異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

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第13話 約束

 

 朝ごはんを食べながら今日の予定を考える。

 昨日の途中だった薬草採取を早めに終わらせて、夕方にはおっさんと飯を食べる。

 にしても何が話したいんだろうな。

 思い当たる節は異邦人関連か……いやまさか俺が待望の新人冒険者だから早めにコネを作りたいのか!?

 

 まぁ話せばわかるか。

 ご飯を食べ終えて、昨日と同じように袋をもっていく。

 薬草が3本あるから残りは7本持ってくると。

 街を出て森に着いた。昨日、雨が降っていたせいかところどころ水たまりがある。

 なるべく、踏まないように避けて歩かないとな。

 

 一応、天候確認。空を見上げても雨雲らしき雲は無い。

 午前中くらいには終わらせたいな、そう思いさらに奥へと目指した。

 お、2本みっけ、採取の才能があるのかもしれないな。

 かなり幸先がいいペースだな。

 その後も虫などにおびえながら、探索を続けていく

 

 進むこと数十分、川がそこにはあった。

 流れる川を見て思うのが、普通に異世界ファンタジーっていうか、ハイキングだな。

 川の水は透き通っていて、魚でも住めそうなくらいだ。

 いいものを見れたな。そう思い探索を再開する。

 げ、この薬草、虫に食われてるやん。もう一つのほうは無事なのでそちらを採取する。

 

 いいペースなのかな…………。

 グレンだったら数分で終わらせそうな気もするが、いやまぁ熟練者と比較しても仕方ないか。

 そしてついに。

 

「10本見つかった!」

 

 いや長かった、大体2時間ぐらいかな。

 で、俺は優れた冒険者なので油断しない。念のためもう1、2本余分に採取しておく。

 

 これで合計12本ゲットした。帰るか。

 鐘が一回聞こえた気がするから、まだ昼前だとは思うが午前中の目標は達成できたな。

 野犬に襲われることなく、ギルドまで戻ってこれた。

 

「ではこれが報酬になります」

 

 目の前には銀貨が置かれた。

 よし、小さくガッツポーズをする。

 一人でクエストをこなすことができた。

 明日にでもグレンに自慢でもしてパーティに入りたいって言おうかな。

 夕方まではまだ時間がある、まずは風呂だ!

 

 汚れと汗を落とした後は道具屋に向かった。新しい道具でも買ってみようかな。

 道具屋のおばちゃんから「まだ生きていたのかい」と言われてしまった。

 いや、これでもいずれ大物になるからなっ。

 そういい返したけど何をすれば冒険者として大物になるには何をすればいいんだろう。

 

 いるかどうかも分からないドラゴン退治。秘宝の発見。それとも、新しい魔法の発見。

 なんか一つくらいできたら、そう名乗ってもいいかもしれない。

 まだ夕方には少し早かったが、ギルドのテーブルで待つことにした。

 

「すみません、果実水ください」

 

 ちびちびの果実水を飲む。ゆっくり待って居よう。

 

 来ない。待っているだけだからそこまで困っていないが……。

 鐘の音が聞こえる。

 

 まだ来ない。

 机の上には、空のコップが2つ並んでいる。

 もしかして俺が何回か断ったから、その仕返しで遅く来ようとしているのか。

 約束の時間はもう過ぎてる。流石に時間がかかりすぎじゃないか。

 どこに住んでいるか分からないが、外を探しに行くか。

 受付嬢にはおじさんがいたら待っているように言伝を頼んだ。

 外套を着て外に出た。

 

 日も落ちてきて街が暗くなってきた。

 考えてみるとこの街に来てから、夜に出歩くのって初めてだな。

 とりあえず商店のほうを見に行く。

 おっさんらしき人はいない。

 念のため、公衆浴場も見てみる。いない。

 入れ違いかな。

 そう思い帰ろうとしたら初日に言われたことを思い出した。

 

『あんた裏路地はいくんじゃないよ』

 

 そうか、一応路地裏も見ておこうか。危なくない範囲をちらっとだけ。

 少し外れた通りに入る。人の気配はない。

 誰もいないか、じゃあ次の通りを見たらギルドに帰ろう。入れ違いかもしれないしな。

 

 チラッ。

 建物の陰から顔を覗かせてみた。

 

 人がいた? いや人が倒れていた。

 少し小走りでその人に向かう。

 

「えーと、大丈夫ですか?」

 

 寝そべっていて、泥酔しているような。

 倒れている人はそんな状態を思わせる。

 

「あの?」

 

 顔を見る。あれおっさんじゃん。

 こんなところで酔っ払っていたのか?

