異世界帰還TS美少女Vtuber、田中エンフィールド 作:恥谷きゆう
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【イノリスト集合】音宮祈全肯定オギャらせ配信【音宮祈/田中エンフィールド/リブライ二期生】
田中エンフィールド/Tanaka Enfield
「リブザライブ二期生、希代の魔導士にしてTSボクっ娘こと、田中エンフィールドです。弟子ども元気にしてたかー? こんふぃーるど~」
いつも通り挨拶して、祈ちゃんに視線を向ける。
彼女は目を閉じていた。大きく息を吸って、大きく吐いて、それから言葉を紡ぎ始める。
「み、皆さんごきげんよう。リブザライブ二期生、歌とみんなを元気にしたい、クールな女子高生、
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| ・こんふぃーるどー ・ごきげんよう! ・祈ちゃん本当にいる! ・祈ちゃーん! 待ってたよー! ・やるんだな……今ここで……! |
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緊張しつつも挨拶をしてコメントを見る祈ちゃんは、手が震えていた。
ボクはそんな彼女を横目に、元気に宣言した。
「じゃあ、さっそく今回の配信の本題に入ろうか! さて、既に周知した通りお題はこちら!」
音宮祈を褒め殺そう!
「まあ同期ということもあって、ボクは祈ちゃんの配信は最初から結構チェックしてるんだよね。つまり、ボクもまたイノリストってわけ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って!」
シームレスにエピソードトークに移行しようとすると、隣の祈ちゃんがあわあわしながらボクの肩を掴んできた。
ボクは口端を上げて笑みを浮かべながら彼女の方を見る。
「んー? 何かな祈ちゃん。今は祈ちゃんのいいところをいっぱい語り合おうとしてるんだ。いくら祈ちゃんと言えど、邪魔はゆるさないぜ?」
「えっ? いや、だってそんな話まったく……」
「フッフッフ。だまして悪いが、これは君の自己肯定感を上げまくる為の配信だぜ!」
クーッ、ようやく言えたぜ! 最高の気分だ!
祈ちゃんはポカーンと口を開けてボクの顔を呆然と見ている。
「私の……?」
「まあ話を続けると、イノリストとして真っ先に挙げなければならないのは、やっぱり歌枠の話だと思うんだよね。多分、あんまり見てないよって人も歌声は聴いたことあるって人もいるんじゃないかな。リブライのリスナーの認知度も高いしね。ではここで、祈ちゃんの歌枠のここが好き! コーナー! どんどんどんぱふぱふぱふ!」
「あ、あの……」
「まずはこれ! 感情の籠め方がいい! サビに多く見られるやつだよね! 息遣いとか、声の僅かな震えとか、そういうものに祈ちゃんの優しさが籠められている感じがして、とてもいい! 歌が上手い人はいっぱいいるけど、祈ちゃんの歌には唯一無二の良さがある。それはやっぱり、歌声から滲み出る優しさだと思うんだよね」
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| ・わかる ・救われる感じがする ・いいこと言うやん |
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賛同してくれるコメントにうんうんと頷く。
全肯定配信と銘打っている影響もあり、コメント欄はみんなボクの言葉に肯定的だ。
「そして、言わずもがな圧倒的な音域の広さ! ボクは綺麗な高音の好きだけど、特にカッコイイ低音も好きなんだよね! ホラゲーの時には『俺が守護らねば……』って思ってたはずなのに、低音聞いてるとこっちがメスになっちまうような感じ、分かる? 分かるよな!?」
・うん……うん……?
・き、き……
・それな!
・俺、メスになっちまったよ……田中と一緒だ
若干の戸惑いが感じられたが、好意的に受け入れられている。
いい感じだ。
「じゃ、ボクは語ったから次は君たちの番だね。どう、みんなは祈ちゃんの歌のどんなところが好きなの? なんで好きなの?」
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| ・悲しい曲の泣きそうな歌声が好き ・かわいい歌ではっちゃけてる時、かわいくて好き ・救われたので ・この間の面接の前に、祈ちゃんの歌を聞いて元気もらえた。おかげで上手くできた気がする |
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「あー、やっぱり祈ちゃんの歌には人を救う力があるよね。それはボクも思う。綺麗な歌なら世間に溢れているけど、心の奥底に突き刺さる曲はそう多くないっていうか。それに、生で歌ってくれるっていうのは、音源とはまた違った良さがあるんだよね。その時その時の僅かな差異が味になるっていうかさ。そういうところにもストーリー性がある、みたいな?」
言いたいことを言い放ったボクはまた次の褒め殺し文句を口にする。
「そして、伝説のホラゲー配信! こっちもまた、祈ちゃんの素顔を語る上では外せないよね! 普段のクールな姿からは一転して、怖がる姿。小動物みたいな姿に庇護欲をそそられた人もいるはず。ボクらイノリストは祈ちゃんがどこか超然とした歌姫みたいなものだと思っていたけど、この配信をきっかけに彼女もまた弱さを抱える人だって気づいたんだよね。──そこがいい! あんなに歌が上手いのに、ホラゲーは全然うまくいかなくて、全然進まなくて、そこがいい! 応援したいってさらに強く思った!」
