異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
日が出る頃に目が覚めた。
軽く食事を済ませて宿屋の外に出る。
「ジェスはまだ来てないか……」
「ここにいるぞ」
急に声をかけられて体がびくっとした。
「おお、脅かさないでよ」
この世界の人は待ち合わせの時に後ろに立つ人がデフォルトなのか。
「じゃあ、行こうぜ」
城門にむかう。
すれ違う人が多いな。
「なんか人多くない?」
「港町だからな、朝から結構働いてる人が多いな」
なるほど、漁をするなら早起きは必須か。
こんな朝からか。
お疲れ様です!心の中で敬礼をしておこう。
城門を抜けて森の前まできた。
「思ったより冷えるな」
「ああ、朝だからな。少し涼しい」
「じゃあ俺が先に行くからジェスは後衛でいい?もし見つけたらまずは俺から仕掛けるから」
「ああ、任せた」
蔦など避けつつ森の中を進む。
夜露とでもいいのか昨日より湿度は高めだ。
短期決戦が望ましいな。
森に入ってから数十分。
集中力が落ちてきた。
目の前の茂みがガサゴソと音を立てた。
剣を抜いておく。
茂みが音を立てたと思ったら、そこから何かが動いた。
昨日見た、ギョロっとした目がそこにあった。
大トカゲか!
「ジェス前だ!」
ジェスに声をかけ、大トカゲと相対する。
俺たちに気づいた大トカゲが、こちらに向かって突進してきた。
ぬかるんだ地面に力を入れて、大トカゲの噛みつきを避ける。
そして、斬る──。
トカゲの尻尾が腹に当たりよろけた。
「痛ったっ」
防具の上からだったからそこまでダメージは無い。
衝撃のせいで斬ることはできたが傷は浅い。
大トカゲはそのままの勢いでジェスの方に突進をした。
「ジェス!避けろ!」
ジェスが突然のことで対応できていない。
避けるが、体勢を崩しかけている。
俺はそれを見て大トカゲに全力で走った。
残り3メートル。
あと少し。
ここだっ。
「っ!」
剣を振り下ろす。体液と血液があたりに舞う。
大トカゲの鳴き声が響く。
今度のは深い。
致命傷らしく、見るからに動きが鈍い。
「ジェス!トドメだ」
転んでいたジェスは即座に起き上がり、目に向けて短剣を刺した。
大トカゲはけたたましい悲鳴をあげ数歩歩いた後に動かなくなった。
「はーっ。はーっ、やったな」
ジェスに向けて言う。
「あ、ああ。そうだな」
血が大量に出ている大トカゲを見る。
赤い血があたり一面に広がっていた。
落ち着け、これはただの大トカゲの血だ。
深呼吸をする。
「アオイ。大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
「いや、大丈夫だ……いや大丈夫じゃないから討伐の証の採取をお願いしていいか?」
「ああ、任せろよそれぐらいなら全然いいぞ」
自分でやるつもりだったんだけどな。
いざとなると普通に無理だった。
呼吸を整える。
「よし、これでいいだろう?」
ジェスが足の爪を持っている。
いや、グロい。
「爪って肉の部分はいらんでしょ?」
業務スーパーに売ってるワニの肉かよ。
「俺が持つからいいだろ」
「まぁ……任せた」
その後に剣に付着した血を落としつつ戻ってきた。
うーむ、どう考えても大トカゲの匂いがえぐい。
他人のふりしたくなるレベルでえぐい。
早く報告して終わらせたい。
ギルドの受付で報告をする。
「アオイですが、依頼の確認お願いします。こちらが大トカゲの前足ですね」
ジェスが袋に包まれたそれを置く。
「は、はい……」
受付の人がどう見ても引いてる。
正直あの袋開けたくないよなぁ。
俺なら開けない。
「次からは爪だけでいいので」
「わかりあした」
ジェスが舐めたような回答をしている。
「こちらが報酬となります。どうなさいますか?大銀貨ですが銀貨に両替しますか?」
「はい、お願いし……」
「いや、これでいいだろ。俺が一枚だけ貰って残りはアオイがもらってくれ」
