異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
路地裏を歩いていた。
ふとそんなときに後ろから気配がした。
「……動くな。こちらを向かずに金を置け」
後ろから声をかけられる。布越しの曇った声だ。
……これは、物取りか?
この状態なら、まずは短剣を抜けるように位置を確認する。
ジェスと特訓をしたことをイメージする。
「早くしろ!」
「分かった──」
言い終わると同時に、後ろに振り返りその勢いで相手の胸の部分を蹴り飛ばす。
すかさずナイフを取り出して……。
「ってジェスじゃん?何やってるの?」
首元に布をつけたジェスがそこにはいた。
「いや、ちょっとからかってやろうと思って」
いたずらが成功したような笑みを浮かべていた。
「いや、普通に痛いな」
笑みを崩して痛がっていた。
少し罪悪感が出てきた。
「悪い、全力で蹴ったから……」
「特訓の成果は出ていたみたいだな」
「そうかもな」
座り込んでいるジェスに手を伸ばす。
「セイレーンの杯に行こうか」
「ああ」
並んで二人で向かう。
* * * *
いつものテーブルに腰を着く。
ここのテーブルは指定席になっていて、俺たちが座っている場所だ。
「にしても2週間ぐらいだったが、結構楽しかったな」
思い出を語るようにジェスが話しかけてくる。
「いや、そうだね。大トカゲと猫探しとか蝙蝠とか」
「あったなぁ。今思い返すと結構やばかったよな」
「だよなぁ、あれは生きた心地しなかったわ」
失敗しかけたことも、成功したことも思い出す。
この二週間で俺の印象に残っていることと言えば。
「そういえば、ジェスがマジでネズミ捕りが上手いのには驚いたよ」
「だろ?あれには自信があんだよ」
自信満々に言ってくる。
賑やかな酒場での歓談。楽しい時間だ。
だが、その中で少しの無言が続く。
「「なぁ?」」
二人が同時に話す。
「先に話していいぞ」
ジェスが譲ってくれた。
「……じゃあ遠慮なく、ジェスも魔導連邦来ないか?」
「なんだよ、俺は魔法使えないって……」
それは知っている。
「いや、ジェスも旅に居たら楽しいかなぁって……」
正直三人の旅も悪くないと思うんだよな。
俺がいてノアがいてジェスがいて。
「そんな寂しそうな顔するなよ、また会えるだろ?」
「……それはそうかもしれないけどさ」
ジェスにはジェスの都合がある。無理強いはできないか。
「じゃあ、今度は俺の番。何で帰ろうとしてるんだ?」
「……それは」
手紙と本のことが頭をよぎる。
「まぁ言いたくないならいいけどな。なんとなく、残した家族がとかそんな風に見えなくてな。
……悪い踏み込んじまったな。忘れてくれ」
まぁそうかもしれない。
家族のこともなくはないが優先順位としては2番目にある。
大切ではあるが最優先ではない。
いや、多分心配しているんだろうな。
そうだな、ジェスになら少しくらいなら話もいいか。
「……俺の他に異邦人がいたんだ。その人は家族に会いたがってた……でその人が元の世界の家族に宛てた手紙を書いていて
……まぁ俺が今は持っている。だからそれを届けたいんだ」
ゆっくりとやりたいことを伝える。
あんまり事情を話すつもりがなかったが、ほとんど話してしまったな。
「そうか、義理堅いんだな」
俺の話を聞いて、ジェスがそういった。
「そう……かな?」
あんまりピンとこない。
「まぁそこら辺のなんでも依頼受けるような冒険者でも受けなさそうだなぁって」
確かに、そうかもしれない。
荒くれものが多い冒険者を見てそう思う。
「まぁそんなわけで魔導連邦に帰るための手がかりがあればなって」
この街ではあまり見つからなかったからな。
「……へぇー。そのなんだ、帰れるといいな」
しみじみとジェスが言う。
「そうだな」
本当にそう思うよ。
その日は解散となった。
* * * *
部屋にある窓の海を見た。
「この海の見える部屋もこれが最後か」
蝋燭のように青く燃える炎を見ながら、黄昏てしまう。
もう遅い時間だ、寝よう。
* * * *
俺とジェスとノアの3人で港にいた。
「船が来ましたね」
ノアが二人に向かって言う。
「そうだな」
「よし、じゃあここでお別れだな」
「まぁお前たちとの冒険も悪くなかったわ」
ノアが隣でうなずいている。
「ジェス……俺は……」
俺はお前にも実はついてきてほしい。
同年代の友人を持って本当にそう思う。
でもそれはわがままでそう思うと何も言えなかった。
「頑張れよ、応援してるぜ」
笑顔でこちらに向かって言ってくる。
拳をこちらに向けてる。
「ありがとうな」
そういいながら、俺はジェスの拳に自分の拳を当てた。
これから先、あと何回こんな別れを経験するんだろうか。
それに明日会えると思って会えなかったことも知っている。
だからこそ……。
「早く行かねぇと乗り遅れるぞ」
ジェスが立ち止まる俺を見てそういう。
「じゃあ行きましょうか?」
ノアも声をかける。
「……そうだな」
少しずつ歩き出した。
船の甲板に乗る。
甲板の上からジェスが見送るのが見える。
元気に手を振っている。
この先ジェスには会えないかもしれない。
これが最後かもしれない。
そう思うと荷物を置いて船の端に走っていた。
「ジェス! ありがとうなーーーーー。俺、頑張るから!」
俺の出せる限界の大きな声を出す。
「恥ずかしいわ……頑張れよ」
小声でジェスがそんなことを言っていた。
だけどその顔は笑顔だった。
船が出発をする。
少しずつ揺れが大きくなって、陸から離れていく。
ここからは魔導連邦に向かうのだろう。
ジェス。また、会えるよな?
港が見えなくなるまで俺は甲板の上で手を振っていた。
これにて2章完結になります。
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