超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの?   作:一般通過生徒T

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絶対に負けない

 

 

 

 大善先輩と登校決闘を行う日がやってきた。

 珠姫ちゃんの前では虚勢を張ったものの……不安は消えないのよね。

 

 でも、できる限りのことはしたはずよ。

 今日だって、校門の前に陣取れるくらい早く寮を出てきた。誰もいないと思ったのに、大善先輩が先客として佇んでいたのには驚いたのだけれど。

 

 特に何も言わず、その隣に並んだ。

 作戦にも関わるから、ここだけは譲れず、珠姫ちゃんとは別行動。

 

 ……一緒にいれる時間は、昨日が最後だったかもしれない。本当は、燻る気持ちを吐き出したかったのだけれど。

 でも、珠姫ちゃんは強気な私の方が好きって言うのよね。

 なら、彼女の前では理想の私でいたい。

 

 いたいけれど、この胸のもやもやはなんなのかしら。

 どうしても、気持ちがつっかえて落ち着かない。

 

 ……こんな弱気じゃダメ。またらしくないって言われるわ。

 沈む気持ちを奮い立てていると、隣から声をかけられた。大善先輩だ。

 

「私のしもべになる心の準備はよろしくて?」

 

 丁度いい。軽口叩いて気を紛らわせるとしましょう。

 

「大善先輩こそ、下剋上される心構えはできてますか?」

「まだ戯言をおっしゃる余裕があるんですわね。その気概だけは買って差し上げますわ」

「甘く見てると、あとで失笑も買うことになりますよ」

「あら。私に喧嘩を売ってらっしゃる? 高く買ってもよろしくてよ」

「高いものがお好きですものね」

 

 嫌味を言ってやると、大善先輩は少し考えるそぶりをしてから問うてきた。

 

「どういう意味かしら? 私が財閥の娘なのをやっかんでいらっしゃる?」

「いいえ。そういうことではなくてですね。お高く止まっていますし、気位も高い。高いところがお似合いですね、と言いたかったんですよ。煙みたいに」

 

 馬鹿と煙は高いところに登るって言うものね。

 意図は伝わったみたいで、大善先輩は少し顔を赤くしていた。

 

「……私を馬鹿にした報いは高く尽きますわよ」

「未だに高を括ってるみたいで、私としてはやりやすいことこの上ないですよ」

「いいですわ。全力で潰して差し上げます」

 

 いい感じに頭に血が昇ってるみたいね。

 これで短絡的な行動でも取ってくれたら楽なのだけど。

 とはいえ、登校が始まるまでには、まだ時間がある。

 開始時には冷静になっていそうよね。

 無視したからこれ以上なにも言ってこなくなったけど、ずっと睨んでくるから少し居心地は悪い。

 

 まだ先は長いから、緊張を保つのに丁度良いかしら。

 そう思っていたけれど、しばらく経つと暇を持て余すようになってしまった。

 今日は早起きしたから少し眠いのよね。

 あくびを噛み殺していると、人が増えていく気配がした。

 人が増えれば会話も聞こえる。

 私の耳に、噂話が入ってくるようになった。

 

「知ってる? 今日も上位勢の登校決闘があるんだって」

「また二組だよね? でも、片方は無名の子が混じってるんでしょ?」

「そうそう。いくらなんでも無謀だよねー」

 

 明らかに私たちのことだ。

 まぁ、噂されるのは別に構わない。

 無謀だと思われるのも想定内だ。

 今日はその予想を覆すつもりだけれど。

 そんな噂話を聞きながら、時間を潰す。

 あまりいい気分になるものではなかったけれど、俄然やる気が湧いてきた。

 

 しばらく待っていたら、人もかなり増えたみたいね。そろそろ始まりそうな気配がするわ。時間を確認すれば、開門までもう少しだった。

 それにしても、隣にいるこの人は、毎朝こんなことをしているのかしら。

 登校にかける情熱は素直に尊敬するしかないわね。

 

 とはいえ、今日は勝たせてもらうのだけど。

 まもなく先生がやってきて、扉が開かれた。

 中央付近にいたのは、スタートダッシュするため。

 門は左右で引っ張る形だから、必然的に真ん中が早く出発できる。一番いい場所を取ったのだから、全校生徒の中で一番有利ということ。

 

 それは隣にいた大善先輩も同じで、二人並んで先頭を駆け抜けた。隣から驚いたような気配を感じるわ。

 私が同じ速度で走るのを予測していなかったのでしょう。複写の能力は珠姫ちゃん以外に教えていなかったからね。

 

 遅れて、後ろの方で威圧感。

 軽く振り返ってみれば、電気のドームが後続を取り囲んでいた。

 やっぱり今日も妨害を用意していたみたいね。

 正々堂々やるとか言っていたくせに。嘘つき。

 

 まぁ何事にも手を抜かないってことでもあるのでしょうけど、約束破るのは卑怯者のすることよね。

 私が少しでも遅れていれば、あれに囚われていたはずだわ。まぁ、そうはならなかったのだけれど。

 先頭を行く私たちの後ろには、二つの影。

 二人とも有名人だから、どういう能力の人かは知っているわ。

 

 一人は電撃の能力者。それもただの電撃じゃなくて、人体に流れる電気信号も操れるくらい繊細なコントロールができるらしいのよね。

 今も自分自身の電気信号をいじって、身体の出力をあげているのでしょう。電撃にあたると能力が使えなくなるのは、電気信号を操って能力無効化の指示を出しているからに違いないわ。