・わかる
・全部言語化するやん
・ワイトもそう思います
真っ赤な顔をした祈ちゃんから抗議の視線が飛んできているが、今はスルーだ。
「あと、同じくらい雑談も好きなんだよね! 祈ちゃんは歌とホラゲーが有名だけど、普段のナチュラルな雑談も良くてさ。結構、くだらないコメントでケラケラ笑ってくれるのが可愛かったりとかね。この前ボクもしれっとダジャレを投げたんだけど、反応が良すぎてこっちまで楽しくなっちゃった!」
「コメントしていたの!?」
祈ちゃんが驚きの声を上げていたが、気にせず話を続ける。
「ま、歌みたいに超然としたところがあるからこそ、普段の等身大の姿が愛しいというか、尊いというか、そういう親みたいな気持ちも味わうことができるってわけ。で、親みたいな気持ちになるからには、やっぱりこう思うわけじゃん? オギャらせたいって」
「……?」
困惑する祈ちゃんと視聴者を置き去りにして、ボクは話を進める。
「甘やかしたいというか、母性というか。生まれが男のボクにそんなものあるはずないんだけどね。でも、この気持ちが間違いなく母性なんだよね。ほら、祈ちゃん。ボクの膝に寝転がりたまえよ」
「イヤよ!? あ、ちょっ、力つよっ……!」
フッフッフ。勝てるわけがなかろう、大賢者の力に。
無理やり頭を膝の上へと押し込まれた祈ちゃんは困惑した顔でこちらを見上げてくる。その顔がまた可愛くて、愛しさがさらに湧いて来る。
頭部にそっと手を当てて、ゆっくり手を動かす。
「別にそんな気を張らなくても、みんな応援してくれてるからねー。頑張ってる君に文句言うやつなんて無視していいんだからねー」
「……」
「愚直に努力する君が一番カッコイイ。それを嘲るやつは馬鹿だ。その努力を無意味だなんて言うやつは、何も分かっていない」
「……え?」
祈ちゃんが困惑した声を上げる。
今の言葉は、魔法で祈ちゃんの記憶を読み取ったからこそ出せたものだ。
音楽の名家に育った祈ちゃんは常に結果を期待されていた。結果の出ない努力など無駄だ。そう教えれて、常にプレッシャーの中で生きてきた。
だから、それだけじゃないってことを教えてあげないと。
人の価値観は、物差しは、いっぱいあった方がいい。いざという時の逃げ道になるからだ。
だから今は、ボクのエゴを押し付ける。祈ちゃんに生きるのが少しでも楽になって欲しいから。
「肩の力を抜いて、目を閉じて、身を任せて。そうして、今欲しいものを口にするんだ」
優しく頭を撫でると、身じろぎするのが分かった。ゆっくりと目が閉じられる。そして、彼女はポツリと呟いた。
「た、たまに、甘やかしてほしい」
…………なんだこのかわいい生き物は!
「よーしよしよしよしよし!!!」
わしゃわしゃわしゃ、と衝動のままに頭を撫でまわすと、祈ちゃんが恥ずかしそうに顔を横に向けた。
「な、なんでこんなこと……恥ずかしい……」
「いいんだよ。実はボク、祈ちゃんが素直になる魔法を使ったんだ。だから今は甘えてもしょうがない」
「そ、そう……?」
言い訳を用意すると、彼女はまた大人しくなった。
そうそう、子どもは子どもらしく、素直にならなくっちゃ。
しばらく、無言の時間が流れた。配信的には事故とでも言える状況だ。けれど今は、祈ちゃんの言葉を待つことの方が大事だ。彼女の頭を撫でながら、待つ。
「私、ずっと怒られるのが怖かったんだ」
やがて、彼女はポツリと呟いた。
「ずっと、お母さんに怒られるのが怖かったから。でも、音楽からは離れたくなかった。自分の表現を見せるのを、やめられなかった。矛盾してる。だってそれって、好きなことやって、全員に認められたいってことだから。でもどっちも欲した私は、こうやって中途半端な臆病者になっちゃった」
「そんなものだよ、大抵の人は。怒られるのは怖い、でもチヤホヤされたい。そんなのはありふれた感情だ。祈ちゃんが特別臆病なわけじゃない」
ボクから見ると、祈ちゃんは潔癖すぎる。ストイックなのは彼女の美点だが、自分を追いこみ過ぎるのも精神的に良くないと思う。
「だから、祈ちゃんが臆病でも怒らないし、嫌いにならない。多分、みんなもそう言うと思うな」
祈ちゃんの体を少し起こして、コメント欄を見せる。すると、彼らの応援が目に飛び込んできた。
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| ・応援してます! ・外野の評価とか気にしなくていいから! 祈ちゃんの歌は最高だから! ・なんであれ応援するぜ! |
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「……みんな」
祈ちゃんは心のどこかで自分自身のファンを信用しきれていなかった。
自分の醜いところを見れば、みんな離れていくと思っていた。
でもそれは間違いだ。少なくともボクの枠まで祈ちゃんの姿を見に来て、応援メッセージを飛ばしてくれている彼らは、祈ちゃんの弱いところも含めて受け止めてくれる。
「じゃあ祈ちゃん、手始めに、ボクにせいいっぱい甘えてみな?」
頬を真っ赤に染めた彼女がボクを見て、そしてわずかに視線を逸らす。ふらふらする視線に、震える唇。
やがて彼女は、せいいっぱいの我儘を言った。
「あ、その……マ、ママ……?」
ボクは彼女の言葉に優しく微笑んでみせた。聖母というものは、きっとこんな風に笑うのだろう。
愛と、慈しみと、親しみと、温かさと。それら全てを内包した微笑みを以て、ボクは彼女に言葉を返した。
「あ、違うよー」
「──えええええええええ!?」
ママじゃないけど、ママよりずっと愛してやるからな。
そんな言葉は、愕然とする祈ちゃんの耳にはまったく入っていないようだった。