 なるほどだからギルドまで来なかったのか。

 

「おっさん、約束すっぽかすつもりか?」

 

 少し笑みを浮かべて嫌味っぽく言う。

 

「う、う……」

 

 うめき声が聞こえる。

 酔っ払った大人みたいだな……。

 しょうがない、介抱してやるか。

 肩を貸そうとおっさんを起き上がらせる。

 その時、月の光が路地裏を照らす。

 俺はその光景を一生忘れない。

 

 おっさんが血塗れになっていることを……。

 

「お、おい、おっさん!おっさん、大丈夫か」

 

 血が?……え何で。おっさんが刺されている。いやこんな驚いでいる場合じゃない。

 助けなきゃ。誰か呼ばないと。とりあえず人を呼んでそれで──。

 

「おっさん、ここで待ってろ。すぐ人を呼んでくるから!」

 

 倒れているおっさんに声をかけ、俺はその場を離れてようとした。

 だが何者かに腕をつかまれる。

 

「待て……アオイ……」

 

 おっさんが俺の腕をつかみ、か細い声で言った。

 

「大丈夫かよ、おっさん!」

 

 大きな声でおっさんに声をかける。

 

「おっさんか…へへ……まぁいい、それより、お前に伝えたいことがある」

 

 弱々しく今にも消えてしまいそうな声でおっさんがこちらに話をする。

 

「伝えたいことってそんなことより、傷をどうにかしないと……」

 

 何か止血するもの、とりあえず適当な布を……。

 

「なぁアオイお前、……日本人だろ」

「え、あ、うん、でも、なんで?」

 

 おっさんから衝撃的な言葉を言われた。

 

「……やはり、そうだったか。俺も実は……日本人だ」

「え、そうだったの!?」

 

 風貌からはとてもそうには見えなかった。

 この世界の人だと俺は勝手にそう思っていた。

 

「俺はこの世界に……来てから三十年近く帰る方法を探してきたが、ついぞ……そのやり方は見つからなかった。……なぁアオイ、もし……もし、お前が元の世界に帰れたらこれを……家族に渡してくれないか」

 

 おっさんが取り出したのは手紙と1冊の本だった。

 

「手紙?」

「あ、ああ家族に俺の嫁と……子ども宛てだ。……届けてほしい、頼む」

 

 弱弱しく差し出された本と手紙を受け取る。

 

「ああ、分かった、届けるよ、届ける。だからおっさんも……おっさんもさ、一緒に……」

 

 帰ろうぜ。

 その先はおっさんには届かなかった。

 おっさんは満足そうな笑みを浮かべて、気を失った。

 

「おっさん!おっさん!なぁおっさん。誰か誰かいないか。誰でもいいから来てくれ!」

 

 なぁ頼むよ血が止まらないんだ。

 このままだとおっさんが死んじゃうよ。

 少しずつ夜風が冷たくなってきた。

 俺の呼びかけには誰も来ない。

 

「おっさん耐えろよ、少しでいいから耐えろよ!」

 

 全力で大通りに向かう。ギルドとか治癒魔法とかなんでもいい。

 人避けてギルドへ走る。

 

「痛っ」

 

 誰かにぶつかる。

 

「アオイか?どうした?その恰好は……」

「グレン今すぐ来ておっさんを助けて!」

 

 衣服についた血を見て状況を察したグレンがすぐについてきてくれた。

 路地裏の気を失っているおっさんの元まで戻ってきた。

 

「なぁグレン、おっさんが怪我しているみたいなんだ、だから助けてくれポーションとかあるだろ?」

 

 あれがあればこの傷も治るはずだ。

 だが、グレンは何も言わない。

 冷たい風が頬を触る。

 

「ポーションとかの代金は俺が出すからさ、頼むよ」

 

 お金のことを気にしてるのかもしれない、仕方ないから俺が出そう。

 グレンはポーションを懐から取り出し、おっさんの傷口にそれをかけた。

 はぁ、よかった。これで助かる。

 

「おっさんよかったな。俺もさ、帰る手伝いはするからさ、だから早くよくなって……」

 

 おっさんは何も答えない。

 

「アオイ……」

 

 聞きたくない。

 

「アオイ!」

 

 大声でグレンが名前を呼び、肩に手をのせてくる。

 

「なぁグレンってすごい冒険者なんだろ、だったら助けられないのか」

 

 目から涙があふれてくる。

 うまくしゃべることができない。

 

「なぁ頼むよ、だってこんなのってねぇよ。……今まで頑張ってきたんだぞ」

「もう、彼はもう……」

 

 言わないでくれ、頼む。

 

「彼はもう死んでいる」

 

 そんなことはない、まだなんとかなる筈なんだ。

 

「なぁグレン。この世界ってさ死んだ人は生き返らせたりできないかなって、俺が知るファンタジーではさ……教会に行くと……生き返ってさ……」

 

 グレンが俺の涙を溜めた目を真っすぐ見つめてくる。

 

