑談でもそういう話は結構してたか。
でも、それについてはちょっと違う。祈ちゃんはもう他人じゃない。
それを分かってもらうために、ボクは真剣に話し始めた。
「最初に話したように、ボクにとっての活動の目標は居場所を作ることだよ。祈ちゃんは、もう大事なボクの居場所だ。同じ事務所ってだけじゃなく、一緒に活動して、コラボしたりする関係。単に仕事仲間っていうわけじゃなく、ボクの居場所、リブライの一部分だよ。だから祈ちゃんが楽しそうに笑ってないとイヤだ」
「……フィーちゃん」
異世界の過酷な生存競争を経験したボクは、他人と境界線を引くようになった。
外側の人間には深く踏み込まない。信用しすぎない。そういう価値観は、雑談なんかにも表れていただろう。
けれどその分、内側に入ってきた人間には情を入れすぎるようになったみたいだ。
この世界に帰ってきた直後は、「内側の人間」はクロンくらいだった。こちらで築いた人間関係なんて既になくなっていたし、家族なんていなくなったも同然だった。
けれど今はもう違う。祈ちゃんや、ヒノメ。それにかかわった事務所の社員さんまで、もう「内側の人間」と認識してしまった。居場所になっていった。
だから祈ちゃんのことは助けたい。この子が幸せじゃないと、ボクがイヤだ。
「だからさ、また悩んだらボクに教えてよ。くだらない事でも教えてよ。ボクの居場所になってくれた皆には、幸せであって欲しい。君の幸せはボクの幸せなんだから」
「……うん、ありがとう」
そう言って、彼女は本当に嬉しそうに笑った。
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【リクエスト歌枠】リベンジさせてください【音宮祈/リブライ二期生】
音宮 祈/Otomiya Inori
「皆さんごきげんよう。リブザライブ二期生、歌とみんなを元気にしたい、クールな女子高生、
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| ・ごきげんよう! ・大丈夫? ・がんばれー ・無理しないでね |
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コメントの流れを見ると、やはり心配してくれる人が多いようだ。
そのこと自体は嬉しい。
──でも、私の歌は憐れみによって評価されるようなものであってはならない。
歌って証明するんだ。もう大丈夫だって。
そのために必要なのは言葉ではなく、歌だ。
曲を流して、大きく息を吸う。
『──残酷な天使のように 少年よ神話になれ』
選んだのは、あの時に失敗した『残酷な天使のテーゼ』。
『神話になれ』。その祈りを、口にする。
私がVtuberとして活動するにあたって自らに『祈』という言葉を付けたのは、私の歌が誰かの幸せを祈る歌であるからだ。
音楽で誰かを救いたい。けれど、音楽は物質的な問題を解決してくれるわけではない。ただ、背中を押してくれるものだ。
だからこそ、これは祈り。誰かの人生に幸あれという、ささやかな祈りだ。
『だけど君はいつか気づくでしょう その背中には 遥か未来めざすための羽根があること』
羽ばたくのはいつでも己の意志だ。私は忘れかけていた。自分の背中に羽根があること。誰の言うことも気にせず、好きに生きれるということを。
『少年よ 神話になれ……!』
歌い切った私の息は荒々しいものだった。心臓がうるさいくらいに高鳴って、体が熱い。
私は画面に向かって大きく頭を下げた。
「この度は、皆さんに心配をかけて誠に申し訳ありませんでした! こんな私を見捨てずにもう一度見に来てくれたこと、本当にありがとうございます」
・良かったよ!
・また歌ってくれて良かった
・見捨てるわけないよ!
・お前の歌枠を待ってたんだよ!!
「あ、ありがとう! んんっ……んんっ……『た゛す゛か゛る゛!』」
・たすかる鳥ちゃんだ!
・無理しないでw
・綺麗な歌声のあとの濁声が染みる
「それじゃ、ジュースを飲んだ後で次の曲いきます。ここからは、この前の歌枠で歌えなかったリクエスト曲をやっていきたいと思います!」
宣言して、リンゴジュースを一気に飲む。
小さく深呼吸をして、次の曲を流す。
「それでは聞いてください。amazarashiさんで『もう一度』」
『バイトの面接ばっくれて 雨雲眺めて不貞寝さ ビールの空き缶で膨れた ゴミ袋で夢も潰れた』
この歌は再起の決意だ。少なくとも私は、そう考えている。今の自分にはピッタリだと思って、リクエストの中から選曲した。
『自分自身にずっと負けてきた 勝てない訳ないよ自分なら 僕が一番分かってる 僕の弱さなら』
私の弱さは他人の言葉にいちいち傷ついてしまうことだ。いつだって、その弱さに負けてきた。
ピアノの発表会で、体育のダンスで、受験勉強で、配信で。変に気にして努力を無駄にしてきた。
だから、今回だけは負けたくない。どんな失敗をしたって、何を言われたって、この居場所は失いたくない。
初めて、こんなに多くの人に褒めてもらった。初めて、こんなに多くの人に支えてもらった。初めて、私に愛されていると教えてくれた人がいた。
画面の向こう側にいるみんなに焦点を合わせる。私の決意を、みんなに届けるために。
『もう一度 もう一度 駄目な僕が 駄目な魂を 駄目なりに燃やして描く未来が 本当に駄目な訳ないよ』
魂をくべて薪を燃やせ。もう一度火を燃やし、己の道を成し遂げろ。
いつの間にか、コメント欄は見えなくなっていた。耳に聞こえる歌だけが私の意識に入ってくる。もっとだ。もっと、くべろ。
『──もう一度~』
アウトロを聞いて、しばらく目を瞑る。
曲が終わると、私を祝福する拍手の幻聴が聞こえた。超満員の大ホールのように、喝采がシャワーのように降り注ぎ、余韻に浸る私を祝福してくれる。
こんなこと初めてだ。舞台での演奏が終わると、いつも批判に怯えていた。失敗はなかったか。こちらを見る目はどんな感情を湛えているか。そんなことばかり気にしていた。けれど今は、ただ満足感に溢れている。
コメント欄を確認すると、みんなが称賛の言葉を書き込んでくれていた。
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| ・8888888 ・感動した ・よかった! ・元気もらえた |
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よく見れば、揶揄するようなコメントも流れている。
けれど今は、それらが意識に入ってくることはなかった。『へた』も『ミス』も全て私だ。全てを完璧に成し遂げることはできない。
贅沢にも、こんなに多くの賞賛を受け取っているのだ。
それらから目を逸らして批判に目を向けるなんて不誠実だ。
呼吸を整えて、私は画面の向こう側へと語り掛けた。
「きっと私は、またこうやって失敗すると思います。でも、みんなのおかげで、フィーちゃんのおかげで、そんな私を容認することができました。だから、私にできるのはお願いすることだけです」
ああ、心臓がうるさい。全力で歌った興奮だけじゃない。これは羞恥だ。なんて恥ずかしい人間だ。図々しいにもほどがある。でも、決して少なくない人が私を応援してくれている。だから、言わなければならない。
画面の向こうに頭を下げて、私は言った。
「──こんな私ですが、精一杯頑張りますので愛してください」
残酷な天使のテーゼ 高橋 洋子
035-4722-1
もう一度 amazarashi
711-1105-1