超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
そして、秘策は本当に効果を発揮しそうだった。
放課後、下校の際に、恭子ちゃんの能力の真価を見せてもらうことになったのだけれど。
たしかに、これなら勝てるかもしれないと思わされるものだった。
私が同じ能力を持っていたとしても、負ける気はしなかっただろう。あの場で登校決闘を挑むのも頷ける。
詳細を聞けば、約一週間という時間も必要なのだと納得できるものだった。
私は今、恭子ちゃんの特訓のために、彼女に向かって能力を使っている。
狙いもまばらな、ひたすらの乱射。
弾幕に紛れて、狙いをつけた本命の一撃。
しかし難なくかわされる。
何をしているかといえば、恭子ちゃんの肉体を使った的当てだ。
前までの彼女なら、全部避けるのは難しかっただろう。
けれど恭子ちゃんは、こともなげに衝撃波を避け続けている。
からくりなんてない。
ただ能力を使っているだけだ。
風の能力ではなく、新たに得た能力を。
恭子ちゃん曰く、風の能力はもう使えないのだそう。
勘違いしていたけど、そもそも彼女は風の能力者じゃなかった。
彼女は――
ちょうどその時、捌ききれていない衝撃波が恭子ちゃんの顔面を捉える寸前だった。
それを、デコピンの姿勢で迎え打つ恭子ちゃん。
放たれた指先から、ほとばしる衝撃波。
私のより威力は衰えているだろうけど、相殺するには十分だった。
そう、彼女は。
――複写の能力者だ。
なんでも、握手した相手の能力をコピーできるのだとか。
ただし、色々と制約はあるみたいだ。
能力は使って育てる必要があるし、握手した順で三つまでしかキープできないみたいだけど、それでも強力な能力には違いない。
私と、翔さんと、あの悪魔の能力で三つ。
だから風の能力は消えてしまったらしい。
全部新しい能力だから、練度をあげるため一週間は必要なのだと。
そして一番新しい悪魔の能力だけど、学園で四番をキープするだけあって、かなり強いと思わされるものだった。
身体強化能力。
それが四番手の秘訣だった。
お嬢様なのに似合わないと思ったけれど、能力は選べないから仕方ない。
一目でわかるくらい強力な能力で、彼女は運がよかったのだろう。
本人にとって幸運だったかは別として。
あいつの事情なんて知ったこっちゃないし、知りたいとも思わないけれど。
今重要なのは、あいつの能力が身体強化で、恭子ちゃんがコピーできたということだけだ。
あそこで握手し返してくれたのは大きいだろう。
ただ、一週間練習したからと言って、恭子ちゃんが本家に勝てる見込みは薄い。所詮付け焼き刃だ。
ただしそれは、同じ能力だけで戦った場合の話。
恭子ちゃんには翔さんの能力もある。
実はこっそり練習していたらしく、かなり自由に飛べるようだ。
元々、風の能力を使っていたのもあるだろう。
私の能力だけが、浮いていた。
本当に、なんで私の能力なんてコピーしたんだろう。
訓練がひと段落したところで、恭子ちゃんに尋ねてみた。
「あのさ。どう考えても風の能力のが強いのに、なんで私なんかの能力をコピーしたの?」
恭子ちゃんは迷うことなく、スパッと言った。
「あなたの能力が魅力的だったから」
「どこが? どこからどう見てもクズ能力だよ?」
恭子ちゃんの頭はおかしくなってしまったのだろうか。しかし、彼女の意見は違った。
「私が体勢を崩した瞬間があったでしょ? あれはどう考えても珠姫ちゃんの能力だから。あんなことができるなら、風が消えるとしても欲しくなった。それだけよ」
「でも、私自身どうやったのか分かってないんだよ?」
「分からないなら、追求するのが能力者よ。少なくとも、私は珠姫ちゃんの能力に可能性を見た。だから、本人が信じれていないのはもったいないなと思う」
「でも、どう考えても使えない能力だったし……いきなり言われても難しいよ」
私が落ち込んでいるのを慰めようとしたのか、恭子ちゃんは静かに語り始めた。
「私はね、能力はその人の可能性だと思うんだ」
「可能性?」
「個々人で特徴の違う、新たな器官。それが能力だと私は考えてるの。人によって足の速さや手の器用さ、頭の良さが違うように、能力だって個人差がある。でも、基本的なことは変わらないでしょ? 機能が欠けていない限り、誰だって、モノは掴めるし、歩くことはできるし、頭で考えることができる。能力も同じだと思うの」
言いたいことは分からないでもないけど、やっぱり自己肯定感は上がらない。
「……恭子ちゃんの例えで言ったら、私の能力は本当に最低限だね。手で例えるなら、かろうじてお箸持てるくらいだ」
自嘲気味にこぼすと、恭子ちゃんは首を振った。
