異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
港町に滞在してから一週間くらいが経った。
そこではバイトのような依頼も受けたりして少しずつお金を貯めていた。
その間にジェスからは短剣の使いかたを教わっていた。
夏休みで友達とバイト生活をしているみたいでわりと楽しかった。
ある日。
今日の昼食は……。
ハンバーグか?
プレートに乗った料理を見る。
「お!ハンバーグじゃねぇか。俺好きなんだよなこれ!」
セイレーンの杯でコックと冒険者がそう話している。
へぇーハンバーグか、俺も好きだな。
……ハンバーグってどこかの国の名前とかじゃなかったっけ?
ハンなんとかみたいな、喉まで出かかってるけど思い出せない。
……ま、いっか、美味しいし。
* * * *
「よぉ、今日も依頼していこうぜ」
ジェスが元気に話しかけてくる。
食事を食べ終わり、食器を返却する。
依頼書を確認する。
「お、これなんてどうかな」
「どれどれ?薬草採取か、まぁいいんじゃねぇの」
ジェスも了承してくれた。
依頼は薬草の採取依頼。
5日以内で、銀貨5枚だがそこまで悪くない気がする。
装備を整え、薬草の絵をよく見る。
ジェスが割と詳しいからそこは任せてもいいかもしれない。
森の中。
「この薬草は大体日陰とかにあるな」
なるほど、日陰になりやすいところを順に探して歩く。
岩の陰、木の下など。
もしかしたら水辺の近くならあったりするかもしれない。
ジェスも探していて、少しずつ薬草が見つかっていく。
この時の俺たちは油断していた。
薬草も順調に見つかり、すべてが順調だった。
安全に思えた薬草採取だがそううまくはいかない。
近くの茂みから葉の揺れる音がする。
カサッ、カサッ。
突然のことで、剣に手をかける。
鞘からは抜かない。
音のする方向には、狼がいた。
「ジェス!」
ジェスも気づき、短剣を抜く。
一体だけならいけるか?
野犬は勝てたが、狼ならいけるのか。
いや、俺たちなら!
カサッカサッ。
別の茂みからも音がした。
そこには狼がもう一匹。
それぞれが呼応するように、周りの茂みから音がした。
4頭の狼が周りを取り囲んでいる。
「やべぇ……四面楚歌じゃねぇか」
絶体絶命の状況で授業で習ったことを言ってしまう。
これが走馬灯ってやつか……いやふざけてる場合じゃない。
「ジェス! 俺が1匹に斬りかかるからついてきてくれ!」
ジェスも冷や汗をかいているが、スピードが命だ。
やるしかない。
一番近い狼に向かって、斬りかかる──。
「せいっ!」
傷が浅そうだが、若干狼が怯んだ。
今しかない!
「こっちだ!」
ジェスと一緒に森の外に逃げた。
後ろは振り返らない。
街道まで逃げることができた。
「何とかなったな」
「ああ、そうだな、生きた心地がしないよ」
「はーっ、はーっ」
お互いが呼吸を整えている。
街の近くでも、こんなことが起こるんだな。
「あの狼もそのうち討伐依頼が出るだろ。ギルドに報告だな」
なるほど、こうやって、討伐依頼が組まれることもあるのか。
「そういえば囲まれた時になんか言ってなかったか?」
ジェスが問いかけてくる。
なんだっけ?少し前の記憶を手繰り寄せる。
「あー四面楚歌?」
「そうそれだ、シメンソカってなんだ?」
「まぁ俺の国の言葉で四方向から囲まれた状態の言葉だよ」
正確には故事成語だったような気がするがうろ覚えなので
それっぽく説明しておく。
「へぇー異邦人のね」
「あんまり使ってる人いないんだけどね」
「面白いなシメンソカ」
「そうかな?」
とりあえず生き残れたのでどっと疲れた状態で二人でギルドに向かった。
ギルドで報酬を分けてその日は解散となった。
* * * *
数日後、セイレーンの杯にて。
今日もハンバーグか。
プレートに乗っている料理を見る。
遠目に数人見える。
あそこにいるのはジェスだろうか。
何やら話をしている。
あれは、他の冒険者にアドバイスを求められてるのか。
魔物を狩る数少ないパーティだからか。
割と頼りにされているのな。
会話に聞き耳を立てる。
「野犬の場合は四面楚歌に気をつけろよ」
「シメンソカ?」
「囲まれるなってこと」
「へぇーそう言うふうに言うんだな、俺もつかってみようっと」
ジェスが早速、この前教えた四面楚歌を使っていた。
ふーん。気に入ってたしな。
…………あれ?
今食べているハンバーグを見る。
四面楚歌、ハンバーグ。
この世界にない言葉?……あれ?そう言うこと!?
いやまさかね、そんな都合のいいことなんて……。
後ろで冒険者が大声で話をしている。
姿は見えないが、筋骨隆々そうなイメージだ。
「お前そのポーズずっとしてるよな?」
「何を言うか、これはあの英雄ガトゥー・イシマトのポーズだぞ!かっこいいだろう」
どんなポーズか想像つくが絶対に振り返らないぞ。
俺は振り返らないからな。
そう思いながらハンバーグを一口食べた。
美味しい。