異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

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第27話 魔力結晶の洞窟

 

「ノアだっけか?その杖は?杖でいいんだよな?」

 

 ジェスが興味深そうに聞いている。

 

「ああ、アルゲンテウスのことですね、こちらは」

 

 背中に大剣のように背負っている。

 銀色の装飾がある杖らしい。

 杖というか棍といった方がいいような。

 

「俺も気になってたけどその大剣みたいに担いでいるのは意味があるの?」

 

 取り回しが大変そうにしか見えない。

 

「まぁ大きい方が威力とか精度が上がりやすいので、いざとなればこれで殴ります」

 

 冗談なのか、本気なのか判断に困る。

 杖ってこうもうちょっと短くて取り回しがしやすいものなのでは?

 

「まぁいざとなれば任せます……」

 

 その後も雑談をして洞窟前に着いた。

 

 

「洞窟内は俺が先導するからジェスはノアを守っていてくれ」

 

 ジェスがうなずくのを見た。

 カンテラを腰につけて、右手で剣を抜けるようにしておく。

 

 洞窟は数メートル先も見えない、闇の世界だ。

 

 進んでみると思ったより洞窟の幅が広く、三人で広がっても問題なさそうだ。

 

 

「なんか怖くね?」

 

 つい言ってしまう。そして声が反響している。

 

「まぁ俺も洞窟に入る経験はないな」

 

 ジェスはまぁそうでしょうね。

 

「まぁ何とかなるでしょう」

 

 気楽にノアが言う。

 

「は、は」

 

 乾いた笑いしか出てこない。

 

 

「ノアはこの洞窟のことをどれぐらい知っている?」

 

「魔力結晶が見れることぐらいですね」

 

「なるほど、洞窟で出てくるとしたら……」

 

「まぁ蝙蝠とか岩トカゲとかだろうな」

 

 ジェスが言ってくれる。

 なるほど、戦いたくねぇ。

 何もなくて終わればいいんだけど。

 

 5分ほど進んだところで、

 

「ちょっとストップ」

 

 二人を静止させる。

 

「何かが羽ばたく音がする」

 

 前方か、いや違う。

 上の方か。

 

 カンテラを手に持ち天井の方を照らす。

 

「ひっ」

 

 そこには蝙蝠の群れが止まっていた。

 十から二十はいる。

 

 

「マジかよ」

「で、どうする?」

 

 帰るか?それとも進むか。

 依頼主であるノアに聞く。

 

「刺激を与えなければ、問題ないはずです。なのでそのまま先に行ってもいいかと……多分」

「多分って……」

 

 まぁ何もしなければ何もしてこないのか?

 

 蝙蝠に注意を払いつつ、進んだ。

 

 そのまま先を歩く。時間感覚がなくなってきた。

 

「そういえばノアってどんな魔法がつかえるの?」

 

「基本の火なら使えますよ、あとは氷を主につかってますね」

「へぇー凄いな。俺はまだ火の燈火級ぐらいしか使えないから羨ましいよ」

 

 なんとなくノアがどや顔をしている。

 見えないから想像なんだが。

 

「この洞窟ってどれぐらい先まであるんだ?」

 

 ノアに問いかける。

 

「私が調べた限りではそこまで奥深くはないと思いますが……」

 

 10分前後しか歩いてはいない気もするが、暗闇の中のせいで余計に疲れが出てきた。

 

「前を見てください」

 

 遠くがややぼんやりと光っている。

 

「光ってる?」

「もしかしたらあそこに魔力結晶が……」

 

 3人でそこに向かう。

 

 50メートルくらい進んだだろうか。

 

 そこには

 

「すげーこれが魔力結晶なのか」

 

 天井まで高く広がったクリスタルが所々に生えている。

 洞窟なのにぼんやりと光って見えるそれはまるで幻想的だった。

 

「綺麗……ですね」

「ああ、そうだな」

 

 いい景色だ。

 見とれてしまう。

 地面には結晶が転がっている。

 

「で本来の目的はこれを見ること?」

「それと結晶を少し回収しますか」

 

 魔力結晶って言うぐらいだから何かに使えるんだろうな。

 

「でもなんでこれ採掘資源として使わないんだ?」

 

 単純な疑問として思い浮かぶ。

 街からも近いし、何かに使えそうな気もする。

 

「ここだと、加工も大変なので放置されているだけかと、いずれ王国で魔法の研究が進めばここも人の手が入ると思います」

 

「じゃあ今しか見れない景色なのか」

 

 少し寂しいような、自分たちしか見れないものを見つけたような。

 ノアが魔力結晶を集めている。

 

「これって売れたりする?」

 

「ここじゃ売れないと思います。でも記念に持ち帰るくらいなら」

 

 そういうものか、記念に一つバッグに仕舞った。

 

「じゃあ帰るか」

「はい、もう必要な分は取ったので大丈夫です」

 

「ジェス?」

 

 反応がないジェスの方を見る。

 

「何かいないか?」

 

 ジェスが洞窟の上の方を指す。

 

 そちらを凝視する。

 黒い物体が動いている。

 暗くてよく見えない。

 

「あれは?」

 

 目を凝らす。

 

 その物体は少しずつ大きくなり、何かを左右に広げていく。

 

「キィィィィィィィィ!」

 

 黒板を爪で擦るような甲高い音が、洞窟内に響き渡る。

 

 咄嗟に耳をふさいだが、くらくらとする。

 

「おい、あれ蝙蝠じゃねぇか?」

 

 ジェスの言葉を聞いてよく見る。

 蝙蝠とは思えない、数メートルはありそうな巨体。

 

 こちらに少しずつ距離を詰めてくる。

 

「いや、大きすぎるだろ!」

 

「おそらく魔力結晶の影響で……」

 

