超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
しばらく、平穏な日々が続いた。
私だけは、という注釈がつくけれど。
負けた二人の扱いは酷いものだった。
翔さんは相変わらず椅子にされているし、恭子ちゃんはペットの真似事をさせられていた。
ご飯はペット皿で犬食いさせられるだけでなく、犬のように芸をさせられたり、終いには――いや、やめよう。
恭子ちゃんの名誉を守るためにも、これ以上は思いだしたくない。
とにかく、二人とも人間扱いされていなかった。
あまりの横暴さに先生にも相談したけれど、登校決闘が招いた結果だとわかると、どの先生も手を引いた。
明らかにイジメのレベルなのに。
そんなに登校決闘の結果が大事なの?
国立高校なのに、狂ってるとしか言いようがない。
けれども、ここでは登校決闘の結果は絶対で、覆せないものなのだろう。でないと、能力による殺し合いが始まってしまうから。
むしろ私が見逃してもらえたあのケースが特殊だっただけ、ということが身に染みて分かった。
登校決闘の結果だとわかると、誰も助けてくれない。
先生も、周りの生徒も。
でも、私はその人たちを責められない。
他ならぬ私も、助けてあげられないうちの一人だから。
でも、私が登校決闘を挑んだところで、返り討ちに合うだけ。
そんなの無駄死にだ。
だから、あの悪魔に勝負を挑まないのは仕方のないこと。
そう思っていても、逃げるときに言われた言葉がずっと胸の奥で引っかかっている。
――自分本位の意気地なし。
本当にその通りだった。
心のどこかで、あの仕打ちを受けているのが私じゃなくて良かったと思ってしまっているのだから。
最低だ、本当に。
もやもやした気持ちを抱えたまま登校すると、あの悪魔たちの集団が目に入った。
今日も恭子ちゃんたちは虐げられている。
その様子を心苦しく見ていると、恭子ちゃんと目が合った。
でも、それは一瞬だけ。
露骨に目を逸らされて、私は立ち尽くすことしかできなかった。
誰も、私のことは気にも留めない。
世界で、ひとりぼっちになったような感覚がした。
その孤独感から逃げるように、教室へ向かう。
けれど、周りの誰も話しかけてはくれない。
悪い噂が流れているからだ。
私に関わると、酷い目に遭う、という。
実際、間違いではなかった。
翔さんも恭子ちゃんも、元を正せば私のせいであんな目に遭っている。
当事者の私だけが無事に過ごしていて。
何をしているんだろうという気持ちと、何もしたくないという気持ちが心の中でせめぎ合っている。
そんな心境だから、授業も当然上の空。
勉強しにきてるはずなのに、何も頭に入らなかった。
授業終了後の休憩時間、全てから逃げるようにしてトイレへ向かう。
トイレは他の何もかもから隔絶されて、落ち着くことができるから。本当の用はないけど、閉じこもるにはもってこいだ。
けれど今日に限っては、それも不可能だったらしい。
トイレに入った瞬間、声をかけられたからだ。
「珠姫ちゃん。ちょっと待って」
「恭子ちゃん……」
話しかけてきたのは、今朝方に目があった恭子ちゃんだった。
以前までなら彼女とは授業前に話せたのだけれど、あの悪魔のペットにされている今は、授業休憩中しか話せる隙間がない。だからこうして、合間を縫って話しかけてきたのだろう。
「こうして喋るのは久しぶりね」
久方ぶりの会話だけど、何を言えばいいか全くわからなかった。
私と彼女では、境遇が違いすぎるから。
大変だね、なんて言えたものではない。
けれど、他になんて声をかければ。
言葉が出ずに口篭っていると、私の悩みなんてお構いなしに、言葉が続けられた。
「時間がないから単刀直入に言うわね。私たち、そのうち退学させられるかも」
退学って……言われた言葉が受け止めきれず、私は反射的に問い返した。
「そんな……なんで?」
「私たちで遊ぶのに飽き始めているからよ。大善先輩ってそういう人だから」
飽きたおもちゃを捨てる。
あの悪魔にとってはその程度のことでしかないんだ。
なんとかしてあげたい。
でもなにもできない。
だから、口をついたのは冷たい言葉だった。
「それで? 私にどうして欲しいの? 言っておくけど、あの人に登校決闘を挑むとか無理だからね」
恭子ちゃんは、酷く傷ついたような顔をした後、小さく呟いた。
「そんなつもりで言ったわけじゃ……」
白々しい。
なら、なんでわざわざ伝えにきたんだろう。
「じゃあどういうつもり? 私にそんな事伝えて、心労を増やして、何がしたかったの!?」
自分が荒れてるからって、ちょっと強く言いすぎたかも。
そう思った時には、遅かった。
突き放せば、突き放した言葉が返ってくる。
当然のことだ。
「珠姫ちゃんって、大善先輩の言うように、本当に自分本位だね」
それだけ呟いてトイレを出ようとするものだから、思わず恭子ちゃんの肩を掴んで止めた。
「自分本位って何!? 無理な事をやらないのが、そんなに悪い事なの!?」
「別にいいんじゃないかしら。珠姫ちゃんはそのままで。本当なら勝てる見込みがあるのに、端から無理なんて決めつけてるみたいだし。流石に見過ごせないかなと思って現状を伝えに来ただけなのだけど、余計なお世話だったわね」
私の手を乱暴に振り払って、今度こそ恭子ちゃんはトイレを出て行った。
現状を伝えたに来ただけって、絶対嘘でしょ?
助けて欲しかったに決まってる。
それなのに、あんな嘘ついて。
悪者にならないようあんなお願いの仕方して、恭子ちゃんは卑怯だ。
そう思うものの、頭の中で『自分本位』という言葉がリフレインして。
結局、落ち着かないまま教室に戻ることになった。