新春――
名門アーサーズ聖剣学園の門を、若き剣士たちがまた叩く。
その
一騎当千にして百戦錬磨の
全ては〝英雄〟として世界に君臨するために。
これは数多の天才たちを斬り伏せる、とある鬼才の成り上がり物語――
*****
「――敵影確認、今回は上級魔族ですか。しかも狂化状態」
「――ん、あぁ、そうだな」
「――気の抜けた返事……戦闘ですよ? しっかりしてくださいグレイ先輩」
三日月の見える、深い夜。
暗い森の中で、【魔族】の姿を尾根から見通す形で視認した。
視界には標的の他に、
「前髪邪魔だなぁ。いい加減に切らないと……」
「せ・ん・ぱ・い!」
生真面目な後輩が、隣からまた怒りの
……ついでにそのコパルトブルーの瞳で睨んでもくる。
「はいはい、しっかりやりますとも」
と、オレは遅ばせながらのやる気アピール。
それを聞くと彼女は漆黒の髪をなびかせ、再び視線を【敵】へと戻した。
「まったく。この
「単位ねぇ……」
「加えて報酬金も受け取れません。まだ貧乏生活を送りますか? わたしはもう嫌です」
「……それには同意」
後輩、もとい同居人でもある彼女の言い分に納得。
この討伐は課題の一環ではあるが、ドジをすれば一巻の終わりだ。
生活という意味でも。生死という意味でも――
「お前の言う通り、話で聞いてたよりか敵は手強そうだ――いけるか?」
「愚問です。わたしはいずれ『
「……流石は神童、自信たっぷり」
「わたしは先輩の自信のなさにガッカリです。先輩ならもっと――……」
『
英雄に最も近い存在とされ……ま、ようは『怪物』ってことだ。
確かに
「……お喋りはもういいだろ、そろそろ仕掛けよう」
「ですね。準備――入りますか?」
お互い
むろん彼女の場合は詠唱をすれば、即座に【鎧】は現れ、全身武装化されるだろう。
――だが、オレは違う。
対価。代償。生贄。供物。
そういった見返りを、【ヤツ】の起動には必要とする。
「……するぞ?」
「い、いちいち確認しなくても大丈夫です」
何度もしたことではあるが一応許可を得て――彼女の唇をふさぐ。
天上の武具を使うため。この戦いに勝つため。
自分に体重を預けてくる彼女の肩を抱き、浅くそして深くキスを交わし、互いの唾液で唇を濡らす。
舌が蠢き、唾液が交わる音がする。鍵となる力が流れ込んでくる。
「……あ」
敵の力量を鑑みるに、
オレがすっと身体を離すと、彼女はどこか名残惜しそうに応じた。
「今回はこれぐらいで。いつも悪いな」
「き、気にしないでください。わたしが……好きでやってることですから。か、代わりに帰った後も稽古つけてもらいますからね!
「せめて試合にしてくれ……」
いつもクール?な後輩だが、この時だけは年相応の少女に。
この状態を見れるだけでも、自分はだいぶラッキーな男なのだろう。
「それで……どうですか?」
まだ頬を赤く染めたまま、対価の是非を問うてくる。
オレも自分の中に潜む【ヤツ】に問う。
「対価はこれで良いってさ……ただ、あと3分寝かしてくれだと」
「もう。先輩みたいなこと言いますね」
「オレは寝起きいいぞ。一緒にするな」
「へー。ならなんで、わたしが毎日起こしてあげているんでしょうか?」
「…………」
「やっぱり似てますよ。先輩と彼女」
つまり『先輩は自堕落な人です』とコイツは言いたいのだ。
それは違う! と論破してやろうと思ったが、仕方ない、今回は勘弁してやろう。
別に逃げたわけじゃないぞ。論争という無駄な時間を費やしたくないだけだ。
「ではわたしが先行しましょう――契約をここに」
まだ幼さが残るものの綺麗な顔立ち、強い力を感じさせる
腰に差していた【聖剣】を抜き、左手で胸を押さえる。
「――鋼の乙女に祝福を。誉れある騎士に喝采を」
詠唱を紡ぐと、剣身からは【蒼い
焔はそのまま彼女の右腕を飲み込んでゆく。
「レイン・レイブンズの名の下に。
肩まで延びた【蒼き焔】は【蒼き鋼】へと姿を変える。
薄い層が重なり、
最後にはガチンと音を立てレインの右腕に装着された。
これが全ての聖剣に備わった能力の1つ――【
「――
腕に浮き上がる幾つもの術陣、青碧の
相変わらず見事な
「レイン、
「まずは部分武装で攻めてみますね」
「いやだから――」
「行きますッ!」
先輩の静止は聞かず、レインは尾根から深い谷へ一気に降下。
自信満々な後輩に溜息をつきつつ、オレも数秒遅れでスタートを切る。
『A――コRO――SUアアAAAA――!』
膨れ上がるレインの
するとなにも無かった敵の右手に、禍々しい剣が現れる。
(ま、上級魔族だけあって当然【魔剣】は持ってるよな――)
自分がもうすぐ地に足をつける――時にはもうレインは走り出していた。
彼女は聖剣片手に闇の中を、青い流星の如く突き進む。
向かってくる敵との衝突には数秒あれば十分だった。
「滅します!」
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
力任せに、縦横無尽に振るわれる黒い魔剣。
強大な暴力に風が引き裂かれ、高い木々がドミノのように地に倒れた。
風のつんざく音色が夜に響く。
「聖剣ラグナロク、
右腕を包む
すると焔がレインの
彼女は錯乱したその瞬間、コンマ数秒の間を逃さず――
「
右目、人中、喉元、心臓、左前腕、左腹部、右大腿、左大腿――
穿ち切り裂くこと八撃。
傷口からは焔が吹き追い打ちをかける。
瞬間でこれだけの連撃を浴びせた。
しかし、敵が握った【魔剣】を
『KアIHOウ!』
「――っ狂化状態で!?」
魔族の纏った殺気の質が変わる。
どうやら魔剣の能力【
例にならい強大な一撃が放たれるとレインも覚悟、
それが――。
「命取りだ」
落雷。
白い稲妻が突如として到来、魔族の身体を貫いた。
駆け巡る電流の波、いかに強靱な魔族といえどその身体を完全に硬直させる。
「電撃――っ先輩!」
「待たせた。ようやく【ヤツ】も目覚めたみたいだ」
顔を上げるレイン、近づくオレにパッと表情をほころばせる。
血なまぐさい戦場には不釣り合いな笑顔だ。
『A――Aア――AA?』
「横槍で悪いな。ただ一応は……大事な後輩なもんで」
最期まで
大切な後輩だから。同居人だから。そして――相棒だから。
「全能を殺す
同刻【ヤツ】を呼ぶ最中、オレはふと考える。
――『最強』とは一体なんだろう?
大した努力もせず、偶然に能力を持ったとしても、ソイツが強ければ最強なのか?
沢山のものが〝欠けた〟人間では『最強』になれないのか?
「
「契約だ。グレイ・ロズウェルの名のもとに――」
人間は【聖剣】しか使うことができない。
魔族は【魔剣】しか使うことができない。
自分は――どちらでもない。
「
彼女の名前を静かに告げる。眩い光が全身を包む。
グレイ・ロズウェルは、この世界で唯一の【神の剣】を使う存在。
古今東西、ありとあらゆる刀剣を滅殺する剣を持つことから。
周りはオレを――『