異世界帰還TS美少女Vtuber、田中エンフィールド   作:恥谷きゆう

8 / 10
倫理:×

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【メン限会議】みんなの力を借りたい【リブライ二期生/田中エンフィールド】

田中エンフィールド/Tanaka Enfield

104人が視聴中 1分前にライブ配信開始

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 「はいみんな、集合集合!」

 

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 ・なんやなんや。メン限とは珍しい     

 ・ウッス

 ・ゾロゾロ……

 ・呼びつけとは偉くなったな田中ァ!

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 メンバー限定配信を始めるとさっそく個性的なコメントが返ってくる。有料のメンバーだけあって、見覚えのある名前ばかりだ。

 それと、ボクの扱いが雑。

 

「なんかテンション低くない!? ボクの可愛い声にいちいち反応していたピュアなみんなは? もう寝た?」

 

 ・はいはい、可愛い可愛い

 ・かわいいぞー

 ・はよ本題に入りたまえ

 

 ムム……適当にあしらわれた……。

 まあ、今はコメントとの殴り合いが目的じゃないから、いいか。

 

 「今回は弟子として多くの配信を見てくれたみんなにお願いがあります。ボクのアイデアを見て、フィードバックが欲しいです」

 

 真面目なトーンに変えて、話を進める。

 

 「企画案としては、ずばりこちら!」

 

 自己肯定感爆上げ! 音宮祈全肯定配信!

 

 真面目なトーンには似合わないタイトルだが、ボクはいたってマジメである。

 

 祈ちゃんが配信をしなくなって2週間程度が経つ。

 SNSからの発信もなし。

 中断した歌枠のアーカイブは非公開になっているが、無断の切り抜きが出回っている。

 一度インターネットに出た映像を完全に消し去ることはほとんど不可能だ。切り抜きはVtuberやリブライのアンチの間で出回っている。おそらく、心無い言葉が彼女のアカウントに届いていることだろう。こういった時には普段のファン層とは異なる野次馬が集まってくる。

 だからこそ、この企画が必要なのだ。

 

「最初に説明しておくと、ボクが何かする前に、本人の努力だったり、運営のケアでまた配信してくれるかもしれないけどね。だからこれはボクが勝手にやってる、余興みたいなものだから。本当にやるかも分からない。だから気軽に、大喜利でもやるつもりで意見が欲しいな。……みんな、お願い」

 

 少しだけ、声が小さくなった。恐る恐るコメント欄を確認する。

 

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 ・任せい

 ・べ、別にアンタのためじゃないんだからね! 祈ちゃんのためなんだからね!

 ・もう大丈夫。私が来た

 ・カーッ、お願いならしょうがねーかー! 田中ァのお願いならなー!

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「……ありがとう! とりあえず、祈ちゃんのリスナー、イノリストの力を借りて、いっぱい甘やかしてもうらうのがいい感じなんじゃないかなって思ってるんだよね。ただ、自然な流れでそこに持って行くにはどうしたらいいのか……」

 

 ・ここにもイノリストがいます

 ・師匠からSNSで呼びかければある程度人集まってくれそう

 

 同期だけあって、ボクと祈ちゃんは共通のファンが多い。たしかに、ボクのアカウントから呼びかけてもイノリストにはある程度届くだろう。

 

「ありだね。この間会った時、祈ちゃんSNSとかもあんまり見れてないって言ってたから気づかないかも」

 

 ・マジかあ

 ・やっぱり応援届いてなかったか

 ・気づかれないのが大事なん?

 

「気づかれたくないのは、今回の企画を伝えると祈ちゃんに拒絶される気がするからね。フィーちゃんに迷惑をかけるわけにはーとか言われて」

 

 ・ありそう

 ・解像度○

 ・強引に攻める師匠……アリだな

 

 「よし、じゃあこうしよう。まずは、ボクのチャンネルでオフコラボの枠を立てて、祈ちゃんを家に誘い出す」

 

 ・誘い出す!?

 ・おいおいおい、やってるわこのTS大魔導士

 ・学生を家に連れ込んで親密な関係を!?

 ・大胆な師匠……アリだな

 ・イノリストNTR案件

 ・「ダ、ダメだよフィーちゃん……そんなところ……」「フッ。祈、かわいいぜ

 

「おい、変な妄想やめろお!」

 

 コメント欄が変な方向に盛り上がり始めてしまったので、軌道修正を図る。

 危ない危ない。変な勘違いをされるところだった。

 

「とにかく。この口実なら上手く祈ちゃんにもう一回配信をしてもらえると思う。そして、ボクの枠で祈ちゃんを褒め殺す」

 

 自信の無さの克服には色んな方法があるが、ボクが取れる手段としてはこれが最適解だと思う。色んな経験則や、魔法で読み取った祈ちゃんの内面。それらを加味して、そう判断した。

 

「という感じで、ボクが祈ちゃんを褒め殺ししている間、コメントにも援護射撃をしてほしいんだ。頼める?」

 

 ・任せろ

 ・やるで

 ・言いたいことが! あるんだよ!

