異世界で楽しく生きるつもりが、 人生かけて日本に帰ろうとした同郷から託されて、帰るしかない件。   作:帰途灯

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第9話 戦いの後に

 

 グレンは野犬を持ち上げて一か所に集めている。

 傍から見るとなかなかにグロいな。

 呼吸が整ってきた、俺、助かったんだな。

 帰ってもう寝たい……。

 

「アオイ」

 

 グレンが野犬の顔をつかみながらこちらに声をかける。

 生気のない目で空中を見つめている野犬がそこにいた。

 ……グロいな。

 

「討伐対象は証拠を求められることがある、野犬なら大体牙だな」

「じゃあこいつから牙の採取をするってことですか……」

 

 唾液と血が付いた野犬の牙が見える。

 うげぇ、やりたくねぇ。

 

「いや、今回は俺がいるから報告だけで問題ないはずだ」

 

 ありがとうございます、グレンさん。

 ほっと一息ついた。

 

「お、ほっとしてるな、経験として解体でもしておくか」

「いやいやいや、いいです」

 

 両手を振りながらなんとか拒否を貫く。

 

「分かったよ、依頼書にも牙を証拠としてもって来いって言われた場合には必要だからな」

 

 笑みを浮かべながら言われてもな。

 

「からかわないでくださいよ」

 

 どこまで本気なのか分からない。

 いや、本当にグレンがいてよかった。

 

「さて、流石に街道に近いし、このままってのもな……」

 

 確かに。死体は売れたりするのだろうか、でも解体とかはしたくないしな。となると……。

 

「どうします?いったん戻って穴でも……」

 

 グレンが小声で、何かを囁いている。

 

「世……よ、万……ら…光……手に、………導…え」

 

 何かの詠唱のようなものが聞こえてくる。

 倒した後のお祈りみたいなものだろうか。

 

「《イグニス》!」

 

 熱風が顔に当たる。

 その直後にグレンの目の前に火の玉が出現し、野犬に当たり表面を焦がした。

 一瞬の出来事に驚いていたら、直後に焦げ臭いような、表現しがたい匂いが鼻を刺激する。

 思わず顔をしかめる。

 

「風下に立たないほうがいいぞ」

 

 立ち上がって少しずれる。

 それより気になるのは。

 

「グレンさん今のはなんですか!」

 

 詠唱して炎が出る。これはもしかしなくても魔法なのでは。

 

「何って魔法だけど」

 

 勝った、いや何にって感じだが。

 いやこの世界には魔法がある、それがわかるだけでもうれしい。

 

「その魔法っていうのは誰でも使えるとかそういうやつですか!」

 

 これだけわかればどんなに時間がかかっても、練習する価値はある。

 

「おまえ、急に元気になったな。そうだな……」

 

 気まずそうに、なんて言おうかグレンが悩んでいる。

 あ、これダメなやつだな。

 生まれつきとか、選ばれし者しか使えないパターンだ……。

 

「ギルドで適性が調べられるが、俺の経験だと大体、5、6人いたら3人くらい使える。先に言うと適性ないやつは、何しても魔法は使えないからな」

 

 いや、どっちだ? これは異邦人でも適性あるやつか。

 まずは調べてからだけど、使えなかったらなぁ。

 俺こういうのは引きが弱いからな。

 もし無かったら帰りたくなってくるなぁ。

 

「まぁ別に使えないやつでも凄い冒険者はごまんといるけどな」

 

 落ち込みかけているところでグレンが慰めの言葉を言ってくる。

 

「それは、グレンさんが使える側だからですよ……」

「おまえ、遠慮なくなってきたな……終わったし帰るか」

 

 帰りもグレンが先行して、後をついていく形となった。

 他の魔物に襲われることなく、無事に城門まで来ることができた。

 入るときにも、同じように冒険証を見せる必要があるらしい。

 

「そういえばお前よく、ナイフで刺せたな」

 

 グレンが何気なしに言ってきた。

 

