異世界帰還TS美少女Vtuber、田中エンフィールド 作:恥谷きゆう
待ち合わせ時間をもう一度確認してから家を出る。
今日はスタジオでのコラボ。その前に打合せだ。
スタジオでの配信ということで、3Dモデルを活かした配信内容が予定されているらしい。
いつものようにクロンの運転する車で事務所前まで送ってもらう。
すると、ちょうど同じタイミングで祈ちゃんが来るところだった。
「あ、フィーちゃん!」
ボクの姿を確認した彼女はパーッと明るい顔になると小走りで近づいてきた。
「リアルで会うの久しぶりだね!」
「そう? この前ご飯食べたばっかりの気がするけどね」
彼女は嬉しそうな笑顔のままボクの横にピッタリくっついてきた。
「今日のお洋服も初めてみるやつだね。似合ってるよ」
「え、そう? クロンが選んでくれたやつだけど……」
「流石クロンさんだね。フィーちゃんの魅力の出し方をよく分かってる」
……ま、まあ? ボクは超絶美少女なので似合うのは当然ではあるのだが!
それはそれとして褒められるのは嬉しいので、フフンと胸を張る。
「今日の企画、なにやるか聞いてる?」
祈ちゃんが振ってきた話題は、ボクも気になっていることだった。
「いや、まだ何も。この感じ、もしかして京子さんが悪だくみしてる……?」
「い、いやあ、大丈夫じゃない? あの人たまに発想が怖いけど、根は真面目だから」
根は真面目だからこそ怖いんだよな……。あれは常識を知らないんじゃなく、常識を知った上で無視しているタイプの人だ。一番厄介なタイプである。
件の京子さんに連絡すると、すぐさまエントランスまで迎えに来てくれる。
相変わらずのピシッとしたスーツ姿だ。しかし、前に見た時よりも元気がないように見えた。
「お疲れ様です。祈さん、最近調子は大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで。気を遣わせてしまいすいません」
「いいえ。私どもが大人の責務をキチンと果たせていなかったのは事実ですから」
「い、いや。京子さんには何度も相談に乗ってもらいましたし……」
祈ちゃんが一時配信をやめた件について、京子さんは随分と責任を感じているようだった。多分、裏で色々相談していたのだろう。
「本当に、田中さんには頭が上がりませんね。所属タレントとして事務所を盛り上げるだけでなく、メンタルケアまでしてもらうなんて」
「別にいいよ。ボクはやりたいようにやってるだけだし」
この人が変にしおらしいと調子が狂うな。もっと「今日は電流爆破デスマッチをしましょう!」とかはしゃいでて欲しい。
「まあまあ! 謝罪が済んだなら次は楽しい話しようよ! 今日の配信、どんな風にするの?」
「……はいっ。今回はスタジオを使えるということで、体を動かす企画をやろうかと」
ボクの言葉を聞いて声のトーンを変えた京子さんは、いつもの笑顔で言った。
「おー。そういえばやったことないね。祈ちゃんは運動どう?」
「わ、私、運動、は……」
「油の切れたロボットみたいになってる……」
よっぽど運動に苦手意識があるらしい祈ちゃんは顔を青くしている。
「田中さんは運動はどうですか?」
「ボク? うーん、どうだろう、分からない」
「分からない……?」
正直、魔法を使ってしまえばオリンピック選手をも超える身体能力を叩き出せると思う。
でもそれは面白くない。というかドン引きされる。
となると素の力でやることになるのか? 今の体の素の身体能力……いったいどうなるんだろう。
京子さんに案内されてミーティングルームに入ると、既にヒノメが着席していた。
「あ! よっ!」
「よっ!」
気安すぎる挨拶に応えるとヒノメはニコーッと笑った。
「悪友コラボだ……有難う……」
祈ちゃんが横でボソッと呟いた。
悪友コラボとはボクとヒノメの二人のコラボの時に使う名前だ。
きっかけは二人でシミュレーションゲームをした時だ。そのゲームは街中でバリバリ犯罪をするタイプの治安の悪いゲームだった。
そこで悪乗りしたボクらはギャングのような言動で大暴れ。その時の様子から、「悪友」というコラボ名が定着した。実際のボクたちの気安いやり取りが悪友みたいだったのも、このコラボ名が受け入れられた要因だろう。
「それでは、本日の企画について説明致します。まずはこちらの資料をご覧ください」
テキパキと進行を開始した京子さんはもう完全にいつもの様子を取り戻したようだ。
大きなモニター画面を見ると──
地獄の三番マッチ! リブライ二期生、魂の殴り合い……!
