異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。 作:帰途灯
さてそろそろ時間かな。
気を取り直して、装備を整えギルドのテーブルに腰を掛ける。
グレンはまだ来ていない。
剣の持ち手に触る。別に抜くわけではないけど、この後にはこれで戦うのか。
少しの緊張と期待感がある。
「よぉ」
「おわっ」
後ろから急に声をかけられてびっくりする。
「グレンさん、脅かさないでくださいよ」
「いやお前が、神妙な顔してるからな」
「じゃあ……行きますか」
ついに来たかといった気持ちで口に出す。
「おう、お前は少し肩の力を抜いていけ」
準備運動ということで、ギルドの裏手に来た。
グレンに言われた、昨日の動きの復習だ。
剣を鞘から抜き、上に持ち上げ、振り下げるッ。
そして、後ろにステップを踏むように下がる。
気持ち昨日より、うまくできている気がする。
「よし、動けるみたいだな。じゃあ街の外の森に行くぞ」
「はい!」
グレンの隣を歩いてついていく。
「外に出る前に作戦会議だ、野犬だが数はおそらく四頭。森を拠点としているがこの時間帯なら休んでいるはずだ」
なるほど、四頭か。二人なら、一人で二頭倒せばいいが、問題は俺が二頭倒せるかだ。
それにしてもグレンはやけに詳しいな。依頼書に書かれていたのだろうか。
「野犬の数が四頭ってなんでわかるんですか?」
「それはな、昨日のうちに偵察をしてきたからだ」
「えっ……」
マジか、もしかして武器屋で解散した後に……。
そうか、俺もそこまで考えるべきだったな。
自分のことで手一杯なことを少し反省する。
「まぁ偵察は俺でできるからな、これが勝率を上げるコツってやつだ」
「……うっす」
自分の未熟な部分を感じる。
確かに、戦いの練習だけが準備じゃないよな。
「まぁ今度偵察とか、下調べを教えてやるよ。戦いっていうのはその場で決まるが
そこに持っていくまでにいくつかできることはあるってことだ」
勉強になります。
心のメモ帳にメモしておこう。
そうこうしている間に城門前に到着した。
城門の前に人だかりができている。
グレンと一緒に列に並び順番が来るのを待つ。
「冒険者のグレンとこいつがアオイだ通してくれ」
グレンがギルド証を出しているのを見て、俺も取り出す。
「了解した、通っていいぞ」
城門前の衛士が許可を出す。
門を潜ると、街道が続いているのが見えた。
「これから森に向かうが、いくつか決めておくことがある」
グレンがこちらを向いて、真剣そうに見てくる。
「はい」
「まず、攻撃だが俺のほうで野犬に仕掛けるから、見つけても突っ込んでいかないでくれ。お前は俺が攻撃したのを見てから攻撃してくれ」
グレンの言葉に頷く。
「で二つ目に、これから話すときは声を小さくしろ、相手に気づかれたくない」
「分かりました」
「で最後に森に入るが、警戒を怠るな。何が起こるか分からない。危ない所にいることを忘れるな。もしもの時はその防具で守れ」
自分の左腕についている革の防具を見る。
「分かった、これで何とかする」
「よし、じゃあ俺が先頭で行くからついてこい」
グレンが先行して森に入っていき、数メートル後ろをついていく。
剣をいつでも取り出せるように、手を置いておく。
「枝を踏まないように気を付けろ」
こちらを見て、小声でグレンがアドバイスしてくる。
うなずいて、返事をする。
足元と周りの景色、どちらも見なくてはいけない。
もし依頼でなければ、じっくり見れたんだろうな、きれいな景色をゆっくり見てみたかった。
森に入ってから、数十分経っただろうか。
野犬のいる場所はまだだろうか、集中力が切れかけてきた。
「おい」
声をかけられびくっとする。
グレンのほうを見ると、指をさしている。
指先の方向に目を凝らしてみると、オオカミのような野犬が4匹いてエサを食べている。
ギリギリ見える距離だな。
「ここからは低姿勢で行くぞ」
ばれないように中腰の姿勢をした。
普段使わない筋肉を使わされている気がする。
かなりきつい姿勢だ。
グレンが慣れたように、素早く向かっていく。
残り30メートルぐらいまで近づいてきた。
「俺が仕掛ける、全力でついてこい」
そういってグレンが野犬に駆け出した。
俺も剣を取り出してついていく。
走るのはやっ。
グレンが1匹の野犬に対して、剣を振り下ろす。
野犬は突然のことで反応ができなかったらしく、一頭の野犬が動かなくなった。
残りは三頭。
「アオイ、お前は一匹のほうを頼む!」
大声でグレンが声をかけてくる。
「おう!」
怖いけどやるしかない。
野犬と対面する。
野犬はこちらの動きを見ているが、特に仕掛けてきそうな様子はない。
グレンの方は……方は……見てる余裕がねぇ!
