異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

1 / 18
第一章 知らない世界で
第1話 見知らぬ世界


 

 青空には雲が広がっている。

 昼寝をするにはちょうどいい日差しかもしれないな。

 それにこういうときこそ落ち着かないとな。

 

 そういえば異世界に生きた状態で移動することを異世界転生って呼ぶことがあるよな。

 あれって厳密には転移じゃないかな。

 なぜ、こんなことを考えているかというと。

 

 遠くには鳥の鳴き声、近くを流れる小川。

 詳しくわからないがファンタジーのような様式の建物。

 簡易的な服を着る人たち。

 

 なんていうか異世界にいた。

 

 落ち着こうと心がけているが、それだけ衝撃が強い。

 漫画やアニメで見た。異世界がそこにはあった。

 つまらない授業や代り映えのしない日々とは違う、そんな世界だ。

 本当に異世界だよな?

 勝手に異世界認定してるけど。

 タイムスリップとか外国とかじゃないよな。

 確認方法が存在しないのでとりあえず異世界でいいか。

 

「とは言ったもののこれからどうするか」

 

 目を輝かせていたが、いや普通に心配になってきた。

 異世界ってものによってはハードモードだったりするけど。

 幸い街の中っぽいので一安心ではある。

 

 とにかく行動しなければ何も起こらない。

 不安だが、試しに通りがかったなるべく優しそうな人に声をかけてみる。

 

「あーあんた旅芸人? 異世界人? よくわからないけど、この道を進んだところに冒険者ギルドがあるから困ったことがあれば相談すればいいよ」

 

 やさしそうな大人が親切に教えてくれた。

 こういった異世界は言葉が通じないとか、そんなことはなかったらしい。

 いや、俺好みだ。自分にとって有利なら好きなだけ受け取ろう。

 

 大体200メートル歩くと、大きな建物が目に入った。

 屋根の上には大きな鐘があり、まるで駅前の集合場所にあるようなシンボルのようだ。

 

 おそるおそるドアを開ける。

 建物内は広く、二階にも部屋が見えた。

 目の前にはテーブルが複数並び、冒険者と呼ばれるであろう人たちが歓談していた。

 はじめてみる景色に驚きながら、奥にある受付らしき場所に歩いていく。

 カウンターには女性の方がいて制服を着ている。この人がギルド職員だろう。

 

「あの、俺、異世界人っていうかここではない世界から迷い込んだみたいでどこ行けばいいか分からないんですがここに来たらいいって教えられて……」

 

 女性は何か考え込んだ様子で、その後ピンと来たようだ。

 

「もしかして、異邦人(いほうじん)の方ですか?」

異邦人(いほうじん)? なんですかそれ」

 

 聞き覚えのない単語だ。

 

「異邦人、別の世界から紛れ込んだ人のことですね。古くからいるらしいですが、私も初めて見ました。ただの空想の言い伝えぐらいだと」

 

 なんか物珍しそうに、こちらを見ている。

 いや人を珍しい動物みたいに見られても。

 俺以外にもこの世界に来た人がいるのか。どこかで会えたりするのかな。

 

「とにかく、今俺困ってて助けてもらいたいんです」

「分かりました、上のものと話をしてくるので、お待ちください。そういえばあなたのお名前は?」

「早瀬 葵っていいます。葵のほうが名前ですね」

「分かりましたアオイさん、では少々お待ちください」

 

 一人にしないでと思いつつそんなこと言い出せず、ソワソワとした気持ちで待たされた。

 1分くらいたっただろうか、スマホをちらりと見る。

 それから2分、3分と経過していく。

 思ったよりも時間がかかっているらしい。

 

 テーブルにでも座ろうかなと、でもすぐ呼ばれるじゃないかそんな状態で別のことに意識を向けてしまう。

 めちゃくちゃいい匂いがする。

 テーブルのほうに目を向けたら、冒険者が肉を食べていた。

 いいな、うらやましい。そういえば夜ご飯がまだだったなぁ。

 お金があればこの後買ってみた……。

 

「アオイさん」

 

 受付嬢が声をかけてきた。

 

「え、あっはい」

 

 口元をふきながら、受付嬢に向き直る。

 

「で、どうすればいいですか」

「そうですね、一応ここでできることといたしましては冒険者に依頼をするという形で解決を目指す場でして……」

 

 なんとなく言いたいことがわかる。

 

「つまり、困っているならお金とかが必要と」

「まぁそうなります、念のためお聞きしますが宝石などの金品は持っていますかね?」

 

 財布を取り出す。バイト代が入る前だから、そんなになかったと思うけど。

 チャリン、チャリンと硬貨を机の上に広げる。

 

「これ使えますかね?」

 

 よくあるお約束だと使えなさそうだが……。

 

「これを直接使うことは難しいですね」

「で、ですよねー」

 

