異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
道具と武器屋に寄れたことだし、一度ギルドに帰ることにしよう。
荷物も増えてきたし、ものを置いておきたい。
来た道を歩きギルドまで戻ってきた。
増えた荷物を持ちながら、受付の前に着いた。
「……ってアオイさん、すごい装備ですね」
「そうですね、いや、いいものが多くて」
気分は観光地に来た旅行客みたいなものですよ。
「……この人大丈夫かな」
かなり小声で何かを言っていたが聞き取れなかった。
「何か言いました?」
「……いえ、なんでもないです。部屋ですよね、こちらの鍵をお使いください。
奥の部屋の右から3番目の部屋となっているのでそこを使用してください」
机の上に置かれている鍵を懐に仕舞う。
なんとなく、ほんのりお上りさんだと思われている気がするが決してそんなことはない。
「こちらがランタンになります、一晩は持ちますので部屋の明かりに
火が消えたら食堂から貰うかこちらに声をかけてください」
すげえ、ランタンだ、これがファンタジー世界。
恐る恐る、取っ手の部分を触る。熱くない、いや当たり前か。
「あと、ギルドの近くのこちらに公衆浴場があるのでよかったら行ってみてください。
……一応金品の管理は個人の責任なので盗まれないようにしてくださいね」
公衆浴場、確かに汗もかいてるし風呂に入ってみたいな。
部屋の様子を見たら行ってみようかな。
「ありがとうございます。じゃあこれで」
受付嬢に挨拶をして、部屋に向かう。
右から3番目この部屋かな?
ドアを開けると、ベットと小さな机、それと窓があった。窓に近づく。
丸い小さなガラスで構成されているみたいだ。
もしかしてこれがステンドグラスってやつか?
いやでも一色しかないから違うか。
窓から離れ、ランタンを壁にかけた。
布団に座ったが、思ったよりふわっとしている。
今日はいろんなことがあったなぁ。
道具屋、武器屋に行ったり、それにこのマント。
手触りを確認する。ゴワゴワしているがなかなかにかっこいい。
自然と笑みが出る。
リラックスしてきたのか自然とあくびが出る。
ベットに体を沈み込ませる。
いや沈むほど柔らかくはないんだけどさ。
天井を見つめながら思う、この後は風呂に行って、あとはごは…………。
日の光が部屋を照らす。
チュンチュンと鳥の鳴き声がする。
「朝練!」
「あ、そうか異世界に来たんだった……」
昨日はそのまま寝てしまっていたらしい。
そういえば、異世界に来る前は夕方ぐらいだったからなあ。
これが時差ボケってやつか。
というか日差しが眩しすぎないか。
窓に近づく。昨日は気づかなかったけど、窓の横に木の戸が付いていた。
「これが、カーテン代わりなのね」
木の板を動かして、日光を遮る。
それはそれとして何か忘れているような。
最悪だ、風呂に行き忘れた……。
今の時間を確認しようと時計を探す。
そうか、時計もないのか。
スマホを見てもずれてそうだしな。
ここにいても仕方ないので、朝食でも食べようか。
銀貨を数枚とって部屋を出た。
広間は昨日より人が少ない。
食事をもらいにカウンターに向かう。
「お、遅い時間に起きたな」
店員がこちらを見て話しかけてくる。
まだ頭が半分くらいしか起きていない。
「まぁね、おすすめの朝飯ある?」
「あるぞ、そこの奴が食べてるやつと同じ奴なら」
ちらりと見る。
パンにレタスとベーコンが挟まっている。
それにジュースのような飲み物と、付け合わせはポテトかな。
「じゃあそれで」
「あいよ」
店員が調理をはじめ、数分後に木のプレートを渡された。
席に着く。
まずはパンからだ、結構固い感じがするな。
フランスパンに似てるような、食べられなくはない固さだ。
米が恋しいが、ここは我慢する。
大味なベーコンとレタスの調和を感じる。
ラッシーのような白い飲み物で流しこんだ。
昨日から思っていたがこの世界は飯が上手い!
生きていくうえでそれは大事だ。
パクパクと朝食を平らげる。
カウンターに食器を返却して、受付嬢のところに向かった。
「おはようございます、アオイさん」
「おはようございます」
「昨日伝えました、新人冒険者向けの講習ですが、昼前の鐘の頃に受付に来ていただけますか?」
「昼前の鐘?」
「はい、ギルドでは一日に五回鐘を鳴らしています。朝に一回鳴っているので2回目の鐘がなるときに来てください」
外観を思い出す、そういえば建物の上に大きな鐘があったな。
ファンタジー的な飾りだと思ってたけど、ちゃんと役割があったんだなぁ。
気になることと言えば。
「2回目の鐘っていつ頃なるんですか?」
「いつ頃というのは難しいですね、日が上のほうを登ったあたりでしょうか」
太陽の位置を言われても、こうわかりやすい指標はないのだろうか。
「何時間後とか……時計ってないんですか?」
受付嬢が少し考えたそぶりをしている。
「ギルドには時間がわかるものがありますが、それをもとに鐘を鳴らしているので、カウンターの奥においてありますね。ただ皆さんはそれをもとに生活しているというより、鐘を基準に生活してますね」
なるほど? 時計が普及しているわけではなく鐘を基準に生活してるってことか。
異世界ってもしかして時間にルーズなのか、ということは……。
「2回目の鐘が鳴った後っていうのは、もしかして厳密じゃなくてもいいですかね」
何をいっているのか、という顔をしてるが、何かに気づいたようだ。
「ああ、そういうことですね。そういえば、異邦人は時間に厳しいという話がありましたね。大体でいいですよ」
昨日、本で調べましたよ。そんな顔をしている。
異世界はそこまで時間を考えなくていいのね。そうか異世界いいなあ。
時間に厳しくなくていいというのは、いいことだ。
「ちなみに、公衆浴場に行く時間ぐらいはあると思いますかね?」
「はい、それぐらいでしたら、全然いけると思います」
それだけわかればいいか、風呂には入りたい。
部屋に戻って、荷物を整理する。
防具とバック、財布は……。
とりあえず銀貨を5枚くらい財布にいれてそれ以外は部屋に置いておくか。
どこが盗まれずらいかな、とりあえず枕の下にでも置いておこう。
よし、鍵と財布だけ持っていこう。
ギルドを出て公衆浴場に向けて歩く。
歩きながら太陽を見上げた。
いや上のほうって言われても分からんけどなぁ。
数分後に公衆浴場についた。
外観はレンガ造りで思ったより小さめだ。
スーパー銭湯まではいかなくても、街の銭湯の方が近いのかな。
店に入り店員にタオルをもらう。
うん、ゴワゴワしている。柔軟剤のCMのダメな例ぐらい硬い。
籠に衣服を置く。一応店員が見張っているらしいので信頼しておこう。
湯船に向かう。
はぁ、少し小さめの湯船に浸かった。
そこまでは熱くなく、ぬるくもない。
つまりちょうどいい、幸せだ。
湯気が浮かび上がるのを見上げる。
いい湯だな。
ほっと一息つく。
これからどうなるか心配だけど、でもこの世界で楽しく生活できるんじゃないかと、今はそう思った。