超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
放課後。
翔さんはいないけれど、恭子ちゃんとは一緒だ。
元々そういう契約だからだ。
契約。
そう。結局のところ、私と恭子ちゃん、翔さんとあの悪魔の関係に違いはないんだ。
両方とも、登校決闘で縛り付けてるだけ。
そう思ったら、なんだか恭子ちゃんにも申し訳なくなってきた。だから自然と、彼女と距離が空く。どうしても、契約という分厚い壁があるような気がしたから。
そんな風に考え込んでいると、恭子ちゃんが立ち止まって話しかけてきた。自然と私の足も止まる。
「どうしたの? 様子が変だけど」
「どうしたのって、あんなことがあれば当然でしょ」
なるべく冷たく、突き放すように言った。
余計な詮索はされたくなかったから。
深掘りされたら、洗いざらい吐くことになりそうな気がして。
でも、些細な抵抗は無意味だった。
「どう見ても今朝のことだけじゃないよね? 今だって私と距離取るみたいに少し離れてる。私、なんかした?」
う。するどい。
でも、ここで素直に吐くわけにはいかない。
そんなことしたら恭子ちゃんを傷つける。
「なんでもないよ。恭子ちゃんはなんにもしてない」
そう。彼女は何もしてない。悪いのは私。
悪魔と同じことをしている私。
「そんな顔しといて、なんでもないは、ないでしょ。私は相談できないくらい頼りにならない?」
違うよ。
恭子ちゃんだから相談できないんだよ。
私が口篭っていると、恭子ちゃんは言葉を続けた。
「きっかけは登校決闘だったけど、私たち友達でしょう? それとも、自然と繋がれた縁じゃないから信用できない?」
「それは違う!」
信用できないのは恭子ちゃんじゃなくて、あの卑怯者と同じ手段でしか友達を作れなかった自分自身だ。
そうしないと裏切られると思って、絶対的な味方でいてもらう為に、契約に律儀そうな恭子ちゃんへあんなことを言った。だから私も卑怯者だ。どうせなら縁を切った方が恭子ちゃんの為だろう。
でも、そんなことも出来ないくらい、私は恭子ちゃんに依存している。私は、翔さんを下僕にしたあいつと何が違うんだろう。
ネガティヴな考えに囚われていると、恭子ちゃんの顔がいつのまにか真正面にあった。
しかも、息遣いが感じられるほど近い。
キスでもされるんじゃないかと思うくらい近く、そして実際にされてしまった。
口ではなく、頬にだけど。
でも、そこに大した違いなんてなくて。
「ななな、なにしてんの!? 自分が何やったかわかってる!?」
「わかってるわ。何考えてるかは知らないけど、悪いことみたいだから頭から吹き飛ばしてやろうと思って。口同士はちょっと勇気出なかったら頬にしといた」
「そうだね! 考えてること全部吹き飛んだよ! ありがとう!」
「どういたしまして。それで、キス一つで吹き飛ぶくらい軽いことなら、私に話してくれてもいいんじゃない?」
「……吹き飛んだから覚えてないよ」
我ながらうまく言い逃れたと思ったけど、甘かった。
恭子ちゃんは私の頬を両手でしっかり挟んで、通告してきた。
「言わなかったら次は口に行くから。言っておくけど本気よ」
頬ですら恥ずかしかったのに、次は口!?
何考えてるの恭子ちゃんは!
けれどもそんなに待ってくれる雰囲気でもなかったので、慌てて回答を口にした。
「わかった! わかったから口にキスだけは絶対やめて!」
「何よ……そこまで拒否することないじゃない」
心なしか残念そうにしてる恭子ちゃんが怖い。
私のことどう思ってるかは恐ろしくて聞けなかったけど、むしろ私の気持ちを話して少し引かれるくらいが丁度いいんじゃないかとすら思えてきた。
「あのね。翔さんが登校決闘の契約で下僕にされたでしょ。それでさ、私も恭子ちゃんのことを契約で友達にしたじゃない? 無理矢理って意味では、どっちも同じかなって考えちゃってさ……なら、私は恭子ちゃんのこと解放してあげた方がいいのかなって」
全部吐き出すと、恭子ちゃんは人差し指を立てて、誇らしげに言った。
「ひとつ、あの悪魔とあなたの要求に違いがあるわ」
「何?」
「受ける側が同じことを望んでいるかどうかよ」
「じゃあ、恭子ちゃんも友達になりたいと思っててくれたの?」
「ええ。こんなことでいいのかって思ったわ。でも、翔さんは違うでしょ。あれは完全な無理矢理。だから、あなたはアイツとは違う」
そっか。一緒だと思っていたけど違うんだ。
他でもない本人から言われて安心した。
「ありがとう、恭子ちゃん。これからもよろしくね」
「ええ。私からは、何があろうと離れないから。約束よ」
なんだか言葉が重い気がしたけど、今は些細なことだと流すことにした。
けれど――約束は単なる約束でしかない。
そう思い知るのに、さほど時間はかからなかった。
それは翌日の朝の事だった。
