超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
月曜日。
翔さんの為に出来ることは少ないけれど、妨害工作をされるかもしれないので、早めに山下の校門へ並んだ。
今日は恭子ちゃんも一緒。
翔さんは能力で飛び立つ関係から、スペースに余裕がある後方で待機している。密集している前方は彼女とは相性が悪いのだ。だから様子が気にはなるけど、一緒ではない。私たちが後方からスタートしても何もできないしね。
開門を待っていると、周りからこんな声が聞こえた。
「知ってる? 今日は上位勢の登校決闘があるらしいよ」
「聞いた聞いた。しかも二組でしょ? 同じ日にやるなんて凄いよね」
一組は翔さんたちのことなんだろうけど、他にも注目される人たちの勝負があるんだ。
この時は、その程度の感想しか抱かなかった。
異変があったのは、そう。
開門した直後だった。
パラソル女が前方で飛び出しかと思えば、私たち生徒を囲むように、ドーム状の電撃が展開された。
それによって、前が詰まった。当たるとどうなるか分からなかったからだろう。
パラソル女はというと、先頭を走っていたので巻き込まれなかったようだ。
それを見送るように、団子になる生徒たち。
私たちは前と後ろとの板挟み。
心なしか暴言のようなものまで聞こえた。
やがて後ろからの圧力に耐えきれず、前の人たちが押し出され、電撃に触れる。
だが、焼け焦げることはしなかった。
それを見た生徒たちは、ビビって損したとでも言うかのようにドンドン電撃を潜り抜けていく。
一部の生徒の動きが鈍かったけれど、この時は大して気にしていなかった。出遅れで動揺していると思ったからだ。
認識が改められたのはその直後。
先頭集団に続いて森の中に入ると、信じられないものを見た。
なんと翔さんが森を走っているではないか。
急いで駆けつけようと能力を使おうとしたが、何故か発動しない。
隣にいる恭子ちゃんも同じだったようで、不思議そうな顔をしていた。
心当たりといえば、先ほどの電撃しかない。
あれは能力を封じるモノだったのだろう。
誰だか知らないけど、傍迷惑な人だ。
パラソル女が用意した刺客なのだろうか?
そんな事を考えているうちに、なぜか翔さんに追いついた。
彼女の体力がないから、というわけではないはずだ。
いくら飛行能力に頼りっぱなしとはいえ、ジムで一番運動していたのは翔さんだ。
一緒に走ったことはないけれど、これは流石におかしい。
追いついてしまったので、様子が変な翔さんに声をかけた。
「どうしたんですか!? なんでこんなところにいるんですか?」
翔さんがはとても緩慢な動きで、ゆっくりと言った。
「ちょっとしくじったみたい」
まるでスロー再生のように、のろのろと紡がれる言葉たち。
間違いない。
パラソル女が妨害を企てたんだ。
これって有りなの?
判断を仰ごうにも、今の翔さんとは会話が成立するのに時間がかかる。
そんなトロいことはしていられない。
苛立ちをぶつけるように、手頃な木に向かってデコピンをした。
射出された衝撃波で、木の一部が削れる。
どうやらもう能力は使えるらしい。
ただ、翔さんはなぜかスロー再生のままなので、使えたところで彼女の飛行能力は意味をなさないだろう。
だから私は別の手段を取ろうとした。
「恭子ちゃん! 翔さんを風で運ぶことってできる!?」
「……できるけど、登校決闘に割り込む形になるわ」
苦悶の表情で呟く恭子ちゃん。
「だからなに!? こんなことされてるんだからもう関係ないでしょ!?」
「関係なくはないでしょ。ルールはルールだから」
渋る彼女に、発破をかけにいった。
「そもそも向こうだって手下使って翔さんの妨害してるでしょ!」
しかし、恭子ちゃんは冷静に反論するだけ。
「いや、たぶんあれは手下じゃないわ。さっき噂話で登校順位が上位の決闘が二組あるって聞こえたわよね。この状況見て気がついたわ。翔先輩の症状は、二番目と三番目の人たちの能力によって引き起こされてる。たぶんこれ、彼女たちの争いに巻き込まれた。だから私たちが手助けすると違反になる」
このタイミングで、翔さんを巻き込むような登校決闘だって? あり得ないでしょ! 向こうが日時指定してたし、絶対仕組んでる!