「分析してる場合じゃねぇ逃げるぞ!」

 

 来た道を戻ろうと走る。

 

「嘘だろ!」

 

 数十匹という蝙蝠が出口から出てきた。

 帰り道なんて見えないぐらいの蝙蝠の軍団。

 

「おいおいおいおい」

 

 思わず足を止める。

 その隙を大蝙蝠が逃さなかった。

 

 大蝙蝠は退路を塞ぐ形で、こちらに陣取った。

 

 剣を抜いて、大蝙蝠と対峙する。

 

「ジェスはノアを守っていてくれ」

 

 完全に格上としか見えないが、やるしかない。

 やらなきゃやられる。それに倒す必要はない。

 隙を作ればいい。

 

 こういう時には先制攻撃。

 

 走って距離を詰める。

 狙うは、大きな羽。

 目的は、機動力を削ぐことだ。

 

 剣を横に持ち斬るッ。

 

「っ!」

 

 大蝙蝠は巨体でジャンプをした。

 

 少し上を飛んでいる。

 

「おいおい、そんなのありかよ」

 

 

 空中にいる大蝙蝠はこちらの攻撃の届かない距離にいる。

 

 何とかして剣を当てたいが、届かない。

 

 それに逃げようにも後ろを見せたら攻撃されそうだ。

 

 

「ノア?魔法で攻撃出来たりしないか」

 

 剣と短剣の俺たちじゃどう考えても決定打を与えられない。

 

「少し動きを鈍らせるだけでいい」

「やってみます」

 

 ノアが背に担いでいた杖を取り出す。

 

 その間に小さい蝙蝠が近づいてきた。

 

 ノアに近づかせないよう、切り捨てる。

 

 ジェスも小さな蝙蝠の相手をした。

 

「──我が力の源よ、万象を静止させるものとなれ」

 

 ノアがそういうと、あたりの気温が少し下がる。

 息が白くなったと錯覚する。

 

「すいませんが、詠唱中の守りはお願いします」

 

「おう」

「任せろ」

 

 蝙蝠が飛んでくる。

 それを切り捨てる。

 

「世界の理よ…」

 

 大蝙蝠が爪で突撃してくるのをよけ、軽く切る。

 

「ジェス!」

「任せろ」

 

 ジェスが大蝙蝠の攻撃を受け流す。

 

「万物から熱を奪いし力をこの手に……」

 

「恵みを長らえさせよ──《グラキアリウム》」

 

 ノアが呪文を唱え終えた。

 その瞬間、杖から冷気の塊が出る。

 白く、目に見えるほど濃い冷気だ。

 

 冷気が加速し、翼をとらえた。

 それが大蝙蝠に当った。

 

「ギッチ」

 

 たまらず悲鳴を上げる大蝙蝠。

 当たった部位には霜ができ、大蝙蝠が墜落をしていく。

 

 

「これでしばらくは飛べないはずです」

 

 すげぇ、これが氷の魔法。

 

 墜落した大蝙蝠に向かって走る。

 

 相手は羽が凍らされて動けない。

 

 目の前まで来た。

 

 今度は深く、斬る──。

 今度の傷は深い!

 

「キィィィィィィィィ!」

 

 再び、大蝙蝠が叫び声をあげた。

 

 我を忘れてこちらに突っ込んできた。

 

「危なっ」

 

 突進してくるのを避ける。

 これで俺は攻撃を避けられた。

 

 俺は?

 俺の後ろには……。

 

「ジェス!ノア!」

 

 振り返る。ジェスがノアをかばっているのが見える。

 まずい、これはまずい。

 

「ジェス!」

 

 蝙蝠の爪をジェスが受けている。

 血が見える。

 ジェスが攻撃を喰らって。

 

 血が、広がって……それで……。

 

 このままだと、このままだとみんな死ぬ。

 

 いやだ、いやだ、それだけはダメだ。

 

 あの時みたいなことは……。

 何か……剣だと今から走っても間に合わない。

 

 剣以上の攻撃を、考えろ、考えろ、考えろ。

 

 視界にはノアの魔法の杖が見えた。

 

 魔法!これしかない。

 

 頼む、頼む出てくれ、出てくれ。

 

「《イ グ ニ ス 》──!」

 

 喉が張り裂けんばかりの大声を出す。

 右手から火が、いや火球と呼ぶべきものが出て大蝙蝠に向かう。

 後ろからの攻撃に対処できなかった大蝙蝠が、攻撃を受け壁に打ち付けられた。

 俺はそれを見てから、全力で走る。

 

「今度は逃がさない」

 

 距離を詰める。

 弱点を探す。

 大蝙蝠の首元を全力で切りつけた。

 深く深く切りつける。

 切断するには至らなかったが、これでもう動くことはない。

 血が滴るのが見える。

 

 うっ、気持ち悪い。

 眩暈がしてきそうなのを必死にこらえた。

 

「ジェス!」

 

 倒れているジェスに向かって走る。

 

「ジェス、大丈夫かジェス。待ってろポーションがある」

 

 頼む、もう目の前で誰かが死ぬところなんて見たくないんだ。

 ジェスの体にポーションをかける。

 

「なぁ頼む。ジェス」

 

 ノアが心配そうにこちらを見ている。

 

「ジェス!ジェス!」

 

 反応がない、そんな。

 俺はまた……。

 

「そんな大声出さなくても聞こえてるよ」

 

「ジェス! よかった、本当によかった」

 

 涙を流しながら、無事なことに安心する。

 

「おまっ、恥ずかしいな。でノアの方は?」

「私は守っていただいたので擦り傷ぐらいで済んでいます」

 

 よかった全員無事だ。

 それに蝙蝠もいなくなっていた。

 

「帰ろうぜ」

 

 ジェスの一言で終わったことが実感した。

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