異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

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第8話 初めての戦闘

 

 さてそろそろ時間かな。

 気を取り直して、装備を整えギルドのテーブルに腰を掛ける。

 グレンはまだ来ていない。

 剣の持ち手に触る。別に抜くわけではないけど、この後にはこれで戦うのか。

 少しの緊張と期待感がある。

 

「よぉ」

「おわっ」

 

 後ろから急に声をかけられてびっくりする。

 

「グレンさん、脅かさないでくださいよ」

「いやお前が、神妙な顔してるからな」

「じゃあ……行きますか」

 

 ついに来たかといった気持ちで口に出す。

 

「おう、お前は少し肩の力を抜いていけ」

 

 準備運動ということで、ギルドの裏手に来た。

 グレンに言われた、昨日の動きの復習だ。

 剣を鞘から抜き、上に持ち上げ、振り下げるッ。

 そして、後ろにステップを踏むように下がる。

 気持ち昨日より、うまくできている気がする。

 

「よし、動けるみたいだな。じゃあ街の外の森に行くぞ」

「はい!」

 

 グレンの隣を歩いてついていく。

 

「外に出る前に作戦会議だ、野犬だが数はおそらく四頭。森を拠点としているがこの時間帯なら休んでいるはずだ」

 

 なるほど、四頭か。二人なら、一人で二頭倒せばいいが、問題は俺が二頭倒せるかだ。

 それにしてもグレンはやけに詳しいな。依頼書に書かれていたのだろうか。

 

「野犬の数が四頭ってなんでわかるんですか?」

「それはな、昨日のうちに偵察をしてきたからだ」

「えっ……」

 

 マジか、もしかして武器屋で解散した後に……。

 そうか、俺もそこまで考えるべきだったな。

 自分のことで手一杯なことを少し反省する。

 

「まぁ偵察は俺でできるからな、これが勝率を上げるコツってやつだ」

「……うっす」

 

 自分の未熟な部分を感じる。

 確かに、戦いの練習だけが準備じゃないよな。

 

「まぁ今度偵察とか、下調べを教えてやるよ。戦いっていうのはその場で決まるが

 そこに持っていくまでにいくつかできることはあるってことだ」

 

 勉強になります。

 心のメモ帳にメモしておこう。

 そうこうしている間に城門前に到着した。

 城門の前に人だかりができている。

 グレンと一緒に列に並び順番が来るのを待つ。

 

「冒険者のグレンとこいつがアオイだ通してくれ」

 

 グレンがギルド証を出しているのを見て、俺も取り出す。

 

「了解した、通っていいぞ」

 

 城門前の衛士が許可を出す。

 門を潜ると、街道が続いているのが見えた。

 

「これから森に向かうが、いくつか決めておくことがある」

 

 グレンがこちらを向いて、真剣そうに見てくる。

 

「はい」

「まず、攻撃だが俺のほうで野犬に仕掛けるから、見つけても突っ込んでいかないでくれ。お前は俺が攻撃したのを見てから攻撃してくれ」

 

 グレンの言葉に頷く。

 

「で二つ目に、これから話すときは声を小さくしろ、相手に気づかれたくない」

「分かりました」

「で最後に森に入るが、警戒を怠るな。何が起こるか分からない。危ない所にいることを忘れるな。もしもの時はその防具で守れ」

 

 自分の左腕についている革の防具を見る。

 

「分かった、これで何とかする」

「よし、じゃあ俺が先頭で行くからついてこい」

 

 グレンが先行して森に入っていき、数メートル後ろをついていく。

 剣をいつでも取り出せるように、手を置いておく。

 

「枝を踏まないように気を付けろ」

 

 こちらを見て、小声でグレンがアドバイスしてくる。

 うなずいて、返事をする。

 足元と周りの景色、どちらも見なくてはいけない。

 もし依頼でなければ、じっくり見れたんだろうな、きれいな景色をゆっくり見てみたかった。

 

 森に入ってから、数十分経っただろうか。

 野犬のいる場所はまだだろうか、集中力が切れかけてきた。

 

「おい」

 

 声をかけられびくっとする。

 グレンのほうを見ると、指をさしている。

 指先の方向に目を凝らしてみると、オオカミのような野犬が4匹いてエサを食べている。

 ギリギリ見える距離だな。

 

「ここからは低姿勢で行くぞ」

 

 ばれないように中腰の姿勢をした。

 普段使わない筋肉を使わされている気がする。

 かなりきつい姿勢だ。

 グレンが慣れたように、素早く向かっていく。

 残り30メートルぐらいまで近づいてきた。

 

「俺が仕掛ける、全力でついてこい」

 

 そういってグレンが野犬に駆け出した。

 俺も剣を取り出してついていく。

 走るのはやっ。

 グレンが1匹の野犬に対して、剣を振り下ろす。

 野犬は突然のことで反応ができなかったらしく、一頭の野犬が動かなくなった。

 

 残りは三頭。

 

「アオイ、お前は一匹のほうを頼む!」

 

 大声でグレンが声をかけてくる。

 

「おう!」

 

 怖いけどやるしかない。

 野犬と対面する。

 

 野犬はこちらの動きを見ているが、特に仕掛けてきそうな様子はない。

 グレンの方は……方は……見てる余裕がねぇ!