ジェスが遮った。
だが、そこは俺は譲る気はない。
「いや、断る。すいません一枚だけ銀貨にしてもらえますか?」
「はい、分かりました」
受付から両替された銀貨を受け取る。
「はい、ジェスの分」
銀貨を半分に分けてジェスに渡す。
「いいのか?俺、別にそこまで活躍できてないのに」
「パーティなんだからいいだろ。それに困ったら助けてよ」
「そうか……悪いな」
建物を出た。
ここでの最初の依頼は達成することができたな。
遠くで鐘の鳴る音がした。
まだ昼前だ。
飯を食べてもいいかもしれない。
「どうする?」
「アオイ、そのまま歩いてくれ」
「う、うん」
ジェスが小声で耳打ちしてくる。
一体どうしたんだろうか。
ジェスが路地裏に入る。
「なんか用か?」
ジェスが誰かに聞くように言った。
「いや、懐が温かそうだからちょっと恵んでもらおうかなと」
二人組が後ろから出てきた。
数日前のことを思い出す。
こいつらもしかして……。
「ギルドからつけられてた?」
「ああ、報酬狙いの小悪党だ」
この街、治安悪いな……。
片方がナイフを取り出す。
「まぁ痛い目見たくなければ……」
男が話す途中で、視界の端に何かが走った。
神速。
そう表現するしかない。
風で外套がはためく。
目の端で追うのがやっとだった。
ジェスが一瞬のうちに距離を詰めて、短剣を男の首筋に当てたのだ。
「失せろ」
「あ、あ分かったよ」
男は手を挙げ降参したようにする。
そしてそのままどこかに消えてしまった。
カツアゲを追い払うジェスのさまがなんていうか……。
「かっこいい」
「あ?かっこいいって呑気だな。お金奪われるところだったぞ」
「ジェスって強かったんだね」
「まぁ対人は割と自信あるな、魔物とかモンスター相手だとあまり慣れなくてな」
実は強いパターンかい。
短剣か、ジェスの剣裁きを見て興味がわいてきた。
いやまぁ別にこの剣もいいものだよ。
でもなぁ……。
「ジェス!短剣の使い方教えてよ!」
習うだけならタダだ。
「いや、剣使えるんだからいいだろ」
「いや、使えたらかっこいいじゃん」
「子どもかよ!」
「まぁこれからも一緒に依頼受けるならその時にでもさ」
「わーったよ、世話になったからな」
セイレーンの杯に向かう。
向かう途中に聞いたが、ああいう悪党もいるのでギルドの簡易銀行に預けて後日引き出すという策もあるらしい。
なるほど、目の前で大金のやり取りしてたから絡まれたのね。
テーブルについて料理を食べ始めた。
料理を食べながら短剣の使い方を聞く。
「で、ジェスは何で短剣使ってるの?」
「単純に安いのと、素早く攻撃できる方がいいだろ?」
「確かに」
「お前は何で剣に?」
「かっこいいから」
「まぁそんなもんか……短剣もかっこいいって言ってなかったか?」
「いろんな武器が使えたほうがかっこいいだろ?」
「そうか?」
ジェスが首をひねっているが、同意が得られないらしい。
「まぁ今度ちゃんと教えてやるよ」
「ありがとう!俺の分の肉もやるよ」
「いらねぇよ。自分の分があるから」
打ち上げは楽しく終わった。
疲れて部屋に戻ってきた。
大銀貨が1枚か、これを後9枚か……。
道のりは長いな。
そうだ、俺には強い味方がある。
それはおっさんの日記だ。
篠塚のおっさんも船代を稼いだはずだ、何かヒントがあるかもしれない。
適当にページをめくり確認をする。
それにしてもページ多いな、魔導連邦に着いたら腰を据えて読んでみよう。
魔導連邦に向かうあたりの話だ。
バイトとか稼ぐ方法とか、なんでもいい。
先人の知恵は使っていこう。
ここらへんかな。
変換シートを見ながらページをめくる。
『王国から魔導連邦に向かうには直通の船は無く陸路しかないらしい。
幸いなことに、大陸を時計回りに行けば到着できるとのことだ』
……マジか。
おっさんの時代には直通の船は無かったらしい。
俺は恵まれている方か……。
疲れてベッドに倒れこんだ。
地道に稼ぐか。