異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
急いで広間まで来た。
昼間より冒険者の数が多い、夜ご飯だからか。
「よっ、アオイ」
テーブルについてたグレンが声をかけてきた。
「おはようございます、グレンさん」
「おはようって、お前夜だぞ。さては寝てたな」
ぎくっ、なぜわかった。
いやまぁ別に寝ることは俺の自由だからな。
「そんなことないですよ。英気を養っておこうかと」
グレンが疑ってくるような目をしている。
「疲れていたから寝てただけです」
「別に責めてはいねぇよ。ただ、よだれぐらいは拭いておいた方がいいぞ」
グレンが口元を指さしている。
恥ずかしい、すごくはずかしい。
グレンの目の前の席に着く。
とりあえず適当に料理を頼んでおく。
「で、少し話がしたくてな」
グレンが語り始めた。
話とは、明日の戦いについてのことか、それとも今後の人生についてだろうか。
いや人生のことかもなぁ先輩冒険者として後輩の人生について考えてくれるとは。
流石は先輩冒険者だ。頭が上がらない。
満を持して口を開く。
「明日の戦いのことですよね」
「いや、お前のことだが」
いや、そっちかい。いや考えてくれるならうれしいけどな。
人生設計か。
「まだ見ぬ彼女とかの話ですかね……」
グレンが少し笑みを浮かべる。
「お、そういう話がしたいのか、なんかお前って真面目そうに見えて思ったよりもボケてるところあるよな」
心外だ、俺は清く正しく生きている。
「そうですかね?」
グレンがぐびぐびとエールを飲んでいる。
「話がずれちまったが、アオイって根無しなんだろ?」
根無し……って何だっけ。
頭をフル回転させる、聞き覚えがあるようなないような。
あ、異邦人とか異世界人のことか。
昨日のことなのに、全然忘れていた。
「はい、そうですよ」
「元の世界ってどんなだった?」
元の世界、まぁ学生をしていて、部活をするとか普通の生活だけど。
「学校っていう、たくさんの人で学ぶ場所に毎日行ってましたよ」
とりあえず、当たり障りのないことから伝えておこう。
「何について学ぶんだよ?」
「学問とかですかね、教科書とかまだあるんで読んでみます?」
「いや別にいいよ、読めないだろうし」
「まぁ、そうですねあとは部活とかに参加したりして……」
「おまえさ、帰りたいとは思わないのか?」
グレンが俺の話を遮り聞いてくる。
帰りたいか。いや少しは考えたけど、どう答えるべきか。
あんまり考えないようにしていたのかもしれない。
悲観しているとかではなく。
「帰りたいかですか、帰りたくないわけではないけど、割と今が楽しいといいますか」
「そういうものか、親とかいるだろ」
「親は割と放任主義なので、まぁ少しは心配してると思うけど、気が向いたら帰る方法探してみようかなぐらいですよ」
グレンは俺の言葉を聞いて納得しているようだった。
「まぁ確かにそうだな、それにもし……」
グレンはその続きを言わない。
「もし? もしどうしたんですか」
「いやなんでもない、忘れてくれ」
気になる、いや死亡フラグみたいで気になる。
こういうときに俺の経験からして、大体ネガティブなことを言いそうになってやめるパターンが多い。
「気になりますよ、別に怒らないですから言ってくださいよ」
「いや別に怒らせることとかじゃねぇから。俺の鶏肉やるから」
グレンが鶏肉を俺の皿の上に乗せる。
「え、いいんですか!」
滅茶苦茶うれしい。
「いやー、悪いですね」
「別に気にしてないから、若者は沢山食え」
なんだか、先輩として尊敬したくなってきた。
「そういえば、グレンさんってなんで冒険者になったんですか?」
「俺か、そうだな。まぁ親の跡を継ぐのが嫌で冒険者になったんだ」
親の跡を継ぐのが嫌でか。
俺にはあんまりピンとこない。
元の生活でも大人になってやりたいことなんて見つからなかったから。
「それは、なんというか凄いですね」
「いや別にそんな大層なもんじゃねえよ。ただ自分だけでどこまで行けるかって気になっただけだ」
「分かります、いやすごくわかるな。俺もこの世界で何かできたらいいなって」
「夢見る若者だな、応援しておいてやるから頑張れ」
鶏肉をかじりながら、凄く適当な感じで手を振っている。
「馬鹿にしてますね、いつか誰もしたことないようなことしますからね」
まだ特に決めてないけど、少なくともグレンが驚くようなことをしたい。
その後は適当に話が広がり、お開きとなった。
明日の集合は午後からとのことだ。
その日はそのまま就寝した。
次の日。朝の鐘が鳴り響く。
異世界生活3日目。
鐘の音を聞きながら起きた。
いつものように朝食を食べに行くために広間に向かう。
幸いなことに筋肉痛などは出ていない。
午後までやることがない。別に特訓をしてもいいが、この街を少し見たい気もある。
「というわけで、お姉さん、この街で時間潰せるところない?」
俺の持てる知識の中で一番詳しそうな人に声をかけた。
「そうですね、この街ってなると、有名なのは冒険者ギルドの鐘ですね」
「いや、ここに暮らしてるしな……」
「そうなんですよね……」
受付嬢が深く考えている。もしかしてこの街って思ったより田舎……。
いや、まだこの街に来て3日しか経っていない。
俺の知らない異世界のものがあるはずだ。
「あ、アオイさんって城壁みたことありますか?」
「城壁?」
「このリーベルの街は魔物から守るために城壁に囲まれているんですね。で北と南に門があるのでそこを見てみてはいかがでしょうか」
この街ってリーベルって言うんだ。知らなかった。
城壁かファンタジー世界と言えば定番だな。
見てもいいかもしれない。
「分かりました、見てみます。ちなみに方向ってどっちですかね?」
「このギルドを出て、真っすぐ行けば北門まで行くことができます」
散歩ぐらいになるが、いいかもしれない。
「ありがとうございます」
ギルドを出て、少し歩く。
景色を眺める。なんというかぽつりぽつりと建物があって密集している感じはないな。
語彙がなくて、のどかな街って感想しか出ないけど。
途中でギルドを振り返ってみる。鐘がある大きな建物があんな小さく見えるな。
やや歩いて、外壁があるのが見える。
お、これはよくあるファンタジー様式の城壁かもしれない。
少し小走りで近づいてみる。
おお、これは、大き…大きい、大きくない?
いや大きくはないな。
なんというか3メートルぐらいの壁がそこにはあった。
いや城壁ってこう上が歩けるみたいなものじゃないのか……。
門は割としっかりしているようで見回りをしている人がいた。
うん、いやこれはこれですごいんだけど、なんか世界遺産を見に行って思ったよりしょぼかったみたいな。
帰るか。