「誰がやるんだよこんなクソ企画!?」
あんまりな企画名を見たボクは思わず立ち上がった。
「いえ、まずは説明を聞いてください田中さん。魂の殴り合いとは、Vtuberのリアルと現実の境界線を指しています。そして──」
「いや、説明を聞くまでもなくダメだよ! 企画名からもうコンプラアウトの気配がするもん!」
京子さんの発想はどこから出てくるのだろうか……?
「やはりダメですか……それでは、本題に入ります」
「最初から本題に入って⁉」
まるで何事もなかったかのように次の資料を提示する京子さん。まるで普通のキャリアウーマンみたいだ。
「今回はスタジオの施設を使って体を動かす各種目をこなしてもらいます。種目は三つ。腕相撲。大縄跳び。ツイスターゲーム。これらの成績で順位を付けます」
「待って、ツイスターゲームは何?」
明らかに異質な競技が入っていたので話を遮る。
京子さんはキリッとした顔でボクの質問に答えた。
「弊社スタッフの血の滲むような努力によって実現された競技です。腕や脚の絡み合いやぶつかりそうな距離感を全て3Dモデルにて再現。こすれ合う布地、照れくさいような雰囲気まで画面の向こうにキッチリお伝えできるしょう」
「何に力入れてんだよ!」
「面白そうに全力が事務所の方針ですので」
「それは間違ってないと思うけど……思うけど熱意の出力の仕方が間違ってない……?」
どうにも腑に落ちない感じがしながら、他の二人の方を見る。
「二人はいいの? ツイスターゲームやらされそうだけど」
「面白そうじゃん! オッケー!」
「恥ずかしいけど……でも、やってみたい……!」
みんな意外と乗り気だった。それなら……まあいいか……。
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● ▶
【3D】みんなで体力勝負するぞ!【リブライ二期生】
田中エンフィールド/Tanaka Enfield
「リブザライブ二期生、希代の魔導士にしてTSボクっ娘こと、田中エンフィールドです。弟子ども元気にしてたかー? こんふぃーるど~」
「皆さんごきげんよう。リブザライブ二期生、歌とみんなを元気にしたい、クールな女子高生、
「みんなおはよーッ! リブザライブ二期生、元気いっぱいの
三人で一息に挨拶して、コメント欄の様子を確認する。
最初に三人でコラボした時よりも盛況に見える。今までの活動の成果が出ただろうか。
トップチャット × |
| ・こんふぃーるど!! ・待ってた ・もう夜定期 ・ごきげんよう! ・つよつよのヒノメを見に来た ・祈ちゃんはきちんと競技を完遂できるのだろうか…… ・田中ァがあまりに未知数すぎる |
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「さて、今回は告知通りにスタジオの設備をフルに使った3D企画をやっていくよー! 今回は、ボクたちが今までやってなかった体を動かす企画だよー!」
・うおおおおお!
・やったああああああ!
・たすかる!
・リブライ、今度はどんな変態技術が飛び出すんだ……?
「それじゃ、さっそく最初の競技はこちら! 腕相撲!」
最初の企画なので、既に準備は完了していた。
スタジオの真ん中には本格的なアームレスリング台が用意されていた。立ったまま肘をつける天台に、腕を支えるパッド。反対の手で握って体を支えるグリップバー。
気合の入り方がすごい。やっぱりこの事務所は頑張り方が変だ。
腕相撲の第一戦はボクと祈ちゃんの戦いになった。
本格的な台に肘をついて、掌をグッと組み合わせる。もぞもぞと動く指の感覚がくすぐったい。祈ちゃんの体温が伝わってきて、なんだか照れてしまう。
そして、照れているのはどうやらボクだけではなかったようだ。
「こ、恋人繋ぎみたいだね……」
小さな声で言った祈ちゃんがはにかむ。
か、かわいい……! 高校生ゆえの初心な感じが男心を激しく揺さぶる。危なかった……ボクが大魔導士じゃなかったらイチコロだったぜ。
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| ・かわいい ・は? かわいい ・てえてえ ・デート見せられてる? ・ちゃんと幸せにしないとゆるさないぞ田中ァ! ・君が祈の彼女か。母さん、ショットガンをくれ |
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「はーい、イチャイチャタイム終わり! やるよやるよ!」
レフリー役のヒノメが急き立ててくるので、緩んでいた気を引き締める。
「レディ……ファイッ!」
魔法なんて無粋なナシだ。
奥歯をグッと噛み、全身に力を籠めて右腕を支える。体がカッと熱くなり、視野が狭くなる。
これがボクの……全身全霊……!
