異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

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第17話 旅立ち

 

◇訓練最終日

 

 普段通り、朝起きてテーブルでご飯を食べている。

 

「明日、港町目指すんだろ?」

 

 今後の確認でグレンが声をかけてくる。

 

「うん、そのつもり」

 

「そういえばお前に地理教えてなかったな。今日はそこら辺とか教えていくか」

 

 食事後に机の上にグレンが紙を広げた。

 ここら辺の地図らしい。

 紙の上には地名が書かれている。

 

「今いるこの街が、リーベルの街だ。でそこから東の方に行くと港町のリュメールがある」

 

 グレンが地図を指さしながら説明していく。

 ふむふむ、それにしてもファンタジーの地図ってかっこいいな。

 情報量の少なさに惹かれるのだろうか。

 

「昼頃に行商人が来るから馬車に乗せてもらえば港町までは行けるはずだ」

 

 でそこで船を探して行くと。

 地図をまじまじと見つめるが、これは国名だろうか。

 

「そういえば王国とか魔導連邦って呼ぶ奴が多いがちゃんと国名もある」

 

 凝視しているとグレンが補足をしてくれた。

 

「あーそういえば聞いてなかったですね」

 

 なんかみんな王国とか呼ぶから気にしてなかったな。

 

「まぁ知らなくても不都合ないからな」

「王国の方をアルトレアと呼び正式名称をアルトレア王国と呼ぶ」

 

 あれ?

 聞いたことがあるような。

 袋から銀貨を取り出す。

 

「この銀貨って……」

「そうだな貨幣もこの国のものだから、アルトレア銀貨って呼ぶな」

 

 なるほど、国名がそのままコインの名前になるのか。

 

「で魔導連邦はメルキア魔導連邦って呼ぶ」

 

 なるほど、メモしておこう。

 アルトレア王国とメルキア魔導連邦っと。

 

「まぁでも大体の奴は王国とか魔導連邦って呼ぶけどな。そっちの方が分かりやすいし」

 

 さようですか。

 

「……とりあえず覚えるだけ覚えておきます」

 

 損はないはずだと信じたい。

 その日は明日に向けての準備をすることになった。

 

 道具屋でリュックを買う。ポーション、寝袋などなど。

 とりあえず野営に必要なものをつめていく。

 冒険者兼旅人としての装備も出来てきた。

 

「よし、装備も整えたな。じゃあ今日はこれで終わりだ」

「これで終わりですか……」

 

 少し寂しさがあるが、やるべきことは終わった気もする。

 

「まぁ寝坊しないように早く寝ろよ」

「……分かった」

 

 夕方ぐらいだが早めの解散となった。

 

 部屋まで戻ってきた。

 久々のゆっくりとした時間だ。

 この一週間はグレンとずっと一緒にいたからな。

 寂しいような、そうでもないような。

 

 リュックからおっさんの本を取り出す。

 読めない箇所があるが気になるので読んでみたい。

 

 まだ少しの罪悪感はあるが、でもやらないとな。

 今まであまり読もうとしてこなかったが、特に日記の部分を読んでみたい。

 文字の変換シートを取り出し、最初のページを開く。

 

「こ・の・せ・か・い・に・き・て・よ・う・や・く・お・ち・つ……」

 

『この世界に来てようやく落ち着けた。こんなことは映画みたいだが、必ず帰る』

 

 来たばかりのころだろう、30年以上前の日だ。

 どんな気持ちだったんだろう。

 下のほうに文字が書かれているな。

 ここだけ日記の本文とは違う。単語だろうか?

 

「し・の・づ・か か・つ・ひ・こ………」

 

篠塚 勝彦(しのづか かつひこ)?…………もしかしておっさんの名前か!」

 

 そうか、そうだったのか俺はそういえば名前を聞いていなかった。

 おっさんは俺のことを調べたのに、俺は何にも気にもしないで。

 他人のことなんて気にも留めないで……。

 

 気が付くとドアを開け、俺は走り出していた。

 日が落ちかけているが、まだ開いているはずだ。

 

「おばちゃん!」

 

 勢いよく道具屋のドアを開ける。

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、俺その……」

 

 ここで、言わなきゃいけないことがある。

 俺には最初の日から世話になっていた、この人に。

 

「忘れ物かい?」

 

 深呼吸をする。

 

「ごめん、俺。おばちゃんの名前を知らなかったんだ。……今更、遅いかもしれないけどおばちゃんの名前を教えてくれないか?」

 

