超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
誰よりも早く登校する。
たったこれだけのことに、命をかける人たちがいる。
それは私も例外ではなくて。
だってそうでしょう?
登校順でその日のカーストが決まるなら、誰だって早く通うに決まっている。
こんな馬鹿げた競争に身を置くようになったのは、入学翌日の自転車登校がきっかけだった――。
――国立桜坂能力開発女子高等学校。
いわゆる超能力者を育成する高校に、私は入学することになった。
高校受験が間近に迫っていた頃、傍迷惑な超能力が芽生えてきたからだ。
しかも、とんでもなくしょぼい。
こんなにしょぼいなら、いっそのこと芽生えない方が良かったと思うくらいだ。
それでも超能力は超能力だから、扱い方や心構えを学ぶために、国立高校へ通うことになってしまった。
おかげで行きたかった高校にはいけず、人生設計もめちゃくちゃ。
せめて強い能力なら将来有利に働いたかもしれないけれど、みそっカスすぎて何の役にも立たない。
超能力者が現れ始めてから既に五十年近く経つものの、超能力を振るう場所なんて限られる。
さらに弱能力だと、超能力者を求める場所にも歓迎されない。
だから、私がこの学校に通うのは完全に時間の無駄なのだ。
それでも超能力が発現した人は国立の学校に通うことが義務化されているから、従うしかない。
でないと無免許の犯罪者として捕まって、もっと厳しい施設に送られる。
そういうわけで、私は嫌々ながらもこの学校へ通うしかなかった。
そして、不満なところがもう一つ。
超能力者を集めるという性質上、民間人に危害が及ばないよう、学校は山奥に設立されているのだ。
全寮制だけど、寮は山の下。
一応街には出られるけど、その街も能力者のために作られたような、隔離された街だ。
どこか閉鎖的で、息の詰まる街。
まぁそれはいい。本題ではない。
つまるところ、これから私は、毎日片道三キロの山道を登らなければいけないのだ。
正直馬鹿なんじゃないかと思う。
どうして学校のすぐ側に寮を作らなかったんだ。
良いところのお嬢様も通う女子校なのに、こんな暴挙があっていいのだろうか。
このそびえ立つような坂を見ているだけでも憂鬱になってくる。
文句を言いたい気持ちが渦巻くものの、学校へ通うにはこの道を通るしかない。
登校拒否したいところだが、中退したらここより酷い環境に行くことになる。そんなのはごめんだ。
だから私は、自転車を立ち漕ぎしながら必死に山を登る。
自分の中ではそこそこ早い時間に寮を出たから、授業には間に合いそうだ。
今日が授業初日だけど、景色を楽しむ余裕なんて既にない。
あるのは疲労感と、能力者に囲まれてやっていけるのかという緊張感だけ。
周りにいる生徒たちは、全員なんらかの能力者なのだ。私の能力じゃ太刀打ちできそうにないから、トラブルに巻き込まれないようにしないと。
――それにしても。
全寮制だから当たり前だけど、二車線の道路には、お嬢様を送迎するような車は見当たらない。
それどころか、生徒の影もまばらだ。
なんでこんなに少ないんだろう?
というか、よく見たら全員タイが赤い。
つまり私と同じ一年生だ。
新入生しか学校に向かっていないんじゃないかと思うくらい、他の色を見ない。
ここまで一人も上級生を見ていないとなると、なにか秘密がありそうだ。
先輩達しか知らないショートカットとかあるのかなぁ。
そしたら教えて貰いたいけど。
なんて事を考えながら、ぎこぎこと山を登る。
遅刻しないよう比較的早めに出たおかげもあって、学校に着いた時には、十五分ほどの猶予があった。
よかった、授業初日から遅刻なんてことにならなくて。
山道を歩いていた新入生たちは危うそうだけど。
しかし、駐輪場はどこにあるんだろう?
入学式が終わった後に調べておけばよかったな。
昨日は徒歩で登校しなきゃいけなかったから、見てないんだよね。
三キロのハイキングとか二度としたくないし、自転車通学はマストなんだけど。
本当にどこにあるんだろう。
駐輪場を探してきょろきょろしていると、立派なパラソルテーブルでお茶している人たちを見つけた。
こういうのを見るとお嬢様も通う学校なんだなって思うね。
タイの色は青。
見たところ最上級生みたいだ。
他にもまばらに生徒を見かけるけど、校舎に向かっているのはなぜか新入生しかいない。
お茶の時間を邪魔するのはちょっと気が引けるけど、駐輪所の場所を聞くには上級生の方がいいだろう。
そう思って、自転車を引きながらパラソルテーブルの集団に近づいた。
「あの、おはようございます。駐輪所の場所を伺いたいんですけど、どこにありますか?」
私が尋ねると、金髪縦ロールのこれぞお嬢様って感じの人が口を開いた。
「あら。新入生ね。今登校したところなのかしら」
「そうです。でも、駐輪場の場所がわからなくて……」
「駐輪場ってなんですの?」
え、何この人の反応。もしかして駐輪場ないの?