「いてっ」
「……えっ」
勝負は一瞬だった。祈ちゃんの拳が台につく。
ボクの勝ち。あまりにもあっけない勝負だった。
「よ、弱くない……?」
多分、ボクの腕力は普通の10代の女の子くらいのものだ。
対する祈ちゃんの腕からはほとんど抵抗を感じなかった。
「だ、だから運動はダメなんだって……」
顔を伏せた祈ちゃんがボソボソ言う。痙攣するみたいにピクピク動いた右腕がボクの掌をにぎにぎしてくすぐったい。
「しょ、勝者、田中エンフィールド!」
・うおおおおおお!
・勝負アリ!!!
・勝負……と呼んでいいのかこれは……
・田中ァがゴリラなのか、祈ちゃんが貧弱なのか
「というわけで、勝者のフィーちゃんは私との決戦だね。よろしくう!」
ヒノメが言いながらアームレスリング台の方へと歩いてくる。敗退した祈ちゃんはレフリー役のポジションへ。
「よろしく。……と言っても、勝てる気がしないけど」
「えー? やってみないと分からないってー」
絶対嘘だ……明らかに運動できる奴の体をしてる……! リアルのヒノメは背が高く、手足にも適度に筋肉がついている。
雑談配信で話していたが、彼女は高校の頃はバレー部だったらしい。
結構真面目な部活で、毎日練習していたとのこと。
そして今でもランニングなどの運動は習慣として続けていて、プロテインを飲んだりしている。
つまり、ボクのような引きこもりとは対照的な生活をしているということだ……!
「祈ちゃん……ボク、いってくるよ」
「うん、フィーちゃん……骨だけは拾うから……!」
「ねえ、私のことなんだと思ってるの!?」
憤慨しながらもヒノメは台に肘を乗せて腕を突き出してくる。
ボクも腕を突き出し、彼女の掌を握る。
……つ、つよ……既に握力が強い……!
敗北の予感に慄くも、もう逃げることはできない。死地に向かう兵士のような気持ちで、ボクは開始の合図を待った。
「じゃあ……レディ、ファイ!」
祈ちゃんの合図と同時に、掌を包む力がさらに強まるのが分かった。
まるで蟻を踏み潰すゾウの如く、ヒノメの右腕がボクの腕を台上に叩きつけた。
「う、うわあああああ!?」
「しょ、勝者ヒノメ!」
・はっやwwww
・予想通りではある
・今、断末魔の悲鳴が聞こえなかったか……?
・うーん圧勝
あ、圧倒的な力の差だった……!
叩きつけられた手の甲がじんじんする。
しかし勝ったヒノメは何故か釈然としない表情でボクを見ていた。
「おかしいな……フィーちゃん弱くない? 本気出した?」
「出したよ! 出した上で完敗したんだよ!」
どうやら煽りとかではなく真剣にそう思っているらしい。
違う、ボクが弱いのではなくヒノメが強すぎるのだ……元体育会系、恐るべし……!