恭子ちゃんと二人で軽く競いながら登校すると、いつものようにパラソルテーブルでお茶をしている集団がいた。相変わらず早いこと。
けれど、いつものように、とはいかない光景がひとつ。
あの悪魔が座っている椅子だ。
いや、椅子と言ったら失礼かもしれない。
だって、座られているのは、四つん這いになった翔さんだったのだから。
制服がスカートなせいで、パンツを見せつけるような格好になっている。
私は何も言えずに呆然となった。
けれど、恭子ちゃんの方は驚きよりも怒りが先に来たらしい。彼女はパラソルテーブルの集団に向かって行って、文句を言った。
「翔先輩に何をしているんですか?!」
「見てわからないかしら? 下僕を椅子にしているのよ」
「下僕って……こういうことをする為の契約だったんですか!?」
「だとしたらどうなるのかしら? あなたには関係のないことでしょう?」
恭子ちゃんは飛びかかって、悪魔の胸ぐらを掴もうとした。
それは取り巻きの人に阻止されてしまい……だけど話はそこで終わらなかった。
悪魔はさも驚きましたと言った様子で、飲んでいた紅茶をわざとらしくこぼした。
四つん這いになっている翔さんの肩の上に、だ。
「あつっ」
急なことでびっくりしたのだろう。
声を上げた翔さんに、悪魔は憤りを示した。
「椅子が喋るんじゃありませんわよ」
そう言って、取り巻きの人に手を差し出す悪魔。
手に乗せられたのは、先端が別れた黒色の鞭。いわゆるバラ鞭というやつだ。
それを振り上げ、むき出しになっている翔さんのお尻に叩きつけた。
「いっ……!」
その呻き声も気に入らなかったのか、悪魔は翔さんの尻を叩き続ける。
「だから! 喋るなと! 言って! いる! でしょう!」
何が気に食わないのか、語気を区切るに合わせて、翔さんのお尻を叩き続ける悪魔。
むき出しのお尻は真っ赤に腫れていた。
……もう見ていられない。
止めに入ろうかと思ったけれど、それよりも先に恭子ちゃんが口を出した。
「何してるんですか!? やめてください!」
「下僕になにをしようと私の勝手でしょう」
なおもお尻を叩き続ける悪魔。
我慢ならなかったのか、恭子ちゃんは突拍子もないことを言い出した。
「……なら私と登校決闘をしてください」
「あら。下僕志願とは良い心がけね」
挑まれても、余裕の表情を崩さない悪魔。
それがまた、私の不安を増長させた。
「本当にやるの? 恭子ちゃん」
「もちろん。まぁ、相手が怖気付かずに承諾すれば、の話だけど」
こんなこと言われて、プライドの高いヤツが引くわけない。
「逃げると思われていたなんて、心外ですこと。当然、受けて立ちますわよ」
ほら、言わんこっちゃない。
翔さんですら負けたのに、その劣化能力の恭子ちゃんが勝てるんだろうか?
友達を信じたい気持ちはあるけど、現実的に考えて難しいだろうとは思う。
彼女が負ければ、私はひとりぼっちだ。
でも、今の私にはどうすることもできない。
恭子ちゃんを止める勇気なんてないし、ましてや悪魔に啖呵を切ることすらできないのだから。
うじうじ思い悩んでいると、恭子ちゃんは悪魔に握手を求めていた。
「そう。なら私とは正々堂々、他の人間を巻き込まずに戦っていただけますか?」
翔さんの時のように卑怯な手は使ってくれるな。
そう警告するような握手の要求だ。
悪魔は恭子ちゃんの手をじっと見つめたかと思うと、やおら握り返した。
「いいでしょう。あなたごとき、策を弄するまでもありませんわ。真正面から叩き潰してあげます」
握り返された恭子ちゃんは、少し顔を顰めていた。
よほど強く握られたのだろう。
手を離した時には、動きに支障がないか確かめていた。
「今の調子だと、本当に卑怯な手段を取らないか心配ですけどね」
「あら。あなたが軟弱なだけですわ。私は優しく握って差し上げましたのよ」
恭子ちゃんはなおも文句を言いたそうだったが、それ以上言葉をぶつけることはなく、かわりに登校決闘の日時を指定した。
「勝負は来週の月曜日にお願いします。逃げる心配はないと思いますが、負けても後から難癖つけないでくださいね」
来週の月曜日って、約一週間後か。微妙に時間をあけるんだなって思ったけれど、悪魔は気にもとめていなかった。
「それは私のセリフですわ」
尊大に挑発を飛ばしてくる悪魔。
恭子ちゃんはそれ以上言葉を返すことなく、校舎に向かって行った。
残された翔さんが心配だったけど、ずっと側にいるわけにもいかない。
後ろ髪引かれる思いを振り切って、恭子ちゃんの後を追った。
追いついてすぐ、どういうつもりか問いただした。
「登校決闘を挑むって、勝つつもりなの? 翔さんですら負けたんだよ?」
「次は他人の妨害使わないって約束してくれたし、大丈夫でしょ」
「約束が本当かどうかも怪しいけど……ううん。そんなことより、恭子ちゃんの能力で勝てるの?」
「大丈夫よ。放課後、私が勝てると思った根拠を見せてあげるから」
恭子ちゃんは、やたらと自信満々で、本当に秘策がありそうな気配だった。