目の前の奴に集中しろ。
覚えてきたことをやるだけだ。
剣を──。
「振り下ろす!」
声に出すつもりがなかったが出てしまった。
野犬は慣れたようによけていく。
くそっ、ここで決めたかった。
攻撃を食らわないように少し下がる。
グレンのほうで大きな音がする。
野犬がグレンのほうを見た。
今だっ。
雄たけびを上げて全力で剣を振り下ろす。
当たった!
剣の感触は地面ではなく、やや柔らかい、米袋を叩いたような感触が手を伝う。
野犬からは血が出ていて動かない。
恐る恐る確認したが、これは倒せた?
慎重に野犬に顔を近づける。
「アオイ!」
グレンの叫ぶ声が聞こえる。
グレンの方を振り返ると……。
すぐ目の前に野犬の牙がそこにはあった。
は? え?
何で?
首を守る、くびをまもれ。守れ!
咄嗟に左腕を前にして、なんとかガードする。
牙が左腕に食い込む。
「痛ってぇなあああああ」
オオカミが覆いかぶさる形で、こちらに体重を預けてくる。
やばい、転ぶ、このままだと転ぶ。
転んだ衝撃で、剣を落としてしまった。
やばい、このままだと死ぬ。
何もできないで、終わる。
いやだ死にたくない、死にたくない。
野犬はその隙を逃さなかった。
こちらに爪で攻撃を──。
ザクッ!
「キャン」
野犬のうめき声が聞こえた。
懐から取り出したナイフで胸の部分を全力で刺したからだ。
ナイフと外套に血が付く。
「ふーっ。はーっ」
呼吸が荒くなる。ゆっくりと起き上がるが、野犬からは目をそらさない。
絶対にここで狩るという強い意志を見せる。
互いが不動の状態でにらみ合っている。
一歩も引かない、必ずここでお前を──。
横から素早く動く物体が飛び込んできた。
次の瞬間野犬が切り殺される。
いや、よく見たらグレンか。早すぎて分からなかった。
「大丈夫か?」
グレンが声をかけてくる。
「え、あはい……」
終わったのか。終わったのか……。
あたりを見回して、動かなくなった野犬が四頭。
「あまり、油断するな」
グレンが野犬に対して剣を刺している。
なんというかグロい。
「これは、とどめってやつですか?」
「ああ。念のためってやつだ。それよりお前左腕大丈夫か?」
左腕?左腕を見る。
「痛ってぇええええええええええええええええええええ」
やばい、死ぬほど痛い。泣きそう。
「グレンさん俺死ぬかもしれないです……」
半泣きでグレンに伝える。
「大袈裟だな、死ぬことはないと思うが」
いや、そんなのあなたが受けたわけじゃないじゃないですか。
「ちょっと待ってろ」
ごそごそと腰から瓶を取り出した。
「左腕の防具を外せ」
血が出ているが、痛みを我慢して防具を外す。
手に持つ余裕もなく、腕の防具は地面に落ちた。
「いや、痛いですって、死にますって」
左腕がグロイことになっている気がするが、見たくないので目をそらした。
グレンが俺の手をつかみ、右手に持った小瓶の液体をかける。
「これは?」
「ポーションだ、このレベルの怪我なら治る」
少し粘りがあるような液体が腕にかかる。
なんかこうポーションってさわやかな感じじゃないのか……。
軟膏よりはましだけど、保湿クリームと言えばいいのか、しっとりとさわやかの中間みたいな。
さっきより痛みが引いてきた。
「マシになってきました」
「お前は周り警戒しつつ、休んでいろ」
「うっす」
全身から力が抜ける感覚がある。
盛大に座り込んだ。
俺生きてるよな。
左手を開いたり閉じたりして実感する。
大きな深呼吸をして整えた。生きててよかった。