「そうだ。オレが――グレイ・ロズウェルだ」
クラスメイトたちにとっては、なにを今更名乗るのだという話。
しかし彼女にとっては、レイン・レイブンズにとっては――
「
「悪かったよ。ただ悪いと言っても悪気があったわけじゃあないけど」
あれは自身としても、苦渋の決断だった。
苦くて渋くて、自分の保身を第一に考えたものであった。
ボクなどという一人称は、自分でも似合わないと思っている。
「……いや、本当によくここまで辿り付いた。素晴らしい。よって褒美としてこのオレの聖剣(※安物)をやろう」
「え、せ、聖剣をくれるんですか?」
「ああ。オレの相棒――正真正銘の聖剣(※安物)だ。ほら。なくさないように、大事に教室まで持って帰れよ。悪いやつに取られないようにな」
「わ、分かりました。それでは失礼しま――って、なにわたしを帰そうとしてるんですか!」
ッチ、流石にそこまで
差し上げた聖剣も丁重に返却された。
「また騙そうと……完全に悪気あるじゃないですか!」
「昨日はなかった。今はコーヒーに入れる砂糖一杯くらいの悪気はある」
「……し、信じられない」
「あ。コーヒーに砂糖は入れない派だった?」
「そういうことではありません! こ、こんな人が――」
なんだこのテキトーな生物は、という目をしている。
ついでに『騙しましたね!』と怒りも籠もっているようだ。
「――とりあえずグレイ、彼女あなたの知り合い?」
オレと1年生の会話劇に一区切りついた後、リザが詳細を問う。
それは個人でというより、クラス全員を代表してのような。
「あ、申し訳ありません。名乗っていませんでした。1年A組所属、レイン・レイブンズと申します」
「あら、随分と礼儀正しいじゃない。コイツの知り合いにしては珍しい。リザ・ファトラウエンよ、よしなに」
その礼儀正しくない知り合いの中には、リザも入っているんだが……。
「レイブンズといえば今年の主席よね? 噂は聞いているわ」
「……恐縮です」
「それで? どうしてアナタみたいな〝スター〟がこんな【落ちこぼれ】に会いに? 騙されたとか言ってたから、金でも盗られたんでしょうけど」
「おいリザ。オレを詐欺師と確定するな」
せめて『盗られたの?』ぐらいにして。
かってに決めつけるなよ。
「お金や物は盗られていません。ただずっとこの方――この人を探していて」
呼び方をなぜか変更。
距離が縮まったからというより、ランクが下がった感じだ。
「以前、助けて頂いたことがあって。それでまずお礼を――」
「オレはアンタを助けた覚えなんてまったくないけど」
「……それで、ようやく昨日お会いできたと思ったら、別人の名を
スルーか。完全スルーだな。
「でもその後に、ずっと探すのを手伝ってくれていた友人に一件を伝えたら……」
「それ
「はい。改めて資料やランキングを調べてみると、その時名乗られたリスト・フロイントなる人物はまったくの別人でした」
リザが相づちを打つ。
隣では小声で『完全にバレてんぞ!』とリストが。
分かっている、やはり無理があったようだ……。
「……どうして、どうしてあんな嘘をついたんですか?」
第三者からしてみれば、レインという少女はお礼を言いたいだけ。
なのに、なぜ頑なに、名を偽ってまで避けるのか。
(オレだって礼だけなら素直に受け取りたいさ。だけどそれだけじゃあないだろう? 実際お願いがどうとか昨日言ってたしな)
発端となったのは始業日、不良の足止め。
そもそも、あの時に放った【一振り】を完全とは言わずとも、彼女は見た。見破りかけた。
これが普通なわけがない。異常だ。異常事態なんだ。
(しかもソレを学園最下位が放つ。これが輪に掛けて異常性を増す。彼女からしてみれば不審で不信で不可思議だろう)
――やはり、似合わないことはすべきではなかった。
どうあがいても、オレに正義は務まらないのだろう。
「どうして嘘を――か」
「否定はされましたけど、わたしはきっと助けてくれたであろう、あの一件を素直に感謝しています。感謝するどころか感嘆しました」
「全部ソレはアンタの勘違いで、オレは間違われて嫌気がし、嘘をついたのかも」
「勘違いも間違いもありません」
断言する。
不屈の意志ってやつだな。
ますますあの人と被ってくる。
「ここに辿り付くにも随分と時間を要しました、最後には学園長にも助けて頂いて――」
「学園長……?」
どうしてオレを見いだせたか、イマイチ分からなかったが……。
(そうか学園長が一枚噛んでいたのか)
他人に情報開示とは、一体どういうつもりだ……?