「え、いや、この自転車を停める場所ですけど」
まさかと思って再確認したら、その上級生は突拍子もない事を言いだした。
「まぁ、面白そうな乗り物。少し借りるわね」
椅子から立ち上がったかと思うと、なんと私の自転車をかっさらい、乗り始めたのだ。
「あっ、ちょっと……」
なんだこの人! いきなりだなぁ。
あんまり時間ないのに。
自分の意見はなんでも通ると思っていそうな感じがするし、たぶんお嬢様なんだろうけど……お嬢様ってこんな人ばかりなの?
って、あ。こけた。
この人、自転車見るのは初めてっぽかったし、乗るのも初めてなのかな。今ので自転車に傷がついてないといいけど。
そんな心配をしていると、お嬢様上級生と一緒にお茶していた人たちが、一斉にかけよっていく。
「真矢(まや)様! 大丈夫ですか!」
「ええ、たいしたことないわ」
「真矢様にお怪我をさせる可能性があったなんて、こんな不届きな乗り物は壊してしまいませんこと?」
ちょ、なに物騒なこと言ってるの、取り巻きの人。
私が内心焦っていると、真矢様と呼ばれたお嬢様上級生は手で制した。
「やめなさい。この乗り物、初めて乗るけど楽しいわ。あなた、この乗り物はなんて名前なの? さっき言われた気もするのだけど、きちんと聞いていなかったわ」
しばし訪れる沈黙。
あ、取り巻きじゃなくて私に話しかけたのか。
本当に初めて見るんだなぁ。こんな人がいるんだ。
「えっと、自転車ですけど」
「自ら転じる、ですか。初めのうちは自ら転ぶの意味になりそうなところが、少し面白いですわね」
どうやら変なところに感銘を受けたらしい。変な人。
でも、取り巻きの人はなんだか不満そうだ。
「真矢様。そんな庶民の乗り物なんて危ないですわ。先ほども転んでしまいましたもの」
「私が上手くできないことなんてそうないもの。だからこそ燃えてくるのよ。そういうわけだから、あなた。この乗り物、いただくわ」
「は?」
いただくって、貰うって事?
なんで?
「その態度はなんですの? この私に乗ってもらえるのよ。光栄に思うことね」
「いやいやいや、あげるワケないでしょ。いくらしたと思っているんですか」
電動なんだぞ。そこそこ高いんだぞ。
「なによ。どうせ一束あれば買えるのでしょう? なら私にくれたっていいじゃない」
「一束?」
「一万円札のことよ」
そこは律儀に説明してくれるんだ。
って、そうじゃない。
いくら金銭感覚がバグってるとしても、人の物を奪うのはありえないでしょ。
「あなたにとっては端金でも、私にとっては高いんですよ。いくらあなたが金持ちだからって、人の物を奪うのは泥棒です。どうしてもっていうならその自転車はあげますから、あなたが言う一束を払ってください」
どうせ十万そこそこだしね。一万円札の束を貰えるなら儲けものだ。お金を払ってくれるなら、むしろ気に入ってくれてありがとうって感じ。
なんて、考えていたのだけど。甘かった。
「あら。あなたは先ほど登校したのでしょう? なら四番目に登校した私のお願いは断ってはいけないのよ」
「は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
四番目に登校した……だから何?
でも、そう思っているのはこの場で私だけだった。
「そうですわよ。だからあなたは真矢様にこの乗り物を差し出さなければならないのです」
なんて、取り巻きの人も言う。
いや、これ私がおかしいの?
そんなわけないよね。
そう思っていたのだけど――。
真矢様とやらは、私を小馬鹿にしたような態度でのたまった。
「あなた、校則はご存知でないの? 第五項に書いてありますわよ」
急いで生徒手帳を取り出し、言われたページを探す。
そんな馬鹿な校則あるわけ……あった。
『本校生徒は、すみやかに登校すること。登校が遅かった者は、より早かった者の要求を拒否することはできない。但し以下の場合を除く――』
なんだ、このとんでも校則。
下に細かい条件とか書いてあるからなんでもって訳ではなさそうだけど、少なくとも自転車を接収することは認められていそうだ。
っていやいや。
「校則が認めても、私は認めませんよ! こんな校則があるって分かってたら、もっと早く登校したし!」
「あらあら。生徒手帳も確認していないなんて、怠慢が過ぎるわ。これからは校則にきちんと目を通すことね」
どうあっても私の話を聞くつもりはないらしい。
早く登校するのがそんなにえらいの?
