異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
◇訓練五日目
朝起きて、グレンにノックされる前にカウンターでご飯を食べておく。
グレンは驚いた顔をしていた。よし、俺もやればできるんです。
気になるのはなぜかグレンが大きなリュックを背負っていたことだ。
今日は野外活動らしい。野犬を狩った森に入っていく。
そこでは食べられそうな木の実や毒のある植物などを教えてくれた。
また飲み水の確保など、だいぶハードな気はするがそれだけ旅は大変なことなのかもしれない。
「さて、じゃあ今日はここで野営をするぞ」
昼が過ぎたころにグレンがそう言ってきた。
マジか、まさかの野営というかキャンプか?
「もしかしてその荷物は?」
「寝袋とか料理するための道具だな」
マジか。スパルタというかここまでやるのか。
「というわけでお前の役目は焚火の作成だ。ほらさっさと乾いた枝、探して来い」
「うっす」
とりあえず近場の落ちている枝を適当に集める。
乾いた枝か、あんまり見つからない。
木の下とか適当に探して、数十本を集めてきた。
「お、集めてきたな」
川の近くでやるみたいだ。
「じゃあ、火起こしもお前の担当な」
え、いやグレンが魔法使えるじゃん。
「え、グレンが魔法使えばいいんじゃないんですか?」
「いや、お前が一人で火起こしするための訓練なんだから、お前ができなきゃ困るだろ」
それは、たしかにそうだけど。
「早くしないと、飯が食えなくなるぞ」
「分かりました」
なんだこの腑に落ちない感じは。
なんとなくグレンが適当なのはわかっていたけどな……。
木を適当に重ねていく。
そこに適当な乾いた草を探して近くに乗せる。
で、ここからどうする。
一縷の望みをかけて、右手に力を入れるが火はつかない。
「はぁ」
ため息が出てくる。仕方ない、古典的な方法だが……。
ひたすら木の棒で擦る。手痛った。
分かっていたことだがこの方法はかなりやばい。
でもこれしかやり方を知らないしな。
何回かトライをする。
「おい、これやるよ」
見かねたグレンが革の手袋をくれた。
「ありがとう」
滅茶苦茶うれしい。
うれしいが、この辛い状況を起こしてるのもコイツだと思うと腹が立ってきた。
手袋をつけて擦る。少し煙が出たか?
「なぁアオイ、火はまだか?」
お前魔法使えるだろうが。
「あと少しです!」
それから15分ぐらいして火が付いた。
魔法の練習頑張るか。焚火を見てそう思った。
その後はグレンが夕食を作ってくれることになった。
なんか兎みたいな肉を調理している。
焚火を眺めながら、ぼーっとする。
なんか今なら魔法が使えるかもしれない。
ぼんやりとだが、そう思った。
パチパチと音を鳴らす枝を見て右手に力を入れる。
指先を見ると火がついていた、いや、ついてるやん。
「グレン見て、見て! 右手から魔法が……」
「何も起きてないぞ」
指先を見るが火は消えていた。
嘘をつくなみたいな目をされたが、そんなことはない見間違えじゃないって。
そのあとは何回もやったが魔法は発動しなかった。かn
「よし、完成したぞ」
「これは?」
「兎肉の煮込みだ」
木の皿に盛られた、シチューのようなものだ。
そんな早くできていたのか。
「へぇー。あれ? そこの目の前の焚火って使ってましたか?」
目の前で焚火に集中していて気が付かなかった。
「いや、こっちでかまど作ったけど」
唖然としている。
じゃあこの焚火はなんなんだよ。
イルミネーションか?
「そ、そうですか……この焚火は?」
「なんか雰囲気出るだろ?」
この男、一発殴りたい。
「それに火種はお前が作ったやつから貰ったからいいだろ」
「いやそういう話じゃなくてですね……」
「食べようぜ、おいしいぞ」
「まぁはい、もうそれでいいです」
グレンから器を受け取る。
湯気が出て熱そうだ。スプーンで掬い、一口食べた。
「美味しい」
「だろ、寒くなってきたしな」
旨いなぁ。
でも、俺がこんな楽しんでいいのだろうか……。
「アオイ、空見てみろよ」
グレンに言われて夜空を見上げる。
そこには一面の星空が見えた。
「え、凄っ」
都心では見られないような夜景がそこにはあった。
「きれいだろ?」
「う、うん」
「元気出たか?」
「まぁ出たかな?けど、どうして?」
グレンにこんなこと言われるのは初めてだ。
おっさんのことで落ち込んでいたが、心配させてしまっただろうか。
「最近のお前ってあんまり笑わないからよ。あのこともあったのかもしれないけどな。
楽しい時に、笑えないってのはなんていうか辛いだろ」
「そうですね……でも俺が楽しんでしまったら……その、おっさんに悪いかなって思いまして……」
「悪くねぇだろ。手紙を届けたいのは否定するつもりはないけどな。何も楽しくなさそうにしてそれだけを目的にして生きるってのは……なんて言うか辛いだろ」
それはそうだけど、それでも俺は……。
「そうかもしれないけどさ、でも楽しいって思うと、ふと思い出すんです……あの時のことを」
「そうか……」
グレンが目の前でスープのようなものを入れている。
俺にコップを手渡してきた。
「ほら、飲めよ」
一口、熱い飲み物を飲む。
オニオンスープみたいな、ほっとする味だ。
「……美味しい」
「別に思い出したっていいんじゃないか。その上で笑えたらそれが一番いい。それに楽しんだからって、その人を忘れたことにはならない……だろ?」
「……それは……そうかも?」
「そうだろ」
グレンが言っていることは一理ある気がする。
もしかしたら、俺は楽しんでもいいのかもしれない……。
「よし、兎の煮込みのお代わりあるぞ、食べないか」
笑いかけながらグレンが聞いてくる。
「食べます」
ぎこちない笑顔で返した。
美味しい、すごくおいしい。
料理を食べ終えた。幸せな気分だ。
もう一度、星空を見る。
俺はこの景色を一生忘れたくない。
その後は焚火を消さないように見張りをすることになった。
その後も何回か交代をして朝になった。
正直、全然寝た感じはしないがまぁこんなものだろう。
◇訓練六日目
街に帰ってきた。
ギルドの裏手にグレンと一緒にいる。
「そういえば、お前魔法は?」
「ああ、そういえばそうですね」
右手に力を込めて、点火する。
直後に右手の指先から火が出た。
「お、魔法使えましたよ!」
「そうだな、ちゃんとできてるな」
うれしい、何かが形になるというのは。
「よし、じゃあ次の段階に進むか」
次の段階。そうか篝火級魔法か。
「はい!」
「まず、魔法ってのは詠唱を行うことでより強力なものをつかえるようになる。篝火級なら手を離れて火の玉として撃つことができるんだ。詳しくは知らないが世界に対する宣言みたいなものだ」
「世界に対する宣言……」
「そうだ、で《イグニス》の詠唱だが。
世界の
グレンの目の前に火の玉が出て、的に当たった。
いや、かっこいいな。
「まぁ最初はこの詠唱を覚えて使ってみろ。《イグニス》だけでも発動できるが威力が弱かったり慣れてないなら不発に終わったりするから、最初は大声で言え」
「分かった」
まぁその後に試したが流石に出なかった。
少しずつ覚えていけばいいよね。
その日は魔法と剣の稽古をして終わった。
部屋に戻る。ベッドの上に腰掛ける。
いつもの日課だったしやってみるか。
《ルーメン》を発動する。
右手からは火が付きゆらゆらと揺れていた。
「よし!」
自然とガッツポーズをしてしまう。
今日はぐっすり寝れそうだ。