「何とかしないとって思ったら、不意に使ってました」

 

 あの時は本当に無我夢中だった。

 ナイフを買っておいてよかった。

 噛みしめるようにそう思う。

 

「そういうやつが生き残っていくんだぜ」

 

 先輩冒険者としての経験を感じる言葉だ。

 

「そういうもんですかね」

「そうだ……ギルドに戻ったら話があるんだがいいか」

「なんですか、話って?」

「戻ったらするよ」

「もったえつけないでくださいよ」

「別にいいだろ」

 

 気になる、めっちゃ気になる。

 そんな会話をしていると、やや歳をとったおっさんと呼ぶべき人が目の前にいた。

 

「そこの少年!」

 

 少年って俺のことか?

 周りを見ても他に少年らしき人はいない。

 自分の顔を指しながらその人のほうを向く。

 

「えーと、あなたは?」

 

 その暫定おっさんはこちらを見て驚いた顔をしていた。

 

「知り合いか?」

 

 グレンが尋ねてくるが、記憶にない。

 

「いや、初めて会う人ですね」

 

 おっさんは何を言うか悩んでいる様子だ。

 

「えーと、どうかしましたかね?」

 

 おっさんは何も答えない。

 衝撃を受けているのか、反応がない。

 この空気をどうすれば、謎の気まずさを感じる。

 無言が続くが、意を決して言おう。

 

「えーと、俺冒険者やってて、そこのギルドにいるんで、用があれば来てください。じゃあこれで……」

 

 会釈をした。

 なんというか、ぶっちゃけ怖い。

 身に覚えがないから、とりあえずスルーしておこう。

 

「あれでよかったのか?」

 

 グレンが訪ねてくる。

 俺にも分からん。

 

「いや、まぁ知らない人ですし」

「それもそうだな」

「それにしても誰なんですかね? グレンさんは知っている人ですかね?」

「いや、見覚えはないな。商人とかって説もあるな」

 

 なるほど、商人か押し売りとかなのかな。

 それにしては、なんというか、不思議な人だったな……ま、いっか。

 

「それより、ギルドで報告したら、魔法の適性を調べましょう!」

「あ、そうだな……」

「あ、もしかして俺に適性がないと思っていませんか?」

「いや、適性なかったらなだめるのが大変そうだなと」

「ありますよ、あってもらわないと困る」

 

 少し、不安があるがやってみるしかない。

 ギルドに到着して、カウンター前まで移動した。

 グレンが状況報告と対処方法などを説明している。

 俺はというと黙って横で聞いていた。

 

「承知いたしました、アオイさんは大丈夫でしょうか?」

 

 心配そうな顔をして受付嬢が聞いてくる。

 

「はい、大丈夫です。左腕を怪我しましたが名誉の負傷ってやつです」

「ならよかったです。では依頼の報酬ですが、大銀貨2枚になります。確認してください」

 

 大銀貨2枚。あれだけのことをして、思ったより少ないな。

 グレンが一枚つかみ、こちらに投げてくる。

 

「っと」

 

 落としそうになりながら、つかんだ。

 すごくいい。

 かっこよさポイントが俺の中で加点されていく。

 

「それよりお前、その血とか落として来いよ。ここで待っていてやるから」

 

 自分の服を見る。

 言われてみればさっきの戦闘で服とか顔に血がついている。

 全然気が付かなかった。

 

「すぐ戻ってきます」

 

 部屋に荷物を置いてすぐ、公衆浴場に向かった。

 風呂場のお湯で血とか汚れを落とす。

 ついでだから少しだけ湯船につかった。

 左腕はお湯につけないようにして。

 血は出てないけど、歯形が少し残ってるな。

 痛々しいが、これも冒険の証だろうか。

 

 温かいお湯が体を癒してくれる。

 にしても、この先これで生きていけるのだろうか。

 グレンを見ても、手慣れている感じでいたが、俺もいつかああいう風に……。

 いいや、今日は生き残れたそれでいい。

 よし出るか。

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