「こんなに都合いいタイミングで翔さんを妨害するようなことして、どう見たってパラソル女の差金でしょ!?」
「だとしても証拠がないし、手助けしたら不利になるだけ。私たちには何もできない」
「ならここで翔さんが負けるのを指咥えて見てろっていうの!? そんなに薄情だったなんて――」
瞬間、恭子ちゃんが吠えた。
「何も感じないわけないでしょ!」
恭子ちゃんは、血が滲むのもおかまいなしに強く手を握りしめて、私に言葉をぶつけてきた。
「私だって翔先輩に勝ってほしいと思ってる! できることならなんだってしたい! でも、ここで手を出すと、被害を被るのは翔先輩なの! 例え助けたのが周りの身勝手だったとしても、縁者だったら協力行為で罰せられる! 私たちができたのは、せいぜい妨害行為の排除だけ! それすらできなかった今、私たちはただの賑やかしAとBなのよ!」
魂から振り絞るように叫んだ恭子ちゃん。
私が言葉を返せずにいると、第三者の声が聞こえた。
翔さんだ。
「ボクのために喧嘩しないで。大善さんが自信満々で挑んできた時点で、警戒すべきだったんだ。あらゆる可能性を考慮しなかったボクの落ち度だ。それが原因で二人が喧嘩するのは悲しいよ」
翔さんは普通に喋っており、私たちに寄ってきている。
彼女にかけられた能力が解けたのだろう。
「元に戻ったんですね! それなら早く追いかけないと!」
だけど翔さんは首を振った。
「たぶんもう意味ないよ。能力が解かれたということは、効力が切れたが、効果の範囲外に出たということ。同レベルで走っていた大善さんはもうゴール目前だよ」
「まだ結果はわからないじゃないですか! 諦めるんですか!?」
「もう分かってるようなもんだよ。なら、少しでも長く君たちと一緒にいたい。おそらくこれが最後だろうから」
「そんな言い方って……!」
翔さんは、振り絞るように言葉をこぼした。
「短い間だったけど楽しかったよ、ありがとう」
目尻にはうっすら透明なものが浮かんでいるように見える。
コップに並々と注がれた水が、ギリギリのところで耐えているかのようだ。
ひとたび衝撃を加えれば、溢れてしまうだろう。
だから、私は何もいうことができなかった。
これ以上、翔さんの情けない姿なんて見たくなかったから。
私たちは、なるべくゆっくり校門へ向かった。
今のひと時を噛み締めるように、緩慢に。
スローになる能力なんて解かれているけど、まるでかかったままかのように、私たちの足取りは重かった。
結局、翔さんは最後まで能力を使うことなく、私たちと一緒に走り切った。
勝負の結果は言うまでもない。
パラソルテーブルの下でお茶をしていた卑怯者が、こちらを見咎めて声をかけてきた。
「あら、珍しく随分遅いご到着だこと。なにかあったのかしら?」
白々しい。お前が仕組んだくせに。
腹に据えかねて、わざとらしく文句を言ってやった。
「誰かさんが企てた別の登校決闘に巻き込まれたんですよ」
「あらあら、それは災難だったわね。でも、校則にはキチンと書いてありましてよ。巻き込まれても結果は結果だ、と」
書いてあるからと言って、納得できるかは別の話だ。
そもそもそれは、偶々ブッキングした時の話であって、意図的に被せるのはワケが違うはず。
「わざと被せたんでしょ? 狙ったようにスタートダッシュまでして。仕組んだブッキングは違反じゃないの?」
「あら、人聞きの悪い。たまたまですわ、たまたま。それに、スタートダッシュはいつものことです。毎朝何を見ていらっしゃるのかしら?」
そう言われると反論ができない。
私が黙ったのを見て、卑怯者は翔さんに標的を移した。
「外野は静かになりましたわ。主席様は、きちんと約束を守ってくれるのですよね? あ、もう主席ではありませんでしたわね、失礼」
いちいちイラつかせるやつだ。
けれど、感じてるはずであろう苛立ちをおくびにも出さず、翔さんは冷静に返した。
「登校決闘に負けたからね。言うことは聞くよ」
「でしたら、一年間、私の言うことを聞く下僕になって貰いますわ。私に退学を要求したのだから、これくらいの重さは認めてくださいますわよね?」
自分の条件を有利にするため、休日にわざわざ煽りにきたのか。どこまでも嫌味なやつ。私が翔さんの立場なら文句言ってるところだ。
だけど、翔さんは抵抗するでもなく、粛々とことを進めていった。
「わかった。具体的にボクはどうすればいい?」
「朝は私についてきて、昼休みや放課後も私と一緒にいていただきますわ。授業休憩は流石に許して差し上げます。勿論休養日も関係ありませんわよ」
「……わかった。期間は一年でいいんだよね?」
随分あっさり頷いたけど、翔さんも卑怯者も三年生。
今はまだ四月だから、翔さんは卒業までアイツの言うことを聞かなきゃいけないということだ。
つまり、私たちと一緒にいる時間はなくなる。
文句を言いたいけど、これは翔さんとアイツの問題だ。
取り戻したいなら、私がこの悪魔と登校決闘をするしかない。
でも、最強であるはずの翔さんですらコレだ。
私が勝てるはずもなかった。
その思いは恭子ちゃんも一緒だったようで、悔しそうな顔をしながら眺めるばかり。
「それでは、今日からよろしくお願いいたしますわね。私の小鳥ちゃん」
その日、私たちは翔さんと一緒にいる権利を失った。