剣聖で、美人で美人だからって何でも許されるわけじゃないぞ。
「まずはお礼を。遅れましたが、ありがとうございました」
礼儀正しく、深く、見事な一礼。
最下位に主席様が頭を下げたことで、周りは『おぉ!』っと反応。
リストに至っては『フラグかよ。死ね』と言ってくる。
立ったとすれば恋愛でなく死亡フラグの方だ。
「……だから勘違いなんだってば……」
ここまで来ると言い訳も苦しい。
場の空気が彼女の方へ、レインが正しいという雰囲気に変貌していく。
露骨な正義というものは、どうしても周りを惹きつけるからな。
(しかし騙したってのに、どうもオレのことをリスペクト……までは言わずとも、慕ってる?想っている?節があるんだよな)
自意識過剰だろうか……?
「騙されたことは……もう水に流します。二度としないと誓ってくれればそれで良いです」
「二度と、ね……」
「はい。今はそんなことよりも、あなたに聞きたいことが山ほどあるので」
「…………」
厄介だ。厄介で厄介で厄介。
リザは彼女を〝スター〟と呼んだが、まさにその通り。
人気者と一緒に居るやつは、だいたい何かしらの被害が降りかかるのが常。
「あ、あのー、レイブンズさん。コイツは朴念仁で詐欺師だからさ。一度は騙られたよしな、本物であるこのリスト・フロイントが話を聞いてあげ――」
「結構です」
「――グハヴァ!」
一刀両断だ。凄まじい言葉の切れ味。
リストは机の上に倒れた。
「もうこのまま言い訳をしていても話が進まないでしょう。話をしたらグレイ?」
リザまでも彼女に味方する。
話の全容は見えていないが、良識ある意見をくれるものだ。
「ふぅ。レイン……だったな?」
「はい。ロズウェルさん」
「確かにこれはこの場で収まる感じではない。周りにも迷惑だ。そこで場所と時間を変えて改めて話すのはどうだ?」
昼休みもなんだかんだ、残り僅かなのである。
「……分かりました。そうしましょう」
「決まりだな」
では場所や時間を決める――前に、
「さっきオレに、二度と嘘をつかないと誓ったら――みたいなこと言ったよな?」
「あ、そうでした!」
「……もしそれでも嘘をついて騙したらどうなる?」
「軽蔑します」
「もう会いたくないぐらい? 絶対絶対会いたくないぐらい?」
「もう会いたくないです。絶対絶対会いたくないです」
……そうかそうか。
「しかしここにいる全員が証人です。誓えばもう約束を違うことはできないはずです」
良心と聖剣と学友に懸けて――と彼女は付け加える。
確かになぁ。なら二度とはできないよなぁ。
ならば――
「じゃあ誓おう。オレは二度とお前を騙さないと」
「確かに聞きました。信じましょう」
「お前も守れよ、またオレが嘘をつくようなら、軽蔑して絶対会いたくない人認定するって」
「……ま、守りますけど? でも信じてますから」
信じてますだって。
「なら約束だ、レイン。改めて会おう――今日の放課後に」
※
「おぉぉぉぉい! どういうことだよグレイ! お前あれだけ興味ないって言ってたじゃん! なんでフラグ立ててくれちゃってんの!? 放課後には告白イベントでもやるつもりか!? もはやお前を殺して――」
嵐が去って静寂……にはならず、教室は騒がしかった。
特に隣。リストのけたたましさといったら……。
「グレイ、あなた彼女を本当に助けたの?」
「……さぁな」
「ふーん。あなた周りに無関心なようで、つい手助けする時あるからね。ワタシの時もそうだったし」
「……そうだったか?」
「そうだった」
今回でいえばリザの方が大人しい。
ひとりでに納得している様子だ。
「う、うぅ。グレイがリア充に……しかも相手は美少女……」
「彼女の容姿は認めるが、オレがなるとしたらリア
渋々なのだ。
だがリストは『でも放課後2人きりで会う約束したんだろ!?』とたたみ掛けてくる。
どうにも悔しいらしい。
周りの男たちも、殺気をオレに向けてくる。
「安心しろリスト。オレは会わないよ」
「安心なんてでき――は? 会わない?」
一転、ワケが分からないという顔をするリスト。
リザも怪訝な顔をして確認をしてくる。
「ちょっと、二度と嘘はつかない、騙さないんでしょう?」
「ああ。
「二度としない。つまり、あと