聖剣学園の落第剣士   作:東雲(しののめ)

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第22話:最終決戦Ⅳ

 クロスの索敵に従い、現在地より更に北方へ。

 駆ける最中に学園長に連絡を取ろうとしたが【端末】を家に置いてきてしまった。

 校舎から遠く離れていくので、もう応援は望めないが、しかし別視点で見れば、森へ来たことで自分以外への被害は最小限に抑えられているとも言える。

 

「――おやおや、あの時の少年ではありませんか」

 

 レインのものらしい力の奔流、その源に到着したが、出迎えたのは可愛い後輩ではなかった。あのカーチェイスの末、確かに殺したはずの魔族の男がそこにいた。

 

「まぁレインが焔で分身を作れるからな、ただ手応えはあったはずなんだけど」

「いや仰る通りですよ。私の本体は間違いなく死んでいる。殺されている。だから貴方がいま相対する私はあくまで残像思念というか、残滓というか、搾りカスにすぎません」

 

 死に際に【魔法】で分身まがいのものを生み出したらしい。

 しかし死してなおそれは動き、十分な役割を果たしたと男は言う。

 

「あの日、あなたと共にいた少女に【違和感】を得た。ただの人間ではない、と。ただしナニカが抑止力となって本質までは垣間見えない。あなたはもう意識もあやふやだったので聞こえてなかったのでしょうが、私は死に際、彼女の【精神】を揺らす言葉を投げた」

 

 炎使いと焔使い、男は技術的にも経験的にも卓越していただけあって、あの間に様々なことを見い出した。

 そして放った分身を連絡役として、他の仲間に伝えた。

 

「――で、その仲間ってのがソコに隠れてる1年坊ってわけか」

 

 この場にいるのは魔族の男と自分だけではない。

 

「あれれ、バレていましたか」

 

 赤みがかった髪を持つ少女、よくレインの話に出てきたので知っている。まさか魔族だとは考えていなかったが、どうやら魔の手は最初からすぐ傍にあったらしい。

 

「バレていたとも。そしてアンタが学園に潜む、最後の魔族だってこともな」

「……へえ、面白いことを言いますね。根拠を伺ってもよろしいですか?」

「なに、ただアンタらの仲間を捕まえて、少し拷問しただけのこと」

「……何人か失踪、連絡が取れなくなってましたが、そうですか、あなたの仕業でしたか」

 

 彼女の他に魔族は2人、いずれも生徒に扮して学園生活を送っていた。

 そのうち1人はみなも記憶に新しいと思うが、あの学園初日に目立っていたあの金髪ヤンキー、オレが数日後に殺した男である。

 アイツは【細剣(レイピア)】使いでもなんでもなく、懐に【短刀】型の【魔剣】を仕込んでいた。活発化する夜に目を光らせれば、すぐクロスが発見したよ。

 

「ただ仲間の名前までは口にしなかった。ちまちま探してたらこの有様だよ」

 

 あーあ、もっと早く殺せていたらなぁ……っと、これはクロスの思考だ。

 

「そもそも教師の中に内通者がいたんだ。入学試験や編入試験に介入されている可能性は十分ありうる。まったく、学園長には馬車馬の如く働かされたよ」

 

 部屋にあった死体は、確かに全てオレが殺したものである。

 しかしソレは暗躍する魔族であったり、大罪を犯した人間であったり、自分が冷徹な殺人者であることは認めるが、シリアルキラーなどと一緒にしないで欲しい。

 

「もう御託はいいだろ。レインを返せ。魔法で姿を隠しても、力までは隠せない」

「御託とは心外だ。時間稼ぎと呼んでくれ。ただあの日の戦い、私を断ったあの【一刀】から、少年がただ者でないことは理解している。だがもはやそれも――」

 

 それ以上は言わせない。

 丸腰であった自分、そのまま空の右手を振りかざす。

 そのまばたきの間に光が集約し【一刀】となって放たれた。魔族の男、その残骸は今度こそ消えた。

 

