超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
週が変わった朝一番。
特訓の時、恭子ちゃんから教えてもらった時間に門前へ行くと、あの悪魔が一人佇んでいた。
本当にこんな時間からいるんだ。
そんなにカースト上位が大事なんだろうか。
敵ながら、涙ぐましい努力だ。
まぁ、それも今日でおしまいにしてあげるつもりだけど。
隣に並ぶと、向こうから話しかけてきた。
「あら。いつかの意気地なしさんではないですか。こんな早くにどうかなさったのですか?」
「あなたに登校決闘を挑みにきたんですよ」
「……当日になってから言うなんて、少し不躾ではありませんこと?」
少し気分を悪くしている悪魔に、挑発をする。
「まさか、逃げるんですか? 妨害してくれる人たちがいないと、勝てる自信がないんですか?」
「それこそまさか! あなたなんて、妨害して貰わなくとも倒せますわ」
「そうですか。なら受けてくれますよね?」
「勿論ですわ。それよりも、負けた時のことは当然考えているのですわよね? 前のように逃げないでくださいませ」
「そっちこそ、負けた時に言い訳なんてやめてくださいよ」
「ありえませんわ。私があなたに負けるなんて」
余裕こいててムカつく。
まぁ精々イキっていればいい。
今日は勝たせてもらうから。
決意を新たにしていると、悪魔はスマホをいじり始めた。
まぁ暇だもんね。私も最初は気を落ち着けていたけど、あまりにも暇で恭子ちゃんと翔さんにメッセージを送った。
しばらく気まずくて全然送れていなかったけど、最近は少し回復しつつある。
以前のように気軽にやり取りしてくれるようになったし、今日勝てさえすれば元通りだ。
そう。今日は絶対負けられない。
三人で地獄に落ちるか、はたまた悪魔から解放されて仲直りできるかの分水領だ。
やがてスマホの充電が八割を切った頃、人が十分に集まった。
それを確認して、聞こえよがしに宣言する。
「今日は登校決闘、よろしくお願いしますね。大善先輩」
負けた時に言い逃れされると困るから、登校決闘があることを宣言しておく。
大善先輩と呼ぶのは虫唾が走ったけど、必要なことだから仕方ない。
悪魔は挑発的に鼻をならして、あざけってきた。
「宣言するのはよろしいのですけど、これで負けた時に言い訳できなくなりましたわよ」
「それはこっちのセリフですよ。あなたが負けたことを皆にも知ってもらわないといけないですからね」
「よく回る口だこと。そのうるさい口を黙らせてあげますわ」
私が悪魔とやりとりしてると、周りにざわめきが広がる。
「また大善先輩が登校決闘だって。一位に台頭すると因縁つけられて大変ね」
「どうせ今回も勝つでしょ? あーあ。学園が賭けを認めてくれれば今頃お金が増えてたのに」
「そういえば、急遽登校決闘が決まったのはそこだけじゃないみたいよ」
途端に始まった周りのやりとりを聞き流す。
集中するには雑念でしかない。
そろそろ気持ちを高めておかなきゃだからね。
しばらくすると、先生たちがやってきた。
そろそろ開門の時間だ。
後ろの人たちには悪いけど、スタートダッシュさせて貰う。
門が動いた瞬間、手を後ろに向けてデコピンを放つ。
「きゃあ!」
「なによこれ!」
後ろに衝撃波を放ったため、少し被害が出たみたいだけど仕方ない。
精々のけぞるくらいで痛みはないはずだから許してほしい。
悪魔と並走するけど、やはり素のポテンシャルがある向こうの方が少し早い。
私のは所詮ブースターだからね。
足の速さ自体はそのままだ。
だから必然、脚力が強化されている向こうのが速くなる。
しかし、なんか後ろのざわめきが収まらないな。
少し振り返ってみれば、電撃のドームができていて、二つの影が私についてきていた。
予想はしてたけど、やっぱり今日も妨害があるんだ。
当日に挑んでもあまり意味がないんだなあ。
あんなこと言ってたのに、結局妨害頼んでるし。
スマホで連絡してたのかな?
悪魔にちぎられかけていると、恭子ちゃんから聞いていた二人が近づいて来た。
電撃と、速度を操る能力者だっけ?