 ・やらせてくれ

 ・荒らし湧きそう

 

 「あー、たしかに面白がって悪口書く奴はいるだろうね。それはゼロにするのは無理かな」

 

 おそらく、配信をすればまた面白がったアンチ層がわざわざコメントしに来ることだろう。

 でも、大丈夫。

 

 「だからこそ、そんなの掻き消すほどの好意的なコメントで埋め尽くして欲しいってこと。できるでしょ?」

 

 予想通り、次々と賛同するコメントが返ってきた。

 やっぱり、彼女は愛されている。この反応は、別にボクの活動の結果じゃない。祈ちゃんがみんなに好かれているからこそだ。

 不器用で実直で、真剣なVtuber、音宮祈。そんな在り方がみんなに好かれた結果。

 だからこそ、彼女にはもう一度笑顔で配信をして欲しいと思う。ボクの居場所を護るために、ちょっとだけ頑張る時だ。

 

 

 ◆

 

 

 配信を終えてから、さっそく祈ちゃんへと連絡する。

 とりあえずの口実はご飯にしておく。最初から変にハードルを上げると緊張させてしまう。

 ファミレスで会う約束を取り付けることに成功。この間無理やり会いに行ったから、心理的ハードルを下げられただろうか。

 

 ファミレスへやってきた祈ちゃんは、やはり暗い顔をしていた。

 わざとらしいくらい明るい声音で話しかける。

 

 「おはよー、祈ちゃん! まあまあ、まずは座って御飯でも食べなよ。お腹空いたって顔してるよ?」

「そういうフィーちゃんはもう食べてるんだね」

 

 彼女の言葉に頷きながら、ナポリタンを頬張る。

 

「相変わらず美味しそうに食べるねえ……」

 

 何事か小さく言いながら、祈ちゃんは席に座ってメニューを眺め始めた。

 しかし時折こちらをチラチラと見ているようだ。

 

 ……やっぱり、前に会った時よりも顔色が悪い。ナチュラルメイクで誤魔化しても、ボクの目は誤魔化せない。

 解析魔法で彼女の様子を見ると、ここ数日で体重が落ちているのが分かる。全体的に栄養素が足りていない。精神的に参った人はよくこういう状態になる。

 

 多分、食欲が落ちているのだろう。無理やりでも食べた方がいい。

 未だにメニューを握りしめてブツブツ言っている彼女の元に、フォークに絡めたナポリタンを差し出す。

 

「ほら、祈ちゃん。あーん」

「エッ!?!? い、いいの!? こんな、こんなの……いいの!?!?」

 

 なんかキャラ変わってない……? というか、早く食べて欲しいんだけど……。

 ずっとフォークを差し出した姿勢でいるのはちょっと恥ずかしい。

 

「いいから、食べろ!」

「ムゴッ……」

 

 無理やり口に突っ込むと、祈ちゃんがもごもごと咀嚼する。

 

「じゃ、祈ちゃんの分もボクが勝手に頼むから。おごるし」

「モゴ……モゴモゴ……」

 

 口の中がいっぱいの彼女に代わって店員さんを呼んでテキパキと注文する。

 適当につまめるようなピザとかポテトとか、そういうものを中心に頼んでおいた。食欲がない時は、ちょっとずつ食べれるものがいいと思ったからだ。

 後は、気づかれない程度にアシストしとくか。ボクの開発した偉大な魔法、BBQソースの匂いを出す魔法を、さりげなく祈ちゃんの方へと飛ばす。

 すると、彼女は運ばれてきたポテトをつまみ始めた。

 

 彼女の顔色が多少よくなってきた頃を見計らって、話を切り出す。

 

「配信は、まだできなそう?」

「……うん」

 

 この間会った時は返答を拒否したのに、今はそんな元気すらない、か。

 

「祈ちゃんは、もう配信したくない?」

「そ、そんなことない! そんなこと、ないけど……」 

「やりたいけど怖い。そんな感じ?」

「……うん」

 

 そうか。

 ……うん、その言葉を聞けたなら、大義名分はできたな。

 

祈ちゃん、キミはこれからちょっとすなおになる。大魔導士の力でね。分かったら頷いてみて」

……? うん、分かった

 