 目の前の奴に集中しろ。

 覚えてきたことをやるだけだ。

 

 剣を──。

 

「振り下ろす!」

 

 声に出すつもりがなかったが出てしまった。

 野犬は慣れたようによけていく。

 くそっ、ここで決めたかった。

 

 攻撃を食らわないように少し下がる。

 グレンのほうで大きな音がする。

 野犬がグレンのほうを見た。

 

 今だっ。

 

 雄たけびを上げて全力で剣を振り下ろす。

 当たった!

 剣の感触は地面ではなく、やや柔らかい、米袋を叩いたような感触が手を伝う。

 野犬からは血が出ていて動かない。

 

 恐る恐る確認したが、これは倒せた?

 慎重に野犬に顔を近づける。

 

「アオイ!」

 

 グレンの叫ぶ声が聞こえる。

 グレンの方を振り返ると……。

 

 すぐ目の前に野犬の牙がそこにはあった。

 は? え?

 何で?

 

 首を守る、くびをまもれ。守れ!

 

 咄嗟に左腕を前にして、なんとかガードする。

 牙が左腕に食い込む。

 

「痛ってぇなあああああ」

 

 オオカミが覆いかぶさる形で、こちらに体重を預けてくる。

 やばい、転ぶ、このままだと転ぶ。

 転んだ衝撃で、剣を落としてしまった。

 

 やばい、このままだと死ぬ。

 何もできないで、終わる。

 いやだ死にたくない、死にたくない。

 

 野犬はその隙を逃さなかった。

 こちらに爪で攻撃を──。

 

 ザクッ!

 

「キャン」

 

 野犬のうめき声が聞こえた。

 懐から取り出したナイフで胸の部分を全力で刺したからだ。

 ナイフと外套に血が付く。

 

「ふーっ。はーっ」

 

 呼吸が荒くなる。ゆっくりと起き上がるが、野犬からは目をそらさない。

 絶対にここで狩るという強い意志を見せる。

 互いが不動の状態でにらみ合っている。

 

 一歩も引かない、必ずここでお前を──。

 

 横から素早く動く物体が飛び込んできた。

 次の瞬間野犬が切り殺される。

 いや、よく見たらグレンか。早すぎて分からなかった。

 

「大丈夫か?」

 

 グレンが声をかけてくる。

 

「え、あはい……」

 

 終わったのか。終わったのか……。

 あたりを見回して、動かなくなった野犬が四頭。

 

「あまり、油断するな」

 

 グレンが野犬に対して剣を刺している。

 なんというかグロい。

 

「これは、とどめってやつですか?」

「ああ。念のためってやつだ。それよりお前左腕大丈夫か?」

 

 左腕?左腕を見る。

 

「痛ってぇええええええええええええええええええええ」

 

 やばい、死ぬほど痛い。泣きそう。

 

「グレンさん俺死ぬかもしれないです……」

 

 半泣きでグレンに伝える。

 

「大袈裟だな、死ぬことはないと思うが」

 

 いや、そんなのあなたが受けたわけじゃないじゃないですか。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 ごそごそと腰から瓶を取り出した。

 

「左腕の防具を外せ」

 

 血が出ているが、痛みを我慢して防具を外す。

 手に持つ余裕もなく、腕の防具は地面に落ちた。

 

「いや、痛いですって、死にますって」

 

 左腕がグロイことになっている気がするが、見たくないので目をそらした。

 グレンが俺の手をつかみ、右手に持った小瓶の液体をかける。

 

「これは?」

「ポーションだ、このレベルの怪我なら治る」

 

 少し粘りがあるような液体が腕にかかる。

 なんかこうポーションってさわやかな感じじゃないのか……。

 軟膏よりはましだけど、保湿クリームと言えばいいのか、しっとりとさわやかの中間みたいな。

 さっきより痛みが引いてきた。

 

「マシになってきました」

「お前は周り警戒しつつ、休んでいろ」

「うっす」

 

 全身から力が抜ける感覚がある。

 盛大に座り込んだ。

 俺生きてるよな。

 左手を開いたり閉じたりして実感する。

 大きな深呼吸をして整えた。生きててよかった。

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