「……お見事ですね。学園最下位だとは思えません」

「お褒めにあずかり光栄だ」

「私は信じませんでしたが、もしかしたらレインの言う通り、本当に『円卓十二席(アーサーズ)』に匹敵しうる実力があったのかもしれません。彼らは強い。私は以前【四席】に魔剣で干渉したことがあるのですが、情けないことに気絶してしまいまして」

 

 いやはやみっともない事をしましたと彼女は言う。

 その時はレインが傍にいたが、バカ正直だけあって【四席】の圧にやられてしまったと勘違いしたらしいが。

 1年……いやこの魔族の女は、独自にグレイ・ロズウェルについて調査をしたようだが、終ぞオレが何者であるかは分からなかったらしい。

 結局はそれなりの実力を隠していた、面倒くさがりやの男と把握している節があった。

 

「ま、少しでも油断してくれるなら、そりゃ僥倖――」

 

 実体のない光の剣を振りかざす。

 

「――っ」

 

 目を見張る少女、だが寸でで反応されて片腕しかもげなかった。

 どうやら右手の【魔剣】は攻撃に特化しているわけではないらしい。儀式系特化か?

 

「イタタ……容赦なしですか、でも――こちらも儀式は終わりました」

 

 女の真横、何もなかった空間に一本の縦線が入る。まるで剣で一刀両断されたかのような美しい一直線だ。そして何もない場所から――彼女は顕れた。

 

 

 

 これまでの話に【神】という存在が幾度と語られたが、実在する彼らは一体どのような容姿・格好なのだろう? 

 現世に姿を示す大体のものは【邪神】であるが、しかし【邪】だからといって一概に見た目も禍々しいわけではない(もちろん禍々しいのもいるにはいるが)。

 

 男神であれば精悍、女神であれば凜とした、これまで自分が見てきたのはみな美男美女であった。神にも性別や趣向があり、顕現した姿にもそれ相応の特徴があるというものだ。

 

「――わたしの父は【邪神(かみ)】だった」

 

 自分を神だと気づいた彼女は、眠っていた、封じられていた過去をつらつら語る。

 

「――わたしの母は【人間(ひと)】だった」

 

 纏ったその【神聖機武装(キヤメロツト)】は神々しい蒼白色。

 これまで見てきたどんな鎧よりも美しい。

 

「――ではわたしは、一体何者なのだろうか」

 

 握られた聖剣……いいや、【神剣】にまで昇華した得物を手に、彼女は自問自答する。

 

「よぉレイン。たった小一時間で随分と変わり果てたもんだ」

「……レイン? ああ、わたしがレインか。貴様は……誰だ、誰だろう? 誰なんだ?」

 

 記憶の混濁、うつろな目をする彼女は問いかけをするようで、オレを一切見ていない。

 

「……コイツになにをした?」

「なにをと言われても、潜在的に……いえ意図的に【神力】を奥底に封じられていたのは報告で分かっていましたから。私の魔剣を使って精神を本来の形へ戻して上げたんです。後は儀式の準備等々、もともとは儀式失敗でこの都を破壊するつもりでしたが、良い手駒を手に入れた者です。彼女を操って――この――まち――を?」

 

 魔族の女は言葉を途中で噤む。それは真横にいたレインが剣を振るったから。

 転がる生首に、友人と呼んでいたソレに、斬った彼女はなにも感じない。

 ただ近くにあったから殺しただけという印象を受ける。

 

(バカが。その程度の魔剣で今のレインの精神支配なんかできるわけないだろうに……!)

 

 だが結局このラスボスを誕生させただけで、魔族らの目的は成就したのだろう。

 放置すれば都の1つや2つ余裕で陥落する。

 

「――あぁ、むなしい。もっと破壊して、もっと破砕して、もっと破天しなければ」

 爆発――否、彼女の保有する【神力】が一気に開放されたのだ。

 

 蒼白い粒子が無限大多数と表現するしかない量で吹き荒れる。

 これが半神半人だ? ほとんど神と同質だぞ!

