異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
「じゃあ行こうぜ」
ギルドから出て、グレンについていく。
そのままギルドの裏手に向かった。
練習場だろうか、柵で囲われたグラウンドのような場所だ。
「さて、明日までに何とかしないといけないが、まず剣を出してくれ」
やや重く慎重に鞘から剣を取り出す。
「ふむ、ちょっと振ってみてくれるか。離れてな」
グレンから3メートルくらい離れる。
両手で剣を持ち上げ、バットのように振った。
振った後に剣に体を持っていかれそうになるが、ぎりぎりで、踏みとどまる。
「なるほど、大体わかった。とりあえず筋力はつけたほうがいいな。振るたびに体が持っていかれるのはまずいな、重さは力になるが、当たらないなら意味がない」
反省点が多いな、最初から戦えるとは思ってなかったけど。
「……はい」
「まぁ、悪いところばかりじゃない、足元は思ったより安定している。筋力をつけて剣を扱えれば、普通に戦えるとは思うぞ」
結構評価してくれてるのか……ちょっとうれしい。
「はい、ありがとうございます」
「でだ、ちょっと剣を貸してくれ」
グレンが両手で俺の剣を持つ。
「今の動きを覚えてくれ。振り下げて、後ろに下がる、の二つだ」
剣を上に持ち上げて、振り下げる。
その後、後ろに下がる。
この動きは?
「えっとどういう意味?…ですか」
「いやまぁそのままの意味だが、剣を当てる。当たらなかったら下がるこれだけだ」
「な、なるほど?」
作戦としては剣を当てる、よけるの二つと。
なるほど、かなり単純化されているが、これで倒せるのか?
戦いの素人だが、なんかこうもっと派手な技はないのだろうか。
「疑ってるな、まぁ分からなくはないが今はこれだけでいい。それに変に剣術とか教えても明日までに覚えられないだろう」
グレンが俺の心を読んだように答える。
それは、そうだけどさ。
「なら、一回やってみてくれ」
グレンから剣を受け取る。
さっきの動きを思い出し、剣を頭の上に持ち上げ、振り下げるッ。
続けて、後ろに下がる。
分かったことは思ったより疲れることと、後ろを見ないで下がるのは少し怖い。
「振り下げるときにもうちょっと、たたきつける感じでやるといいぞ。さぁもう一回」
グレンがアドバイスをくれる。
たたきつける、スイカ割りみたいな感じだろうか。
剣の重さをダイレクトに地面に預ける感じで、振る。
衝撃もダイレクトに腕に来るな。
「まぁさっきより良くなってるな、疲れたか?」
「は、はい」
疲れてきているが部活みたいで楽しくもある。
ただ少し心配が頭をよぎる。
「これってもうちょっと練習したほうがいいんじゃないんですかね?明日は早すぎるような……」
「まぁお前の言いたいことはわかるよ、じゃあそれはいつだ一週間後か、一か月後か?俺たち冒険者はそこまで待たせることもできない、決まった期日までに最善を尽くす。それが仕事なんだぜ」
グレンから冒険者の心構えを聞かされる。
かっけぇ、冒険者かっこよ。
なんだこのプロフェッショナル、俺はこういうのを目指しているんだ。
「はい、俺……なんていうか、頑張ります!」
「よし!じゃああと5回やってみろ!」
途中で足の動かし方とか修正されながらなんとか振り下ろす。
後半は肩で息をしながらも5回終わらせた。
「よし、今の覚えたな、これで剣の練習は終わりだ」
いやいやいや。
これで終わり? いや、さすがに足りないんじゃ。
「え、いやもっとできますよ」
「いやこれ以上は明日に響く、まぁ心配なら明日の朝に2、3回振ってからだな」
なんか、こんなんでいいのかな。
最善を尽くすってなんか思ってたのと違うような。
「じゃあ武器屋に向かうか」
剣を鞘に仕舞う。
先に行ったグレンに小走りでついていった。
歩きながらグレンが口を開く。
「先に剣を教えたが本来は意識するべきなのは下がることのほうだ。それに下がればそれだけ生存する可能性が上がる」
「まぁそうですね」
防御と攻撃なら防御を優先するべきという話だろう。
でもそれだといつまでたっても敵を倒せないのではとも思う。
「で、お前の装備を見た感じ防具が全然だな。ちょっとだけ追加したほうがいい」
「そうですかね、胸の部分はありますが」
「それじゃ足りねぇよ」
さいですか。
そうやって話していると武器屋に到着した。
武器屋のおやっさんとグレンが話をしている。
さっき言っていた防具の話だろう。
他の武器を眺めながら俺は二人の会話を待つことにした。
「アオイ、ちょっと来てくれ」
「はい」
返事をして、そちらに向かう。