なら、この人より早く登校したら言うこと聞かせられるってことだよね?
「四番目に登校しただかなんだかわかりませんけど、あなたより早く来ればいいんでしょう? そしたら自転車返してくれるんですよね?」
そう言った瞬間、真矢様とやらの顔つきが変わった。
まるで、噛み付いてきた仔犬を見ているかのような目だ。
「少し生意気がすぎますわよ?」
この人、なんでこんなに怒ってるんだろう。理由がわからず、戸惑うしかない。
「ただ早く登校するだけですよね? 早起きでしか差がつかないようなことじゃないですか。そんなに誇る事でもないと思いますけど」
言ってから気がついたけど、もしかして送迎させてるから早いとか? そしたら流石に勝てないな……。
なんて考えていたら、真矢様とやらの額に青筋が走った。
「そこまで言うならいいでしょう。登校決闘をしますわよ。ルールはスタンダードにサシ勝負。賭けるのはお互いの要求ですわ」
なんかいきなりマジになって怖いなこの人。
言っている意味もよく理解できないし。
「登校決闘だかなんだか知りませんけど、決闘罪って知ってますか?」
「何をおっしゃっているんですの? 決闘罪に問われないための登校決闘なのではありませんか。ここでの能力者同士の諍いは、登校順位によって収めます。そもそもここは国立校ですのよ? 法律違反にあたるようなことをするわけないじゃありませんの。常識で考えなさい」
え、なんか私が悪いみたいになってる。
というか能力者同士で戦わせないっていう重い理由があるんだ、これ。
ふざけた校則に見えてきちんと意味があるんだなぁ。
しかし、あれだ。
諍いが全部これで片付くってなると、皆の本気度も違うわけだ。
しかも相手はお嬢様でしょ?
なんか本当に車でもなんでも使ってきそう。
「……あのー、もしかして車で登校してますか? それなら流石に勝てる気がしないんですけど」
「は? 私のこと侮辱しているのですか?」
「ひっ」
初めて口調が崩れた上に、なんか金剛力士像みたいな顔になってる。そんなに怒らせるようなこと言ったかなぁ。
こんなの、お嬢様がしていい顔じゃないよ。
「車じゃなければ勝てる、と。舐めた口をきく新入生ですこと。私は自分の足で登校します。あなたはこの自転車でもなんでも使って構いませんことよ」
え、自転車使っていいの?
そんなの私の勝ちじゃん。
まぁ、使っていいって言うなら使うけどね。
「言いましたね? やっぱなしとか受け付けませんからね」
「それは私のセリフです。あとで文句を言われても困りますから、生徒手帳にある登校決闘の項目はよくご覧になっておいて」
「はぁ」
なんかヤケにマジだな。マジすぎて思わず生返事になっちゃった。
もしかして裏がある?
早まったかな、私。
そんな事を考えているうちにお嬢様上級生たちは撤収し始めていた。
それを眺めているうちに予鈴がなる。
ヤバッ。もうそんな時間なの?
焦っていると、真矢様とやらが告げてきた。
「そうそう。明朝七時に山下の校門が開きますわ。遅れないようにしなさいな。寝坊を言い訳にされたらたまったものじゃないですわ」
……意外と優しいのかな、この人。
というか朝七時に山下って結構早いな。
起きれるかなあ。
って、そんなことはいいんだ。
まだこの人に聞かなきゃいけない事がある。
「あの! 一つ聞きたいことがあるんですけど!」
「まだなにかあるのかしら?」
「駐輪場って結局どこにあるんですか?」
私がそう言うと、真矢様とやらは毒気を抜かれたような顔をした。
「この学校にそんなモノないと思いますわ。校則に書いてありますわよ。己の足で登校すべし、と」
「え、うそ! じゃあ見つかったらやばいじゃん!」
「……右手の奥に死角になる建物がありますわ。そこに停めれば見つかりませんわよ」
「ありがとうございます!」
やっぱりこの人、根はいい人かもしれない。
なんて考えていたのが甘かったと思い知るのに、そこまで時間はかからなかった――。