「まさかお前に看病される日が来ようとは、驚天動地とはまさにこのこと――っ!」
「わたしが先輩を看病することって、そんな悔しがるようなことでしょうか……」
ああ、そりゃ悔しいとも。未熟と言っていた後輩にこの歳になって――
「はい、あーん」
「……あーんとかいちいち言わなくていいんですけど」
「はいはい小さい子みたいなこと言ってないで。あ、ちゃんと30回は噛んでくださいね」
30回も噛んでられるかよノロマ!……と罵ってやりたいが、この身体の状態ではそれはできない。一人でトイレに行くことすらやっとという状況では――
「どこで要らない不服を買って、お前に殺されるか分からないからな……」
「……失礼ですね。可愛い後輩にこんなに面倒を見てもらえる人、そういませんよ」
食事を作ってもらい、食べさせてもらい、その他にも洗濯、掃除、ゴミ出し、シャワーを浴びるのも困難なのでタオルで拭いてもらう等々、オレは感謝ことすれど恨み嫌う節などまったくないのだ。しかしあまりに甲斐甲斐しく面倒を見てくるので……。
「もはや母親だな、マザー。母性後輩だ」
「母性後輩って……そこはお嫁さんとかにしてくださいよ」
「ハニー、新婚旅行はどこがいい?」
「は、ハニー!? 新婚旅行って突然そんな……えっと、綺麗な海が見える場所とか……」
「おいおい、なに本気で考えてん――痛いったあああああああああああ、オレ病人だぞ!?」
「病人? どこですか? わたし今からお掃除しなくちゃいけないんですけど」
まさかオレの事を暗にゴミだとか言ってないよな? お掃除の対象とかじゃないよな?
「冗談ですよ。ただの戯言です。わたし、先輩のこと尊敬していますし」
「……ならなぜ、さっき片手間のようにオレの鳩尾にエルボーを叩きこんだのか……」
コイツの反撃は案外、先日あったあの魔族の男との戦いよりも恐ろしいかもしれない。
オレは一時的かつ限定的に【ヤツ】を解放、見事に勝利を収めたわけだが、もともと無理がたたってはいたせいもあり、今ではこうしてベッドでの生活を余儀なくされている。
彼女を守るためだったとはいえ、彼女がいなくてはこの家で孤独死していたのかも。
「あ、それと奪われていた【聖剣】たちは、全て生徒に返還されたそうです。魔族と内通していたテレス・ギリアスも拘束され審問官に連行されました」
レインがつらつらと報告をする。まだ多くの生徒は一件を知らないようだが、徐々に噂にはなってきているらしい。
「魔族との内通者がいたという事実。学園長からしてみれば、すぐにでも教師および生徒、関係者の審査を行いところでしょうね」
「ただうちは課題で外に出て不在のヤツも多いからなぁ」
「ええ、変人奇人も多いですし、1日2日での全員招集は難しいでしょう……」
ひとまずオレたちが睨んでいた裏取引は、魔族たちに渡りきる前に打破することができた。生け捕りにはできなかったが逃さなかっただけ結果良しだろう。
「あの魔族は、儀式云々言ってましたが、神様ってそんなに悪いものなんでしょうか?」
「経験則で言えば、少なくとも良い神様なんのはいない。神話にほだされるなよ」
やつらは基本存在するだけで脅威となる。お伽噺のような恩恵などもたらさない。
「そうですか……」
魔族との一件以来、レインは【神】について尋ねることが増えた。ただなぜ訊く?と聞き返すことはできなかった。そもそもとしてオレが大きな隠し事をしているからだ。
あの魔族を屠った一連を、彼女は見ている。あれは聖剣の力でなかったことぐらいきっと勘づいているはず。それを気を遣って触れてこないのでこちらからも問いかけにくい。
(だけどコイツになら、全てを打ち明けてもいいのかもな――)