「ちょっと左腕を、出してみろ」
よくわからないが、袖をまくって左腕を見せる。
武器屋のおやじが左腕を紐か何かで測っている。
服でも作り直そうとしてくれるのだろうか。
「えーと、これは?」
「さっき言っていた、お前に合う防具を見繕おうと思ってな」
「防具?でも重いやつだと動けないですよ」
正直、今の状態でも動くだけで精一杯だ。
これ以上重さが増えてもなぁ。
「いや最低限だ、今だと腕に貰っただけで致命傷になりかねない」
そういうものなのだろうか。
まぁ熟練冒険者が言うならそうなんだろう。
「よしできたぞ、これを左腕につけてくれ」
カウンターの上、茶色いプロテクターのようなものが置かれている。
キャッチャーが付けているようなプロテクターみたいだ。
軽い、持ち上げてみてそう思った。
「こうですかね」
ベルトで固定した防具を見せる。
「ああ、それでいいぞ」
「よし、ちょっとそれで、さっき教えた素振りをしてみろ」
装着したのを見たグレンがそう言った。
「分かりました」
部屋の広いところに移動をする。
天井に剣ぶつからないよな。
天井の高さを確認して、振り下ろす。
さっきより腕が重く感じるが、振れなくはない。
「振れますね」
「そうだな、あとは左足の防具もつけてやってみてくれ」
同じように左足にもつけてみる。
ずっしりと来るな、違和感が残るが、同じように振ってみる。
振り下ろして、後ろに下がる……。
「わっ!」
危ない、危うく転ぶところだった。
流石にこっちは動くと影響があるな。
「足のほうは無いほうがいいな」
俺の動きを見てグレンがそう言ってくる。
それはそれとして、これって一部でいいのだろうか。
「これ腕だけでいいんですか?」
「うん? まぁ最初はそれで行くしかないな。理想は全部つけた状態で動けるのがいいが、
この状態ならないほうがいい」
確かに、どっちを取るかみたいな考えだな。
鉄の防具だと防御力が上がるが、動きが悪くなる。
防具が革なら動きやすいが防御力が落ちる。
「で、もし野犬にかまれそうになったら、左腕で守れ、最悪首だけ守れよ。
後は左腕をたたきつけるとかでもいい」
「……分かりました」
大丈夫だろうか、一気に不安になってきた。
もしかして?かなりやばいことをさせられそうになってないか……。
心配になりながら革の防具を触った。
革のベルトよりは強度がありそうだが、剣とかだと普通に切れそうだな。
「とりあえず防具は、こんなもんでいいな」
その後はグレンと同じようにギルド証を首から下げられるようにしてもらった。
かっこいい、これからは常にぶら下げておこう。
防具の代金をおやじに渡して、武器屋を後にした。
「準備終わり、こんなもんでいいだろ」
素振りを数回と防具を整えただけ。
こんなものなのだろうか。
「あとはそうだな、今日の夜はギルドで飯でも食おうぜ、それまで解散だ。
夜の鐘が鳴るころにギルドの食事場で集合で」
「分かりました」
「あ、念のため言っておくが隠れて素振りとかするなよ、明日動けなくなっても困る」
するどいな、この人。
まぁ少しぐらいしてもいいかなと思っていたけど。
「分かりました、心配しなくても休んでますよ」
グレンはそれを聞いてどこかに行ってしまった。
一旦ギルドに戻って食事をした。
なんというか準備不足感が否めないが、戦う準備としてはこれくらいなのかもしれん。
うん、今日もごはんがおいしい。
今日はじめて会ったグレンのことを思い出す。
武器の扱いや、防具のことなど、かなりの熟練者っぽく思える。
今後も仲良くやっていきたいから、見捨てられない程度には頑張ろう。
午後の予定はどうしようか。
街の探索、道具を揃える、やりたいことはそれなりにあるが……。
下手に外に出て体力消耗してもな、そんな考えが頭をよぎる。
よし、決めた。
午後は部屋でくつろいでいよう。今後のことも考えたいしな。
食器を片付けて、部屋へ向かう。
ベッドに体重を預ける。
今後の方針を決めていかないとな。
冒険者として名を挙げてもいいし、最低限のお金を稼ぐのだっていい。
正直言うと少し怖い、首を死ぬ気で守れだの命を懸けるだの。
でも、こんな実力が人生に直結する生活に対する憧れも少しはある。
まぁグレンもいるしそこまでやばいことにはならないとは思うが……。
ここは考えても仕方ない部分だ、なるようになれだな。
昼食後で少し眠くなってきた。
晩御飯には遅れないようにしないと───。
鐘が鳴り響く音がする。
「あん…。まだ時間じゃ………夜ご飯!」
布団をがばっとめくり、飛び起きる。
いや落ち着け。まだ鐘が鳴ったばかりだ。とりあえず着替えて、部屋を飛び出した。