異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
「はい?」
振り返ると、二人の男がいた。年齢はグレンより高めで、30前後だろうか?
なんか粗暴な雰囲気を感じる。
「俺に、何か用ですか?」
「いや、新人にちょっとした挨拶でもしてやろうとよ」
「はぁ、なるほど」
こ、これはもしかして、冒険者同士のいざこざってやつか!?
なんか、ちょっとだけ感動をしている。
いや、そうだよな、そういうこともあるよな……。
「まぁ怖がるなって、いろいろ教えてやるから、分かるだろ?」
多分、金をよこせって言いたいのだろう。
俺としては船代を稼ぎたいので全力で抗いたい。
少しずつ距離を詰めて歩いてくる。
こういう場合はどうすれば……。
グレンの言葉を思い出す。
『路地裏とかで複数人に襲われたら、一番弱そうなやつの顎を殴れ
でそのまま驚いてるやつをな……』
いや、あんたが顎を殴ったら相手が死ぬだろ!
……っとこんな役に立たない情報を思い出している場合じゃない。
「おい、聞いてるのか?」
変なことを考えていたら、目の前まで男たちが来ていた。
「あ、はい、そうですね……」
何とかして穏便に済ませたい。
こういう時には……。
「ったく、こんだけ親切にしてやってるのによ」
「ちょ」
しびれを切らした一人が俺の胸倉をつかんできた。
怖いな。
いや、普通に苦しい。
ここまでやられたならもう、やるしかないのか?……。
咄嗟に首をつかむ手を振りほどこうと掴んだ。
「熱っ!?」
相手の男が叫んだ。
「お前、もしかして魔法が使えるのか……」
右手を見る。ほぼ無意識だったが、魔法を使っていたらしい。
火は出ていないが、かなりの暑さだ。
いや、怖っ、危ないやろこの力。
右手が疼くってレベルじゃないぞ。
「チッ、おい行くぞ」
興がそがれたのか、それともこれ以上の争いはよくないと判断したのだろう。
もう一人の男に声をかけてどこかに行ってしまった。
「はぁ……都会は怖いなぁ」
息を整えて、深呼吸をする。
メイン通りの方に戻ろうか。
来た道をゆっくりと戻る。
「へぇ、新人がいびられていると思ったけど、お前結構やるなぁ」
感心したような言い回しをしている。
建物の陰から、一人の男が現れた。
歳は同い年ぐらいで、人懐っこそうな笑みを浮かべているな。
「えーと? どなた」
「まぁ人助けに来た冒険者だな。新人がいじめられてるのかなと思って」
こんな裏路地に人の気配はあまりなかった。
「もしかしてなんですが、ギルドから俺の後を三人がつけてたってことですかね?」
「まぁそういうことだな」
俺、人気者過ぎないか……。
というか全然気が付かなかった……。
「それにしても、あいつらを追い返すなんて凄いな」
「まぁ、たまたまみたいな感じですがね、そういえば俺はアオイっていいます」
思い出したかのように名前を言っておく。
なんか、過剰に評価されている気がする。
「へぇ、たまたまね。なんとなくやるときはやるみたいな雰囲気を感じたけどな」
この街に来てから勘違いに勘違いが加速している気がするな。
「いや、そんなことないですって」
「まぁいいや、アオイどこかで話さないか?」
「いいけど」
謎の同い年ぐらいの奴についていく。
街中の大通りを通ってギルド近くの建物に来た。
建物内はレストランらしく、食事場みたいだ。
『セイレーンの杯』という店の名前らしい。
ここは冒険者がギルドの待合室代わりに使っているらしい。
どおりで、向こうの建物には人が少ないわけだ。
話を聞くと客や店員が定期的に依頼書のコピーを貼ってくれるから、
依頼を受けるとき以外はここで完結するらしい。
なんというか、サービスをほぼ乗っ取られているみたいな形だ。
「まぁなんか適当に頼もうぜ」
ジェスに勧められ、果実水を頼んだ。
「で、俺になんの用?」
「いや、同い年ぐらいだから気になってよ」
「そうだな、自己紹介からでもするか。遅くなったが俺の名前はジェス。お前と同じ冒険者だ」
とりあえず会釈をしておく。
「それは、どうも。そんなに年齢が近い冒険者いないの?」
「まぁ大体年上ばっかだな、街にもよるが」
言われてみればグレンと冒険していた時も少し上か大人が多かったな。
まぁそんなもんなのかもしれない。
果実水を一口飲む。
パイナップルみたいな、味だな。
南国味とでもいえばいいか。
「ここからが本題なんだが、パーティ組まないか?」
「パーティ?いやそんな会ったばかりなのに?」
まさかのパーティ勧誘。
俺って結構人気者だな。
「別にいいじゃねーかよ、何回かでいいからさ」
少し考える。
確かに今は船代を稼ぎたい。
それに一人では受けられない依頼も二人なら受けることができるかもしれない。
騙そうとはしてないよな?
