超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
翔さんに励まされた翌日。
授業休憩中に、恭子ちゃんをトイレに誘った。
昨日あんなことがあったからか、少し不機嫌な感じだ。
「何か用? 臆病者の珠姫ちゃん」
相当イラついているのか煽り文句を付け加えてくるけど、今は反応してる時間がもったいない。
それに、言われるだけのことをした自覚はある。
今はこんなだけど、全て片がつけばきっと元通りになるはず。
それを信じて、出来ることをするしかない。
恭子ちゃんと話すのも、登校決闘に挑むために必要な要素の一つだから。
「時間がないから手短に言うね。私の能力の詳細を教えて欲しいの」
「……なんで?」
「理由は分からないけど、詳しく知っていそうな雰囲気だったから」
恭子ちゃんはおおげさにため息をついて、問い直してきた。
「なんでってのはそういうことじゃなくて、どうして聞いてくるのかってことよ」
「今の私に必要なことだから」
ぬか喜びさせないためにも、二人を助けるためとは言わない。翔さんに言われたように、ダメだと思ったら手を引くことも考えているからだ。
私はどこまで行っても小心者で、自分本位だ。
自分は何も失いたくないけど、二人を失うのは嫌だという身勝手な理由で、訳も言わずに助力を願い出ているのだから。
言うつもりのない私に観念したのか、恭子ちゃんは諦めたようにため息をついた。
「はぁ……どうしても言うつもりがないってことね」
「いいから、教えて。時間なくなっちゃう」
強気が功を奏したのか、恭子ちゃんは渋々と言った様子で折れてくれた。
「強引だこと……まぁいいわ。私の能力がコピーなのは知っているわよね。その時に能力の詳細がわかるのだけど、あなたの能力には興味深い点があったのよ」
「興味深い点?」
「私と登校決闘した時に、動きを止めさせたのがあったでしょ。でも、コピーした能力にはそんなものどこにもなかった」
「えっと……それがどうして興味深いの?」
「つまり私がコピーできない範囲である、あなたの特性に関係があると思ってるわ」
「特性?」
初めて聞く単語だ。能力の授業はあるけど、まだやってない範囲だと思う。
「これだけ能力者が多いと、能力って被らないことがまずないのね。でも特性があるおかげで、全く同じとはならないの。例えば私のコピーは三個までストックできるけど、出力が落ちる代わりに五個コピーできる人がいたりするのよ。そんなふうに、同じ能力にも個性があるのね」
へー。能力もわりと奥が深いんだ。知らなかった。
「それで、私の特性がなんか凄いの?」
「私の推測では、相手の能力を一時的に無効化させることができると思ってるの。翔さんが食らった電撃の能力者と似てるけど、たぶんプロセスが違うわね」
思わず、口をぽかんとあけてしまう。
自分の能力のことなのに、まるで他人のもののように聞こえたからだ。
そんな凄い力が秘められていたなんて、知らなかった。
翔さんもあんなふうに後押しするはずだ。
「無効化って、具体的にどうやって?」
「私の体感では、あなたが放つ衝撃波には、能力を使用する際に発生する能力波を蹴散らす効果があったわ。使おうとした時に、エンジンが空回りするような感覚だったから」
「え、恭子ちゃん車運転したことあるの?」
恭子ちゃんは、語気を強めて思いっきり否定してきた。
「あるわけないでしょ! 物の例えよ。というか大事な話なんだから腰を折らないで」
「ご、ごめん。でも、あの時は無我夢中だったから使い方が分からないのだけど」
「どうやるかは、実際止めた時の状況を思い出す方が早いんじゃないかしら。私じゃいくらやっても再現できなかったから、特性なのは間違いないわ」
特性かあ。私の能力は、思っていたよりも使える能力だったみたいだ。今までクズ能力だと思ってたから、少し自信が出てくる。
でも、一つ問題があった。
「特性なのは分かったけど、これって協力してくれる人がいないと練習できないよね?」
縋るような目で恭子ちゃんを見ると、彼女の目が泳ぐ。
「いや、私は大善先輩に見つかったらどうなるか分からないから……」
「そこをなんとか! 頼れる人が恭子ちゃんしかいないの!」
これは本当。翔さんが夜遅くまで振り回されているし、協力してくれそうな人は他にいない。
もしかしたら恭子ちゃんも遅くまで付き合わされているのかもしれないけど、一緒に帰ってきてなかったから希望はあるはず。
じーっと見つめていると、恭子ちゃんは腹を括ったのか、仕方ないといった様子で承諾してくれた。
「見つかると怖いから、一回だけね。最近は拘束されることが多いから、夜になると思うけど」
「やった! ありがとう!」
これで、登校決闘への足掛かりができた。
うまくできなきゃ挑戦しても無駄だろうから、成功するかにかかっている。
頼むよ、その時の私。
恭子ちゃんとの約束は夜だけど、それまでの時間を無駄にすることもできない。
だから私は、前に皆で来たボルダリング場にやってきた。
この壁登りは、きっと戦いのキーになるはず。
練習しておいて損はないだろう。
以前と違って、私の周りには誰もいない。
けれど、二人の思いは確かに存在している。
後押しして貰えなければ、ここに足を運ぶこともなかったから。
また皆で一緒に来るためにも、この壁くらいは乗り越えなければならない。
頭の中で、軽々と登頂するイメージをした。前は散々だったけど、今ならきっとできるはず。
そんな確信に満ちた自信が溢れてくるのだ。
気合いを入れて、崖走りを開始する。
なんだか、以前より出力があがって登りやすい。
能力が成長したのかな?