 祈ちゃんの目がどこかぼんやりしたものになる。ちょっとした暗示だ。相手の意志を塗り替えるような強力な精神干渉魔法は使っていない。

 

「今から二人でコラボ配信をしよう。リハビリみたいなものだよ。ボクの枠で、二人で話そう」

「二人で……うん、嬉しい」

 

 どこかぼんやりした様子で頷く祈ちゃん。

 

「本当にイヤならここで断ってね」

「ううん。その、私もいずれまた配信しないとと思ってたし……フィーちゃんが隣にいるなら心強い、かも……」

 

 ……かわいい。祈ちゃんはこちらを上目遣いで見てきた。そんな顔されると、護ってあげたくなってしまう。

 こんな子を騙していると思うと大変心苦しい。

 実際のところ、企画されているコラボ配信はリハビリどころか荒療治もいいところだ。

 うーん、ちょっとやり方が外道か? まあ、異世界でやってきたあれこれに比べれば可愛いものだ。

 

 

「じゃあ、オフコラボだからこの後ボクの家に来てもらっていいよね? この後予定ないって言ってたよね」

「えっ!? そ、そっか。そうなるんだ。……おうちに……おうちに……?」

「そうそう。オッケー? うん、オッケーだよね!」

 

 彼女が混乱しているうちに話を進めてしまう。

 ぽけーっと何かを考えている彼女を横に会計を済ませて、外に出る。

 店の外で待ち構えていたクロンの車に祈ちゃんを乗せて、家に向かって出発する。

 ぽけーっとしていた祈ちゃんが再起動を果たしたのは、車から降りてボクの家を見た時だった。

 

「えっ、これフィーちゃんのおうち!? デッカい!」

「フフーン、でしょう」

 

 素直なリアクションをされると嬉しくなってしまう。魔法でズルしたとは言え、マイホームを持つまでそこそこ苦労したからなあ。

 駐車場は広々とした造りで車が二台止まれる。二階建ての家の周囲を取り囲むように小さな庭園があり、クロンがマメに世話している花がチラホラと咲いている。

 都市から少し離れた場所で土地も余っていたのですんなり購入できた。

 

 家の中に案内された祈ちゃんは完全に固さが取れていた。装飾品などを見て「すごいすごい!」とはしゃいでいる。大きなシャンデリアや意味ありげな絵画、ふわふわの絨毯などが気に入ったようだ。

 そうそう。そんな感じで浮かれてくれると準備も楽だ。

 二階に上がって配信用の部屋でPCを起動する。枠立てと告知は全部準備済だ。それらを全部公開して、配信開始を数分後に設定する。

 

 一階に降りて祈ちゃんの様子を確認すると、メイド服のクロンと熱心に話していた。

 

「じゃあ、クロンさんも配信の様子はほとんど見れないんですか?」

「はい。配信中は部屋に入ってこないように厳命されていますから。そこのテレビ画面に配信を映しています。オーディオも完備です」

「す、すごい! 環境がガチだ……!」

「エンフィールド様の晴れ姿ですから、当然です」

 

 フフ、と胸を張るクロン。

 

「元々、実力や功績が評価されない方でしたから、こうやって多くの人に愛されているのが嬉しいのです」

 

 無感情な彼女にしては珍しく、本当に嬉しそうな声だった。彼女が本当にボクを応援してくれているのが、真っ直ぐに伝わってくる。

 ……なんだよ、盗み聞きしてるのが気まずいじゃないか。

 

「祈ちゃーん。準備できたからこっちおいでー」

 

 クロンが余計なことを言わないうちに祈ちゃんを呼ぶ。

 配信用のパソコンの前にはボクのゲーミングチェアと祈ちゃん用のパイプ椅子を用意してある。別にゲーミングチェアを二個用意しても良かったのだが、ドン引きされる気がしたのでやめておいた。今後もオフコラボやるなら後でゲーミングチェアを複製しておこう。

 

 ボクに呼ばれて二階に来た祈ちゃんは緊張した面持ちでPCの前に座った。

 PC画面は本物の配信とは別モノのダミー画像に差し替えてある。

 彼女は今から「祈ちゃんと色々話をしよう!」という平和な配信をするつもりでいる。

 実際に告知されているのは「音宮祈全肯定おぎゃらせ配信」だ。

 

「じゃ、始めるからねー」

 

 待機画面には既にそれなりの人数が集まっている。

 配信を開始して、しれっと画面を切り替える。緊張してソワソワしている祈ちゃんは、タイトルが京子さんの好きそうな過激なやつになっていることに気づいていない。

 

 さ、それじゃあ祈ちゃんの笑顔を取り戻す「魔法」を、始めよう!

 

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