「言ったでしょ。特徴が違うって。一見しょぼくても、他の人にはできないことができる。箸しか持てなくても、その扱いが特段上手かもしれないじゃない」
これはきっと、励ましてくれているのだろう。
自信が持てなくてうじうじしているから、見てられないのかもしれない。
こういう考え方が、見てられないと思わせてしまう部分なのかもしれないけれど。とはいえ、すぐにどうにかできる部分でもない。
黙り込んでいると、恭子ちゃんは続けて言った。
「能力はそもそも、他の人ができないことをできる力なの。私の場合は特殊だけど、基本的に珠姫ちゃんのできることは珠姫ちゃんにしかできない。珠姫ちゃんの能力は、珠姫ちゃんだけができる可能性の塊なんだよ。自分で否定したら、できることが狭まっちゃう」
今の話を聞いても、ネガティブな感情は消えない。
我ながら面倒くさいと思うし、慰めてくれる恭子ちゃんには申し訳ないけど、そんな簡単に考えは変わらない。
だから、返す言葉も突き放すモノになってしまった。
「……でも恭子ちゃん、私の能力使えるじゃない。それに、同じ能力の人だってたまに見かけるよ?」
「私の場合は特殊だし、できるとしても真似っこが限界。同じ能力だとしても、人には特性がある。真価を発揮できるのは珠姫ちゃんだけだよ。試行錯誤はしてるけど、珠姫ちゃんが見せた足止めは再現できてないしね」
と言われても、私自身も再現できないしな。
たぶん、この調子だと言っても聞いてはくれないだろう。
どうやっても自信をつけさせようとしてくるに違いない。
ありがたいと思う反面、少し鬱陶しいなとも思う。
自分の価値なんて、自分が思っているようにしかならない。
私が価値ないと思ってるんだから、いくら周りに言われても、ないものはないんだ。
ただ、これを伝えたところで無意味だろう。
恭子ちゃんは恵まれてる側の人間だから。
己の価値を見出してる人に、私の気持ちはわかりっこない。
だから私は、気持ちを封じ込めて微笑んだ。
「ありがとう。恭子ちゃんのおかげで少し気持ちが軽くなったよ」
こう言っておけば、丸く治るんだ。
予想通り、恭子ちゃんは優しく微笑んでいる。
これで明日からも、いつも通り仲良くできるんだ。
もう、大事なものを失いたくないから。
偽りの感謝を述べて、平穏を選ぶ。
この時は、それでいいと、本気で思っていた。
「こんなことしてていいのかなあ……」
「当事者である私がしたいんだから、大丈夫」
「そうは言っても、登校決闘前の最後のおやすみだよ? 遊んでる暇なんてないんじゃないの?」
人の頭と同じ重さのボールを投球しながら問いかけたけれど、恭子ちゃんは黙ったまま。
代わりに、十本並んだピンが答えるように弾け飛んだ。
「やった、ストライク」
恭子ちゃんへの疑問も一緒に吹き飛んで、思わず喜んだ。
両手をあげてハイタッチを求めると、恭子ちゃんも答えてくれた。私が喜んでいるからか、恭子ちゃんも嬉しそうだ。
けれど、一緒に喜んでくれているというよりは、なんだか寂しそうで笑顔で。
なんだか無性に気になってしまって、思わず問うた。
「どうしたの?」
しばしの沈黙。
リターンラックにボールが戻ってくるのと同時に、恭子ちゃんは口を開いた。
「……やっぱりわかっちゃう?」
「投げたボウリングの球が手元に戻ってくるのと同じくらい当然のことだよ」
「なにそれ。変な例え」
なんて、くすくす笑う恭子ちゃん。
戻ってくるボールは、決められたレールの上を力づくで運ばれる。
今の恭子ちゃんの言動も一緒だ。
あんな顔見せておいて、聞く以外の既定路線なんてあるものか。
私は恭子ちゃんの上で転がされるボールだ。
「もう一度聞くけど、どうしたの?」
「……これが最後になったらどうしようって思ってるの」
最後になったらどうしよう、か。
恐らく、一緒に遊べるのが、ということだろう。
登校決闘に負けたら何をされるか分からない。
だから、思い残すことのないように遊びに来たのかもしれない。
「なんか、らしくないね」
「そうは言うけど、そんなに私のこと知らないでしょ。私だって怖気付くくらいするわよ」
むすっとする恭子ちゃん。
そんな彼女に、ボウリングの玉を投げつけるかのように一方的な言葉をぶつけた。
「恭子ちゃんは強気な方が似合ってるよ」
「なにそれ。私ってそんなイメージなの?」
「初対面があれだったからね。自信に満ちてる方が私は好き」
ぶつけた言葉の重みからか、恭子ちゃんは破顔した。
「ふふっ。好き放題言ってくれちゃって」
その笑みは、どこか哀愁が漂っている。
けれど、そんな様子はすぐになりを潜め、自信ありげに小指を差し出してきた。
「そっちの方が好きだっていうなら、泣き言は言わないわ。だから、また遊びにこようね」
「うん。約束だよ」
恭子ちゃんの小指に、自分のを絡める。
彼女の顔は、弱気を隠すように引き締まったように見えた。