異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
第18話 街道をゆく
ガタンゴトンと揺れる馬車の中にいた。
乗って数分後にはそのまま座っていては疲れると思い、タオルを座布団代わりにしている。
それにしても、馬車って思ったよりハードだなぁ。
夜行バスぐらいの辛さがあるのかもしれない。
外の景色を眺めていたが、草原と遠くには山が見える程度でもう慣れてしまった。
やることもないし、これからのことでも考えるか。
まずは港町まで向かう。名前はなんだっけ?
メモを確認する。そうだ港町のリュメールだ。
でそこから船で魔導連邦へ向かうと。
ついでに港町で異邦人関連の聞き込みをする。
気になるのは路銀が足りるか?ということだ。
グレンに返したポーション代や旅のために揃えた道具を考えてもそこまで貯金はない。
船に乗るのにもきっとお金がかかるだろうな。
「港町に着いたら、稼がないとなぁ」
ため息交じりに、ぼやいてしまう。
直近の予定としては、金を稼ぐ。これだな。
さてと、篠塚のおっさんの本は、まだ全部を読めていないが、やることもないので異世界転移について考えていこうと思う。
分かっていることと言えば、異邦人と呼ばれる人たちは異世界に突如召喚される。
いや、これしか分かっていない。
漫画とかだと、召喚した人とかそういった目的を持った人が目の前にいるが俺の場合もおっさんの場合も目の前に誰か居たとかそういうことはなかった。
例えば、愉快犯の魔法使いが俺たちを召喚したとか?
もしくは本人も意図せず召喚しているとか。
だとしたら、はた迷惑すぎるな。もし見つかったなら一発殴るか。
いや、俺の分とおっさんの分で二発だな。
……おっさんの分だけでいいか。
本をパラパラとめくる。
30年か。おっさんが30年近くかけても真相がわからなかった帰還の方法か。
もしかしたら一筋縄ではいかない問題なのかもしれない。
そうかもしれないけど、でもやるって決めたんだ。
悩んでいても仕方ない。
それにしても本当に馬車って、揺れるなぁ。
勝手なイメージでのどかなのを想像してたよ。
荷物と一緒の席なので文句は言えないが、もしかしたら人が乗る用の馬車は割と揺れが少ないのかもしれない。
途中の上り坂の時は荷馬車を降りたり、荷物が崩れそうなときには支えたりとなかなかにハードな旅である。
日も暮れてきたところで馬車が止まった。
「よし、じゃあ今日はここで休憩にしよう」
行商人のパルモさんがこちらの馬車にも声をかける。
俺が港町に行くのに同行を了承してくれたいい人でもある。
ちなみに港町までは2日ほどかかるらしく、途中で野営をしてから向かうのが普通らしい。
馬車から降りて、パルモさんの所に向かう。
「アオイさん、どうですか馬車の方は?」
「ええ、まぁなかなかに楽しかったですよ……」
苦笑いをするような回答しかできない。
いや、普通に現代人にはきつすぎる。
「それはよかった。夜ご飯の方は皆で食べましょうか」
行商人の処世術というか、あんまり気にしてないような回答をいただく。
まぁ乗せてもらっているので、贅沢なことはあんまり言えない。
それはそれとして夜ご飯はありがとうございます。
「はい、ありがとうございます。俺も何か手伝いますよ」
「そうですか、でしたら、おーいセイル来てくれ。アオイさんも手伝ってくれるらしい。何かやることは無いか?」
そういって部下のセイルを呼ぶ。眼鏡をかけていて、雑用を担当しているようだ。
「じゃあ、あとは任せたぞ」
「分かりました」
「アオイさん、薪を運ぶのを手伝ってくれませんか?」
「はい、分かりました」
荷馬車から薪を取り出す。焚火を作るようだ。
セイルが火をつけようと、火打石を探しているみたいだ。
「あ、火つけるのやりますよ」
そういって右手から燈火級魔法の《ルーメン》を発動する。
細かい枝に火が燃え広がる。
「アオイさんって魔法使えるんですね」
「ええ、まぁ最近使えるようになったんですが」
なんというか、尊敬のまなざしをされている気がする。
魔法って結構珍しいのかな、グレンの話では割とできる人が多いとのことだったが。
その後も水汲みなどを手伝った。
焚火を囲み夕食をみんなで取ることとなった。
パルモさんとセイル、あとは護衛の二人組がいる。
なんか林間学校みたいな、小規模なキャンプファイアーみたいな感じだ。
兄弟らしく、ハーゲン兄弟とのことだ。
二人の名前をそれぞれ聞いたのだが、頑なに教えてくれなかった。
そういうパターンもあるんだな……。
御者の二人は少し離れているところで食事を取っている。
セイルがこちらに話しかけてきた。
「アオイさん手伝ってくださり、ありがとうございます」
「いえ、別にそこまでたいしたことしてないですから」
いや、本当にしてないんだよな。
物を移動しただけというか。
「アオイさんって魔法が使えるんですよね?」
「まぁさっき見せたやつだけですが」
「ちなみにコツってあったりします?」
コツを聞かれてもな……。
「コツですか。まぁなんていうかできるまでやったといいますか。もしかしてセイルさんも魔法の適性があるんですか?」
聞いてくるってことはありそうだが。
「ええ、そうなんですよね、ただ燈火級すら使えないんですけどね」
恥ずかしそうに、頭をさすっている。
「いやまぁ、別に恥ずかしがることじゃないですよ。とはいってもいい感じのアドバイスができればいいんですが」
「そうですよね、やはり僕には才能がないのかもしれないですね……」
いやいや、そんなことないぞとは言ってもなんて言えばいいか。
そこまで落ち込むことではないと思うんだけどな。
失敗しても続けることが大切というか……。
「じゃあ、見ててください」
「何をするつもりですか?」
「そりゃあ魔法の発動ですよ」
皿を地面に置き、掌を念のため空に向ける。
息を大きく吸う。
「世界の理よ……万物を照らし……光をこの手に……人類を導き給え ──《イグニス》」
魔法は発動しなかった。
よし、セーフ。
危うく発動していたら嫌味なやつになるところだった。
にしても詠唱がまだうろ覚えだったな。
「いやー、何も起きませんでしたね」
白々しい言い方をしながら、セイルさんの方を向いた。
地面に座り、皿を手に取る。
「まぁ俺も、うまくいかないことが多いので挑戦するのがいいんじゃないですかね。なんて失敗した後に説得力ないですが……」
「そうですよね! 試すことが大事ですよね」
凄く尊敬の眼差しで見てくる。
そんなすごいこと言ってるわけじゃないんだが……。
「まぁそんな感じです。そういえば俺は焚火の火の揺れとか見てたらなんかできてましたね」
「そんな方法が……」
アカン、英雄を見るような眼差しをしている。
「そういえば、見張りってどうするんですかね?」
別の話題を聞いておこう。
「ハーゲン兄弟が担当してくれるので僕たちは普通に休んでいいと思います」
「いやー楽が出来て助かります」
その後は就寝となった。
俺はというと、荷馬車の中に何とか場所を空けて寝転がる。
うーむ、どう見ても地震が来たらそのまま下敷きになりそうだな……。
いやまぁ地震とか起きた記憶がないから大丈夫だとは思うが。
寝るか。
「………!?」
突風が荷馬車を揺らす。
「あっぶな」
上の方から荷物が落ちて顔に直撃するところだった。
なんかそういう修行みたいになってるな。
外で寝よう。
…………少し寒い。