「お前がいた世界では死んだ人間は生き返るのか?」

 

 そんなことはない、そんなことはないけど……。

 だったら、それを願ってもいいだろ。

 

 そこから先のことはあまり覚えていない。

 グレンがギルドの人とかを呼んで調査をしてくれたらしい。

 俺が犯人だと疑われることもあったが、グレンの証言と単なる盗み目的の奴があっさりと捕まったことからすぐ解放された。

 別れ際にグレンが一言、言ってきた。

 

「お前のせいじゃねぇよ、だからあまり思いつめるな」

 

 部屋のベッドに腰を掛ける。

 おっさんの血の色やぬくもりが鮮明に残っている。

 グレンはそう言ってくれたが……。

 俺のせいだ。俺がもっと早く見つけていれば。俺がポーションを持ち歩いていれば。

 そうすればおっさんは死ぬことは無かった。

 そのはずなんだよ。

 俺はおっさんが話したいといったのに先延ばしにした。

 あそこで、話を聞いていれば何かが変わったのか。

 俺が真面目に聞いていれば何か変わったのか。

 

 分からない。

 でも、聞きたい人はもういない。

 

 おっさんが死んだ?

 そうか、人って死ぬものなのか。

 俺にとって人は死なないものだった。

 テレビの向こうで悲劇的なことが起きても俺には関係ない。

 家族も元気で、いつか別れが来るかもしれないけどそれはずっと未来の話で……。

 だから、俺には……関係ないことだって、そう思っていたんだ。

 

 叫び声とも言えない、うめき声が、のどから出る。

 

「……おっさん、おれ、俺は……」

 

 取り返しのつかないことをしてしまった気持ちと後悔が止まらない。

 

 どうして、どうして、どうして。

 何かを探すように本を開いた。

 おっさんが遺したもの。俺に託したもの。

 本をパラパラとめくってみるが、読めない。

 当然だ、この世界の言葉を勉強していないから。少し日本語が書かれている部分もあるが内容までは分からない。

 日記らしきものがあるがこれも読むことができない。

 何かを求めるように俺は必死にめくり続けた。

 

「これは、ひらがな?」

 

 本にはひらがなで日記が書かれていた。

 

なつの2月10日

ひさしぶりだが、にほんごでかいてみようとおもう。

うろおぼえだが、なんとかかくことができた。

きょうはいままであうことがなかったがおそらくにほんじんのしょうねんにであえた。

ちょうさとはべつでこのしょうねんのことをしりたい。

きゅうなはなしであいてをおどろかせてしまったのでひをおいてはなそうとおもう。

 

 これは、俺が出会った日のか?

 日本人に初めて会えたって言ってたってことは4、5日前に日記か……。

 それにしてもひらがなだけか……。

 次のページをめくる。

 

なつの2月11日

 日本人の少年はアオイというなまえらしい。

 まだ、ここに来てすう日らしくわたしとおなじぼうけんしゃをしていた。

 遠めに見てもたのしそうにしていた。

 話すのはまた今度でいいだろう。

 

 おっさんも冒険者だったのか……。

 俺を見て楽しそうにか……。

 次のページをめくる。

 

なつの2月12日

 ひさしぶりに家族のことをゆめに見た。あの少年を見て日本のことをおもいだしたからだろうか。

 帰りたいという気持ちがより強くなった、分からないことがまだ多いが必ず帰る。

 

「あ、あああ……」

 

 そうだよな、帰りたかったんだよな。

 俺とは違う、本気で帰りたいと思った人だ。

 俺なんかとは違う……。

 次のページをめくる。

 

なつの2月13日

あのアオイ少年と話をしようと思ったが、また断られてしまった。

アオイを見て思うのだが、もしかしたら彼は帰りたくないのかもしれない。

わたしだけが、そうなのか。

今度、話す約束を取り付けた。帰る気があるのかないのかも含めてゆっくり話がしたい。

彼がもし帰る気がないにしても、せめて日本のことでも聞けたらいいと思う。

彼に渡すものでもまとめておこうか。

 

 次のページをめくる。

 何も書かれていない、なにも。

 その次の次のページも白紙だ。

 それ以降にページは何も書かれていなかった。

 本には膨大な量の調べ物と多くの日記があった。

 

 おっさんは本当に三十年ものあいだ、帰る方法を探していたんだな。

 おれはそんな人の……話を聞きたいってささやかな願いすら奪ってしまったのか……。

 

「あ、あ、あああああ、ああ、あ、俺が……俺が……俺のせいで、ごめんなさい、俺がいけないんだ」

 

 赤く腫れた目から涙が止まらない。

 手紙と本を強く握るが涙が止まることはない。

 

 俺はその後も、日記を何回も読み直した。

 何度も何度も。

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