と、思考が余計な方にそれた瞬間、体勢を崩した。
集中しないとダメみたいだ。
それでも、片鱗は掴んだと思う。
その証拠に、何回か登り直したら登頂することができた。
「やった! 初めて登り切れた!」
でも、一回登っただけじゃ満足できない。
何回も登り直して、登頂が安定したあとは、壁が反っている上級コースにも挑戦した。
流石に登り切るのはできなかったけど、足場の悪さの訓練にはなったと思う。足を踏み外した時にどうするかの想定もできたしね。
前よりかなり自信がついてきたので、いい調子だ。
ちょうど週末だし、たっぷり練習できる。
恭子ちゃんとの特訓次第で登校決闘を挑んでもいいかもしれない。
「いい感じじゃないかしら」
恭子ちゃんに付き合ってもらって無効化の練習をしたけど、思っていたよりも使い方に幅があった。
どうやら掠るだけでも効力があるようで、炸裂したら周囲も巻き込むらしい。
色々なことがわかったので、練習できて本当によかった。無理に付き合ってくれた恭子ちゃんのおかげだ。
「ありがとう。おかげであの悪魔に勝つ算段が立ちそう」
「もしかして、本当に登校決闘を挑むつもりなの?」
「なにさ。煽ったのは恭子ちゃんじゃない」
「そうだけど、本当に挑むとは思わなくて」
意外そうな恭子ちゃんに、本音をぶつけた。
「正直、勝てる見込みがなかったら見捨てようと思ってたよ」
「それ、本人に言うこと?」
恭子ちゃんは呆れていたけど、挑むことにしたんだから許してほしい。
「いいじゃない。挑むことにしたんだから。絶対勝てるかは分からないけど」
「でも、勝てると思ったから挑むのよね?」
「勿論。負けそうなら逃げてるよ。私の性格よく知ってるでしょ」
「まぁ、ね」
「もしダメだったら、下僕として三人で仲良くやろうね」
冗談を言うと、恭子ちゃんは大げさにため息をついた。
「はぁ。なんでそこで心配になるようなことを言うのよ」
「大丈夫。冗談だから安心して」
「笑いのツボ浅いのは自覚してるけど、それは流石にくすりともこなかったわ」
「それ、自覚あったんだ」
本人が言うように、こんなツッコミでも笑い始めた。
恭子ちゃんはひとしきり笑ったあと、真面目な顔になった。
「絶対勝ってよね」
「私が負けたら解放されないから?」
ちょっといじわるを言ってみたけれど、彼女は首を振った。
「それもあるけど、こっちに落ちてくるのを見たくないのよ」
「なんで?」
「……理由は教えないわ」
「じゃあ、私が勝ったら教えてよ」
私たちの間に沈黙が落ちる。
そんなに言いにくいことなのかな?
やっぱりいいよと言おうとした時、恭子ちゃんが口を開いた。
「……わかった。負けたら許さないから」
「さっきまでは負けても仲良くやろうって感じだったじゃん!」
「気が変わったのよ」
「変な恭子ちゃん」
久しぶりに軽口を叩き合えて、少し心が軽くなった。
改めて、心が決まる。
なんとしてでも、登校決闘に勝たなきゃいけない。
この日常を取り戻すために。