二人が私を挟むようにして並んでくる。
それぞれ相手に向けて能力を使ってますよって体で、私に能力をぶつけてきた。
その瞬間に、デコピンを放つ。
――蹴散らせ。
能力が消えることを願いながら、デコピンを放つ。
私の周りに能力を消失させる力場が発生したのか、放たれた能力は掻き消えた。
ついでに本人たちにも影響が出たようで、続く攻撃はなかった。
――止まれ。
念じながら加速にカムフラージュして、二人に衝撃波をあてる。
すると、仰け反った二人は膝をついた。
これで妨害は凌いだはず。
だけど、悪魔はそこそこ先に行っている。
速く。もっと速く。
その一心で能力を使い続ける。
速度は少し上がるけど、まだ遠い。
これだけ離れていると無効化も使えない。
まだチャンスはあるはずだけど……引き離されていくこの状況は焦るなあ。
妨害はもう来ないけど、自力で負けている感じがする。
森を抜けて、川辺に来た。
向こうの方が一手早く、走り幅跳びの要領で飛び越えているところだった。
後を追って、こちらも加速しながら川を飛び越える。
身体能力があがっている分、あちらの方が動きに無駄がないように思えた。
まばらにある木を避けながら追いかけるけれど、身体を操っているあちらと違って、こっちはいささか直線的だ。
木は少ないけれど、どうしても避けなければいけないことがある。
そのロスが、今の私には痛かった。
差は縮まるどころか、広がる一方。
全ての動作において、向こうのが上だった。
結局追いつくことなく、ゴール手前の坂まで来てしまう。
坂の方を見れば、私がいつかやったような壁登りを、外部のアシストなしでやっている。
同じことをやっても追いつけない。
そう思った私は、最終手段へでることにした。
坂を無視して、脇道へ。
目的の場所にあったのは、切り立つ崖だった。
これなら一直線で校門の前まで出られる。
失敗したら、当然命はないだろう。
けれど、負けたら三人まとめて下僕ルート。退学もちらつかされているし、遠くないうちに離れ離れになるだろう。そんなの死んだも同然だ。
なら、成功するかもしれない方にかけた方がいい。
最後に皆で笑い合うために。
そのために、ボルダリング場で練習したんだ。
崖に勢いよく突っ込み、慣性のまま足をかける。
下に手を向けて、衝撃波を連続発射。
足場は少し悪いけど、ボルダリング場に比べればマシだ。
練習の方がしんどかった。
茶色の壁が視界の端をどんどん過ぎ去り、青い空が近づいてくる。今のスピードなら、加速が足りなくて落ちることもない。
これなら登り切れる。
そんな余裕がいけなかったのだろうか。
登り切る直前、突き出ていた木の根っこに足を引っ掛け、体勢が崩れた。
バランスが損なわれ、身体が宙に出る。
――落ちる。
そう思ったけど、頭は冷静だった。
なぜなら、同じ状況はボルダリングの上級コースでやったから。
ありったけの力を込めて身体をぶっ飛ばす。
崖の高さを越えて空中に身体が浮いたので、衝撃波で無理矢理地面のほうに押し込んだ。
地面を転がりながらも、着地できたことに安堵する。
もう二度とやりたくないけど、なんとか成功した。
校門は目の前。
けれど、悪魔の方が早かった。
向こうはもうゴール直前だ。
ここまで来て負けられない。
悪魔の身体が校門の方を向く。
勤めて冷静に、悪魔に向けて衝撃波を発射した。
――止まれ。
真正面から打ったからか、流石に避けようとする。
けれど見えないからか、避け方が少し雑だ。
当たっても大丈夫、という慢心があったのかもしれない。
だから、掠るくらいは許容したのかもしれない。
それが仇になるとも知らずに。
途端、悪魔がこけた。
身体強化がとけて、バランスを崩したのだろう。
地面を滑りながら校門に向かっていくも、目前で止まった。
なんとか這いずりながら校門を通ろうとするけど、流石に私の方がはやい。
横を通り過ぎようとした時、悪魔の手が私の足を掴みにかかった。
でも、無駄だ。加速の指を地面にずらして、手を弾く。
悪魔の妨害を退けて、校門を通った。
悪魔の手は、私の後ろ。