 

 広範囲で実行できるみたいだから、かなり厄介な相手ね。

 まぁ、今は大善先輩とぴったり並走してるし、本来の決闘相手に対する妨害をカムフラージュとするのは不可能な状況でしょうけど。

 それは電撃先輩の登校決闘相手であるもう一人もそうだった。

 

 もう一人は加速と減速を司る能力者。

 ほぼ時間操作に足を踏み込んでいるけれど、世界全体とまではいかないらしく、局所的に操れる程度みたいね。

 それでも数メートル先まで届くとは聞いているので、翔先輩もこの人にやられてあんな状態になっていたのでしょう。

 

 電撃で能力を使えない状態にし、減速の能力でとどめを刺す。

 これが今までの必勝パターンだったはずだわ。

 私が大善先輩と同じ速度で走っているから、不発だったようだけれど。

 三人がどんな契約を結んでいるかは知らないわ。

 ただ、手を組んでいるのは明らかね。

 今だって、いつでも妨害できるようにこちらの状況を伺ってきているもの。でも、妨害なんてさせるつもりはないわ。

 

 なぜならここで引きちぎるから。

 森に入った瞬間、走る勢いもそのままに翔先輩の飛行能力を使った。

 ダメ押しに珠姫ちゃんの能力も同時使用。

 身体が凄まじい速度で前に進む。

 少し間をおいて地面に着地し、更に勢いをつけて走り飛んだ。

 木々の感覚が広い道を選んでいるから、ぶつかることはないはず。

 猛スピードでかける私に、三人は追いついてこれない。

 

 ……いや、一人だけ猛追してきてる人がいる。

 明らかに先ほどより速い。

 私のトップスピードと同程度か、それ以上だ。

 これは、残りの二人がなにかしたのかもね……。

 例えば身体能力を上げる電撃を浴びせた上で、加速させた、とか。

 

 そうでなければこの速度はおかしいわ。

 それにそろそろ木の間隔が狭くなるゾーンだ。

 このままでは勝ち目がなくなる。

 でも、残りの二人の姿は見えない。

 妨害さえなければ、空を行くだけで私の勝ちだわ。

 

 それに、大善先輩は身体強化。

 妨害のしようがない。

 勝ちを確信して、空に飛びだった。

 これで私の勝ち――。

 

 その考えが甘かったと知るのは、数秒後だった。

 足に瞬間的な衝撃。

 急な重みを感じて、下がる高度。

 何かと思って足元を見れば、大善先輩が私の足を掴んでいた。

 

「何してるんですか!?」

 

 顔をあげた大善先輩が、当然と言った様子で返してくる。

 

「ゴールまで運んでもらおうと思ったのですわ。いくら早くなったとはいえ、空を飛ばれたら勝ち目はないですもの」

 

 くっ……足元にひっつかれるのは想定外だわ。

 どうしようか悩んでいると、予想外の攻撃が飛んできた。

 

「あなた、随分大人びたパンツを履いているんですわね。私も流石にそんなのは履けないですわ」 

 精神攻撃だ。とんでもないことを言われ、反射的に叫んでしまった。

 

「何を言ってるんですか!?」

「何って、顔を上げたら見えるんですもの」

 

 これも妨害行動なの?

 精神的に動揺してしまって、高度が下がる。

 ……そうか、このまま木にぶつけてはたき落としてしまえばいいんだ。

 怪我するかもしれないけど、足なんて掴んでる方が悪い。

 私はゴールするのに最短を行くだけだわ。

 そう思って高度を下げると、私の狙いに気付いた大善先輩が体を振り子のようにした。

 

 なにをしてるんだろうと思った次の瞬間、首に違和感。

 下を見れば、大善先輩の姿が見当たらない。

 いや、手だけは見えている。

 もしかしてと振り返れば、サソリの尾のようになった大善先輩の足が、私に絡みついていた。

 私は首に絡みついた足をなんとか振り解こうともがく。

 けれど身体強化は向こうのほうが強く、全然引き剥がせそうにない。

 

「くっ……離れてくださいよ!」

「いやですわ。離れたら落ちてしまいますもの」

「お嬢様のくせにはしたないと思わないんですか? 先輩こそパンツ見えてますよ! しましまのかわいいやつが!」

「背に腹はかえられないですわ。それより、まじまじと見ないでくださいませ」

「人のこと言えないでしょうが!」

 

 ……仕方ない。

 こっちも影響を受けるだろうけど、とんでもない軌道で振り落とすしかないだろう。

 逆さまになったり、蛇行したりと色々試みたけれど、全て無駄に終わった。

 こんな時、風の能力が残っていたら振り落とせたのだろうか。

 珠姫ちゃんの能力じゃ、背中にいる相手は攻撃できないし。

 

 ……ううん。ないもの言っても仕方ない。

 あの時は珠姫ちゃんの能力が欲しかったわけだし、この未来を知らなければ、何度繰り返しても同じ選択をしただろう。

 

 それでも、やはり少し後悔してしまうのよね。

 結局他に策は思いつかず、ゴールまで大善先輩をつれていくしかなかった。

 そして、ゴールが目前に迫った瞬間、大善先輩は絡めていた足を解き、反動をつけて飛び降りた。

 勢いそのままに、跳ねて校門をくぐる大善先輩。

 

 ……勝てると思っていたのだけれど。

 私の目算が甘かったと思い知らされてしまうのだった。

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