「えー、普段見てるフィーちゃんの動きならもっと強いと思ってたんだけどなあ」
「それはほら……火事場の馬鹿力的な? 魔法的なアレだから。ボクは大魔導士だから」
おそらく、彼女が見たの身体強化の魔法を見たところである。たまに移動がめんどくさくて高速歩きしているところを目撃されている。
最初は驚いてくれていたが、最近はスルーされるようになった。
「じゃあその、魔法的なアレと戦うことはできないの?」
「ええー……それはほら、時期が悪いっていうかさ……」
魔法を使って腕相撲なんてしたら相手の腕を壊しかねない。
ボクの魔法は基本的に敵を倒すためのものなので、手加減の類は苦手なのだ。
釈然としない様子のヒノメをなんとかなだめて、次の競技へと進む。
次の大縄跳びは全員で協力する形式の競技だ。
「せーの……え、はやっ!?」
「ご、ごめん……」
「ドンマイドンマイ! もう一回!」
「いいよ、うまくなってるよ!」
「やった……できた……!」
祈ちゃんが飛ぶのに苦労しながらも、最終的にはそれなりに形になった。
それなりに満足する形で競技は終了。
そして最後に、問題のツイスターゲームが待ち受けていた。
「ほ、本当にやるのかこれ……!」
目の前には大きな白いシートが敷かれていた。その表面にはカラフルな丸が描かれている。
正面にカンペを渡されたヒノメが立つ。
「一応ルール説明しまーす。『青色に右手』みたいな感じで色と乗せる部分をルーレットに指定されたら、シートの上にいる人たち指示に従いまーす。お尻や背中が地面についたらアウト。うまく体勢を変えて生き残るゲームでーす」
適当な口調のヒノメによる説明が終わると、さっそくボクたち三人はシートの上に乗った。
指示内容はルーレットで決まり、ボイスロイドがそれを読み上げる。
「右手を青」
「左脚を黄色」
指示通り、手足を伸ばしていく。まだまだ序盤だが、祈ちゃんは既にプルプル震えていた。
「く、苦しい……」
「大丈夫……? リタイアする……?」
「ううん、まだ……まだフィーちゃんとくんずほぐれつしてない……!」
「そ、そっか……」
執念の炎が彼女の瞳の中で燃えていた。その炎こそが彼女の体を支え、この場に留まらせているようだ。
何か怖いので、これ以上は聞かないでおくか……。
トップチャット × |
| ・祈さん……? ・田中ァがひくことあんまねえぞ…… ・あの子同期のガチファンだからね…… ・もうプルプルしててかわいい |
チャットを開始する |
しかし、指示が重なるごとに祈ちゃんの体の震えはどんどん大きくなっていった。限界が近い。ボクたちも視聴者もそう悟ってしまうほどのプルプル具合だった。
そして、決定的な瞬間が訪れる。
「アッッ……!」
まるで断崖絶壁から落下したかのような悲鳴が聞こえたかと思うと、祈ちゃんがお腹をついていた。
「あー、祈ちゃん脱落~」
「う、うう……」
まるで世界の終わりかの如くその場で項垂れる祈ちゃん。
ボクは疲れてきた腕をプルプルさせながら声をかけた。
「ドンマイ! また次があるよ!」
「次が……フィーちゃんとくんずほぐれつする次が……分かった!!」
あれ、適当に言ったのにえらく真剣に受け取られちゃった。マズいかも。
とは言え、ボクはそれどころではなかった。荒い息を吐く。既に上腕筋や腹筋が限界を迎えている。
ヒノメの脚の間を縫うように突き出した右腕。対極に位置する左脚。
とはいえ、疲弊しているのはボクだけじゃない。ヒノメの荒い呼吸がこちらにまで聞こえてくる。
わずかに触れる脚から熱が伝わる。布地が擦れてくすぐったい。
「フ、フフ……結構根性あるじゃん」
「そ、そっちこそ。流石耐久系配信者」
いくら身体能力が高くとも、このゲームは運しだいで大きく不利に傾くことがある。
ヒノメの体勢はボクよりずっと辛そうだ。グラグラする脚。大きく反り返る背中。重心から遠くにつく手。
「勝負は次……次の指示で決まる……!」
「同感だね……さあ、賽は投げられた!」
ルーレットで次の指示が決まり、機械音声が読み上げる。
左手を黄色。
「っ……!」
と、遠い……!
額に汗をかきながら腕を伸ばす。既に限界が近い。けれどそれはヒノメも同じだ。
ボクの体の下側に手を伸ばしてきている。その額には汗が伝っている。
「あ……!」
するっ、と脚が滑った感覚があった。バランスを崩してその場に倒れる。
「いてて……あ! ご、ごめん……」
着地したのはヒノメのお腹の上だった。温かい感触に思わず頬が熱くなってしまう。
前世の頃から、女の子と触れ合うことなどほとんどなかった。男の頃に彼女と付き合うこともなかったし、異世界に行ってからは魔法の研究ばかりでそれどころではなかった。
「う、ううん。別に謝ることでもないけど……」
途切れ途切れにそう言ってから、ヒノメはボクの顔をじっと見つめた。
「……え、なに? 照れてんの?」
「──ハーッ! て、照れてねえし! ボクは偉大なる大魔導士だから、これくらいなんてもないんだが!?」
「あー、照れてるんだ! フーン、結構可愛いところあるじゃん?」
「だから照れてないし! ヒノメを相手にドギマギするとか、絶対にないからな!」
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| ・喧嘩始まったwww ・声が明らかに動揺しててかわいい ・ツンデレ? ・田中ァの貴重なデレ |
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それからしばらく、ボクとヒノメは照れるのか照れてないのか言い合いを続けていた。