 まぁ換金とかは必要だよな。

 

「ただし、これを換金してお金に換えることはできます。ここで提案なんですがあなたの持ち物を換金して依頼料に充てる、もしくは仕事を探していくというのはどうでしょうか」

 

 少し悩む。この世界で持っていても役に立たないものもある。

 それならお金に換えれば、飯にありつけることもできる。

 それに今は他にお金を得る方法もないか。

 

「分かりました、お願いします」

「じゃあ奥の部屋の個室で話をしましょうか」

 

 受付嬢に部屋に案内された。

 もしかして身ぐるみはがされるとか……いやいや疑心暗鬼になってきた。

 

「では、持ち物を見させていただきますね、中のものを一旦見てもいいですか」

「どうぞ」

 

 学校指定の鞄から中身を順に出していく。

 教科書、筆記用具、ノート類、ペットボトル。

 漫画、ワックス、制汗剤、スマホ、ワイヤレスイヤホン。

 

「色々ありますね、これは?」

 

 受付嬢が制汗剤を手に取ってこちらに見せてくる。

 

「あーこれはですね、汗とかでて匂いが嫌なときに塗ってすーすーするみたいな……使ってみます?」

「いえ、結構です……この詳細な絵が描いてある本は?」

「漫画ですね、物語みたいな、4巻だけっすが」

 

 あれもしかしてこれの続きもう見れない?

 もしかしてものすごい切ない状態なのでは……。

 いや、今は話に集中しよう。

 

「これは高く売れると思います、ペンですよね」

 

 そういって順々に品定めをしていく。

 さっきお金を見せたことを思い出す。

 

「あーそういえば異世界のお金って換金できますかね」

 

 財布の中身の硬貨と紙幣を机の上に置く。

 

「これは、そちらの国では紙がお金になるんですね、なかなか精巧に書かれていますね。これはかなりの値段がつきそうですね」

 

 その後も順に品を見ていく。

 すべての品定めが終わったみたいだ。

 

「まず、こちらのものは売れると思います」

 

 そういってテーブルの左には教科書、筆記用具、ノート類、ペットボトル、漫画、ワックス、制汗剤が並んでいる。

 

「でこちらですが、おそらく私共でも価値を測りかねますので、ご自身で持っていたほうがよろしいかと」

 

 スマホとイヤホンが置かれていた。

 ここまで見てもらったが、どこまで売るかだよな。

 すぐ帰れるなら、教科書は持っておいた方がいいよな。

 筆記用具は買いなおせるし、漫画も読んだからまぁいらない。

 

「この教科書……本二冊は売らないです、それ以外なら売っても大丈夫です」

「承知いたしました。これだとアルトレア銀貨50枚くらいにはなると思います」

「アルトレア銀貨?」

 

 聞いたことがない、国名だろうか。

 

「失礼いたしました。この国だと金貨、大銀貨、銀貨、銅貨の四枚で取引をしています。

 銀貨なので上から三つ目の硬貨ですね」

「その銀貨でどれぐらい生活できますかね?」

「銀貨が50枚あれば一カ月と少しくらいは暮らしていけると思います」

 

 まだピンとこないが少なくとも今すぐ困る感じではなさそうだ。

 

「ちなみに今あなたが着ている服も売りに出すことが可能ですが、どうしますか?」

 

 服装か、ワイシャツとズボン、さすがに下着は売りたくない。そして靴も対象っぽい。

 いつか困る日が、いや来るのか?買いなおすのも大変だし。それに 俺の大切な元の世界の思い出だけど……。

 

「大体、銀貨30枚くらいになると思いますが」

「売ります! ええ売りましょう」

 

 先立つものは大切だ、決してお金に目がくらんだわけではない。

 

「分かりました、こちらに代わりの服があるので、これはサービスですのでお金は結構です」

 

 ワイシャツから布の服に着替えた。

 なんというか村人Aになった気分だ。

 こういう漫画に出てきそうな服を着れてテンション上がってきた。

 どこかに木の棒でも落ちてないかな。

 

「アオイさん、一つ提案ですが、冒険者になってはいかがでしょうか」

「冒険者?あの依頼とか受ける人ですか?」

「はい、アオイさんは異邦人で自分を証明するすべがないわけじゃないですか、

 冒険者なら証明書も発行できますし、少量でもお金を稼ぐことができますから」

 

 少し考える、冒険者。

 夢にまで見た冒険者、いやいいかもしれない。

 モンスターを倒し、未知を探索する。

 いやロマンがあるんじゃないか!

 

「はい、俺、やってみたいです! あ、でも俺そういうこと全然知らないです……」

「新人冒険者向けの講習があるので大丈夫だと思いますよ」

 

 初心者向けの異世界でよかったぁ。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
楽しんでいただけましたら、評価などで応援していただけると励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。