 おばちゃんが目を丸くしているのがわかる。

 そうだよな、今まで知ろうとしなかったのに。

 

「へへっ、別に知らなくてもいいだろうに。私はガルダっていうんだ」

「ありがとうございます、ガルダさん。あと今までのことも」

「そうかい、少しは大人になったようだね。で、あんたは?」

「ん?」

「あんたの名前だよ」

「あ、はい、アオイって言います」

 

 そういえば名乗ってなかったな。

 

「そうかアオイ。あんた旅に出るんだってね。今の気持ち忘れるんじゃないよ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 道具屋を後にする。まだ寄る場所はあるはずだ。

 

「おやっさん、まだいる?」

 

 武器屋のドアを開けて声をかける。

 

「お、坊主どうした?」

「その、俺の名前はアオイって言います。あなたの名前を教えてください」

 

 もうなんていえばいいか分からない。

 だけど俺にはこういう聞き方しか知らないんだ。

 

「今更かよ、ヴォルクってんだ」

「その、いい名前ですね!」

「それ言いたいだけだろ!」

「いやそれもあるんですが、右も左も分からない俺に親切にしてくれてありがとうございます」

「そうか、お前旅に出るって話だったな。じゃあせっかくだからアドバイスだ。

 アオイ、俺は武器が好きだが、武器は結局のところ道具でしかない、それを忘れるな」

「はい!」

 

 なんとなく言いたいことはわかる。

 目的のために使うってことだと思う。

 

「俺、頑張ります!」

 

 ギルドの方に戻ってきた。

 受付でいつも俺に対応してくれた人に声をかける。

 

「アオイさん、その節は残念でしたね……」

「ええ、そうですね。いえそんなことより聞きたいことがありまして」

「はい、なんでしょうか」

「あなたの名前を教えてくれませんか?」

「っ、なんだか口説かれているみたいですね。私はフィナって言います」

 

 ナンパだと思われている。いや別にそんなことはないんだが。

 

「いやそんなつもりはなくて。その、今までお世話になった人に感謝を伝えたくて」

「なるほど、そういうことでしたか」

「仕事ですからともいえますが、アオイさんは異邦人なので少しは心配で気にはかけていました。

 ですのでこれからもお気をつけてください。あなたの旅がよいものでありますように」

「ありがとうございます!」

 

 これで、お世話になった人に挨拶をすることができた。

 グレンには明日の出発前に…………。

 大丈夫だよな。ちょっと心配になってきた。

 

 ちらりと見渡すとテーブルでグレンが飲んでいる。

 思ったより近くにいたな。まぁ探す手間が省けた。

 

「お、アオイか、お前も飲めよ」

「飲みすぎじゃないですか?」

「まぁいいだろ、門出を祝う前祝いみたいなもんだ」

 

 俺も椅子に座り、飲み物を頼む。そして、グレンと向き合う。

 前から気になっていたことを聞こう。

 

「グレンってなんで俺にここまでしてくれたんですか?」

「そりゃあお前が子どもだからで……」

「いや、それもありそうですが、それにしても親切にしすぎですよ」

 

 なんとなくグレンはそれだけが理由だけじゃない気がする。

 親切はいいことだが、気にはなる。

 

「はぁ、そうか、そうだな。俺の仲間が怪我したって言ったよな?」

 

 グレンが観念したように話してくれた。

 

「ええ、同じパーティの人だって」

「そいつが怪我をした原因は俺だ。油断していた。少しの言い訳もできない。……そのあと俺は冒険者として休業をしていたんだ。結構落ち込んでいてな、このまま冒険者はやめちまおうかなって思ってんだ……」

 

 グレンにもそんなことがあったのか。

 エールを飲みながら続きを語った。

 

「ある日、新人がいるから面倒を見てやれって言われてな。こいつが本当に馬鹿なやつでな、

 悪いやつではないんだけどな。そいつは何に対しても楽しそうでな。そいつを見ていたら、

 俺も少しは誰かのためにできることがあるなって思ってな……」

 

 そうだったのか。俺は……。

 

「……その馬鹿な人はきっと感謝していると思いますよ」

「そうだといいけどな……お前って本当に涙もろいよな」

 

 そんなことはない。

 俺は、こんな俺でも誰かの助けになれていたんだな。

 こんなことにも気づけなかった。

 

「そんなことないです。それよりもこれを渡したくて」

 

 涙を拭きながら、机の上にお金が入った袋を置く。

 

「これは?別に謝礼が欲しかったわけじゃないぞ」

「これは謝礼とは別です。グレンがあの夜にポーションを使ってくれたじゃないですか。これはその分の代金です。道具屋のガルダさんから聞いた額ですが……」

 