 

『狂化状態にすることで限界(リミツト)を外しているね。その分剣技は甘くなるだろうけど――』

 

 小技が多少緩くなったところで、今のレインには並大抵の剣は届かない。どうしたら彼女を元の状態に戻せるかの前に――本気を出して、オレはようやく対等になれるかどうか。

 

「一応訊くけどさレイン。剣を降ろして、大人しく家に帰るって選択はないか?」

 

 彼女は無言だった。無言で剣を構えるだけだった――次はお前だ、と。

 数日前に剣嘩(けんか)をふっかけられた事を思い出す。

 もうレインと真剣勝負をすることはないと思っていたのに。

 

「しゃあねぇな」

 

 空の両手を前に突き出す。コイツを戻す方法は分からない。でも目の間に神まがいの――いいや、世に仇成す【邪神】がいるのならば、オレがとるべき行動は決まっている。

 

「全能を殺す唯一の剣(つるぎ)」

 

 最強の意味を探している。我が師のような強さを求めている。

 

「幾星霜、幾歳生ける神を、聖剣を、魔剣を、神剣を、その全てをオレは殺す」

 

 オレは幸か不幸かこの力を得たけれど、それで最も強くなったなどと傲る気はない。

 

「契約だ。グレイ・ロズウェルの名のもとに――」

 

 いつの間にか、オレの隣には銀髪の少女がいた。こんな状況になっても無表情は相変わらず、戦闘特化だとか言ってレインの洗脳も解けないと、ぶっ殺すしかないと言う彼女。

 

「神聖機武装(キヤメロツト)、起動(アベント)――来い! クロス・ヘル・ヘブン・ゲート!」

 

 少女の形をしたナニカがミクロ単位にまで分解され、オレに纏わりつく。光の集合体でしか顕れなかった【十字剣】は実体を持ってこの手に握られ、身体には黒と銀を織り交ぜた鎧が展開されていく。

 

 クロス・ヘル・ヘブン・ゲート。

 

 この世界でその女神の名を知らない者はいない。文字通り【天国】と【地獄】に君臨せし神柱であり、逸話は伝説となって語り語られる絶対無比の戦女神。

 オレは彼女と半年以上前に遭遇し、そして戦った。劣勢に劣勢だった。

 ただ当時の【聖剣】に備わった禁則機能に命を賭すことで、どうにか相打ちに持っていけたのだ。

 

 だからオレは、オレたちは一度死んでいる。

 しかし【契約】をすることで、混じり交じわることで、1つの生命として生き延びた。

 

「もしかしたらこの日この時のために、オレは十死(じゆつし)に一生を得たのかもな……」

 

 兜の隙間から【敵】を見据える。彼女は兜を被らないがそれは自信の表れなのだろうか、素で必要がないと思われているのだろうか、お互い臨戦態勢でにらみ合う。

 

「――かつて、わたしの父を殺した女剣士がいた。彼女は自らを『邪神殺し』と名乗った。しかし幼きわたしを殺すことは躊躇った、近い未来仇討ちをされるやもしれんのに」

「だから【封具(シールド)】をもたすことで、記憶と力を封じたってとこか」

「然り。だがわたしはこうして【意識】を一応に取り戻した。後は我が系譜に従い、破壊と殺戮を繰り返すことで本懐と本領を取り戻す。人間性を排除し、完全なる姿へ至る」

 

 オレはようやく『アーサーズ聖剣学園に通いなさい』と遺した師の言葉を理解した。

 やはり思った通り、師はオレに青春を送ってくれなどと考えていなかったのだ。

 

 ただ――自分が唯一残してしまった者、レイン・レインブンズの事を頼んだと、弟子(オレ)に託したのだ。

 

「そういうことだよな。そういう意味なんだよな師匠。全然頼ってくれなかったアンタが、オレに最期の最期、頼ってくれたってことなんだよな」

 

 幼子を手に掛けられなかった当時の師匠、でもその時に予感がしたのかもしれない。

 実際、生かした少女は幾年もの時を経て、弟子たるオレの目の前に邪悪なる者として顕れてしまった。

 

 力強く柄を握る、全身から見えない力が湧き上がる。

 ああ、任してくれ。コイツはオレが――

 

「オレはノア・アークスの一番弟子、グレイ・ロズウェル! いざ尋常に!」

「我に正しき名はなし。いざ尋常に」

「「――勝負!」」

 

 寸分狂わず同じタイミング駆け出す。剣を片手に互いが互いを断つべくして。

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