スマホのアプリを見れば、一位の表示。
――勝った。
喜びが溢れて、思わず叫んだ。
「やったああぁ! 勝ったああぁ!」
這いずりながら校門を通った二番手の悪魔が、憎々しげに言った。
「こんなの……こんなの私は認めませんわ! 大体、直接攻撃はルール違反ではありませんの!?」
「あなたがこけたのは物理攻撃じゃないし、足を掴もうとした手を弾いたのは私が加速をミスったのが当たったからです。それより、その言い種だと妨害二人はルール違反じゃないみたいな言い方ですね」
「……グレーゾーンだろうとルールの範疇ですから咎められる言われはありませんわ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますね」
悪魔は悔しそうに歯噛みして、何も言わなくなった。
鼻血をたらして土まみれのその姿が、とても滑稽だった。
やがて悪魔の配下の人たちがやって来て、パラソルテーブルを準備し始めた。
側には恭子ちゃんたちもいる。
翔さんを椅子にしようとしたので、頑として止めた。
「何してるんですか。あなたは敗者なんですよ。勝手なことしないでください」
「あら。あなたが勝ったとしても、要求を飲むまではこの子たちは私の下僕です。ちなみに一人につき一回登校決闘をしていますから、二人解放するのは無しですわよ。解放要求は一人だけです」
開き直ったように宣う悪魔。
何が面白いのか、笑みを浮かべている。
気分がいいのか、聞いてもいないのに喋り始めた。
「さあ。あなたはどちらを見捨てるんですの?」
その笑顔は、悪魔そのものだった。
でも、無意味だ。
そもそも私は二人の解放を望んではいない。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私が要求するのは違うことだよ」
「あら、薄情ですわね。では、なにを望むのかしら。私の退学ですか? まぁ、そんな要求をしたところで、二人は救えないのですけれど。一年は私の下僕ですからね」
ふーん。退学させても無駄なんだ。
まぁ、元からそのつもりはなかったけど。
歪んだ笑顔を浮かべる悪魔の鼻っ柱を折るために、要求を告げた。
「私が望むのは、来年の三月が終わるまで、あなたが校門を通るのを七時半以降にすること。当然、他の人からの登校決闘は断ってはダメだから」
ぴしり。
そんな効果音がぴったりなほど、悪魔の表情は硬くなった。
わなわな震え、飲んでいた紅茶をこぼす。
勢いよくカップをたたきつけ、余裕の態度もどこかに吹き飛び、こちらに抗議して来た。
「な、なにをおっしゃっているんですの! そんな要求飲めるわけありませんわ!」
「でも、校則では禁止されてないし、下僕が許されるならこれも当然通るよね?」
悪魔は三年生だから、つまり卒業まで有効ということ。それまで登校決闘を挑まれ続け、どんな要求をされるか、今から楽しみで仕方ない。
「悪魔! 自分が何を要求しているか分かってらっしゃるの!?」
「どっちが悪魔だよ。横暴の報いを受けな。取り消しの登校決闘はいつでも受け付けてますよ。勝てるなら、だけど」
膝から崩れ落ちた悪魔の肩に、二つの手が乗る。
「それじゃあ、明日はボクと登校決闘しようか」
「明後日は私とお願いしますね、大善先輩」
肩に乗った手を振り払って、悪魔が狂乱する。
「下僕どもが! 調子に乗るんじゃありませんわよ! 今日は特別酷い扱いをして、その気もなくさせてやりますわ! 浮浪者とまぐわせてやりますから、覚悟なさい!」
とんでもないことを言い放った悪魔に少し焦るけれど、恭子ちゃんは冷静だった。
「あら。登校決闘の予備期間は、当人同士の安全は確保されるんですよ? だから戦うまでは言うこと聞きません。新しい我儘は、私に勝ってから言ってくださいね。まぁ、私はいつも通り七時に下の校門を出発しますけど」
ダメ元で言ってみただけで、守られることは知っていのだろう。
悪魔は力なく項垂れて、へたりこんだまま動かなくなった。
これで、二人は解放されるはず。
無様な格好になったお嬢様の姿は、しばらく忘れられなさそうだ。