異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
鐘の音で目が覚める。
窓の外を見ると、水平線から太陽が昇ってくるのが見えた。
太陽?まぁ暫定太陽でいいか。
一階で朝食を食べ、食事場に向かう。
食事場に着くとジェスが指定席と言わんばかりに陣取っていた。
「よぉ、やっと来たな」
「ああ、おはよう。で、今日はどうする?」
「そうだな、まぁ面白そうな依頼がないか探して受けてみようぜ」
依頼書の前で、いいのがないか探してみる。
時間をかけないとまだ文字は読めない。
水路の掃除。
これ、もしかして漁の手伝いか?
こっちは冒険者というか、日雇いバイトみたいなのが多いな。
「なんか、街中で手伝うのが多いな」
「まぁこの街だとそんなのが多いぞ。人手不足ってわけではないが、とりあえず貼ってあるみたいな感じだよ。つまらねーよな。こんなのガキの手伝いだっての」
嫌そうにジェスがぼやいている。
まぁ冒険者という呼び名にしては名前負けしている。
「お、これはどう?」
一つの依頼を見る。
「街の外にいる、大トカゲを狩ってほしいだって」
依頼日数は3日以内で悪くなさそうだ。
対象は一頭。
報酬も大銀貨3枚だ。
まぁジェスが強そうな感じだからいけるだろ。
「ジェス?」
反応がないジェスに呼びかける。
「お前、結構強い感じか?」
「いや、そうでもないけどさ」
「いや、二人ならいけるのか……大銀貨3枚か、これができれば確かに美味しいな。…………よし受けようか」
なんかジェスが長いこと考えて答えを出している。
「いや、不安なら受けないけどな」
「いや、問題ない」
俺の方が不安になってきたな……。
「じゃあこれを二人で受けるからな」
店の方の張り紙を剥がして冒険者ギルドに向かう。
それから、冒険者ギルド側の依頼書を回収して受付に提出する。
これ二度手間だな……。
「ではこちらの依頼は3日以内の達成をお願いします。
依頼確認として腕の一部の提出をお願いします」
げ、マジか。やりたくねぇ。ジェスが代わりにやってくれないかな。
二人で依頼は受けられたので、準備を始めよう。
外に出て歩きながらジェスと作戦会議をする。
「じゃあ狩りに行くか?」
「いや、先に下見でいいかな。大トカゲを見て、装備を整えるか判断しよう」
準備に時間をかけて戦闘はなるべく短めに済ませたい。
「そんなもんかな」
戦い慣れているのか分からないが、一応納得したらしい。
街の裏路地に来た。
人がいない場所らしいのでここなら剣を振り回してもいいらしい。
なんか、あんまりいい思い出がないが、ここしかないなら仕方ない。
「ついでにジェスの戦い方とか知りたいな。連携が少しでもできたらいいから」
そう聞くとジェスが腰から短剣を取り出した。
「俺の武器はこれだな」
「へぇー短剣か。かっこいいな」
素早い動きで翻弄するそんなのをイメージする。
「だろ、まぁ基本はいざこざ用で、魔物相手にあんまり使ったことはないけどな……」
「ん? あんまり? もしかして魔物を狩ったりとかしたことないの?」
「狩ったことあるぞ、小さなネズミとかな」
それはほぼ、狩ったことがないでいいだろ。
まぁ見栄なのかもしれない。
俺も野犬ぐらいだから心配だけどさ。
「……大丈夫かな」
「行けるだろ?お前、強いんだろ?」
なんか熟練者みたいに扱われているが、決してそんなことはない。
「いや、別にそこまでは強くないよ。野犬を狩ったぐらいで」
「野犬が行けるなら、大トカゲぐらい余裕だろ」
「そんなことはないけど、受けちゃったから仕方ないの……か?」
ジェスは楽観的に考えているが大丈夫だろうか。