「あれは俺がしたいからやっただけだ」

 

 グレンはそういうと思ったよ。

 

「それならこのお金も俺が渡したいから上げます」

「ふっ、お前言うようになったな」

「それに……あの人はもうあの時点では亡くなっていたんだと思います。それを俺は認めたくなくて、あの時のポーションは俺のわがままでした。だからこのお金を上げたいんです」

 

 悲しいことだけど、あの時点で俺にできることはなかったんだ。

 

「そうか、じゃあ遠慮なく。おーい、エールをくれないか」

 

 グレンが袋から銀貨を取り出した。

 ウェイターを呼んでエールを追加する。

 

「あれ、今しんみりした空気じゃないでしたっけ?」

「そうか?忘れちまったな、それよりお前も付き合えよ」

 

 当然のことのようにグレンが言ってくる。

 

「分かったよ……ありがとう」

「お前もたくさん飲めよ、新たな旅人に乾杯だ」

「いや別に俺まだ酒飲めないですよ」

「固いこと言うなよ」

 

 相変わらず、酔っぱらいすぎる。

 でも俺はこの変な絡みが好きだったんだな。

 

「しょうがないですね、今日はどこまでも付き合いますよ」

 

 俺も果実水を注文した。

 

「それで、お前なんかやりたいことないのか」

「それは手紙を届ける以外ですか?」

「ああ、そうだな。前に大物になるとか言ってなかったか」

 

 そういえばそんなこと言ってたな。

 大体その場のノリで言っていた記憶しかない。

 

「それは、忘れてください」

 

 今思うとだいぶ恥ずかしいやつだな。

 やりたいことか、今の俺が……。

 

「そうですね……帰る方法を探しながらですがこの世界を楽しんでいきます。

 まだ知らない魔法や街並み。美味しいものを食べたり。

 そういったものを楽しんで生きていきます!」

 

 笑顔でグレンに答える。

 当初の目的を思い出した。

 そういえば俺はこの世界を楽しんでいたんだな。

 

「いいじゃねえか、いつかその話を聞かせてくれよ」

 

 その後もグレンと飲み明かした。どんちゃん騒ぎが夜遅くまで続いた。

 

 

 日の光で目が覚める。

 頭痛がひどい。

 おかしい、果実水しか飲んでいないはずなのに。

 

「まだ、昼までは大丈夫だよな?」

 

 これでもう一泊したらギャグだ。

 荷物を整理して、部屋を後にする。

 朝飯を食べ、グレンと合流をした。

 後は馬車に乗るだけ。

 

「もうそろそろだな、ギルドから書類を受け取ったよな」

「はい、これを次の街で渡せばいいんですね」

 

 冒険者の実績はギルドで発行される書類を次の冒険者ギルドに渡すことで移行ができるらしい。

 これがあれば次の街でも冒険者として働ける。

 

「まぁ、もし疲れたらこの街に戻って来いよ、パーティは歓迎だからな」

「ありがとうございます。もし帰れるとなっても一回は顔を見せに来ますから」

 

 馬車が来た。もう乗る時間だ。

 乗る直前にグレンに向く。

 

「俺、グレンに……あなたに会えてすごく幸せでした、本当にありがとうございます」

「ああ、そうだな、俺もお前に会えてよかった。ありがとう」

 

 泣きそうだ。

 よく見るとグレンも涙をこらえているように見える。

 

「じゃあ出発するぞ」

 

 行商人が声をかけてくる。

 

「じゃあ、どこかで会えたら」

 

 手を挙げて、別れを言う。

 

「ああ、また冒険しよう」

 

 グレンも同じように手を上げる。

 

 馬車に乗り込み、少しずつ動き出した。

 城門を潜り、あれだけ大きく見えていた街が今は小さく見える。

 俺はこの街でいろんな人に守られていたんだな……。

 

 荷馬車の隙間に座る。バッグから本と手紙を取り出す。

 手紙は汚れないように専用の皮のケースで覆ってもらった。

 

 あの時……おっさんは俺にこの手紙を渡した。

 強制とか、おっさんはそんなつもりはないかもしれないけど……それでも届けたい。

 償いとかそんなんじゃなくて、これが俺のやりたいことなんだ。

 

 だから、篠塚さん……いや、篠塚のおっさん。

 俺がこの手紙を必ず届けるから。

 見ていてくれ、これから始まる帰還の物語を。

 

 

 

 

 




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