ジェスの方を見る。なんというかそこまで考えてなさそうな。
まぁ調子のいいやつって感じなのかもしれないけどな。
「少しの間だけならいいよ」
「よっしゃ!じゃあよろしくな!」
まぁなんというか喜んでくれるのは悪い気分じゃないな。
「じゃあ最初の相談なんだけどさ、おすすめの宿ない?」
「なんだ?宿探しからか」
「別の街から来たからな、隣街のリーベルから」
「へぇーあそこから、なんでまた?」
どこまで話すべきだろうか。
とりあえず魔導連邦に行きたいぐらいでいいか。
「ちょっと魔導連邦に行ってみたいんだよね、調べ物というか。ここなら直通の船があって聞いてね」
「ふーん、じゃあ冒険者として船代を稼がねぇとな」
果実水代を机の上に置いて店を出る。
「宿だけど希望はあるか?」
「そうだね……冒険者ギルドが近くて、日当たりがよくて、おいしいレストランがあるようなそんな場所がいいな」
「……お、おう……意外に欲張りだな」
まぁ、この中ならレストランがあるとさらに加点される。
ジェスは俺に任せておけみたいな雰囲気で椅子を立ち上がった。
店を出る。
ジェスの後をついていく。
ギルド前から、大体5分くらい歩いたところにその建物はあった。
三階建ての宿だ。
ドアを開けて、中に入る。
おお、一階は受付と食事場になっているらしい。
「まぁここなら近いんじゃねぇの」
「なかなか、よさそうだね」
受付の人に宿代を聞いたが、そこまで高くはない。
まぁギルドの時よりも高いんだが、そこは仕方ない。
とりあえず2階の部屋らしい。
一週間を前払いで払う。
「荷物を置いてくるわ」
「おう」
これは、この後も話がしたいからの『おう』なのかどっちだ?
とりあえず早く荷物を置いて戻ろう。
部屋のドアを開ける。
部屋には小さい窓がついていた。
窓からは海が見える。
これが海の見える部屋!
海なし県に住んでいたから海を見るとテンションが上がってくる。
まぁ他はいつも通りのベットと机があるだけだ。
リュックを置いて、部屋を出る。
ラウンジに戻るとジェスがいた。
あ、やっぱり話が続く感じだったのね。
「よう、部屋はどうだった?」
「いや、いいね。海が見えるのが最高だよ」
「そうか?どこでも見れるけどな」
お、喧嘩か?海なし住まいに対する喧嘩か?
「まぁ前まで見れなかったからな」
恨めしそうにジェスに視線を向けた。
「じゃあ、今後の話をしようぜ?」
ジェスは気にせずにそのまま話を進めている。
マイペースだな。
ジェスが待っている間にラウンジの食事場に陣取っていた。
「じゃあパーティ結成を祝って乾杯!」
ジェスが一方的に話を進めている。
俺もコップを持ち上げて乾杯する。
「で、なんで魔導連邦に行きたいんだ?パーティ組んだんだから教えろよ」
どこまで話すべきか、グレン曰く異邦人って言うことは言っても言わなくてもどっちでもいいらしい。
ただ不用心に話すと世間知らずと思われるので言う相手は選べとのことだ。
ジェスを見た感じではまぁそこまで悪いやつには見えない。
「……そうだな、その前に俺は根無しというか異邦人なんだよ」
「へぇー言われてみればその髪色は珍しいな」
黒髪を見て、ジェスがそういう。
そうなんだ、確かめるように自分の髪を触る。確かに見なかったな。
「でまぁ魔導連邦が魔法に詳しいらしいからちょっと行ってみたい」
帰る方法を探してるとかはぼかしておこう。
「なるほどね、でも船でも結構値段かかるぜ?」
「それは、頑張るしかないでしょ」
破れかぶれだが、少し笑いながら答える。
「それもそうだな」
その後は街の案内をジェスにしてもらった。
とりあえず公衆浴場はあるらしい。一安心だ。
明日から冒険者ギルドの近くのセイレーンの杯で待ち合わせをする約束をした。
その後は適当に食事場で食事を取りつつ、風呂に入った。
ついでに魔導連邦の船代を調べたが大銀貨が10枚らしい。
野犬四頭換算なら一人で四〇頭も狩らないといけないらしい……。
部屋に戻ってきた。
部屋のランプを《ルーメン》でつける。
潮の匂いが部屋の中までするな。
日も落ちてきて、窓の外から青光りする光が見える。
街の真ん中の方だろうか。
大きな塔の天辺から青い塊がゆらゆら揺れている。
青い色の炎なのかもしれない。
こういうところを見ると異世界って感じがするな。
寝るか。