「じゃあ、大トカゲを見に行こうか」
「で、やれそうならサクッとやると」
「まぁ可能性は低いけど、それもできそうならあり。でも今日は戦わない予定」
ジェスと一緒に街の城門まで歩いてきた。
それにしてもこの街だからなのか日差しが強いな、フードがあって正解だった。
依頼書曰く、城門から出て、少し離れたところに湿地帯のような森があるらしい。
そこには大トカゲがいるから狩ってほしいとのことだ。
数はわからないので確認をしつつ進むことになるが、依頼書を鵜呑みにするなら一頭だけのはずだ。
ギルド証を衛士に見せて外に出る。
街道を少し歩く。右手に見えるのが、その森だろうか。
「ジェスは街の外とかに出たことあるの?」
「いや、ほとんどないな」
ないんかい、もしかして今回は俺が頑張らないといけないやつか。
大トカゲがどんなものか次第だな。
森に入る前まで来た。
「じゃあ俺の方が前に出るから、ジェスは後ろで頼んだ」
「ああ、分かった」
少しの緊張があるが、森に入る。
湿度が高めのせいか、じめっとしている。
剣はいつでも抜けるようにしておく。
少しずつ歩くが、何か生き物がいるか分からない。
「ジェス? もし見つけたら、俺に静かに教えてくれ。今ぐらいの小声で」
ジェスがサムズアップしている。
10分ほど入ったが、まだそれらしきものは見つからない。
服には汗がたくさん染みてきて、ぬかるんでいる地面に体力が奪われる。
疲れてきたな、今日はこのまま帰るか……。
後ろから肩をたたかれる。
「アオイ、いたぞあそこだ」
ジェスが小声で教えてくれた。
ジェスが指さす方向を見る。
そこには大トカゲがいた。体長は一メートルくらいだろうか。
にしてもよく気が付いたな、侮れない。
「まだ近づかないで、ここから観察しよう。他にもいないか見ておきたい」
「分かった」
大トカゲはのそのそと歩いている。
他の個体は今のところ見えない。
ゆっくりとしているように見えるが、依頼されるぐらいの凶悪なものかもしれない。
「ジェス?あの大トカゲって毒とかあったりするか?」
「いや、ないはずだ。それにあるなら、依頼書にも注意書きがあるはずだからな」
ジェスが街の時とは違う真面目な声色で説明をしてくれている。
信じてよさそうだ。
じゃあ、これなら何とかなるか。
「おい、あいつ動くぞ」
ジェスに言われて大トカゲを見る。
大トカゲはこちらではなく、反対の方へ向かった。
気づかれたのか……?
「距離はこのままで少しずつ近づいてみるか」
「おう、分かったぜ」
これはもしかして、あれか?
獲物を狙っているのか?
大トカゲの視線の先には小さな鳥がいた。
「大トカゲってもしかして肉食?」
「何でも食うみたいな話は聞いたことがあるな」
なるほど、詳しいな。
大トカゲと鳥の距離は5メートルほどだ。
鳥は気づいた様子はない。
少しずつ距離を詰めている。
残り3メートル。
突如、大トカゲは突進した。
驚いた鳥は暴れるが突然のことに対応できず……グロい。
「お、おい、あれ本当に俺らで倒せるのか?」
ジェスが心配そうにしている。
「あのレベルならいけるはずだ。でも今日はやめておこう」
自信満々に言ってしまったが、おそらく倒せるだろうという程度だ。
突進を見ても避けられないレベルではない。
「ああ、分かった」
すぐに街道まで戻ってきた。
「はぁ、疲れた。マジで倒せるのかよ、あれ?」
地面に座り込んで、ジェスが心配そうに聞いてくる。
「それなりに準備はするけど、ダメそうなら撤退すればいいでしょ」
「それ大丈夫なのか?まぁ死ぬよりはましだけどよ」
「そこは何とか頑張るしかない」
破れかぶれな笑顔でジェスを勇気づける。